75 / 83
第3章:魔導国家編 ②
第12話 500年前の真実
しおりを挟む
セラフィウスにより時間停止の魔法が施された魔導図書館の秘匿区域。
シエルがようやく手にした白き魔女の文献は、当時の王族によって事実が改ざんされていたものだと判明した――。
セラフィウスの持つ高級感が漂う漆黒の文献が威厳を放ち、500年前の真相を暗闇の奥底から引きずり出した。
光と闇、希望と絶望が1つに重なり合った瞬間――。
交差する嘆きの運命が、静かに狂いだす……。
(こんな真実……知りたく、無かった……)
そっと伏せた深紅の瞳からは一粒の涙が零れ落ちる。
セラフィウスはシエルへ手を伸ばし、静かに零れる涙を優しくぬぐった。
静寂が訪れる秘匿区域の一角。
驚き、困惑、悲しみ、恐れ……感情の波がシエルへ襲い掛かる。
重苦しい沈黙を破り、セラフィウスに恐る恐る問いかけた。
「あなたは、神様……だったの?」
セラフィウスは頷き、自身の正体を打ち明ける。
「あぁ、そうだ。魂と記憶を司る神――レテナシス。それが、俺の正体だ。」
「レテナシス……」
険しい表情をするシエルをよそに、セラフィウスは続ける。
「まぁ、正確には堕ち神なんだけどな。」
「堕ち神……って?」
一瞬だけ沈黙した後、セラフィウスが静かに言葉を紡いだ。
「……神界を追放された神の事をそう呼ぶんだよ。」
いったん言葉を区切り、呼吸を整えたセラフィウスが再び口を開いた。
「神が人間と関わることは掟で禁じられている。滅びゆくはずだった王都の歴史を変えるなんて御法度だ。それに加え、人間に恋をしたとなれば……重罪確定。2つの掟を破った俺は、神格を封じられて人間界に堕とされたってわけさ」
「そんなことが……」
セラフィウスの説明を聞いたシエルは小さく呟いた。
「……1つ、聞いてもいいかしら?」
「なんだ?」
セラフィウスが首をかしげて問いかける。
「あなたが元神様なら、クロノス様っていう女神様は知っている?」
(ずっと、気になっていた……この人が、クロノス様と同じ容姿をしているのは何故なのか……)
シエルは心の中に隠していた疑問をセラフィウスへ投げかけた。
「知っているというか……クロノスは、俺の姉だぞ?」
「やっぱり、そうだったの……」
疑問が確信に変わり、シエルは安堵の息をついた。
「やっぱりって……気付いていたのか?」
「容姿が似ているから、神界や女神様と関係があるんじゃないかとは思っていたけど……」
いったん言葉を区切って深呼吸したシエルは再びセラフィウスに告げた。
「まさか本当に関係者だったなんてね……。驚いたけど、答えがわかってスッキリしたわ。」
柔らかく微笑み、セラフィウスへ再び問いかける。
「それから、もう1つ。最初の文献を読み終わったとき、あなたは”やっぱり、お前だったのか”って言っていたけど……あれはどういう意味だったの?」
シエルの深紅の瞳が探るように細められた。
「漆黒の本にも書いてあるように、俺はシャティの記憶を封じた後、魂に当時の記憶を”夢”として見せるよう刻んだんだ」
セラフィウスの濃紫の瞳が、まっすぐシエルの瞳を見つめ返した。
「改ざん文献を読み終わった後に自分で言っていただろ?”夢で見た内容と文献が同じ”って……それで確信したんだ。お前はシャティ……シャルティアナの魂が宿っている生まれ変わりの娘だということをな。」
(……幸せを願って別世界に送り出したはずの魂が、500年前を同じ末路を辿っているということを知ったら……この人はどんな表情をするのかな――)
そっと微笑んだシエルは再びセラフィウスに問いかける。
「最後に……この本にはシャルティアナの記憶を封じ、幸せを願って魂を別世界に送った――って書いてあるけど……あなたは、その後の事は知っているの?」
「残念ながら、その後の事は分からない……。」
セラフィウスの濃紫の瞳が、そっと伏せられた。
「さっきも言っただろ?俺は神格を封じられ、人間界へ堕とされた堕ち神だって。……能力の一部を封印された状態では、別世界に存在する魂の波動を明確に感じ取ることができないんだ。」
セラフィウスの返答に、シエルは納得した表情を浮かべた。
「……そう。なら、今度は私が教えてあげる……。幸せを願って送り出した魂の、その後をね――」
そう言ってシエルは前世で生きた17年間を、どのように過ごしていたのかを打ち明けた――。
シエルがようやく手にした白き魔女の文献は、当時の王族によって事実が改ざんされていたものだと判明した――。
セラフィウスの持つ高級感が漂う漆黒の文献が威厳を放ち、500年前の真相を暗闇の奥底から引きずり出した。
光と闇、希望と絶望が1つに重なり合った瞬間――。
交差する嘆きの運命が、静かに狂いだす……。
(こんな真実……知りたく、無かった……)
そっと伏せた深紅の瞳からは一粒の涙が零れ落ちる。
セラフィウスはシエルへ手を伸ばし、静かに零れる涙を優しくぬぐった。
静寂が訪れる秘匿区域の一角。
驚き、困惑、悲しみ、恐れ……感情の波がシエルへ襲い掛かる。
重苦しい沈黙を破り、セラフィウスに恐る恐る問いかけた。
「あなたは、神様……だったの?」
セラフィウスは頷き、自身の正体を打ち明ける。
