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【本編】第3章 錯乱する歯車
第14話
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ライト「あぁっ!! はぁ…はぁ…。」
目覚めるとそこは病室だった。
窓の外は少しずつオレンジ色に染まり出した頃だ。
ライト「俺、いつの間に寝て…。」
???「目が覚めたんですね。」
ライト「!?」
周りに全く意識がいかず、唐突に声をかけられて驚いた。
その声がしたのはベッドの傍で、椅子に腰をかけているリサがいた。
リサ「悪い夢でも見ましたか?」
ライト「は、はい…。」
ライトは今にも破裂しそうなほど大きく鼓動を打つ心臓を抑えるように、胸をぎゅっと握った。
リサ「どんな夢でしたか?」
ライト「え、えっと…、っ…。」
言葉に出来なかった。
いや、言葉にしたくなかった。
例え夢であっても、それは自分にとって大切なものを奪うものだから。
リサ「無理して喋る必要はないですよ、返って逆効果ですから。喋ろうとする気持ちは伝わってます、それだけで合格点なんです。」
ライト「…どういう、意味ですか?」
リサ「そうですね、今の悩み事でも聞いてみましょう。なんでもいいですよ。」
どういう意味だったかはわからないが、突然悩み事を聞いてきた。
そこに何かしらの意味があるのだろう。
ライト「悩みですか…?」
リサ「ええ、ないならないで構わないですよ。」
自分の悩みなんて明確にあるはずだ。
しかし、いざ聞かれるとそれがどんなものか言葉に表しずらい。
ライト「上手く言えないんですけど…。」
悩みを聞かれて真っ先に頭に浮かんだ事があった。
思い返してみればあの日からこんな調子が続いていた。
そして、今回のチーム戦で改めて現実を目にした。
ライト「自分が、憎いんです。」
リサ「憎い?」
ライト「はい。彼はあれが出来る、彼女はこれが得意だ。そのような個性は誰にでもあるものだと俺は思ってます。だけど、いざ自分の個性について考えてみると、自分には何があるのかなって。周りを見てつくづく思うんです。」
リサは無言でその話を聞いていた。
ただ、傍にいるそれだけでなぜか安心して話せた。
ライト「それだけじゃない。何をしても上手く出来ないし、周りに何もしてあげられない。おまけに迷惑ばかりかけて、…ダメダメですよね。」
一通り言い終えてから数秒の間、リサは口を開かなかった。
何かを考えていたのか、ようやく口を開く。
リサ「凄いですね。」
ライト「え?」
リサ「合格点どころじゃない、満点です。」
ライトは全く意味を理解できなかった。
先程も合格点と言っていたが、この悩み事を話すことに何か意味があったのだろうか。
リサ「いいですか、ライトくん。」
ライト「は、はい。」
リサ「ひとつ、あなたは自分に厳しいんです。もちろんそれがダメではありません。自分を甘やかし続ける者に高い壁は登れないですからね。でも、ライトくんは返って逆効果なんですよ。自分に厳しすぎるんです。」
ライト「…分かってます、でもそれじゃ、いつになっても追いつかないんです。」
リサ「気持ちは分かります。ですが人が何かを成し遂げる時、『焦り』こそが最大の敗因です。」
ライト「…!」
リサ「焦りは過ちを増やします。こういう時こそ大切なのが冷静さです。焦りというのは本質を忘れてしまいがち、如何にして現状を突き止めどうするべきかを編み出す、そんな冷静さこそが時に最大の武器にもなります。」
ライト「……。」
リサ「私が今悩み事を聞いたのは、ライトくんが今現在でどれほど事について目を向けてられてるか。先程は口には出来なかったもののちゃんと向き合って言葉にしようとしてましたし、今はちゃんと私に言えたじゃないですか。それだけ、冷静に物事を見れてる証拠です。」
ここでようやっと理解が出来た。
そんな意味があったなんて思いもしてなく、少しばかり関心した。
リサ「ふたつ、ライトくんは求めすぎです。」
ライト「求めすぎ?」
リサ「人はいつだってないものねだりです。他人と比較することなんて所詮意味なんてないんですよ。」
ライトはその言葉の意味を理解はしたが、その本質にある意味は理解できなかった。
リサ「他人と比較すれば、得られるものは意味の無い劣等感かつまらない優越感しか生まれません。…って言っても、人は比べてしまう生き物。『比べるな』と言っても難しいことです。」
