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Episode02 巾木錦太郎
#04 アイ・ラブ・マイ
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師走の空を駆け抜けてゆく一機のセスナ。飛行機雲を残して。
「ハニー。オッケ?」
おいおい。なんだ。コイツ。
何というか、いや、もはや何とも表現出来ないぞ。むしろ枠で括る事自体、馬鹿げてる。このオカマ野郎は。
黒く長い前髪をかき上げて微笑み楓の手を取る。
「アイ・ラブ・マイ。ユー・アンダースタンド?」
それを矢継ぎ早に楓にぶつけてから、また笑む。
アイ・ラブ・ユーじゃないのかよ。マイだって?
日本語に訳すると、愛してます。私を、だよな?
いや、考えたら負けだ。絶対に適当英語だから。
巾木錦太郎。これほどまでにも阿呆だったとは。
とにかく。時間は十数分前へと戻る。
◇
十数分前。
楓と錦太郎が出会う少し前。
「……デートなんてした事ないし。大丈夫かな。いや、頑張れ、あたし」
と楓が自分を奮起している。
両拳を握りしめて両肘を曲げる。グッと。
確かにスポーツ万能な筋肉阿呆には、なかなか荷が重いミッションだ。だが、ここを乗り切り、ともすれば錦太郎を捕縛して尋問すれば俺たちが置かれた状況にも進展する。いや、するかもしれない。希望的観測だが。
だが。……だからこそのデートなわけだ。
12月の乾いた空気が楓の心を急き立てる。遠目にも冷や汗だらだらなのが分かる。離れた場所で隠れて様子を伺っている俺も心配になる。心配にはなるが、どうしてやりようもない。頑張れ、ファイティンとしか。
気まぐれな寒風が俺の頬を撫でて、その切れ味に苛立つ。
また手に汗握って、鼓動が落ち着かない。
枯れ葉が風に舞って俺の足元へと落ちる。
「つうか。まだ来ないのかよ? 巾木錦太郎の野郎。もう30分以上の遅刻だぞ。楓様を待たせてもいいのは……、流宇だけなのに。ぶうぅ」
楓も落ち着かないようで小さな声で独り言をぶつぶつぶうたれてる。離れているから、独り言の内容までは分からないが、苛立っているようだ。
とにかくデート〔ミッション〕は映画を二人で観て、その最中でチャンスを作り、阿呆〔錦太郎〕を捕縛するだけ。それだけ。
しかしながら相手は世間でバズってる有名モデル。
また心に重しを乗せられた楓は苦笑い。
と唐突!
女子の群れが楓へと近づいていく。
ゆっくりと。
ワイワイキャキャとうるさい。
「ハイ。マイ・ハニー」
うおっ!
その群れの中心にいやがった。巾木錦太郎のオカマ野郎が。
いや、ある意味で予想通りとも言える登場。
焦るな。慌てるな。俺。そして楓。
「ハバ・ナイス・ディ!」
いや、ハヴァ・ナイス・ディのつもりなのか?
意味、知ってる?
良い一日を、だぞ。基本的に別れ際に言う言葉だ。まあ、適当に言っているんだろうから意味など、どうでも良いかもしれないが。
錦太郎にとって。
「楓嬢。待ったかい? 待ち時間も楽しかっただろ? 僕に会えるってドキドキでさ。少なくとも主人公は遅れてくるもんさ。マイ・ライフ!」
おい! 謝らないのか!
謝れよ。
普通に。
遅刻したんだぞ。
それどころか、楽しかっただろ、だって!
何というナルシストぶり。自分を中心に世界が回っていると言わぬが如く。まあ、正直、見た目はいいがな。でも、それだけだ。死ねッ!
「ウフフ。……ねえ? 錦太郎さん?」
さん、だと。錦太郎さんだって! 楓の女郎……。
にっこりと笑う楓。それはアルカイックスマイル。
この笑顔の楓は鬼。般若。羅刹悪鬼。
ガコッ!
