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第3章:魔導国家編 ②
終話 失われた意識
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「それで、研究員の容態は?」
セラフィウスは冷静に問いかけた。
『別の研究員が素早く解呪したこともあり、一命は取り留めましたが……』
「未だ、意識は戻っていない……と?」
深いため息をつき、低く沈んだ声で返した。
『……はい』
「状況は分かったよ。私もすぐに魔塔へ戻る。解析は中断だと……同行している金髪の騎士に伝えておくれ」
『かしこまりました!』
研究員の承諾を最後に伝令は途絶えた。
セラフィウスがシエルに目をやり、素の口調で告げた。
「……ったく。面倒なことになったもんだ。」
静かに立ち上がるとセラフィウスは秘匿区域の出口に向かって歩き出した。
「だから引き受けたくなかったのに、お前が騎士のデバフ解除なんかするから……」
罪悪感を感じたシエルが謝り、同様に出口へと向かった。
「……ごめんなさい。あの時のテシスは、怪しさしか無かったから……」
気にするな、と言わんばかりにセラフィウスはポンっとシエルの頭に手をのせた。
「まぁいいさ。正体を隠して有利に進めようとしたのは事実だしな。」
セラフィウスは今後、神名で呼ばないように――とシエルへ釘を刺した。
「あ、そうだ。ここを出たら俺のことを神名で呼ぶなよ?説明が面倒だからな」
クスっと笑ったシエルも同様に警告した。
「それはテシス、あなたにも言えることだと思うけど?私をシャティだなんて呼ばないでよね」
ふっと笑ったセラフィウスが立ち止まり、シエルの背中をそっと押した。
「お互いさまってわけか」
一歩前に出たシエルが首を傾げ、振り返った。
「え、なに?」
セラフィウスが出口を指さし、優しい目でシエルを見つめた。
「ほら、あいつが待ってるぞ」
ゆっくり振り返ったシエルは、薄紫色の障壁に背をついてシエルの身を案じていたノクターンの姿があった。
(ノクス、本当にずっと……待っていてくれたんだ)
シエルは柔らかく微笑むとゆっくりと歩き出し、次第に駆け足へと変わった。
「ノクス――!」
シエルが声をかけると、漆黒の騎士服を着こなしたノクターンが静かに振り返った。
「ただいま、ノクス!」
シエルは満面の笑みでノクターンの引き締まった身体へと飛び込んだ。
「……あぁ、おかえり」
シエルを受け止めたノクターンは彼女の透き通った銀色の髪を撫で、柔らかく微笑んだ。
「不審な魔塔主に何かされたり……してないか?」
ノクターンは心配そうな表情を浮かべ、シエルの顔を覗き込んだ。
(不審って……まぁ、正体を知らないから仕方ないよね)
クスっと笑ったシエルがノクターンの頬に手をあてた。
「大丈夫よ。心配してくれて、ありがとう」
「そうか……よかった」
安堵の息をついたノクターンがシエルの肩に頭を埋め、腰に手をまわした。
「ちょ、ちょっとノクス――!」
シエルは驚いた表情を浮かべるも、抵抗することは無かった。
身をゆだね、ノクターンの漆黒の髪を優しく撫でていた。
(本当に、妬けるな……。シャティのあんな顔、初めて見た……)
セラフィウスはゆっくりと出口に向かい、2人の姿を微笑ましく見つめていた。
「……お取り込み中のところ悪いんだけど……魔塔で事故が起きたと連絡があったんだ。――君たちも、同席してくれるかい?」
背後からセラフィウスの穏やかで凛とした声が響き、シエルたちは慌てて離れた。
「……こちらの監視役からも同様の連絡が入った。すぐにでも向かうつもりだ」
ノクターンは姿勢を正し、普段通りの威厳のある口調で告げた。
「もちろん私も一緒に行くわ」
シエルも頷き、力強く答えた。
「じゃあ行こうか――座標大魔塔アストラリウム……」
セラフィウスが移転魔法の呪文を唱えると空気がわずかに震え、青い光と共に複雑な魔方陣が浮かび上がった。
「ちょ、ちょっと待って――!」
シエルが慌てた様子でセラフィウスの口をふさいだ。
呪文が途絶えたことにより、幻想的な青い光は力を失くしたようにフッと消えていった。
「……お前は、何をやっているんだ?」
ノクターンがため息をつき、シエルを訝しげな眼差しで見つめた。
「急いで魔塔に向かうのは、私だって賛成よ?でも、だからと言ってフェリルを忘れないでほしいわ……」
シエルはセラフィウスの口から手を離し、図書館の入口を指さした。
『……あっ。』
完全に忘れていた様子のノクターンとセラフィウスが同時に声をあげて顔を見合わせ、互いにそっぽを向いた。
(犬猿の仲って、こういうことを言うのかしら?)
