魔術師見習いの成長譚

☆タク☆

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【本編】第3章 錯乱する歯車

第31話

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雨は止み、薄暗い雲の下水溜まりを避けて道を歩む。
足は重く、歩幅は小さく、そのせいか全く前に進まない。
異様なまでに静かな街をライトはゆっくりと歩いていた。

ライト「……。」

『僕はまだ納得していません!もう一度考え直してください!時間はあるはずです!』

ライト(これで良かったんだ。)

『ライトくんは何か1つの挫折で逃げるような事はしない!』

ライト(間違ったことはしてない。)

『まだ時間はあるよ!』

ライト(後悔もない。)

『お前はここで諦める奴じゃないだろ!?俺が知ってるライトは、今俺の目の前にいるお前とは違う!!』

ライト(ない…はずなのに。)

頭によぎる仲間の言葉を打ち消すように己を正当化し続けるが、正当化しようとすればするほど仲間の言葉は心を貫き想いが込み上げる。

ライト(でも、今更戻っても遅い。俺は退学した、夢を諦めたんだ。そんな俺は、もう学園あそこに不必要な存在なんだ。)

後ろを振り返ることはなかった。
もう学園の人ではない。
今更思い残したことがあってもそれをどうすることもできない。

???「君、ちょっといいかい?」

不意に声をかけられた。
その人は見たこともない人だった。
年齢はおおよそ30後半辺りに見える。
眼鏡をかけ、外なのにも関わらず診療する人のような白衣を着たその男性は、怪しげな雰囲気があった。

ライト「なんですか?」

怪しい人だと思いつつも逃げることなくライトは話を聞いた。

???「君、何か悩んでないかね。」

ライト「えっ?」

何の前触れもなく核心を突くようにその男性はライトに問いかけた。

ライト「…悩みなんてないですよ。もう、終わったので。」

???「そうかい、私にはそう見えないがね。」

その発言にライトはピクっと身体が反応した。

ライト「…もういいですか? 失礼したいのですが。」

???「待ちたまえよ、まだ君と話がしたい。」

気味の悪い人だった。
あまりここで話をしていてもそのうちリズやエンリがここを通る。
ばったり会うのは気が引けるし、この男性と話を続けるのも自分には利益がないと思い、無視して家へ帰ろうと思ったが止められた。

ライト「まだなんかあるんですか? そもそもあなたは誰なんですか?」

???「そこら辺の話も踏まえて、着いてきてほしい。」

ライト「……。」

如何にも怪しい。
逃げ出そうと思えば逃げ出せたはずだ。
だが、怪しい雰囲気を漂わせている人だからこそ何を持ってるかわからない。
それに、リズやエンリがこの人と会うのも何か起こりそうで心配になった。

ライト(それにさっきの質問…。気味悪いけど…もしかしたら、何か知ってるのかもしれない。)

ライト「遠いですか?」

???「いいや、転移すれば一瞬さ。」

ライト「わかりました。」

ライトはその男性に着いていき、人気がないところで転移した。


┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈


ライト「…ここは?」

転移した先は、その男性のイメージにぴったりの研究室のような部屋だった。

???「私は魔術師でね、ここで色んな人の診療をしているんだ。」

ライト「魔術師…。」

魔術師を相手に怪しい人と決めつけて会話をしていたと思うと、仮にも魔術師を目指していた身、立場上失礼だったのではないか。

???「…もう一度聞こう、君は悩みを抱えてるね。」

ライト「その前に、あなたは一体…?」

ドラド「あぁすまない。私はドラドだ。先程も言ったがここで色んな人の診療をしている魔術師だ。」

診療をしている魔術師、ドラドはそう言った。
そういう職に就く魔術師だからこそライトの気持ちに気づいたのかもしれない。

ライト「あの、…実は自分魔術師を目指してて。」

ドラド「あぁやはり私の目は間違っていなかった。」

ライト「え?」

ドラド「君があの学園に通う生徒だという事は、なんとなく雰囲気で感じ取れたんだ。」

やはり診療する人だからこそ、人の事をよく見ているのだろう。
魔術師ならばライトから見れば実質大先輩だ。
その観察力に素直に尊敬する。

ドラド「君。もしかして、ライカの息子じゃないか?」

ライト「!?」

ドラドは聞き覚えのある名前を出した。
ずっと探し求めていた人物の名前を。

ライト「どうして、その名を…?あなたは一体…。」

ドラド「その反応、やはりそうか。」

ライト「なぜあなたが、その名前…ライカを知って…。」

『ライカ』、その名前は遠い地の人ではない。
身内という言葉で片付けられる存在でもない。
その名前こそ、ライトの憧れでありずっと行方を追い続けているライトの父親の名前だ。