「あぁ、そうだ。魂と記憶を司る神――レテナシス。それが、俺の正体だ。」
「レテナシス……」
険しい表情をするシエルをよそに、セラフィウスは続ける。
「まぁ、正確には堕ち神なんだけどな。」
「堕ち神……って?」
一瞬だけ沈黙した後、セラフィウスが静かに言葉を紡いだ。
「……神界を追放された神の事をそう呼ぶんだよ。」
いったん言葉を区切り、呼吸を整えたセラフィウスが再び口を開いた。
「神が人間と関わることは掟で禁じられている。滅びゆくはずだった王都の歴史を変えるなんて御法度だ。それに加え、人間に恋をしたとなれば……重罪確定。2つの掟を破った俺は、神格を封じられて人間界に堕とされたってわけさ」
「そんなことが……」
セラフィウスの説明を聞いたシエルは小さく呟いた。
「……1つ、聞いてもいいかしら?」
「なんだ?」
セラフィウスが首をかしげて問いかける。
「あなたが元神様なら、クロノス様っていう女神様は知っている?」
(ずっと、気になっていた……この人が、クロノス様と同じ容姿をしているのは何故なのか……)
シエルは心の中に隠していた疑問をセラフィウスへ投げかけた。
「知っているというか……クロノスは、俺の姉だぞ?」
「やっぱり、そうだったの……」
疑問が確信に変わり、シエルは安堵の息をついた。
「やっぱりって……気付いていたのか?」
「容姿が似ているから、神界や女神様と関係があるんじゃないかとは思っていたけど……」
いったん言葉を区切って深呼吸したシエルは再びセラフィウスに告げた。
「まさか本当に関係者だったなんてね……。驚いたけど、答えがわかってスッキリしたわ。」
柔らかく微笑み、セラフィウスへ再び問いかける。
「それから、もう1つ。最初の文献を読み終わったとき、あなたは”やっぱり、お前だったのか”って言っていたけど……あれはどういう意味だったの?」
シエルの深紅の瞳が探るように細められた。
「漆黒の本にも書いてあるように、俺はシャティの記憶を封じた後、魂に当時の記憶を”夢”として見せるよう刻んだんだ」
セラフィウスの濃紫の瞳が、まっすぐシエルの瞳を見つめ返した。
「改ざん文献を読み終わった後に自分で言っていただろ?”夢で見た内容と文献が同じ”って……それで確信したんだ。お前はシャティ……シャルティアナの魂が宿っている生まれ変わりの娘だということをな。」
(……幸せを願って別世界に送り出したはずの魂が、500年前を同じ末路を辿っているということを知ったら……この人はどんな表情をするのかな――)
そっと微笑んだシエルは再びセラフィウスに問いかける。
「最後に……この本にはシャルティアナの記憶を封じ、幸せを願って魂を別世界に送った――って書いてあるけど……あなたは、その後の事は知っているの?」
「残念ながら、その後の事は分からない……。」
セラフィウスの濃紫の瞳が、そっと伏せられた。
「さっきも言っただろ?俺は神格を封じられ、人間界へ堕とされた堕ち神だって。……能力の一部を封印された状態では、別世界に存在する魂の波動を明確に感じ取ることができないんだ。」
セラフィウスの返答に、シエルは納得した表情を浮かべた。
「……そう。なら、今度は私が教えてあげる……。幸せを願って送り出した魂の、その後をね――」
そう言ってシエルは前世で生きた17年間を、どのように過ごしていたのかを打ち明けた――。
20
あなたにおすすめの小説
3歳で捨てられた件
玲羅
恋愛
前世の記憶を持つ者が1000人に1人は居る時代。
それゆえに変わった子供扱いをされ、疎まれて捨てられた少女、キャプシーヌ。拾ったのは宰相を務めるフェルナー侯爵。
キャプシーヌの運命が再度変わったのは貴族学院入学後だった。
高校生の俺、異世界転移していきなり追放されるが、じつは最強魔法使い。可愛い看板娘がいる宿屋に拾われたのでもう戻りません
下昴しん
ファンタジー
高校生のタクトは部活帰りに突然異世界へ転移してしまう。
横柄な態度の王から、魔法使いはいらんわ、城から出ていけと言われ、いきなり無職になったタクト。
偶然会った宿屋の店長トロに仕事をもらい、看板娘のマロンと一緒に宿と食堂を手伝うことに。
すると突然、客の兵士が暴れだし宿はメチャクチャになる。
兵士に殴り飛ばされるトロとマロン。
この世界の魔法は、生活で利用する程度の威力しかなく、とても弱い。
しかし──タクトの魔法は人並み外れて、無法者も脳筋男もひれ伏すほど強かった。
【完結】使えない令嬢として一家から追放されたけど、あまりにも領民からの信頼が厚かったので逆転してざまぁしちゃいます
腕押のれん
ファンタジー
アメリスはマハス公国の八大領主の一つであるロナデシア家の三姉妹の次女として生まれるが、頭脳明晰な長女と愛想の上手い三女と比較されて母親から疎まれており、ついに追放されてしまう。しかしアメリスは取り柄のない自分にもできることをしなければならないという一心で領民たちに対し援助を熱心に行っていたので、領民からは非常に好かれていた。そのため追放された後に他国に置き去りにされてしまうものの、偶然以前助けたマハス公国出身のヨーデルと出会い助けられる。ここから彼女の逆転人生が始まっていくのであった!