「ほら、早くしないと!」
クスっと笑ったシエルが駆け足でエントランスホールへと向かった。
◆ ◇ ◆
図書館の外に出た3人はフェリルのもとへ向かった。
「主よ、もう用は済んだのか?」
シエルの気配を感じ取ったフェリルがゆっくりと起き上がり、顔をあげた。
2人の背後からセラフィウスが現れ、フェリルは一瞬だけ顔をしかめた。
(なぜ、こやつが主たちと一緒にいるのだ……)
気配を感じなかったセラフィウスにフェリルは警戒の眼差しを向けた。
「説明は後よ、緊急事態なの!レ……セラフィウスさん、移転をお願いできるかしら?」
神名を言いかけたシエルへ、一瞬だけ鋭い眼差しを送って牽制したセラフィウスは何事も無かったかのように穏やかな声で告げた。
「まったく、ずいぶんと人使いの荒いお嬢さんだね……じゃあ行くよ。」
セラフィウスが再び呪文を唱えると、淡い青の光と共に複雑な魔方陣が浮かび上がった。
「座標大魔塔アストラリウム……」
光は次第に強くなり、シエルたちを優しく包み込む。
「移転開始!」
威厳のある凛とした声が秘匿区域のゲート前に響き渡り、青い光が一段と強い輝きを放った。
青く煌めく光の粒子が舞い上がり、シエルたちは魔塔へと移転していった。
そこで待ち受ける事件の大きさに、気付くことが無いまま――。
セラフィウスは冷静に問いかけた。
『別の研究員が素早く解呪したこともあり、一命は取り留めましたが……』
「未だ、意識は戻っていない……と?」
深いため息をつき、低く沈んだ声で返した。
『……はい』
「状況は分かったよ。私もすぐに魔塔へ戻る。解析は中断だと……同行している金髪の騎士に伝えておくれ」
『かしこまりました!』
研究員の承諾を最後に伝令は途絶えた。
セラフィウスがシエルに目をやり、素の口調で告げた。
「……ったく。面倒なことになったもんだ。」
静かに立ち上がるとセラフィウスは秘匿区域の出口に向かって歩き出した。
「だから引き受けたくなかったのに、お前が騎士のデバフ解除なんかするから……」
罪悪感を感じたシエルが謝り、同様に出口へと向かった。
「……ごめんなさい。あの時のテシスは、怪しさしか無かったから……」
気にするな、と言わんばかりにセラフィウスはポンっとシエルの頭に手をのせた。
「まぁいいさ。正体を隠して有利に進めようとしたのは事実だしな。」
セラフィウスは今後、神名で呼ばないように――とシエルへ釘を刺した。
「あ、そうだ。ここを出たら俺のことを神名で呼ぶなよ?説明が面倒だからな」
クスっと笑ったシエルも同様に警告した。
「それはテシス、あなたにも言えることだと思うけど?私をシャティだなんて呼ばないでよね」
ふっと笑ったセラフィウスが立ち止まり、シエルの背中をそっと押した。
「お互いさまってわけか」
一歩前に出たシエルが首を傾げ、振り返った。
「え、なに?」
セラフィウスが出口を指さし、優しい目でシエルを見つめた。
「ほら、あいつが待ってるぞ」
ゆっくり振り返ったシエルは、薄紫色の障壁に背をついてシエルの身を案じていたノクターンの姿があった。
(ノクス、本当にずっと……待っていてくれたんだ)
シエルは柔らかく微笑むとゆっくりと歩き出し、次第に駆け足へと変わった。
「ノクス――!」
シエルが声をかけると、漆黒の騎士服を着こなしたノクターンが静かに振り返った。
「ただいま、ノクス!」
シエルは満面の笑みでノクターンの引き締まった身体へと飛び込んだ。
「……あぁ、おかえり」
シエルを受け止めたノクターンは彼女の透き通った銀色の髪を撫で、柔らかく微笑んだ。
「不審な魔塔主に何かされたり……してないか?」
ノクターンは心配そうな表情を浮かべ、シエルの顔を覗き込んだ。
(不審って……まぁ、正体を知らないから仕方ないよね)
クスっと笑ったシエルがノクターンの頬に手をあてた。
「大丈夫よ。心配してくれて、ありがとう」
「そうか……よかった」
安堵の息をついたノクターンがシエルの肩に頭を埋め、腰に手をまわした。
「ちょ、ちょっとノクス――!」
シエルは驚いた表情を浮かべるも、抵抗することは無かった。
身をゆだね、ノクターンの漆黒の髪を優しく撫でていた。
(本当に、妬けるな……。シャティのあんな顔、初めて見た……)
セラフィウスはゆっくりと出口に向かい、2人の姿を微笑ましく見つめていた。
「……お取り込み中のところ悪いんだけど……魔塔で事故が起きたと連絡があったんだ。――君たちも、同席してくれるかい?」
背後からセラフィウスの穏やかで凛とした声が響き、シエルたちは慌てて離れた。
「……こちらの監視役からも同様の連絡が入った。すぐにでも向かうつもりだ」
ノクターンは姿勢を正し、普段通りの威厳のある口調で告げた。
「もちろん私も一緒に行くわ」
シエルも頷き、力強く答えた。
「じゃあ行こうか――座標大魔塔アストラリウム……」
セラフィウスが移転魔法の呪文を唱えると空気がわずかに震え、青い光と共に複雑な魔方陣が浮かび上がった。
「ちょ、ちょっと待って――!」
シエルが慌てた様子でセラフィウスの口をふさいだ。
呪文が途絶えたことにより、幻想的な青い光は力を失くしたようにフッと消えていった。
「……お前は、何をやっているんだ?」
ノクターンがため息をつき、シエルを訝しげな眼差しで見つめた。
「急いで魔塔に向かうのは、私だって賛成よ?でも、だからと言ってフェリルを忘れないでほしいわ……」
シエルはセラフィウスの口から手を離し、図書館の入口を指さした。
『……あっ。』
完全に忘れていた様子のノクターンとセラフィウスが同時に声をあげて顔を見合わせ、互いにそっぽを向いた。
(犬猿の仲って、こういうことを言うのかしら?)
「ほら、早くしないと!」
クスっと笑ったシエルが駆け足でエントランスホールへと向かった。
◆ ◇ ◆
図書館の外に出た3人はフェリルのもとへ向かった。
「主よ、もう用は済んだのか?」
シエルの気配を感じ取ったフェリルがゆっくりと起き上がり、顔をあげた。
2人の背後からセラフィウスが現れ、フェリルは一瞬だけ顔をしかめた。
(なぜ、こやつが主たちと一緒にいるのだ……)
気配を感じなかったセラフィウスにフェリルは警戒の眼差しを向けた。
「説明は後よ、緊急事態なの!レ……セラフィウスさん、移転をお願いできるかしら?」
神名を言いかけたシエルへ、一瞬だけ鋭い眼差しを送って牽制したセラフィウスは何事も無かったかのように穏やかな声で告げた。
「まったく、ずいぶんと人使いの荒いお嬢さんだね……じゃあ行くよ。」
セラフィウスが再び呪文を唱えると、淡い青の光と共に複雑な魔方陣が浮かび上がった。
「座標大魔塔アストラリウム……」
光は次第に強くなり、シエルたちを優しく包み込む。
「移転開始!」
威厳のある凛とした声が秘匿区域のゲート前に響き渡り、青い光が一段と強い輝きを放った。
青く煌めく光の粒子が舞い上がり、シエルたちは魔塔へと移転していった。
そこで待ち受ける事件の大きさに、気付くことが無いまま――。
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