有無を言わさず楓の黄金の右が炸裂。
プッしゅうぅぅぅぅ。
と思ったが、錦太郎は楓の右拳を右手のひらで見事に受けている。
「オー・ワンダフォー。マイ・ハニー・マイ・ラブ」
いちいち適当英語を交えてくるのは、お馬鹿キャラ満載なのだが、どうやら、この錦太郎という男、楓レベルでの運動神経を持っている。阿呆なしゃべり方だと侮ったら痛い目をみるな。
錦太郎は「そして!」と大声。いきなりの日本語。
「君たちも君たちの巣にお帰り。僕は僕の巣に戻るからね。マイ・ラブ」
と周りにいた女子軍団に言い放つ。潤んだ瞳でだ。
巣。だと。
それは楓の事を言ってるのか。
というか、もはや頭が痛いを通り越して、頭痛が腰痛で筋肉痛だ。俺自身、自分でも何を言っているのか分かっていない。冷静でいられないから。
無論、楓も、また。
そして、いまだ楓の拳は錦太郎の右手のひらに包まれたまま。オカマ野郎は、その拳を力強く引っ張って楓を抱きかかえる。長い黒髪を垂らしながら上から見下ろす。そのまま強引に楓の唇を奪いにいく。
「アイ・ラブ・マイ」
いや、だから、そこはユーじゃねぇのかよ?
なんて言ってる場合か。遂に恐れていた事が現実になった。
「うう! ううん! うんん!」
楓が錦太郎の腕の中で暴れながら抵抗する。
どうやら怪力女な楓もしのぐ筋力もあるらしい。錦太郎は。
「嫌だ。止めろ。オカマ野郎!」
楓が泣きそうになる。
「流宇!」
そうだ。楓に害が及んだのだ。
多分だが、楓はファーストキスさえも済ましていない。
無論、その相手が誰になるのかは分からない。分からないが、こんなところで失っていいもんじゃない。少なくとも錦太郎が相手なんて……。
良いわけがない!
俺は隠れている場合じゃないと楓の元へと駆けだした。
「フフフ」
と不敵に笑った錦太郎の艶やかな唇が楓の唇へと徐々に近づいていった。
無論、俺と楓の距離も、それに伴って一気に縮まった。
「待ちやがれ、オカマ野郎!」
と、いつの間にか自然に叫んでいた。
「ハニー。オッケ?」
おいおい。なんだ。コイツ。
何というか、いや、もはや何とも表現出来ないぞ。むしろ枠で括る事自体、馬鹿げてる。このオカマ野郎は。
黒く長い前髪をかき上げて微笑み楓の手を取る。
「アイ・ラブ・マイ。ユー・アンダースタンド?」
それを矢継ぎ早に楓にぶつけてから、また笑む。
アイ・ラブ・ユーじゃないのかよ。マイだって?
日本語に訳すると、愛してます。私を、だよな?
いや、考えたら負けだ。絶対に適当英語だから。
巾木錦太郎。これほどまでにも阿呆だったとは。
とにかく。時間は十数分前へと戻る。
◇
十数分前。
楓と錦太郎が出会う少し前。
「……デートなんてした事ないし。大丈夫かな。いや、頑張れ、あたし」
と楓が自分を奮起している。
両拳を握りしめて両肘を曲げる。グッと。
確かにスポーツ万能な筋肉阿呆には、なかなか荷が重いミッションだ。だが、ここを乗り切り、ともすれば錦太郎を捕縛して尋問すれば俺たちが置かれた状況にも進展する。いや、するかもしれない。希望的観測だが。
だが。……だからこそのデートなわけだ。
12月の乾いた空気が楓の心を急き立てる。遠目にも冷や汗だらだらなのが分かる。離れた場所で隠れて様子を伺っている俺も心配になる。心配にはなるが、どうしてやりようもない。頑張れ、ファイティンとしか。
気まぐれな寒風が俺の頬を撫でて、その切れ味に苛立つ。
また手に汗握って、鼓動が落ち着かない。
枯れ葉が風に舞って俺の足元へと落ちる。
「つうか。まだ来ないのかよ? 巾木錦太郎の野郎。もう30分以上の遅刻だぞ。楓様を待たせてもいいのは……、流宇だけなのに。ぶうぅ」
楓も落ち着かないようで小さな声で独り言をぶつぶつぶうたれてる。離れているから、独り言の内容までは分からないが、苛立っているようだ。
とにかくデート〔ミッション〕は映画を二人で観て、その最中でチャンスを作り、阿呆〔錦太郎〕を捕縛するだけ。それだけ。
しかしながら相手は世間でバズってる有名モデル。
また心に重しを乗せられた楓は苦笑い。
と唐突!