私が死ぬまでには完結させます。
追記:最後まで書き終わったので、ここからはペース上げて投稿します。
追記2:ひとまず完結しました!
異世界!? 神!? なんで!?
藤谷葵
ファンタジー
【内容】
人手。いや、神の手が足りずに、神様にスカウトされて、女神となり異世界に転生することになった、主人公。
異世界の管理を任され、チートスキルな『スキル創造』を渡される主人公。
平和な異世界を取り戻せるか!?
【作品の魅力】
・チートスキル
・多少ドジっ子な主人公
・コミカルやシリアスなドラマの複合
死に戻ったら、私だけ幼児化していた件について
えくれあ
恋愛
セラフィーナは6歳の時に王太子となるアルバートとの婚約が決まって以降、ずっと王家のために身を粉にして努力を続けてきたつもりだった。
しかしながら、いつしか悪女と呼ばれるようになり、18歳の時にアルバートから婚約解消を告げられてしまう。
その後、死を迎えたはずのセラフィーナは、目を覚ますと2年前に戻っていた。だが、周囲の人間はセラフィーナが死ぬ2年前の姿と相違ないのに、セラフィーナだけは同じ年齢だったはずのアルバートより10歳も幼い6歳の姿だった。
死を迎える前と同じこともあれば、年齢が異なるが故に違うこともある。
戸惑いを覚えながらも、死んでしまったためにできなかったことを今度こそ、とセラフィーナは心に誓うのだった。
規格外で転生した私の誤魔化しライフ 〜旅行マニアの異世界無双旅〜
ケイソウ
ファンタジー
チビで陰キャラでモブ子の桜井紅子は、楽しみにしていたバス旅行へ向かう途中、突然の事故で命を絶たれた。
死後の世界で女神に異世界へ転生されたが、女神の趣向で変装する羽目になり、渡されたアイテムと備わったスキルをもとに、異世界を満喫しようと冒険者の資格を取る。生活にも慣れて各地を巡る旅を計画するも、国の要請で冒険者が遠征に駆り出される事態に……。
【㊗️受賞!】神のミスで転生したけど、幼児化しちゃった!〜もふもふと一緒に、異世界ライフを楽しもう!〜
一ノ蔵(いちのくら)
ファンタジー
※第18回ファンタジー小説大賞にて、奨励賞を受賞しました!投票して頂いた皆様には、感謝申し上げますm(_ _)m
✩物語は、ゆっくり進みます。冒険より、日常に重きありの異世界ライフです。
【あらすじ】
神のミスにより、異世界転生が決まったミオ。調子に乗って、スキルを欲張り過ぎた結果、幼児化してしまった!
そんなハプニングがありつつも、ミオは、大好きな異世界で送る第二の人生に、希望いっぱい!
事故のお詫びに遣わされた、守護獣神のジョウとともに、ミオは異世界ライフを楽しみます!
カクヨム(吉野 ひな)にて、先行投稿しています。
コンバット
サクラ近衛将監
ファンタジー
藤堂 忍は、10歳の頃に難病に指定されているALS(amyotrophic lateral sclerosis:筋萎縮性側索硬化症)を発症した。
ALSは発症してから平均3年半で死に至るが、遅いケースでは10年以上にわたり闘病する場合もある。
忍は、不屈の闘志で最後まで運命に抗った。
担当医師の見立てでは、精々5年以内という余命期間を大幅に延長し、12年間の壮絶な闘病生活の果てについに力尽きて亡くなった。
その陰で家族の献身的な助力があったことは間違いないが、何よりも忍自身の生きようとする意志の力が大いに働いていたのである。
その超人的な精神の強靭さゆえに忍の生き様は、天上界の神々の心も揺り動かしていた。
かくして天上界でも類稀な神々の総意に依り、忍の魂は異なる世界への転生という形で蘇ることが許されたのである。
この物語は、地球世界に生を受けながらも、その生を満喫できないまま死に至った一人の若い女性の魂が、神々の助力により異世界で新たな生を受け、神々の加護を受けつつ新たな人生を歩む姿を描いたものである。
しかしながら、神々の意向とは裏腹に、転生した魂は、新たな闘いの場に身を投じることになった。
この物語は「カクヨム様」にも同時投稿します。
一応不定期なのですが、土曜の午後8時に投稿するよう努力いたします。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる