声に恋する君に恋した

塚口悠良

文字の大きさ
5 / 29
1.似たもの同士

1-5.新しいともだち

しおりを挟む
 橘はバレー部の助っ人を頼まれるのもうなずけるほどの高身長で、きっとスポーツを本気でやればうちの部活どれでもスタメンを取れそうな運動神経もある。もったいない、と思わなくもないけれど、それはきっと橘の誠実さだ。
「いいな。じゃあ橘が本気になってるのはオタ活ってことで」
「そこ比較に出されるとなんか、どうなんだって気がするけど……」
「なに言ってんだよ趣味に本気で何が悪い。お前のオタ活は恥じるようなものじゃないだろ。胸張ってけ」
「あはは。北見はほんと、すごいよな。俺は……俺が好きなものを恥ずかしいとは思わないけど、俺自身には釣り合わないと思ってるんだよね」
 釣り合わない。そんな言葉が橘から出てくるとは思わなかった。明らかに己を卑下している物言いだ。非の打ち所のない完璧人間のくせに、何を恥じているのかが俺には一切理解ができなくて、思わず頭をはたいていた。
「いたっ……え、なに?」
「胸張れって。娯楽は人を選ばない。お前自身がお前を誇れる生き方しろ」
「……もったいない、らしい」
「もったいない?」
「勉強も、運動もできて、顔もかっこいい。なのにオタクなのってもったいないよねって……言われたんだ。しかも俺が好きなのって男の声優さんだろ? なんか、変だよねって言われた。だから、そんな風に言わせてしまうのなら、俺は、多分オタクじゃない方がいい。だって、俺が好きな作品が、俺の好きな人が、俺のせいで否定されるんだ。それは……嫌だから」
 橘の言葉に頭を殴られたような衝撃が走った。確かに俺自身も、橘の趣味は俺とは遠いところにあると勝手に決めつけていた。きっと橘がもっと地味なクラスメイトだったら、俺もあんな周りくどい確かめ方せず、普通に趣味とか聞いてたと思う。あからさまに線を引いた側である自覚が芽生えて、どうしようもない罪悪感が襲う。でも、今ここで分かり合えたのだから、この手を離すわけにはいかない。
「じゃあ、俺には存分に話せ。俺も布教を怠らないから。橘はすげー良い奴だからさ。多分そんなこと言わずに肯定してくれる人もこれからいっぱい出会うと思うけど、第一号は一旦俺で我慢して」
「我慢とか! そんなこと言うなよ。俺、北見のことほんとにかっけえって思ってる。俺も、北見みたいに胸張って好きなもの好きって言える人間になりたいんだ。だから、改めてにはなるけどさ、俺と友だちになって欲しい」
 決意のみなぎったアーモンドアイが俺を映す。俺は橘が思ってるような誇り高い人間ではないけど、俺自身もう橘の人間性に惚れ込んでいる。好きなものに全力で、それらに敬意を払える人間は皆一様に幸福であるべきだ。全人類この男の良さを知れ。そんな、なにヅラなのか分からないことを思いながらも橘が差し伸べてきた手をしっかり取って握った。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

「好きって言ったら負け!」完璧すぎる生徒会コンビの恋愛頭脳戦は今日も平行線です~恋は勝ち負けじゃないと知るまでの攻防戦

中岡 始
BL
「好きって言ったら負け」 それが、俺たちの間にある、たったひとつのルールだった。 星遥学園の顔、生徒会長・一ノ瀬結翔と副会長・神城凪。 容姿、成績、カリスマ性――すべてが完璧なふたりは、周囲から「最強ペア」と呼ばれている。 けれどその内側では、日々繰り広げられる仁義なき恋愛頭脳戦があった。 ・さりげない言葉の応酬 ・SNSでの匂わせ合戦 ・触れそうで触れない、静かな視線の駆け引き 恋してるなんて認めたくない。 でも、相手からの“告白”を待ち続けてしまう―― そんなふたりの関係が変わったのは、修学旅行での一夜。 「俺、たぶん君に“負けてもいい”って思いかけてる」 その一言が、沈黙を揺るがし、心の距離を塗り替えていく。 勝ち負けなんかじゃない、想いのかたちにたどり着くまで。 これは、美形ふたりの駆け引きまみれなラブコメ戦線、 ついに“終戦”の火蓋が落ちるまでの物語。

今日くらい泣けばいい。

亜衣藍
BL
ファッション部からBL編集部に転属された尾上は、因縁の男の担当編集になってしまう!お仕事がテーマのBLです☆('ω')☆

伝説のS級おじさん、俺の「匂い」がないと発狂して国を滅ぼすらしいい

マンスーン
BL
ギルドの事務職員・三上薫は、ある日、ギルドロビーで発作を起こしかけていた英雄ガルド・ベルンシュタインから抱きしめられ、首筋を猛烈に吸引。「見つけた……俺の酸素……!」と叫び、離れなくなってしまう。 最強おじさん(変態)×ギルドの事務職員(平凡) 世界観が現代日本、異世界ごちゃ混ぜ設定になっております。

僕たち、結婚することになりました

リリーブルー
BL
俺は、なぜか知らないが、会社の後輩(♂)と結婚することになった! 後輩はモテモテな25歳。 俺は37歳。 笑えるBL。ラブコメディ💛 fujossyの結婚テーマコンテスト応募作です。

何故よりにもよって恋愛ゲームの親友ルートに突入するのか

BL
平凡な学生だったはずの俺が転生したのは、恋愛ゲーム世界の“王子”という役割。 ……けれど、攻略対象の女の子たちは次々に幸せを見つけて旅立ち、 気づけば残されたのは――幼馴染みであり、忠誠を誓った騎士アレスだけだった。 「僕は、あなたを守ると決めたのです」 いつも優しく、忠実で、完璧すぎるその親友。 けれど次第に、その視線が“友人”のそれではないことに気づき始め――? 身分差? 常識? そんなものは、もうどうでもいい。 “王子”である俺は、彼に恋をした。 だからこそ、全部受け止める。たとえ、世界がどう言おうとも。 これは転生者としての使命を終え、“ただの一人の少年”として生きると決めた王子と、 彼だけを見つめ続けた騎士の、 世界でいちばん優しくて、少しだけ不器用な、じれじれ純愛ファンタジー。

執着

紅林
BL
聖緋帝国の華族、瀬川凛は引っ込み思案で特に目立つこともない平凡な伯爵家の三男坊。だが、彼の婚約者は違った。帝室の血を引く高貴な公爵家の生まれであり帝国陸軍の将校として目覚しい活躍をしている男だった。

隣の席のイケメンに懐かれた

しょうがやき
BL
隣の席のイケメンに懐かれた平凡男子の話

雪色のラブレター

hamapito
BL
俺が遠くに行っても、圭は圭のまま、何も変わらないから。――それでよかった、のに。 そばにいられればいい。 想いは口にすることなく消えるはずだった。 高校卒業まであと三か月。 幼馴染である圭への気持ちを隠したまま、今日も変わらず隣を歩く翔。 そばにいられればいい。幼馴染のままでいい。 そう思っていたはずなのに、圭のひとことに抑えていた気持ちがこぼれてしまう。 翔は、圭の戸惑う声に、「忘れて」と逃げてしまい……。

処理中です...