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Episode01 よみがえり
#03 仮説もない
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朝。師走の空は雲一つなく晴れ渡り、その爽快さが逆に心地悪い。
そうだ。
俺の家が金持ちになった。
そして楓が有名モデルと付き合っている。
それ以外は、至って普通。
そう理解した。
いや、理解してはいない。
むしろ理解などしたくなかった。確かに家が金持ちならば生活も豊かになるだろう。だがしかし、楓が、巾木錦太郎というオカマ野郎と付き合っている世界なのだ。しかも結婚を前提に。気になって仕方がない。
いや、気にならない。断じて気にならないぞ。楓だからな。
俺とした事が不覚にも取り乱してしまった。
コホン。
◇
「おはよ」
楓が曲がり角から現われて右手を挙げる。
心なしか元気がないような気もする。が、口には、それは見事なベタ的なるトーストを咥える。もごもごと口を動かしながら左手には牛乳。
どこの住人だ。お前は。少なくともSFじゃない。無論、ミステリーでもない。……まあ、この世界は、その二つではないのだが。
ともかく、期待を裏切らず、今の深刻さにそぐわない天然ボケぶり。
「朝っぱらから相変わらずだな。楓」
やれやれだと、空を見上げてから両口角を下げてへの字口。
「相変わらずって。なんだよ? 意味が分からん」
というかだな。
天然ボケという最強な武器を持ちながら本人は自分にはツッコミの才があって逆にボケられないと思っている時点で最強のボケ担当なんだよ。まあ、今は、そんなお笑い談義に花を咲かせてもしょうがない。
ジョウビタキが、カカッと近くの畑へと降りてゆく。
顔を逸らして言う。
「とにかく状況を整理しよう」
楓と並んで歩く。
「だな。何度も話したけど、あたしはオカマ野郎と付き合ってる事になってる。昨日、次の休みは、どうする? ってダインが来て分かった」
ダインはSNSの定番なあれだな。
俺は応えず瞳を閉じる。
「登録した覚えすらないアカウントからのメッセージだったから……」
恐かった。
だろうな。続きは。
敢えて口にしなかったのは自分の弱さを俺には見せたくない楓らしい。
「そうか。こっちは俺んちがあり得ないほどの金持ちになってた。姉貴の立ち振る舞いそのものがキショく感じられるほどにな」
俺と楓の間に沈黙が入場する。静々。
ヒヨドリの大群が畑へと降りてゆく。
追い出されたジョウビタキが口惜しそうにカカッと鳴き飛び立つ。
「そっか。で、この状況がなんでなのかを理解したの? 流宇?」
青い瞳で上目遣いな楓。
「……」
答えを持たない俺は黙る。それが一番不安を感じさせないから。
少なくとも悩み始めると思考の袋小路に入る楓には。
「つうか。何か答えてよ」
まあ、それでも何も答えないのが正解だ。
下手に自分なりの見解を話しても楓は納得しないだろうし、余計にな。
「理解した、でもいいから答えてよ 流宇」
楓はある意味で泣き言にも聞こえる思いを吐露する。
さすがに、これ以上はと思った俺は、ゆったりとした口調で答える。
嫌々にだが。
「……理解出来ないんだよ。まったくな。変化が、ゆっくりで徐々にだったら立てられる仮説はある。けれども、そのどちらも突然だからな」
多分、楓が一番信頼しているであろう俺の思考でも理解出来ていないと知ってしまえば、その不安は果てなき富士山登頂にもなる。しかも、いまだ登山口にすら到着できていない旅程の消化具合のそれだ。
ごめん。楓。
「そうか」
と残念そうにガックリと両肩を落とす楓。
ヒヨドリの群れが飛び立つ。
また、いくらかの沈黙……。
とぼとぼと並んで歩く俺と楓の揺れる影。
ゆらゆらと揺れて影から立ちのぼる香りは苦く切ない。
「……とにかく。今は観察フェーズだ。俺たちの置かれている状況を事細かに観察する。これ以上の違いがあるのかどうかを見極める段階だ」
俺は、今の最善だと思われる次の一手だけを楓に示す。
そんな事しか出来ない俺は自分の不甲斐なさを感じた。
「そっか」
と楓は答えて、また黙った。
蒼空に一つ雲が流れてきた。
◇
結論から言おう。
死ぬ前と死んだあとの世界で違うのは、俺たちの問題以外なかった。無論、今のところはという副詞的なものは付くが。
とにかく、それ以外なかった。
一日、学校での人間関係、そして、この国の法律や倫理、道徳などに至るまでこと細かく観察した。その果てで出た結論。なんの問題もない。
いや、自分が金持ちで、そのカネの出所が分からない事や知らないところで見知らぬ男の婚約者になっていたら、その怖さは半端ない。いや、少なくとも、俺と楓は言い知れぬ恐怖を感じている。不安もな。それは豪放磊落でメンタル最強な楓が不安を感じて言葉少なくなるくらいにはだ。
一体、何なんだ。
何が起こってる?