ライト「でも、他人と比べないと実力は上がらないんじゃないですか? いつまでも自分の上限値で満足してしまうんじゃ…?」
リサ「そうです、次のレベルに進むには他人と比較しなければいけない時があります。」
ライト「じゃあ──」
リサ「先程、『自分の上限値で満足してしまう』と言いましたね。じゃあライトくんは今自身の上限値に立ってるんですか?」
ライト「それは…っ。」
ライトは言葉に詰まった。
確かにこれまでのことを遡れば自分がしてきた行いは全力であったとしても、まだ上のランクがあるじゃないかと思わされた。
リサ「まぁ結局何が言いたいかと言うと、『自分の出来ることを探して磨きなさい』ということです。」
ライトはその言葉に込められた意味をしっかりと胸に刻んだ。
ライト「ありがとうございます、少し…楽になれた気がします。」
リサ「それならよかったです。私はまだ仕事が残ってるのでこの辺で、…あっ、あとこれ、ライトくん宛に届いてました。」
リサが手に持ったのは小さな箱だった。
受け取ると『ライトへ』と箱の蓋に書かれていた。
ライト(この字、誰だろう?見た目は女子っぽい字だけどリズじゃない。)
リサ「それでは、何かあったらまた呼んでください。」
ライト「はい、ありがとうございます。」
リサが扉をゆっくり閉め、再び1人になる。
もう一度箱に視線を移す。
シンプルな白い箱、小さな可愛らしい文字。
誰が届けてくれたのかはわからなかったが、自分宛なのは間違いがなく箱の蓋を開けた。
ライト「これ、俺の…?」
その中には自分のだと思われるハンカチが綺麗に四つ折りに畳まれて入っていた。
ライト「一体誰が…?よくこれが俺のだって…。」
このハンカチは宝物に等しいくらい大事な物だった。
ライトがまだ幼い頃、母親が手作りで編んでくれてプレゼントされた物だからだ。
ハンカチを手に持つと、ハンカチの下に折り畳まれた紙切れが入ってるのが見えた。
紙を開くと、箱の蓋の文字を書いた者と同一人物だと思われる文字で書かれていた。
◇◆◇◆
ライトへ。
まず最初に、辛いと思うけどこの手紙を読んでくれてありがとう。
身体の具合はどうですか?
多分ライトのことだから、今すぐにでも学園に戻って色んなことを学びたいと思ってるのかな?
無理は禁物だよ!(っ `꒳´ c)
回復して元気になれたら座学も魔法も一緒に勉強しよう?
焦らなくて大丈夫だよ。
その時が来たら、『おかえり』って言わせてね。
行事の事もあって知らず知らずに疲れも溜まってたんだと思う。
この機会に思い切り休んで、1日でも早くまた元気な姿が見れるよう待ってるから。
お大事に。
◇◆◇◆
紙に書かれた文字を読み終える。
やはりこの字に覚えはない。
もちろん差出人の名前はここにも書かれていなかった。
ライト(ちゃんと感謝を伝えないとな。)
ライトは箱を閉じ、机の上に置いた。
先程までの寂しさは何故かなくなっていた。
まるで、手紙の内容を隣で言われたように心が温かくなっていたからだ。
┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈
入院してから毎日、朝にエンリとリズは病室を寄ってくれた。
そんな入院生活も5日目を迎えた。
リサ「体調はどう?」
ライト「だいぶ良くなったと思います。」
昨日からリハビリを始め、制限はもちろんあるが久々に魔法を使った。
当然、技術は衰えていた。
だがリサの支えもあり、今はリハビリが楽しく感じられる。
リサ「今朝、学園の方から連絡がありました。」
ライト「学園から?」
リサ「ノア先生からね。」
担任の先生直々に連絡とは一体何事だろうかと、その話に耳を傾けた。
リサ「今日、先日あった1on1の戦績優秀者の特別試合が行われるらしいです。それに見に来ないか、と。」
確かにそのような話があったが、今日だったことは知らなかった。
今頃、学園ではリズやエンリも緊張しているのだろうか。
ライト「行けるんですか?」
リサ「最終的にはライトくんの判断次第ですが、今の状態なら恐らく大丈夫だと判断した上で言ってます。貴重な学びの機会ですから、私も参加すべきだとは思います。ただ、やはり状態はまだ不安定ですので、療養担当の立場から見れば控えてほしい気持ちもありますが。」
リサが言うことの意味はライトも理解していた。
しかし、変わりたいならここで逃げてはいられない。
ライト「行きます。」
ライトはすぐに立ち上がり、学園へ向かう準備をした。
目覚めるとそこは病室だった。
窓の外は少しずつオレンジ色に染まり出した頃だ。
ライト「俺、いつの間に寝て…。」
???「目が覚めたんですね。」
ライト「!?」
周りに全く意識がいかず、唐突に声をかけられて驚いた。
その声がしたのはベッドの傍で、椅子に腰をかけているリサがいた。
リサ「悪い夢でも見ましたか?」
ライト「は、はい…。」
ライトは今にも破裂しそうなほど大きく鼓動を打つ心臓を抑えるように、胸をぎゅっと握った。
リサ「どんな夢でしたか?」
ライト「え、えっと…、っ…。」
言葉に出来なかった。
いや、言葉にしたくなかった。
例え夢であっても、それは自分にとって大切なものを奪うものだから。
リサ「無理して喋る必要はないですよ、返って逆効果ですから。喋ろうとする気持ちは伝わってます、それだけで合格点なんです。」
ライト「…どういう、意味ですか?」
リサ「そうですね、今の悩み事でも聞いてみましょう。なんでもいいですよ。」
どういう意味だったかはわからないが、突然悩み事を聞いてきた。
そこに何かしらの意味があるのだろう。
ライト「悩みですか…?」
リサ「ええ、ないならないで構わないですよ。」
自分の悩みなんて明確にあるはずだ。
しかし、いざ聞かれるとそれがどんなものか言葉に表しずらい。
ライト「上手く言えないんですけど…。」
悩みを聞かれて真っ先に頭に浮かんだ事があった。
思い返してみればあの日からこんな調子が続いていた。
そして、今回のチーム戦で改めて現実を目にした。
ライト「自分が、憎いんです。」
リサ「憎い?」
ライト「はい。彼はあれが出来る、彼女はこれが得意だ。そのような個性は誰にでもあるものだと俺は思ってます。だけど、いざ自分の個性について考えてみると、自分には何があるのかなって。周りを見てつくづく思うんです。」
リサは無言でその話を聞いていた。
ただ、傍にいるそれだけでなぜか安心して話せた。
ライト「それだけじゃない。何をしても上手く出来ないし、周りに何もしてあげられない。おまけに迷惑ばかりかけて、…ダメダメですよね。」
一通り言い終えてから数秒の間、リサは口を開かなかった。
何かを考えていたのか、ようやく口を開く。
リサ「凄いですね。」
ライト「え?」
リサ「合格点どころじゃない、満点です。」
ライトは全く意味を理解できなかった。
先程も合格点と言っていたが、この悩み事を話すことに何か意味があったのだろうか。
リサ「いいですか、ライトくん。」
ライト「は、はい。」
リサ「ひとつ、あなたは自分に厳しいんです。もちろんそれがダメではありません。自分を甘やかし続ける者に高い壁は登れないですからね。でも、ライトくんは返って逆効果なんですよ。自分に厳しすぎるんです。」
ライト「…分かってます、でもそれじゃ、いつになっても追いつかないんです。」
リサ「気持ちは分かります。ですが人が何かを成し遂げる時、『焦り』こそが最大の敗因です。」
ライト「…!」
リサ「焦りは過ちを増やします。こういう時こそ大切なのが冷静さです。焦りというのは本質を忘れてしまいがち、如何にして現状を突き止めどうするべきかを編み出す、そんな冷静さこそが時に最大の武器にもなります。」
ライト「……。」
リサ「私が今悩み事を聞いたのは、ライトくんが今現在でどれほど事について目を向けてられてるか。先程は口には出来なかったもののちゃんと向き合って言葉にしようとしてましたし、今はちゃんと私に言えたじゃないですか。それだけ、冷静に物事を見れてる証拠です。」
ここでようやっと理解が出来た。
そんな意味があったなんて思いもしてなく、少しばかり関心した。
リサ「ふたつ、ライトくんは求めすぎです。」
ライト「求めすぎ?」
リサ「人はいつだってないものねだりです。他人と比較することなんて所詮意味なんてないんですよ。」
ライトはその言葉の意味を理解はしたが、その本質にある意味は理解できなかった。
リサ「他人と比較すれば、得られるものは意味の無い劣等感かつまらない優越感しか生まれません。…って言っても、人は比べてしまう生き物。『比べるな』と言っても難しいことです。」
ライト「でも、他人と比べないと実力は上がらないんじゃないですか? いつまでも自分の上限値で満足してしまうんじゃ…?」
リサ「そうです、次のレベルに進むには他人と比較しなければいけない時があります。」