女子の群れが楓へと近づいていく。
ゆっくりと。
ワイワイキャキャとうるさい。
「ハイ。マイ・ハニー」
うおっ!
その群れの中心にいやがった。巾木錦太郎のオカマ野郎が。
いや、ある意味で予想通りとも言える登場。
焦るな。慌てるな。俺。そして楓。
「ハバ・ナイス・ディ!」
いや、ハヴァ・ナイス・ディのつもりなのか?
意味、知ってる?
良い一日を、だぞ。基本的に別れ際に言う言葉だ。まあ、適当に言っているんだろうから意味など、どうでも良いかもしれないが。
錦太郎にとって。
「楓嬢。待ったかい? 待ち時間も楽しかっただろ? 僕に会えるってドキドキでさ。少なくとも主人公は遅れてくるもんさ。マイ・ライフ!」
おい! 謝らないのか!
謝れよ。
普通に。
遅刻したんだぞ。
それどころか、楽しかっただろ、だって!
何というナルシストぶり。自分を中心に世界が回っていると言わぬが如く。まあ、正直、見た目はいいがな。でも、それだけだ。死ねッ!
「ウフフ。……ねえ? 錦太郎さん?」
さん、だと。錦太郎さんだって! 楓の女郎……。
にっこりと笑う楓。それはアルカイックスマイル。
この笑顔の楓は鬼。般若。羅刹悪鬼。
ガコッ!
有無を言わさず楓の黄金の右が炸裂。
プッしゅうぅぅぅぅ。
と思ったが、錦太郎は楓の右拳を右手のひらで見事に受けている。
「オー・ワンダフォー。マイ・ハニー・マイ・ラブ」
いちいち適当英語を交えてくるのは、お馬鹿キャラ満載なのだが、どうやら、この錦太郎という男、楓レベルでの運動神経を持っている。阿呆なしゃべり方だと侮ったら痛い目をみるな。
錦太郎は「そして!」と大声。いきなりの日本語。
「君たちも君たちの巣にお帰り。僕は僕の巣に戻るからね。マイ・ラブ」
と周りにいた女子軍団に言い放つ。潤んだ瞳でだ。
巣。だと。
それは楓の事を言ってるのか。
というか、もはや頭が痛いを通り越して、頭痛が腰痛で筋肉痛だ。俺自身、自分でも何を言っているのか分かっていない。冷静でいられないから。
無論、楓も、また。
そして、いまだ楓の拳は錦太郎の右手のひらに包まれたまま。オカマ野郎は、その拳を力強く引っ張って楓を抱きかかえる。長い黒髪を垂らしながら上から見下ろす。そのまま強引に楓の唇を奪いにいく。
「アイ・ラブ・マイ」
いや、だから、そこはユーじゃねぇのかよ?
なんて言ってる場合か。遂に恐れていた事が現実になった。
「うう! ううん! うんん!」
楓が錦太郎の腕の中で暴れながら抵抗する。
どうやら怪力女な楓もしのぐ筋力もあるらしい。錦太郎は。
「嫌だ。止めろ。オカマ野郎!」
楓が泣きそうになる。
「流宇!」
そうだ。楓に害が及んだのだ。
多分だが、楓はファーストキスさえも済ましていない。
無論、その相手が誰になるのかは分からない。分からないが、こんなところで失っていいもんじゃない。少なくとも錦太郎が相手なんて……。
良いわけがない!
俺は隠れている場合じゃないと楓の元へと駆けだした。
「フフフ」
と不敵に笑った錦太郎の艶やかな唇が楓の唇へと徐々に近づいていった。
無論、俺と楓の距離も、それに伴って一気に縮まった。
「待ちやがれ、オカマ野郎!」
と、いつの間にか自然に叫んでいた。
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