声に恋する君に恋した

塚口悠良

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3.学生の本分

3-3.魅力的な提案

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「進捗どーですか」
「ぐ……ぅ……ごめん、もっかい解説頼む」
「はいよ」
 改めて途中式を見て突っかかっている理由を探す。分からないところを細かく分けて考えてもらい、頭から一緒にやっていく。
「……で、こう、か」
「お、そうそう。んじゃもう一個例題解けたら休憩にしよ」
 なんとなくだが理解したっぽい雰囲気を感じてもうひとつ作っておいた例題を差し出す。今度はしっかり問題を読んだ後にすぐペンが動き出すのを見てほっと一息。これなら勉強会も意味があったといえるだろう。
「たぶん、いけた」
「んじゃ見してみ」
 橘が導き出した答えを途中式含め自分が出しているものと見比べ、間違いがないことを確かめる。そばにあった赤ペンでクルッとマルをつけてやり、ルーズリーフを返した。
「やぁった!! ありがとな北見!!」
「ん、おつかれ。休憩にしよ」
 勉強道具を一旦片付け、持ってきたお菓子を広げる。クッキーとチョコレートをバサッと机に出した。
「好きに食え。オレンジジュースもある」
「え、ほんと? 飲みたい」
「オッケー。持ってくるわ」
「いや、俺も行くって」
「えぇ? 別にひとりでいいけどね」
「何回も往復させて悪いし、なんなら俺が行くよ?」
「まぁ、んじゃ一緒に行くか」
 母さんがいることは伝えてあるが、案外人見知りする橘をひとりで行かせるのは忍びない気がした。それに、気分転換に部屋を出るのもいい事だと思うから、連れ立ってリビングへ向かった。
「母さん、オレンジジュースちょうだい」
「はぁい。ちょっと待ちなさいねぇ……と、あら。こんにちは、橘くん」
 晩ご飯の下ごしらえをしているであろう母さんは顔を上げた時に橘がいることに少しだけ驚いて、にっこり笑った。いつも母さんが帰ってくるより先に家にいることが多いから、帰り以外顔を合わさない。どんな反応をするのかと橘を見やると人好きのする笑顔でぺこりと頭を下げた。
「こんにちは。お邪魔してます!」
「いつも祐介と遊んでくれてありがとうね」
「いやそんな、いつもお邪魔してて……ご迷惑じゃないですかね」
「そんなこと気にしなくていいのよ! なんなら泊まっていったっていいんだから!」
「え、え……! お泊まり……!」
 突然の母さんからの提案に目をキラキラさせて見てくる橘に落ち着くように声をかける。適当に冷蔵庫からオレンジジュースを取り出してコップに注ぎ、橘の前に置いた。
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