ライト「じゃあ──」
リサ「先程、『自分の上限値で満足してしまう』と言いましたね。じゃあライトくんは今自身の上限値に立ってるんですか?」
ライト「それは…っ。」
ライトは言葉に詰まった。
確かにこれまでのことを遡れば自分がしてきた行いは全力であったとしても、まだ上のランクがあるじゃないかと思わされた。
リサ「まぁ結局何が言いたいかと言うと、『自分の出来ることを探して磨きなさい』ということです。」
ライトはその言葉に込められた意味をしっかりと胸に刻んだ。
ライト「ありがとうございます、少し…楽になれた気がします。」
リサ「それならよかったです。私はまだ仕事が残ってるのでこの辺で、…あっ、あとこれ、ライトくん宛に届いてました。」
リサが手に持ったのは小さな箱だった。
受け取ると『ライトへ』と箱の蓋に書かれていた。
ライト(この字、誰だろう?見た目は女子っぽい字だけどリズじゃない。)
リサ「それでは、何かあったらまた呼んでください。」
ライト「はい、ありがとうございます。」
リサが扉をゆっくり閉め、再び1人になる。
もう一度箱に視線を移す。
シンプルな白い箱、小さな可愛らしい文字。
誰が届けてくれたのかはわからなかったが、自分宛なのは間違いがなく箱の蓋を開けた。
ライト「これ、俺の…?」
その中には自分のだと思われるハンカチが綺麗に四つ折りに畳まれて入っていた。
ライト「一体誰が…?よくこれが俺のだって…。」
このハンカチは宝物に等しいくらい大事な物だった。
ライトがまだ幼い頃、母親が手作りで編んでくれてプレゼントされた物だからだ。
ハンカチを手に持つと、ハンカチの下に折り畳まれた紙切れが入ってるのが見えた。
紙を開くと、箱の蓋の文字を書いた者と同一人物だと思われる文字で書かれていた。
◇◆◇◆
ライトへ。
まず最初に、辛いと思うけどこの手紙を読んでくれてありがとう。
身体の具合はどうですか?
多分ライトのことだから、今すぐにでも学園に戻って色んなことを学びたいと思ってるのかな?
無理は禁物だよ!(っ `꒳´ c)
回復して元気になれたら座学も魔法も一緒に勉強しよう?
焦らなくて大丈夫だよ。
その時が来たら、『おかえり』って言わせてね。
行事の事もあって知らず知らずに疲れも溜まってたんだと思う。
この機会に思い切り休んで、1日でも早くまた元気な姿が見れるよう待ってるから。
お大事に。
◇◆◇◆
紙に書かれた文字を読み終える。
やはりこの字に覚えはない。
もちろん差出人の名前はここにも書かれていなかった。
ライト(ちゃんと感謝を伝えないとな。)
ライトは箱を閉じ、机の上に置いた。
先程までの寂しさは何故かなくなっていた。
まるで、手紙の内容を隣で言われたように心が温かくなっていたからだ。
┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈
入院してから毎日、朝にエンリとリズは病室を寄ってくれた。
そんな入院生活も5日目を迎えた。
リサ「体調はどう?」
ライト「だいぶ良くなったと思います。」
昨日からリハビリを始め、制限はもちろんあるが久々に魔法を使った。
当然、技術は衰えていた。
だがリサの支えもあり、今はリハビリが楽しく感じられる。
リサ「今朝、学園の方から連絡がありました。」
ライト「学園から?」
リサ「ノア先生からね。」
担任の先生直々に連絡とは一体何事だろうかと、その話に耳を傾けた。
リサ「今日、先日あった1on1の戦績優秀者の特別試合が行われるらしいです。それに見に来ないか、と。」
確かにそのような話があったが、今日だったことは知らなかった。
今頃、学園ではリズやエンリも緊張しているのだろうか。
ライト「行けるんですか?」
リサ「最終的にはライトくんの判断次第ですが、今の状態なら恐らく大丈夫だと判断した上で言ってます。貴重な学びの機会ですから、私も参加すべきだとは思います。ただ、やはり状態はまだ不安定ですので、療養担当の立場から見れば控えてほしい気持ちもありますが。」
リサが言うことの意味はライトも理解していた。
しかし、変わりたいならここで逃げてはいられない。
ライト「行きます。」
ライトはすぐに立ち上がり、学園へ向かう準備をした。
応援ありがとうございます!
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