声に恋する君に恋した

塚口悠良

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2.相互理解を深めて

2-1.得意技

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 橘がオタクであることが分かって、その日の放課後。うろうろと視線を彷徨わせながら橘が俺の机のそばにやってきた。
「な、なあ。北見、今日ひま?」
「ん、ああ。暇だけど?」
「じ、じゃあさ! 今日、一緒に遊ばない?」
 そんな風に誘われて、橘と連れだって入ったのは通学路に面したゲームセンター。普段はそこまで通っている訳ではないが、たまに遊びに来ることもある場所だ。UFOキャッチャーの景品を眺めながら館内を歩き回る。
「最近の景品ってどれもクオリティ高いよなー」
「確かに。北見ってUFOキャッチャー得意?」
「攻略動画見るのは結構好きだよ。橘は?」
「俺は……んー。好きだけど、下手くそかも」
 そんな会話をしたとき、ふと橘の視線がとあるマスコットに吸い寄せられる。それは俺もよくやっているアプリゲームに登場するお助けキャラ。ネコを模したキャラデザでかなり人気のある子だった。
「欲しい?」
「え?」
「それ、見てたろ? 欲しいんだったらやってみようぜ」
「いや、いやいやいや! でっかいぬいぐるみとかむずいって聞くし!」
 わたわたと俺を止めようとする橘を無視してさっさと筐体の前を陣取る。初期位置からならかなりしんどいと思うが、何回かやって諦めた後のようだし、丁度引っかけやすい場所がある。いけるだろうと高をくくって百円玉を投入する。後ろで橘がまだ何かを言っているが、自信満々に笑みを向けてやると期待したような視線をくれる。狙いを定めてボタンを操作し、想定通りのところへアームが差し込まれる。
「え、え……持ち上がった……?」
 橘の困惑した声に自分でも分かるほどのドヤ顔をしつつ、取り出し口に落ちてきたぬいぐるみを取り出した。
「どうよ」
「す、っげー……‼ マジか! え、マジで⁉」
「ふははは! そこまで喜ばれると気分いいなぁ」
 ぴょんぴょん跳ねるようにしながらすごいすごいと繰り返す橘に鼻高々な思いでぬいぐるみを差し出す。すると、橘は打って変わって焦ったように腕を突っ張って受け取るのを拒んだ。
「い、いやいやいや! 何渡そうとしてんだよ!」
「何って、お前が欲しそうだったから取ったんだけど? 受け取れよ」
「受け取れないって! 北見も好きだろこのアプリ」
「そうだけど、俺ぬいぐるみいらねえし」
「じ、じゃあせめて百円……」
「いらん。はやく受け取ってくださーい」
「う、……ぐぅ……」
 財布を取り出そうとした橘を遮るように言うと苦しげに声を上げる。橘の目の前でひらひらと見せびらかすようにぬいぐるみを動かすと、それを必死に目で追いかけるから笑ってしまう。半ばむりやり橘の胸に押しつけると落としてしまわないようにやっと抱え込んだ。
「んじゃ、向こうの音ゲーおごって」
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