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第3章:魔導国家編 ①
第18話 謎解きは月灯りの一室で ①
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魔法で映し出された星空が瞬く宿の一室。
月灯りに似せた柔らかな光が幻想的に輝き、室内へ影を落とす。
穏やかな宿の一室とは裏腹に、先程までレイノルドとノクターンたちは対立していた。
心理戦を繰り広げた末、ようやく誤解も解けて和解ができた。
3人は本物の月灯りが差し込む窓辺で、小さなテーブルを囲みながら情報を共有していた。
「……僕がこの宿に侵入した経緯は、あの魔塔主に気をつけろって警告文を残すためだったのさ」
そう言って懐から真っ白な封筒を取り出す。
「やっぱり、あなただったのね――この封筒の持ち主は」
シエルは見覚えのある封筒を見つめながら納得した表情を見せる。
ノクターンの個人邸宅に滞在中、シエルの枕元に置いてあった封筒と全く同じものがレイノルドの手に握られている。
「全く……勘弁してくれよな。王城に次ぐ厳重警備の屋敷が突破されたと知ったときは――かなり焦ったぞ」
ふっと笑いながらレイノルドの頭を小突く。
「いやぁ、実に見物だったよ。君があんなに動揺している顔が見られるなんて――夢にも思わなかったな……」
頭を押さえながらレイノルドは目を細めてクスっと笑う。
「……アムトール、だっけ? その名前には、どんな意味があるの?」
レイノルドを見つめるシエルは小首をかしげ、小さなため息をつく。
「それは……秘密裏に動きやすくするためさ。身分や本名、素顔を知っているのは契約者である主だけだよ」
レイノルドは一瞬だけ考え込んだのち、シエルに告げる。
「僕らは基本、このローブで姿を隠しているから裏の名以外は知らないんだ」
身にまとっている漆黒のローブをひらひらとはためかせる。
「ローブで正体を隠しあっているなら……主が誰かも知らないの?」
驚いたようにシエルが目を見開く。
「――まさか。主が誰か、僕は知っているよ?でも、君たちには……教えられないけどねぇ」
レイノルドの口元が弧を描き、シーっと人差し指があてられる。
「……それにしても何故、こんな回りくどいことをするんだ?直接言えばいいだろう」
深いため息をつきながらノクターンが静かにレイノルドを見つめる。
「僕は表向き、騎士団の副団長という立場なんだよ?そんな人が、裏の情報なんかを持っていたら――どうなると思う?」
テーブルに頬杖をついて顔をそむけるレイノルドは、ふっと微笑みながら静かに告げる。
「疑われるどころじゃ……済まないよ」
「でも私としては、レイさんの契約者は一体何の目的があるのかが……1番気になるところなんだけど?」
いつの間にか”レイさん”と親しげに呼ぶシエルはチラリとレイノルドを見る。
「ごめんね~、それ言ったら首とんじゃう」
親指で首を切る仕草をしながら、刻印の発動を匂わせるレイノルドが軽快に笑う。
「笑いながらいうことじゃないだろ、それ。……しかしまぁ、魔塔主が危険人物だってことに変わりはないな」
ノクターンが苦笑いを浮かべるも、すぐに真剣な表情を取り繕って魔塔主の危険性を指摘する。
「……そうね。鑑定にすら表示されない情報なんて――どう考えても普通じゃないでしょ、あのエルフ」
深いため息をついたシエルの表情が静かに曇る。
頬杖をついて窓の外に視線を向ける。
「一体、何を……隠しているの――?」
小さなつぶやきはサッと吹いた風に消され、湖面が静かに揺れる。
じわじわと大きく広がっていく波紋は、シエルの不安をあらわしているかのようだった――。
月灯りに似せた柔らかな光が幻想的に輝き、室内へ影を落とす。
穏やかな宿の一室とは裏腹に、先程までレイノルドとノクターンたちは対立していた。
心理戦を繰り広げた末、ようやく誤解も解けて和解ができた。
3人は本物の月灯りが差し込む窓辺で、小さなテーブルを囲みながら情報を共有していた。
「……僕がこの宿に侵入した経緯は、あの魔塔主に気をつけろって警告文を残すためだったのさ」
そう言って懐から真っ白な封筒を取り出す。
「やっぱり、あなただったのね――この封筒の持ち主は」
シエルは見覚えのある封筒を見つめながら納得した表情を見せる。
ノクターンの個人邸宅に滞在中、シエルの枕元に置いてあった封筒と全く同じものがレイノルドの手に握られている。
「全く……勘弁してくれよな。王城に次ぐ厳重警備の屋敷が突破されたと知ったときは――かなり焦ったぞ」
ふっと笑いながらレイノルドの頭を小突く。
「いやぁ、実に見物だったよ。君があんなに動揺している顔が見られるなんて――夢にも思わなかったな……」
頭を押さえながらレイノルドは目を細めてクスっと笑う。
「……アムトール、だっけ? その名前には、どんな意味があるの?」
レイノルドを見つめるシエルは小首をかしげ、小さなため息をつく。
「それは……秘密裏に動きやすくするためさ。身分や本名、素顔を知っているのは契約者である主だけだよ」
レイノルドは一瞬だけ考え込んだのち、シエルに告げる。
「僕らは基本、このローブで姿を隠しているから裏の名以外は知らないんだ」
身にまとっている漆黒のローブをひらひらとはためかせる。
「ローブで正体を隠しあっているなら……主が誰かも知らないの?」
驚いたようにシエルが目を見開く。
「――まさか。主が誰か、僕は知っているよ?でも、君たちには……教えられないけどねぇ」
レイノルドの口元が弧を描き、シーっと人差し指があてられる。
「……それにしても何故、こんな回りくどいことをするんだ?直接言えばいいだろう」
深いため息をつきながらノクターンが静かにレイノルドを見つめる。
「僕は表向き、騎士団の副団長という立場なんだよ?そんな人が、裏の情報なんかを持っていたら――どうなると思う?」
テーブルに頬杖をついて顔をそむけるレイノルドは、ふっと微笑みながら静かに告げる。
「疑われるどころじゃ……済まないよ」
「でも私としては、レイさんの契約者は一体何の目的があるのかが……1番気になるところなんだけど?」
いつの間にか”レイさん”と親しげに呼ぶシエルはチラリとレイノルドを見る。
「ごめんね~、それ言ったら首とんじゃう」
親指で首を切る仕草をしながら、刻印の発動を匂わせるレイノルドが軽快に笑う。
「笑いながらいうことじゃないだろ、それ。……しかしまぁ、魔塔主が危険人物だってことに変わりはないな」
ノクターンが苦笑いを浮かべるも、すぐに真剣な表情を取り繕って魔塔主の危険性を指摘する。
「……そうね。鑑定にすら表示されない情報なんて――どう考えても普通じゃないでしょ、あのエルフ」
深いため息をついたシエルの表情が静かに曇る。
頬杖をついて窓の外に視線を向ける。
「一体、何を……隠しているの――?」
小さなつぶやきはサッと吹いた風に消され、湖面が静かに揺れる。
じわじわと大きく広がっていく波紋は、シエルの不安をあらわしているかのようだった――。
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