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第2章:王都編
第6話 シエルの行先
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シエルが謁見の間を出てすぐ、背後からノクターンに声をかけられた。
「シエル、ちょっといいか?」
シエルは足を止めて振り返り、改めてノクターンにお礼を言う。
「あ、団長さん。さっきは、ありがとうございました」
ノクターンは王都へ来たばかりのシエルに、行くあてはあるのか尋ねる。
「当然のことをしたまでだ。礼を言われる筋合いはない。……それより、これからどうするんだ?」
シエルは眉をひそめ、申し訳なさそうに口を開く。
「あー……それなんだけど、お城にはいたくないから宿をとるつもりよ」
(さっきの暗殺未遂の光景が頭から離れない……。あのナイフの刺さった床が、今も焼き付いている。)
先程の襲撃がトラウマになった様子のシエルは、王城を出ようとしていた。
それを知ったノクターンとフェリルが同時に声をあげる。
『それはダメだ!』
ノクターンとフェリルは顔を見合わせ、シエルも驚いた表情で2人を交互に見つめる。
「そんなに揃って反対しなくてもいいじゃない……。」
フェリルはため息をついてシエルに言う。
「宿をとったからといって安全とは限らぬぞ。それに我は宿に入れぬゆえ、中で何かあった際にお主を守ることが出来ぬ。」
ノクターンも頷き、静かに口を開く。
「……フェリルの言うとおりだ。お前が城にいたくない理由も分かるが……どこに敵が潜んでいるか分からない以上、迂闊な行動は控えるべきだ。」
また襲われるかもしれない――という恐怖から城には滞在したくない。
でも、宿をとることも危険だからと許されない……。
「じゃあ、どうしろっていうの……?」
俯いたシエルの声は、震えていた。
ふと、前世の記憶が頭をよぎる。
居場所を失い、逃げ場のない孤独感に苛まれたあの頃のようだとシエルは思った――。
「……俺の家に来い、シエル。」
迷いのないノクターンの言葉に、シエルは目を見開く。
「でも……私がお邪魔することで、ご家族を危険に晒すんじゃ……」
狙われている自分が招かれることで、無関係の人たちに危害が加わるのでは……という不安がシエルを蝕んでいく。
「個人宅だから問題ない。使用人も精鋭ぞろいだから簡単にやられたりしないさ」
遠慮するシエルをよそにキッパリと言い切るノクターンは続ける。
「それに、警備面も宿に比べたら確実に安全だ。フェリルも邸宅の中に入れるし、俺も近くで守れるからな。」
ノクターンの言葉を聞いてシエルは考え込む。
(冷静に考えれば、宿の中では1人なんだよね……。そう考えたら宿よりは、団長さんの家にお邪魔する方が安全なのかもしれない……)
気が動転したままで冷静な判断ができていなかったことに気付いたシエルはハッとしてノクターンに告げる。
「じゃあ、お世話になります……。」
「決まりだな。」
少しだけ心を落ち着けることができたシエルは、フェリルと共に彼の自宅へお邪魔することにした。
「俺は馬を連れてくるから、お前たちは先に城門へ向かってくれ」
「わかったわ。」
そういってノクターンは厩がある方向へと踵を返したノクターンは1歩踏み出したところで立ち止まり、フェリルに声をかける。
「流石にもう大丈夫だとは思うが……フェリル、シエルを頼んだぞ」
「言われずとも元よりそのつもりだ。我が命令を聞くのは主だけで、お主に指図される筋合いなど微塵もない」
フェリルはそっけなく答え、そっぽを向く。
「……忠実でいいことだ。じゃあ城門前で落ち合おう」
ノクターンは片手をあげて厩へと歩き出し、シエルたちも城門へと向かう。
しばらくして、馬を引き連れたノクターンが城門へやってきた。
「すまない、待たせたか?」
ノクターンはシエルたちに待たせてしまったことを謝罪する。
「私たちもさっき来たばかりよ。少し、迷ってしまって……」
シエルは苦笑いを浮かべて告げる。
「お主が方向音痴だったとは……。我も知らなかったぞ」
2人の会話を聞いてノクターンは「一緒に行くべきだったか……?」と申し訳なさそうな表情を浮かべる。
「……意外な一面もあるんだな」
「つっこまないでくれると助かるわ……」
シエルは触れないでくれと言わんばかりにため息をつく。
