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3.学生の本分
3-6.真剣勝負
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テスト期間中はほぼ毎日俺の家でテスト勉強をしていた。橘が分からないところを教えたり、逆に俺が曖昧なところを教えてもらったりと助け合いもありつつ、しっかりと勉強を進めていく。明日からはいよいよテスト本番。今までにないほどの勉強量に自分でも笑ってしまうが、みすみす負けてやる気はない。
テストの日は半日で終わるから、その分翌日の準備に充てられる。テストのスケジュールを確認しながら橘の様子を見ていると、すでにカバンを持った状態でこちらに来る。
「今日明日は別々で勉強しよう。真剣勝負だからな」
「分かった。じゃあ、また明日な」
「うん!」
元気よく返事をして帰って行った橘の背中を見送って自分も荷物を持つ。真剣勝負、か。良い響きだ。気合いを入れるように深呼吸をして、帰路についた。
全てのテストを終えて、緊張を解く。いつもテスト中は気を張っているけれど、今回はまた違う気の張り方をしていた自覚があった。思わず机に突っ伏していると顔を向けている方向に橘が回り込んで来ていた。パチリと目が合って目を見開いた俺にいたずらが成功したみたいに嬉しそうに笑っている。
「どうしたんだよ。致命的なミスでも見つけた?」
「いや、ちょっと疲れただけ。だいたい解けたから凡ミスでもない限りそこそこの点は取ってると思うよ」
「なぁんだ。張ったヤマ外れて焦れよ」
「そもそも張ってないんだよヤマを」
ケラケラ笑う橘に苦言を呈しながら身体を起こす。見た目には元気そうだが、橘も少しだけ目元に疲労が滲んでいる。本気でやったからこそ、お互いちょっぴり疲れたみたいだ。
「結果、楽しみだな」
「そうだな」
テスト返し中はお互いの点数を探らない協定を結んで、全教科揃ったところで勝負することに決まっていた。今日の最終限で返されるテストで今回は最後だった。いつもどおり俺の家に着くや否や、テストを入れているクリアファイルを携え叫ぶ。
『デュエル!』
橘は頻りに俺の方が頭が良いだのなんだのと言っていたが、やっぱりそう大差ないということが今回の結果から見てとれる。国語、英語、理科、社会。主要五教科のうち四つを比べ終えたところで、まさかの同点。国語と英語は橘の方が点数が高かったくらいなわけだし。最後の教科である数学は、勉強会の初日に一緒にやった教科でもある。だからこそ、最後にしようと橘から提案があった。
「北見は、自信ある?」
「んー……まあ、得意教科だからな」
「俺も、北見に教えてもらったし、普段よりめっちゃいい点取った」
「それじゃ、せーのでいくぞ」
「よし、任せろ」
裏向けたテスト用紙をテーブルに並べ、すぐにめくれるようにスタンバイする。運命の瞬間だ。一瞬の静寂の後、橘の息を吸う音に合わせて口を開く。
「せーのっ!」
表に向けられたテスト用紙、そしてそこに並ぶ数字は、89と96。
「っ、あ゙ー‼ 負けたぁ‼」
「はっはっはっは! もう一度出直して来たまえ橘くん」
ケアレスミスはあったものの、得意教科はやはり裏切らない。満点でも取られていない限り安泰だと思っていたが、想像以上に善戦している橘に面食らう。苦手だと言っている教科でこの点数とは。普段からコツコツ勉強してれば総合点普通に負けるんじゃないか。改めて橘のポテンシャルと努力の成果に脱帽するしかなかった。
「北見ぃ、それで? 俺は何したら良いの?」
「え、ああ。そういやそんな話だったな。……うーん、勝ちたいとは思ってたけどこれと言って願いもないんだよなぁ。思いついたらでいい?」
「なんだよそれ張り合いないなぁ」
「お前は? 勝ってたら何させるつもりだったんだよ」
「えー……? ないしょ」
ふい、と顔を逸らした橘に首を傾げつつも、深追いはしないことにする。今日のところは一旦保留ということで、思いついたら発動出来る命令権を得ることに成功したのだった。
テストの日は半日で終わるから、その分翌日の準備に充てられる。テストのスケジュールを確認しながら橘の様子を見ていると、すでにカバンを持った状態でこちらに来る。
「今日明日は別々で勉強しよう。真剣勝負だからな」
「分かった。じゃあ、また明日な」
「うん!」
元気よく返事をして帰って行った橘の背中を見送って自分も荷物を持つ。真剣勝負、か。良い響きだ。気合いを入れるように深呼吸をして、帰路についた。
全てのテストを終えて、緊張を解く。いつもテスト中は気を張っているけれど、今回はまた違う気の張り方をしていた自覚があった。思わず机に突っ伏していると顔を向けている方向に橘が回り込んで来ていた。パチリと目が合って目を見開いた俺にいたずらが成功したみたいに嬉しそうに笑っている。
「どうしたんだよ。致命的なミスでも見つけた?」
「いや、ちょっと疲れただけ。だいたい解けたから凡ミスでもない限りそこそこの点は取ってると思うよ」
「なぁんだ。張ったヤマ外れて焦れよ」
「そもそも張ってないんだよヤマを」
ケラケラ笑う橘に苦言を呈しながら身体を起こす。見た目には元気そうだが、橘も少しだけ目元に疲労が滲んでいる。本気でやったからこそ、お互いちょっぴり疲れたみたいだ。
「結果、楽しみだな」
「そうだな」
テスト返し中はお互いの点数を探らない協定を結んで、全教科揃ったところで勝負することに決まっていた。今日の最終限で返されるテストで今回は最後だった。いつもどおり俺の家に着くや否や、テストを入れているクリアファイルを携え叫ぶ。
『デュエル!』
橘は頻りに俺の方が頭が良いだのなんだのと言っていたが、やっぱりそう大差ないということが今回の結果から見てとれる。国語、英語、理科、社会。主要五教科のうち四つを比べ終えたところで、まさかの同点。国語と英語は橘の方が点数が高かったくらいなわけだし。最後の教科である数学は、勉強会の初日に一緒にやった教科でもある。だからこそ、最後にしようと橘から提案があった。
「北見は、自信ある?」
「んー……まあ、得意教科だからな」
「俺も、北見に教えてもらったし、普段よりめっちゃいい点取った」
「それじゃ、せーのでいくぞ」
「よし、任せろ」
裏向けたテスト用紙をテーブルに並べ、すぐにめくれるようにスタンバイする。運命の瞬間だ。一瞬の静寂の後、橘の息を吸う音に合わせて口を開く。
「せーのっ!」
表に向けられたテスト用紙、そしてそこに並ぶ数字は、89と96。
「っ、あ゙ー‼ 負けたぁ‼」
「はっはっはっは! もう一度出直して来たまえ橘くん」
ケアレスミスはあったものの、得意教科はやはり裏切らない。満点でも取られていない限り安泰だと思っていたが、想像以上に善戦している橘に面食らう。苦手だと言っている教科でこの点数とは。普段からコツコツ勉強してれば総合点普通に負けるんじゃないか。改めて橘のポテンシャルと努力の成果に脱帽するしかなかった。
「北見ぃ、それで? 俺は何したら良いの?」
「え、ああ。そういやそんな話だったな。……うーん、勝ちたいとは思ってたけどこれと言って願いもないんだよなぁ。思いついたらでいい?」
「なんだよそれ張り合いないなぁ」
「お前は? 勝ってたら何させるつもりだったんだよ」
「えー……? ないしょ」
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