ドラド「私はこんなちっぽけな診療所で働いているが、仮にも魔術師だ。あれだけ上の立場にいる魔術師なら、先輩だろうが後輩だろうが名前くらい耳に入る。ライカは実際に会ったこともあるからね。」

ライト「…!ライカは!…父さんが今どこで何してるか、分かりませんか!?」

ライトは身を乗り出すようにドラドに問う。
行方を追ってから初めて父親の知り合いに会えば気になって仕方がない。

ドラド「落ち着きたまえよ。残念だが、彼と最後に会ったのはもう10年以上も前だ。…というより、ライカは君の父親だろう?家に帰っていないのかね?」

ライト「はい、…俺が6歳の頃から両親は音沙汰無しなんです。」

両親が帰らないことを知っている人は元々少なく、周りに話すことでもないので自分から話したことがあるのはたった1人、エンリのみだ。
エンリは話を聞いた時、驚きのあまり言葉を失っていた様子だった。
しかしドラドは、その言葉を聞いて驚いた様子を見せなかった。
色んな人を診療していればライトのような人もそう珍しくはないことなのだろうか。

ドラド「そうか、気の毒に。それよりも父親の事より今は君を優先すべきだ。」

ライト「自分は…いいですよ。」

ドラド「やはり君は何か危ない物を抱えてる。ここなら私以外誰も聞かないし私も誰にも言わないさ。」

ライト「大丈夫です。」

ライトはドラドの言葉を頑なに断り続けた。

ドラド「どうしてかね?」

ドラドの問いにライトは一瞬だけ言葉に詰まる様子を見せた。

ライト「…自分はもう終わった身なので。」

ドラドはその言葉の意味を理解したかはわからなかった。
しかし、変化を見たわけでも気づいたわけでもないが、ドラドの口角が一瞬上がったように感じた。
本当はそんなことなかったかもしれない。
ただ、どこか不気味な笑みをほんの一瞬感じたと同時に、何か恐ろしいものを体が感知した。

ドラド「終わったなんてそんなことないさ。諦めなければきっと──」

ライト「あなたも言うんですか、そんな安っぽい台詞ことば。」

今までの事と重なりつい言い方が強くなりライトははっとした。
しかし、それすらもドラドが感じ取ったのか謝罪は要らないと手で合図をした。

ドラド「…『現状を良くすることができる唯一残るたった1つの方法』があるが、興味はないかね?」

ライト「どうせ意味はありません。それをしても何か変わるわけじゃない。」

ドラド「いいや、そんなことはない。君にとって確かに効果はあるし、君の悩みも解決出来るはずだ。」

ライトはずっと暗い表情で否定を続けてたが、それでもドラドは力強くそう言った。
ここまでしても強く言えるそのドラドの姿勢は、相当の自信があっての事なのかもしれない。

ライト「…わかりました。話だけなら。」

ドラド「そう言ってもらえて嬉しいよ。」

ドラドはにこやかに笑みを浮かべた。
しかし、やはりその笑みを見ても先程の恐ろしさなど感じない。
やはり気にしすぎだったのだろう。

ドラド「君はさっき自分のことを『終わった身』だと言ったけど、まずどういった経緯があったのか教えてくれないか。」

経緯を説明しろと言われたが、ライトにとってその必要はない。
その経緯の先に起きた結論はもう取り返しのつかないもので、経緯など関係ない。
今残っているのは辿り着いた結論における事実のみだ。

ライト「俺は学園を退学しました。それ以上でもそれ以下でもないです。」

ドラド「ほう…なるほどな。」

ドラドは特に驚いたり何か指摘することもなく、素直に受け入れた。

ドラド「もしやり直せる機会チャンスがあれば、君はどうしたい?」

ライト「無理ですよ、今更やり直せな──」

ドラド「そうじゃない。もしやり直せるならどうしたいかを聞いているんだ。」

ライト「俺は……。」

『一生懸命やってりゃそれだけで魔術師になれると思ってんのか?笑わせんな!!』

『今の君に魔術師になる資格はない。』

今こうしてる間にも周りは能力ちからを蓄えている。
周りとの実力差に自分の才能の無さを痛感させられ、今に至った。
仲間の信頼を裏切り、仲間の期待を失望させ、仲間の想いにも応えられない自分が恥ずかしく、惨めで、何とも情けない。

ライト「もし、やり直したいと答えたら?」

学園を辞め、ずっと目指してきた魔術師になる未来を閉ざした。
ライト本人にもその気持ちを持っていたかは自分でも分からなかった。
だが、正直まだ諦めたくない気持ちは少なからずライトの心の中にあったのかもしれない。
ライトはドラドにそう聞くと、思ってもみない想像を遥かに超える信じられない答えが帰ってきた。

ドラド「記憶を消して改良するんだ。」

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