「……それじゃあ出発だ」
王城を後にした3人はノクターンの自宅へと向かい始めた――。
「シエル、ちょっといいか?」
シエルは足を止めて振り返り、改めてノクターンにお礼を言う。
「あ、団長さん。さっきは、ありがとうございました」
ノクターンは王都へ来たばかりのシエルに、行くあてはあるのか尋ねる。
「当然のことをしたまでだ。礼を言われる筋合いはない。……それより、これからどうするんだ?」
シエルは眉をひそめ、申し訳なさそうに口を開く。
「あー……それなんだけど、お城にはいたくないから宿をとるつもりよ」
(さっきの暗殺未遂の光景が頭から離れない……。あのナイフの刺さった床が、今も焼き付いている。)
先程の襲撃がトラウマになった様子のシエルは、王城を出ようとしていた。
それを知ったノクターンとフェリルが同時に声をあげる。
『それはダメだ!』
ノクターンとフェリルは顔を見合わせ、シエルも驚いた表情で2人を交互に見つめる。
「そんなに揃って反対しなくてもいいじゃない……。」
フェリルはため息をついてシエルに言う。
「宿をとったからといって安全とは限らぬぞ。それに我は宿に入れぬゆえ、中で何かあった際にお主を守ることが出来ぬ。」
ノクターンも頷き、静かに口を開く。
「……フェリルの言うとおりだ。お前が城にいたくない理由も分かるが……どこに敵が潜んでいるか分からない以上、迂闊な行動は控えるべきだ。」
また襲われるかもしれない――という恐怖から城には滞在したくない。
でも、宿をとることも危険だからと許されない……。
「じゃあ、どうしろっていうの……?」
俯いたシエルの声は、震えていた。
ふと、前世の記憶が頭をよぎる。
居場所を失い、逃げ場のない孤独感に苛まれたあの頃のようだとシエルは思った――。
「……俺の家に来い、シエル。」
迷いのないノクターンの言葉に、シエルは目を見開く。
「でも……私がお邪魔することで、ご家族を危険に晒すんじゃ……」
狙われている自分が招かれることで、無関係の人たちに危害が加わるのでは……という不安がシエルを蝕んでいく。
「個人宅だから問題ない。使用人も精鋭ぞろいだから簡単にやられたりしないさ」
遠慮するシエルをよそにキッパリと言い切るノクターンは続ける。
「それに、警備面も宿に比べたら確実に安全だ。フェリルも邸宅の中に入れるし、俺も近くで守れるからな。」
ノクターンの言葉を聞いてシエルは考え込む。
(冷静に考えれば、宿の中では1人なんだよね……。そう考えたら宿よりは、団長さんの家にお邪魔する方が安全なのかもしれない……)
気が動転したままで冷静な判断ができていなかったことに気付いたシエルはハッとしてノクターンに告げる。
「じゃあ、お世話になります……。」
「決まりだな。」
少しだけ心を落ち着けることができたシエルは、フェリルと共に彼の自宅へお邪魔することにした。
「俺は馬を連れてくるから、お前たちは先に城門へ向かってくれ」
「わかったわ。」
そういってノクターンは厩がある方向へと踵を返したノクターンは1歩踏み出したところで立ち止まり、フェリルに声をかける。
「流石にもう大丈夫だとは思うが……フェリル、シエルを頼んだぞ」
「言われずとも元よりそのつもりだ。我が命令を聞くのは主だけで、お主に指図される筋合いなど微塵もない」
フェリルはそっけなく答え、そっぽを向く。
「……忠実でいいことだ。じゃあ城門前で落ち合おう」
ノクターンは片手をあげて厩へと歩き出し、シエルたちも城門へと向かう。
しばらくして、馬を引き連れたノクターンが城門へやってきた。
「すまない、待たせたか?」
ノクターンはシエルたちに待たせてしまったことを謝罪する。
「私たちもさっき来たばかりよ。少し、迷ってしまって……」
シエルは苦笑いを浮かべて告げる。
「お主が方向音痴だったとは……。我も知らなかったぞ」
2人の会話を聞いてノクターンは「一緒に行くべきだったか……?」と申し訳なさそうな表情を浮かべる。
「……意外な一面もあるんだな」
「つっこまないでくれると助かるわ……」
シエルは触れないでくれと言わんばかりにため息をつく。
「……それじゃあ出発だ」
王城を後にした3人はノクターンの自宅へと向かい始めた――。
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