1 / 5
1. 出会い
しおりを挟む
授業中、教師が喋っている声を聞きながら窓の外に目を向ける。毎日、なんて事ない日常は続いていって、只管に時間が過ぎていくだけだ。勉強も部活も、趣味ですら熱くなれない自分自身に嫌気がさすけれど、興味を持たず、深入りせず、期待しないで生きていくのが賢い生き方だとこの十数年で学んでしまった。可もなく不可もなく、誰に後ろ指差されるでもない人生が最も良いものだと自分に言い聞かせ、退屈な日々にすら諦めをもって向き合うことをやめた俺の日常は、たった一つのきっかけによってあっけなく瓦解した。
朝、教室の自分の席に向かうと、昨日まではなかった机が隣に置かれていた。窓際の最後尾に追加された机が何を意味するのか。考えずとも明白だ。この、なんとも絶妙に中途半端な雨の降る季節に転入だなんて、大変だろうな。この大いなる他人事は盛大すぎるフラグと成り果てるわけだが、それが回避出来れば人生苦労しない。特段苦労を積んできた人生ではないのだが。
予想通りの転入生は岩本さくらという女生徒だった。小柄な体格と緊張で縮こまった姿勢の影響で隣の席に来るまでは小学生と言われても信じるような雰囲気があった。席についてソワソワとしている岩本を多少気にかけつつも、話しかけるでもなく教師の話を聞き流す。きっとこの後の授業までにクラスメイトに囲まれてしまうんだろう。アーメン。心の中で十字を切り教科書を準備し始めた。
予想通りクラスメイトに囲まれ目を回していた岩本を救ったのは一限の教科担当だった。無感情に席に着くよう指示を出し、クラスメイト達を散らした教師は普段通りに授業を始める。一息ついた岩本が今度はオロオロ視線を彷徨わせ始める。指示された教科書のページを開いたところで岩本の焦りの理由に気づく。転入初日に教科書があるわけがない。かといって自分から声をかけるのも躊躇われる。逡巡を続けていると、黒板の内容を書き写しつつもやっぱり困った顔をした岩本はそっと椅子を引いて俺の方へ身を寄せてきた。
「あの、教科書見せてもらえませんか」
隣の席が一箇所しかない以上俺に助けを求めるしかないのは当たり前で、そこに対してなんのマイナス感情もない。席を近づけて教科書を見せて、授業が終わると一旦離れる。それを何度か繰り返した。
昼休み、クラスメイトたちに囲まれ目を回しながら昼食を食べている岩本を横目にしていると、突然岩本の大きな声が響いた。
「あ、案内は、木南くんにしてもらうから!」
驚きに声を上げるけれど、案内役が決まっているなら、とクラスメイトたちは聞き分けよくエールを送ってくる。そんな約束をした覚えはないが、恐らくもみくちゃ質問攻めの回避策として俺を使ったんだろう。大変そうだったし別にいいけど、学校の案内くらいは多分してもらった方がいいんじゃないかと思う。しかし、ただの回避策だと思っていたのは俺だけだったようだ。放課後、岩本は帰ろうとした俺を呼び止めて来る。案内をお願いできないか、と言われ断るのも忍びなく渋々了承した。
校内を回りながら岩本は気になったものに飛びついてキラキラと見回している。学食や講堂、部活棟などを案内して、ふと気になって部活はどうするのか尋ねる。返ってきた答えはなんともイカれたものだった。「全ての部活に体験入部してから決める」と、そう言った岩本はどうやら嘘や冗談を言っている訳ではなさそうだった。気の弱い一般人だと思っていたが、もしかしたらそうでは無いのかもしれない。
朝、教室の自分の席に向かうと、昨日まではなかった机が隣に置かれていた。窓際の最後尾に追加された机が何を意味するのか。考えずとも明白だ。この、なんとも絶妙に中途半端な雨の降る季節に転入だなんて、大変だろうな。この大いなる他人事は盛大すぎるフラグと成り果てるわけだが、それが回避出来れば人生苦労しない。特段苦労を積んできた人生ではないのだが。
予想通りの転入生は岩本さくらという女生徒だった。小柄な体格と緊張で縮こまった姿勢の影響で隣の席に来るまでは小学生と言われても信じるような雰囲気があった。席についてソワソワとしている岩本を多少気にかけつつも、話しかけるでもなく教師の話を聞き流す。きっとこの後の授業までにクラスメイトに囲まれてしまうんだろう。アーメン。心の中で十字を切り教科書を準備し始めた。
予想通りクラスメイトに囲まれ目を回していた岩本を救ったのは一限の教科担当だった。無感情に席に着くよう指示を出し、クラスメイト達を散らした教師は普段通りに授業を始める。一息ついた岩本が今度はオロオロ視線を彷徨わせ始める。指示された教科書のページを開いたところで岩本の焦りの理由に気づく。転入初日に教科書があるわけがない。かといって自分から声をかけるのも躊躇われる。逡巡を続けていると、黒板の内容を書き写しつつもやっぱり困った顔をした岩本はそっと椅子を引いて俺の方へ身を寄せてきた。
