声に恋する君に恋した

塚口悠良

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1.似たもの同士

1-5.新しいともだち

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 橘はバレー部の助っ人を頼まれるのもうなずけるほどの高身長で、きっとスポーツを本気でやればうちの部活どれでもスタメンを取れそうな運動神経もある。もったいない、と思わなくもないけれど、それはきっと橘の誠実さだ。
「いいな。じゃあ橘が本気になってるのはオタ活ってことで」
「そこ比較に出されるとなんか、どうなんだって気がするけど……」
「なに言ってんだよ趣味に本気で何が悪い。お前のオタ活は恥じるようなものじゃないだろ。胸張ってけ」
「あはは。北見はほんと、すごいよな。俺は……俺が好きなものを恥ずかしいとは思わないけど、俺自身には釣り合わないと思ってるんだよね」
 釣り合わない。そんな言葉が橘から出てくるとは思わなかった。明らかに己を卑下している物言いだ。非の打ち所のない完璧人間のくせに、何を恥じているのかが俺には一切理解ができなくて、思わず頭をはたいていた。
「いたっ……え、なに?」
「胸張れって。娯楽は人を選ばない。お前自身がお前を誇れる生き方しろ」
「……もったいない、らしい」
「もったいない?」
「勉強も、運動もできて、顔もかっこいい。なのにオタクなのってもったいないよねって……言われたんだ。しかも俺が好きなのって男の声優さんだろ? なんか、変だよねって言われた。だから、そんな風に言わせてしまうのなら、俺は、多分オタクじゃない方がいい。だって、俺が好きな作品が、俺の好きな人が、俺のせいで否定されるんだ。それは……嫌だから」
 橘の言葉に頭を殴られたような衝撃が走った。確かに俺自身も、橘の趣味は俺とは遠いところにあると勝手に決めつけていた。きっと橘がもっと地味なクラスメイトだったら、俺もあんな周りくどい確かめ方せず、普通に趣味とか聞いてたと思う。あからさまに線を引いた側である自覚が芽生えて、どうしようもない罪悪感が襲う。でも、今ここで分かり合えたのだから、この手を離すわけにはいかない。
「じゃあ、俺には存分に話せ。俺も布教を怠らないから。橘はすげー良い奴だからさ。多分そんなこと言わずに肯定してくれる人もこれからいっぱい出会うと思うけど、第一号は一旦俺で我慢して」
「我慢とか! そんなこと言うなよ。俺、北見のことほんとにかっけえって思ってる。俺も、北見みたいに胸張って好きなもの好きって言える人間になりたいんだ。だから、改めてにはなるけどさ、俺と友だちになって欲しい」
 決意のみなぎったアーモンドアイが俺を映す。俺は橘が思ってるような誇り高い人間ではないけど、俺自身もう橘の人間性に惚れ込んでいる。好きなものに全力で、それらに敬意を払える人間は皆一様に幸福であるべきだ。全人類この男の良さを知れ。そんな、なにヅラなのか分からないことを思いながらも橘が差し伸べてきた手をしっかり取って握った。
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