君と見る雨垂れ

塚口悠良

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1. 出会い

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 授業中、教師が喋っている声を聞きながら窓の外に目を向ける。毎日、なんて事ない日常は続いていって、只管に時間が過ぎていくだけだ。勉強も部活も、趣味ですら熱くなれない自分自身に嫌気がさすけれど、興味を持たず、深入りせず、期待しないで生きていくのが賢い生き方だとこの十数年で学んでしまった。可もなく不可もなく、誰に後ろ指差されるでもない人生が最も良いものだと自分に言い聞かせ、退屈な日々にすら諦めをもって向き合うことをやめた俺の日常は、たった一つのきっかけによってあっけなく瓦解した。

 朝、教室の自分の席に向かうと、昨日まではなかった机が隣に置かれていた。窓際の最後尾に追加された机が何を意味するのか。考えずとも明白だ。この、なんとも絶妙に中途半端な雨の降る季節に転入だなんて、大変だろうな。この大いなる他人事は盛大すぎるフラグと成り果てるわけだが、それが回避出来れば人生苦労しない。特段苦労を積んできた人生ではないのだが。

 予想通りの転入生は岩本さくらという女生徒だった。小柄な体格と緊張で縮こまった姿勢の影響で隣の席に来るまでは小学生と言われても信じるような雰囲気があった。席についてソワソワとしている岩本を多少気にかけつつも、話しかけるでもなく教師の話を聞き流す。きっとこの後の授業までにクラスメイトに囲まれてしまうんだろう。アーメン。心の中で十字を切り教科書を準備し始めた。

 予想通りクラスメイトに囲まれ目を回していた岩本を救ったのは一限の教科担当だった。無感情に席に着くよう指示を出し、クラスメイト達を散らした教師は普段通りに授業を始める。一息ついた岩本が今度はオロオロ視線を彷徨わせ始める。指示された教科書のページを開いたところで岩本の焦りの理由に気づく。転入初日に教科書があるわけがない。かといって自分から声をかけるのも躊躇われる。逡巡を続けていると、黒板の内容を書き写しつつもやっぱり困った顔をした岩本はそっと椅子を引いて俺の方へ身を寄せてきた。
「あの、教科書見せてもらえませんか」
 隣の席が一箇所しかない以上俺に助けを求めるしかないのは当たり前で、そこに対してなんのマイナス感情もない。席を近づけて教科書を見せて、授業が終わると一旦離れる。それを何度か繰り返した。

 昼休み、クラスメイトたちに囲まれ目を回しながら昼食を食べている岩本を横目にしていると、突然岩本の大きな声が響いた。
「あ、案内は、木南くんにしてもらうから!」
 驚きに声を上げるけれど、案内役が決まっているなら、とクラスメイトたちは聞き分けよくエールを送ってくる。そんな約束をした覚えはないが、恐らくもみくちゃ質問攻めの回避策として俺を使ったんだろう。大変そうだったし別にいいけど、学校の案内くらいは多分してもらった方がいいんじゃないかと思う。しかし、ただの回避策だと思っていたのは俺だけだったようだ。放課後、岩本は帰ろうとした俺を呼び止めて来る。案内をお願いできないか、と言われ断るのも忍びなく渋々了承した。
 校内を回りながら岩本は気になったものに飛びついてキラキラと見回している。学食や講堂、部活棟などを案内して、ふと気になって部活はどうするのか尋ねる。返ってきた答えはなんともイカれたものだった。「全ての部活に体験入部してから決める」と、そう言った岩本はどうやら嘘や冗談を言っている訳ではなさそうだった。気の弱い一般人だと思っていたが、もしかしたらそうでは無いのかもしれない。
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