分からない。
その思いは恐怖を加速させる。
それでも時間は過ぎていくもので、次の休みの日が来る。
楓が、阿呆の巾木錦太郎とのデートを約束させられた、その日が。もちろん、俺はデートに隠れて付いていき、楓に害が及ぶのならば全力で、それを阻むという大役に任命されていた。
平たくいえばラブコメでのベタなあれだな。
うむっ。
「流宇、頼むよ?」
と楓が俺が隠れている場所をチラ見しながらつぶやいた。
そうだ。
俺の家が金持ちになった。
そして楓が有名モデルと付き合っている。
それ以外は、至って普通。
そう理解した。
いや、理解してはいない。
むしろ理解などしたくなかった。確かに家が金持ちならば生活も豊かになるだろう。だがしかし、楓が、巾木錦太郎というオカマ野郎と付き合っている世界なのだ。しかも結婚を前提に。気になって仕方がない。
いや、気にならない。断じて気にならないぞ。楓だからな。
俺とした事が不覚にも取り乱してしまった。
コホン。
◇
「おはよ」
楓が曲がり角から現われて右手を挙げる。
心なしか元気がないような気もする。が、口には、それは見事なベタ的なるトーストを咥える。もごもごと口を動かしながら左手には牛乳。
どこの住人だ。お前は。少なくともSFじゃない。無論、ミステリーでもない。……まあ、この世界は、その二つではないのだが。
ともかく、期待を裏切らず、今の深刻さにそぐわない天然ボケぶり。
「朝っぱらから相変わらずだな。楓」
やれやれだと、空を見上げてから両口角を下げてへの字口。
「相変わらずって。なんだよ? 意味が分からん」
というかだな。
天然ボケという最強な武器を持ちながら本人は自分にはツッコミの才があって逆にボケられないと思っている時点で最強のボケ担当なんだよ。まあ、今は、そんなお笑い談義に花を咲かせてもしょうがない。
ジョウビタキが、カカッと近くの畑へと降りてゆく。
顔を逸らして言う。
「とにかく状況を整理しよう」
楓と並んで歩く。
「だな。何度も話したけど、あたしはオカマ野郎と付き合ってる事になってる。昨日、次の休みは、どうする? ってダインが来て分かった」
ダインはSNSの定番なあれだな。
俺は応えず瞳を閉じる。
「登録した覚えすらないアカウントからのメッセージだったから……」
恐かった。
だろうな。続きは。
敢えて口にしなかったのは自分の弱さを俺には見せたくない楓らしい。
「そうか。こっちは俺んちがあり得ないほどの金持ちになってた。姉貴の立ち振る舞いそのものがキショく感じられるほどにな」
俺と楓の間に沈黙が入場する。静々。
ヒヨドリの大群が畑へと降りてゆく。
追い出されたジョウビタキが口惜しそうにカカッと鳴き飛び立つ。
「そっか。で、この状況がなんでなのかを理解したの? 流宇?」
青い瞳で上目遣いな楓。
「……」
答えを持たない俺は黙る。それが一番不安を感じさせないから。
少なくとも悩み始めると思考の袋小路に入る楓には。
「つうか。何か答えてよ」
まあ、それでも何も答えないのが正解だ。
下手に自分なりの見解を話しても楓は納得しないだろうし、余計にな。
「理解した、でもいいから答えてよ 流宇」
楓はある意味で泣き言にも聞こえる思いを吐露する。
さすがに、これ以上はと思った俺は、ゆったりとした口調で答える。
嫌々にだが。
「……理解出来ないんだよ。まったくな。変化が、ゆっくりで徐々にだったら立てられる仮説はある。けれども、そのどちらも突然だからな」
多分、楓が一番信頼しているであろう俺の思考でも理解出来ていないと知ってしまえば、その不安は果てなき富士山登頂にもなる。しかも、いまだ登山口にすら到着できていない旅程の消化具合のそれだ。
ごめん。楓。
「そうか」
と残念そうにガックリと両肩を落とす楓。
ヒヨドリの群れが飛び立つ。
また、いくらかの沈黙……。
とぼとぼと並んで歩く俺と楓の揺れる影。
ゆらゆらと揺れて影から立ちのぼる香りは苦く切ない。
「……とにかく。今は観察フェーズだ。俺たちの置かれている状況を事細かに観察する。これ以上の違いがあるのかどうかを見極める段階だ」
俺は、今の最善だと思われる次の一手だけを楓に示す。
そんな事しか出来ない俺は自分の不甲斐なさを感じた。
「そっか」
と楓は答えて、また黙った。
蒼空に一つ雲が流れてきた。
◇
結論から言おう。
死ぬ前と死んだあとの世界で違うのは、俺たちの問題以外なかった。無論、今のところはという副詞的なものは付くが。
とにかく、それ以外なかった。
一日、学校での人間関係、そして、この国の法律や倫理、道徳などに至るまでこと細かく観察した。その果てで出た結論。なんの問題もない。
いや、自分が金持ちで、そのカネの出所が分からない事や知らないところで見知らぬ男の婚約者になっていたら、その怖さは半端ない。いや、少なくとも、俺と楓は言い知れぬ恐怖を感じている。不安もな。それは豪放磊落でメンタル最強な楓が不安を感じて言葉少なくなるくらいにはだ。
一体、何なんだ。
何が起こってる?
分からない。
その思いは恐怖を加速させる。
それでも時間は過ぎていくもので、次の休みの日が来る。
楓が、阿呆の巾木錦太郎とのデートを約束させられた、その日が。もちろん、俺はデートに隠れて付いていき、楓に害が及ぶのならば全力で、それを阻むという大役に任命されていた。
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うむっ。
「流宇、頼むよ?」
と楓が俺が隠れている場所をチラ見しながらつぶやいた。
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