「あの、教科書見せてもらえませんか」
隣の席が一箇所しかない以上俺に助けを求めるしかないのは当たり前で、そこに対してなんのマイナス感情もない。席を近づけて教科書を見せて、授業が終わると一旦離れる。それを何度か繰り返した。
昼休み、クラスメイトたちに囲まれ目を回しながら昼食を食べている岩本を横目にしていると、突然岩本の大きな声が響いた。
「あ、案内は、木南くんにしてもらうから!」
驚きに声を上げるけれど、案内役が決まっているなら、とクラスメイトたちは聞き分けよくエールを送ってくる。そんな約束をした覚えはないが、恐らくもみくちゃ質問攻めの回避策として俺を使ったんだろう。大変そうだったし別にいいけど、学校の案内くらいは多分してもらった方がいいんじゃないかと思う。しかし、ただの回避策だと思っていたのは俺だけだったようだ。放課後、岩本は帰ろうとした俺を呼び止めて来る。案内をお願いできないか、と言われ断るのも忍びなく渋々了承した。
校内を回りながら岩本は気になったものに飛びついてキラキラと見回している。学食や講堂、部活棟などを案内して、ふと気になって部活はどうするのか尋ねる。返ってきた答えはなんともイカれたものだった。「全ての部活に体験入部してから決める」と、そう言った岩本はどうやら嘘や冗談を言っている訳ではなさそうだった。気の弱い一般人だと思っていたが、もしかしたらそうでは無いのかもしれない。
0
あなたにおすすめの小説
同じアパートに住む年上未亡人美女は甘すぎる。
ピコサイクス
青春
大学生の翔太は、一人暮らしを始めたばかり。
真下の階に住むのは、落ち着いた色気と優しさを併せ持つ大人の女性・水無瀬紗夜。
引っ越しの挨拶で出会った瞬間、翔太は心を奪われてしまう。
偶然にもアルバイト先のスーパーで再会した彼女は、翔太をすぐに採用し、温かく仕事を教えてくれる存在だった。
ある日の仕事帰り、ふたりで過ごす時間が増えていき――そして気づけば紗夜の部屋でご飯をご馳走になるほど親密に。
優しくて穏やかで――その色気に触れるたび、翔太の心は揺れていく。
大人の女性と大学生、甘くちょっぴり刺激的な同居生活(?)がはじまる。
わたしの下着 母の私をBBA~と呼ぶことのある息子がまさか...
MisakiNonagase
青春
39才の母・真知子は息子が私の下着を持ち出していることに気づいた。
ネットで同様の事象がないか調べると、案外多いようだ。
さて、真知子は息子を問い詰める? それとも気づかないふりを続けてあげるか?
そのほかに外伝も綴りました。
一途に愛した1周目は殺されて終わったので、2周目は王子様を嫌いたいのに、なぜか婚約者がヤンデレ化して離してくれません!
夢咲 アメ
恋愛
「君の愛が煩わしいんだ」
婚約者である王太子の冷たい言葉に、私の心は砕け散った。
それから間もなく、私は謎の襲撃者に命を奪われ死んだ――はずだった。
死の間際に見えたのは、絶望に顔を歪ませ、私の名を叫びながら駆け寄る彼の姿。
……けれど、次に目を覚ました時、私は18歳の自分に戻っていた。
「今世こそ、彼を愛するのを辞めよう」
そう決意して距離を置く私。しかし、1周目であれほど冷酷だった彼は、なぜか焦ったように私を追いかけ、甘い言葉で縛り付けようとしてきて……?
「どこへ行くつもり? 君が愛してくれるまで、僕は君を離さないよ」
不器用すぎて愛を間違えたヤンデレ王子×今世こそ静かに暮らしたい令嬢。
死から始まる、執着愛の二周目が幕を開ける!
悪役令嬢の大きな勘違い
神々廻
恋愛
この手紙を読んでらっしゃるという事は私は処刑されたと言う事でしょう。
もし......処刑されて居ないのなら、今はまだ見ないで下さいまし
封筒にそう書かれていた手紙は先日、処刑された悪女が書いたものだった。
お気に入り、感想お願いします!
真実の愛の祝福
詩森さよ(さよ吉)
恋愛
皇太子フェルナンドは自らの恋人を苛める婚約者ティアラリーゼに辟易していた。
だが彼と彼女は、女神より『真実の愛の祝福』を賜っていた。
それでも強硬に婚約解消を願った彼は……。
カクヨム、小説家になろうにも掲載。
筆者は体調不良なことも多く、コメントなどを受け取らない設定にしております。
どうぞよろしくお願いいたします。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる