353 / 459
【第353話】ザキールらしくない態度
しおりを挟む死の山戦争一日目の夕方 突如上空に姿を現わした魔人ザキールは以前と変わない人を小馬鹿にした不愉快な笑みを浮かべている。もっと戦おうぜ、と挑発してくるザキールは戦争を楽しんでいるようで腹立たしいが、あいつのペースに乗ってはいけない、ここは皮肉の一つでも返しておこう。
「よう、久しぶりだな、ザキール! 優しいパパに羽を治してもらっただけじゃなく、脱獄までさせてもらえて良かったな。今度はパパに迷惑をかけないようにちゃんと活躍しなきゃいけないんだろ? それなのに早くも魔獣集落を幾つも攻め落とされちまって大変だな! お前こそ早く休戦して魔獣達を休ませた方がいいんじゃないか?」
俺が挑発で返すと、ザキールは手を強く握り、爪を皮膚に食い込ませるほど腹を立てていた。
このまま逆上して向かって来てくれれば、一気に死の扇動の使い手であるザキールを倒せて形勢が有利になるのだが、奴は単身で大軍に突っ込んでくるほど馬鹿ではなかった。
「フンッ、今は言いたいように言わせてやる。どうせお前らの命はあと僅かなんだからな。そんなことより貴様……さっきパパがどうのこうのと言っていたな? やはりシリウス辺りから過去の事を全て教えてもらったのか?」
「ああ、全て教えてもらったぜ。五英雄の過去も、アスタロトやクローズのことも、そして俺、ザキール、フィル三人の出生についてもな」
「……そうか、なら一層絶望を与える甲斐がありそうだな。全てを知ったお前達人類側が為すすべなく散っていくのを楽しませてもらうぜ」
「随分と自信たっぷりだな。一日でこれだけ魔獣集落を潰されてもそんな口を叩けるとはな。何か秘策でもあるのか? それともアスタロトがバックにいるから自信たっぷりなのか?」
「悔しいが現状俺様の魔獣群は押されているし、俺様は一度お前達に負けているから確実に勝つ自信があるわけではない……だが、例え俺様が散っても最後に大陸の覇者となるのはアスタロト陣営だ! それだけは断言してやる!」
あのプライドの高いザキールにしては弱気な言い回しだ、それに自分が負けてもアスタロト陣営は負けない――――なんて言い方をしているのが気に掛かる。現状俺達が優勢でいられてるのは、まだ強力な魔獣群と戦っていないからなのだろうか?
俺達は南北から死の山の魔獣群を挟撃している関係上、中心位置の勢力に辿り着けるのはかなり後の話だ、そこにはアスタロトやクローズが何か罠を張り巡らせて待っているのかもしれない。
ザキールの言葉が気になってしょうがないが、今は兵士達の士気を下げる訳にはいかない、強がって自信満々なフリをしておこう。
「人類側だってまだまだ力を残しているんだ、悪いが全くザキール達に負ける気はしない。慌てなくても近いうちに決着はつくんだ、お互いじっくり休んで全力をぶつけ合って決着をつけようぜ、じゃあな」
「チッ、相変わらずムカつく奴だ、あいつと少しでも同じ血が流れていると考えるだけで寒気がするぜ」
ザキールは悪態をつくと、そのままゆっくりと南へ飛んで帰っていった。恐らく死の扇動で動いていた魔獣達も命令を上書きされたのか、急に攻撃の手を止めて自陣へと帰り始めた。
今日の戦いで戦った魔獣の内、どれ程の数がザキールの死の扇動で操られていたのかは分からないが、もし大半の魔獣をザキールが操っていたのならイグノーラでの戦争時より死の扇動の力は上昇していそうだ。
死の扇動を使える可能性があるアスタロトとはまだ遭遇していないし、魔人族がザキールとアスタロトだけとは限らない。明日以降は更に用心深く戦わなければ。
俺達は確かな手応えと適度な緊張感を維持したまま麓へと戻って休息し、明日以降の話し合いを行う事にした。各国の代表や軍人たちは各々に意見を交わし始める。
――――明日はアスタロト陣営の回復を邪魔するべく、早めに出陣するのがよいと思わないか?――――
――――いや、魔人ザキールの自信に満ちた物言いが気に掛かる。ここは長期戦覚悟でじっくり攻めるのが得策じゃろう――――
――――南側の軍との連携はどうする? 出来るだけ早く西端・東端の魔獣集落を制圧すれば、それだけ南側とも繋がりやすくなるが――――
皆、ザキールの出現に緊張感が高まりつつも冷静に揉めることなく話し合いを出来ているようだ、流石は各国で要職を務める者達だ。そんな中、北軍を代表していた帝国所属のトーマスが意外な提案を持ち掛けた。
「皆さん、私から一つ提案させていただきたい。その提案とは明日以降の出陣において『我々帝国兵が先頭を進んで敵軍と最初に接触し、最も多く戦闘に関わる』というものだ。その理由は二つあって、一つは我々が戦闘技術に長けていること、もう一つは死の山に遠征してきた我々帝国部隊を信用してもらいたいことにある。正直なところ、リングウォルドは他国から良く思われていないはずだからな。少なくとも遠征組だけでも信用してもらいたい」
これはかなり思い切った提案だ。交換条件も無しに一番つらい役目を担うと宣言するとは、よっぽど信用してもらいたいと思っているのだろう。言い換えればそれだけモードレッドの事を信用できないとも解釈できる。
帝国以外の国にとって、この提案はハッキリ言ってメリットしかない。それ故に反対する国は現れず、トーマスの案は採用される事となった。
他にも細かく明日の事を話し合っている要人達を眺めていると、サーシャが後ろから俺の服の裾を引っ張り、俺とグラッジだけに聞こえるよう小声で話しかけてきた。
「ねぇねぇガラルド君、一つ提案があるんだけどいいかな?」
「どうしたんだいきなり? 戦争の提案なら皆に聞こえるように言ってもいいと思うが」
「戦争に関わる事ではあるんだけど、今からする提案はサーシャの能力に関する話でもあるから、大陸中の要人が集まっている状況ではなるべく避けたいの」
サーシャの能力……つまり忌み黒猫の拒絶の事だ。かなり稀有なサーシャのスキルについて皆の前で話すなら、能力を得た過程などを勘づかれる恐れもある。
トラウマきっかけで得たといっても過言ではないスキルだから説明を避けられるなら避けたいのだろう。俺が首を縦に振るとサーシャは説明を始める。
「サーシャね、黒猫サクで調べてみたい事があるの。それは過去視でアスタロト達が暮らしていたアジトが現状どうなっているのかってこと。もし今も拠点にしていて待機しているなら奇襲をかけるチャンスになると思うの」
「確かに言われてみれば今も使っている可能性はあるし、奇襲をかけられたら大きなアドバンテージになるな。だが、いくらサクとサーシャで視界共有ができたとしてもアジトまで移動させられるのか? アジトのあった位置って死の山の中でも南の方だっただろ? それに視界は夜で真っ暗だぜ?」
「サーシャも今日まで沢山修行をしてきたからね、サクをギリギリまで小さくして尚且つ能力を一切発動できない状態に制限をかけて、移動だけにしか魔量を使わないようにすればアジトまで持つはずだよ。それに視界の暗さも問題ないよ、猫は元々夜行性だから夜目が利くし、足場の悪い場所も人間よりテンポよく静かに進むことが出来るはずだから」
「そうか、ならサクとサーシャに頑張ってもらうとするか、長丁場になると思うがよろしく頼む」
「うん、任せて。その代わり寝ずにサクを移動させ続けるから、もしかしたら明日のサーシャは疲れて使い物にならないかもしれないって事だけは覚えててね」
「ああ、偵察が終わったらゆっくり休んでくれ」
「うん、それじゃあサーシャは自分のテントに戻って早速サクを移動させてくるから、ガラルド君は他の人達に忌み黒猫の拒絶の事は伏せた上でシンバード軍が偵察を飛ばすって事を説明しておいてね」
サーシャは難しい宿題を出すと、そのまま自分のテントへと行ってしまった。
今回の戦争はとにかく勝利を収める事で頭がいっぱいだったから忘れていたが、そう言えば赤ん坊の俺が暮らしていたアジトの近くで戦う事でもあるのだ。
明日以降、どのような戦いの流れになるかは分からないが、出来る事ならクローズの作ったアジトへ自らの足で行ってみたい。
もしアジトへ行けたなら過去視では部分的にしか確かめられなかったアジトの全容を確かめて、アスタロト、クローズ、そして母シルフィの足跡を見つけて彼らの事をより深く知りたいものだ。
0
あなたにおすすめの小説
【本編45話にて完結】『追放された荷物持ちの俺を「必要だ」と言ってくれたのは、落ちこぼれヒーラーの彼女だけだった。』
ブヒ太郎
ファンタジー
「お前はもう用済みだ」――荷物持ちとして命懸けで尽くしてきた高ランクパーティから、ゼロスは無能の烙印を押され、なんの手切れ金もなく追放された。彼のスキルは【筋力強化(微)】。誰もが最弱と嘲笑う、あまりにも地味な能力。仲間たちは彼の本当の価値に気づくことなく、その存在をゴミのように切り捨てた。
全てを失い、絶望の淵をさまよう彼に手を差し伸べたのは、一人の不遇なヒーラー、アリシアだった。彼女もまた、治癒の力が弱いと誰からも相手にされず、教会からも冒険者仲間からも居場所を奪われ、孤独に耐えてきた。だからこそ、彼女だけはゼロスの瞳の奥に宿る、静かで、しかし折れない闘志の光を見抜いていたのだ。
「私と、パーティを組んでくれませんか?」
これは、社会の評価軸から外れた二人が出会い、互いの傷を癒しながらどん底から這い上がり、やがて世界を驚かせる伝説となるまでの物語。見捨てられた最強の荷物持ちによる、静かで、しかし痛快な逆襲劇が今、幕を開ける!
世界最強の賢者、勇者パーティーを追放される~いまさら帰ってこいと言われてももう遅い俺は拾ってくれた最強のお姫様と幸せに過ごす~
aoi
ファンタジー
「なぁ、マギそろそろこのパーティーを抜けてくれないか?」
勇者パーティーに勤めて数年、いきなりパーティーを戦闘ができずに女に守られてばかりだからと追放された賢者マギ。王都で新しい仕事を探すにも勇者パーティーが邪魔をして見つからない。そんな時、とある国のお姫様がマギに声をかけてきて......?
お姫様の為に全力を尽くす賢者マギが無双する!?
さんざん馬鹿にされてきた最弱精霊使いですが、剣一本で魔物を倒し続けたらパートナーが最強の『大精霊』に進化したので逆襲を始めます。
ヒツキノドカ
ファンタジー
誰もがパートナーの精霊を持つウィスティリア王国。
そこでは精霊によって人生が決まり、また身分の高いものほど強い精霊を宿すといわれている。
しかし第二王子シグは最弱の精霊を宿して生まれたために王家を追放されてしまう。
身分を剥奪されたシグは冒険者になり、剣一本で魔物を倒して生計を立てるようになる。しかしそこでも精霊の弱さから見下された。ひどい時は他の冒険者に襲われこともあった。
そんな生活がしばらく続いたある日――今までの苦労が報われ精霊が進化。
姿は美しい白髪の少女に。
伝説の大精霊となり、『天候にまつわる全属性使用可』という規格外の能力を得たクゥは、「今まで育ててくれた恩返しがしたい!」と懐きまくってくる。
最強の相棒を手に入れたシグは、今まで自分を見下してきた人間たちを見返すことを決意するのだった。
ーーーーーー
ーーー
閲覧、お気に入り登録、感想等いつもありがとうございます。とても励みになります!
※2020.6.8お陰様でHOTランキングに載ることができました。ご愛読感謝!
チートスキル【レベル投げ】でレアアイテム大量獲得&スローライフ!?
桜井正宗
ファンタジー
「アウルム・キルクルスお前は勇者ではない、追放だ!!」
その後、第二勇者・セクンドスが召喚され、彼が魔王を倒した。俺はその日に聖女フルクと出会い、レベル0ながらも【レベル投げ】を習得した。レベル0だから投げても魔力(MP)が減らないし、無限なのだ。
影響するステータスは『運』。
聖女フルクさえいれば運が向上され、俺は幸運に恵まれ、スキルの威力も倍増した。
第二勇者が魔王を倒すとエンディングと共に『EXダンジョン』が出現する。その隙を狙い、フルクと共にダンジョンの所有権をゲット、独占する。ダンジョンのレアアイテムを入手しまくり売却、やがて莫大な富を手に入れ、最強にもなる。
すると、第二勇者がEXダンジョンを返せとやって来る。しかし、先に侵入した者が所有権を持つため譲渡は不可能。第二勇者を拒絶する。
より強くなった俺は元ギルドメンバーや世界の国中から戻ってこいとせがまれるが、もう遅い!!
真の仲間と共にダンジョン攻略スローライフを送る。
【簡単な流れ】
勇者がボコボコにされます→元勇者として活動→聖女と出会います→レベル投げを習得→EXダンジョンゲット→レア装備ゲットしまくり→元パーティざまぁ
【原題】
『お前は勇者ではないとギルドを追放され、第二勇者が魔王を倒しエンディングの最中レベル0の俺は出現したEXダンジョンを独占~【レベル投げ】でレアアイテム大量獲得~戻って来いと言われても、もう遅いんだが』
追放された回復術師は、なんでも『回復』できて万能でした
新緑あらた
ファンタジー
死闘の末、強敵の討伐クエストを達成した回復術師ヨシュアを待っていたのは、称賛の言葉ではなく、解雇通告だった。
「ヨシュア……てめえはクビだ」
ポーションを湯水のように使える最高位冒険者になった彼らは、今まで散々ポーションの代用品としてヨシュアを利用してきたのに、回復術師は不要だと考えて切り捨てることにしたのだ。
「ポーションの下位互換」とまで罵られて気落ちしていたヨシュアだったが、ブラックな労働をしいるあのパーティーから解放されて喜んでいる自分に気づく。
危機から救った辺境の地方領主の娘との出会いをきっかけに、彼の世界はどんどん広がっていく……。
一方、Sランク冒険者パーティーはクエストの未達成でどんどんランクを落としていく。
彼らは知らなかったのだ、ヨシュアが彼らの傷だけでなく、状態異常や武器の破損など、なんでも『回復』していたことを……。
お前には才能が無いと言われて公爵家から追放された俺は、前世が最強職【奪盗術師】だったことを思い出す ~今さら謝られても、もう遅い~
志鷹 志紀
ファンタジー
「お前には才能がない」
この俺アルカは、父にそう言われて、公爵家から追放された。
父からは無能と蔑まれ、兄からは酷いいじめを受ける日々。
ようやくそんな日々と別れられ、少しばかり嬉しいが……これからどうしようか。
今後の不安に悩んでいると、突如として俺の脳内に記憶が流れた。
その時、前世が最強の【奪盗術師】だったことを思い出したのだ。
元皇子の寄り道だらけの逃避行 ~幽閉されたので国を捨てて辺境でゆっくりします~
下昴しん
ファンタジー
武力で領土を拡大するベギラス帝国に二人の皇子がいた。魔法研究に腐心する兄と、武力に優れ軍を指揮する弟。
二人の父である皇帝は、軍略会議を軽んじた兄のフェアを断罪する。
帝国は武力を求めていたのだ。
フェアに一方的に告げられた罪状は、敵前逃亡。皇帝の第一継承権を持つ皇子の座から一転して、罪人になってしまう。
帝都の片隅にある独房に幽閉されるフェア。
「ここから逃げて、田舎に籠るか」
給仕しか来ないような牢獄で、フェアは脱出を考えていた。
帝都においてフェアを超える魔法使いはいない。そのことを知っているのはごく限られた人物だけだった。
鍵をあけて牢を出ると、給仕に化けた義妹のマトビアが現れる。
「私も連れて行ってください、お兄様」
「いやだ」
止めるフェアに、強引なマトビア。
なんだかんだでベギラス帝国の元皇子と皇女の、ゆるすぎる逃亡劇が始まった──。
※カクヨム様、小説家になろう様でも投稿中。
大器晩成エンチャンター~Sランク冒険者パーティから追放されてしまったが、追放後の成長度合いが凄くて世界最強になる
遠野紫
ファンタジー
「な、なんでだよ……今まで一緒に頑張って来たろ……?」
「頑張って来たのは俺たちだよ……お前はお荷物だ。サザン、お前にはパーティから抜けてもらう」
S級冒険者パーティのエンチャンターであるサザンは或る時、パーティリーダーから追放を言い渡されてしまう。
村の仲良し四人で結成したパーティだったが、サザンだけはなぜか実力が伸びなかったのだ。他のメンバーに追いつくために日々努力を重ねたサザンだったが結局報われることは無く追放されてしまった。
しかしサザンはレアスキル『大器晩成』を持っていたため、ある時突然その強さが解放されたのだった。
とてつもない成長率を手にしたサザンの最強エンチャンターへの道が今始まる。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる