魔術師見習いの成長譚

☆タク☆

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【本編】第3章 錯乱する歯車

第34話

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ミューズ「魔術師になる意味か…難しい質問だね。」

今でもなお聞いてみたいと思った。
もう魔術師になれる道は限りなく無い。
しかしそれでも納得のいく答えを見つけたかった。
それが何故なのか、わからなかった。

ミューズ「きっとこの質問に答えはないのだろう。人によって見方も変われば価値観も変わる。」

それもその通りだ。
だからこそあの時セレンはこの質問をライトに投げかけたのだろう。

ミューズ「『人々に笑ってもらうこと』、私はそう思うかな。」

ライト「笑ってもらうこと、ですか。」

ミューズ「ああ、魔術師というのはただ国の平和を守るだけの職じゃない。何かを与えるのも魔術師の大切な要素さ。」

ミューズは『何かを与える』と言った。
それはあえて言わなかったのだとライトは想像ついた。
なぜ言わないのかの理由も、ライトはわかっていた。

ライト「なるほど、ありがとうございます。」

答えてもらったことに感謝を伝えると、ミューズは微笑んで体をライトの正面に向けて座った。

ミューズ「さて、私からも質問させてもらおうか。」

今までの流れからしてその質問の内容はだいたい読めていた。
しかし、その読みは外れた。

ミューズ「君はどのような人になりたい?」

ライト「えっ…?」

てっきり今日の出来事の経緯を聞かれると思っていた。
先程もその話になっていたからだ。
ミューズと話したのは今日が初めてだが、その質問の裏にはミューズ自身ライトの状況をわかった上で未来のことを聞いているのだとライトはわかった。
抜け目のない信頼できる存在感。
ミューズのその風格は自然とライトの心を軽くするようだった。

ライト「俺は…。」

初めてライトは俯いてミューズから目を背けた。
自分が何になりたいか、答えは決まっていると思っていた。
しかし、本当にそうだろうか?
自分は何を目指していたのか。
そのゴールはどこなのか。
あんなにも胸を熱くしていた幼き日々は、気づけば冷たく冷めていた。

ミューズ「そうか。…わかった、質問を変えよう。」

俯いて答えを出さずにくよくよしていたのを答えに迷っていると勘違いされてしまったのか、ミューズは何かを悟るように言った。

ミューズ「じゃあこう言おう。君は夢を諦めたかい?」

ライト「っ…そんなことないです!」

気づいたら口が、体が動いていた。
考えるよりも先に、反射的に答えるように。
そもそも、よくよく考えてみればその質問をするのはおかしいのではないだろうか。
ミューズはどういう訳か、ライトの状況をよく把握しているようだ。

ライト「はっ…すいません、大声出してしまって…。」

ミューズ「いいんだ、それに君の気持ちもよくわかった。」

ミューズのその微笑みはどこか安心する。

ライト「それにしても、なんで…。」

ミューズ「さぁ、なんでだろうな。」

ミューズは笑って、立ち上がった。

ミューズ「明後日、私たち3年生の代表戦があるんだ。その日の夜、代表戦が終わったあとに私のライブ予定がある。君が良ければ是非来てほしい。」

3年生の代表戦がある日は確か学園の近くのショッピングモール等がある栄えた地域の通りで祭りが開催されるはずだ。
ミューズ自身は代表戦に出場しないらしいが、その日の夜に祭りの催しとしてライブステージがあるらしい。
距離もさほど遠くなく、特に予定もなかった。

ライト「はい、行きますね。」

ミューズ「そう言ってもらえて嬉しいよ。…ああ、もうこんな時間か。今日はもう遅いから泊まって行くといい。」

ライト「はい、ありが……えっ?」

その後、大丈夫だと何度も伝えたが怪我を負っていることもあり結局泊まることになった。
その後、執事のような家で雇われているような人に案内され夕食を食べた。
夕食は信じられないほど豪華だった。
リビングを見渡せばお洒落な家具ばかりでどれも高価そうで、家自体もかなり広い。
まるでお屋敷だ。
次いで風呂に入ったが、温泉かと疑うほど広い大浴場だった。
これが富豪の家庭というものだろうか。
一般市民の身分から見れば羨ましいと思う反面落ち着かないところもある。

ライト(本当に凄いな、1度はこんなとこに住んでみたいけど。)

風呂から上がり、部屋に戻る。
これだけ広い屋敷のような家なら当然だが客室もしっかりと用意されている。
しかしミューズ自身がそれを断り、どういう訳かミューズの部屋で寝ることになっていた。

ライト(というか、生徒会長と同じ部屋で寝るって…普通にやばいだろこれ。)

気づいたら誰かに後ろから刺されたりしないだろうか。
ろくでもない不安がかかる。

ライト「あ。」

ルナ「げっ。」

部屋に戻る途中、ルナとすれ違った。

ルナ「あなた、まだいたの?」

嫌味の言葉を投げかけられる。
ルナはライトの存在に不満なようだ。
いや、恐らくライトに限らず誰に対してもそういう態度をとる性格なのだろうか。
本当にミューズとは真逆だ。

ルナ「そもそも、姉さんが救護してここに居るんでしょう?用が済んだのなら帰ってくれないかしら。」

ライト「いや、ミューズさんに泊まっていけと言われて…。」

ルナ「えっ、…はぁ、まぁいいわ。」

納得してもらえたのだろうか。
決して許されてはない気がするが。

ルナ「姉さんに何かしたら殺すから。」

ライト(いや、怖っ!?)

ライト「しないよ!?」

ルナはライトを睨みながら横を通り過ぎて行った。
彼女と関わるのは危険だと思うほど、ミューズとは本当に真逆の存在だ。
しかし、そんな彼女の実力は本物。
彼女に圧倒されているようでは、全然ダメである。


┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈


翌日、目を覚ますと何かを打つ音が聞こえてきた。
体を起こすと、そこに居たのは部屋の隅に置かれていた機械に面と向かって座り作業をしているミューズだった。

ミューズ「ん、ああ、目が覚めたかい。おはよう。」

ミューズは両耳に当てていたヘッドホンを外し、首にかけて言った。
両耳に当てていたので外の音はかなり遮断されているはずだが、布団が擦れる僅かな音で察知したと言うのだろうか。

ライト「おはようございます。ずっと何かされてたんですか?」

ミューズ「ははっ、まさかね。睡眠はしっかりとってるよ。」

思い返してみれば昨晩ライトが寝る時も何か作業をしていたはずだ。
まさか一睡もせずずっと作業をしていたのかと思ったがさすがにそうではないらしい。

ミューズ「それに、随分と早起きなんだな。」

時計を見ると時刻は5時を回った頃だ。
自分より後に寝て先に起きているミューズに言われるのもおかしいが、それでも早い時間には変わりない。

ライト「毎朝早く起きて朝練をしていたからですかね。つい目が覚めちゃうんです。」

ミューズ「うん、素晴らしい心掛けだ。ルナにも見習ってほしいな。」

やはりミューズが規則正しく時間に従った生活を送る人ならば、ルナは逆になるのだろうか。

ミューズ「ところで、今日は学園に行くのかい?」

ライト「えっ?」

普通に考えれば質問の仕方がおかしいだろう。
学年は違えど同じ学園に通う者同士だ、今日は普通に学園はあるし、代表戦を全学年が見ることもミューズは知っているはずだろう。
しかしミューズは行くのか行かないのかの選択を質問した。
昨日の質問のこともそうだが、ミューズはライトが退学したことを知っているのだろうか。
そうでなければこのような質問はしないはずだ。
しかし、退学したと知っていれば知っていたで逆に学園に行く選択肢を取らないこともわかるはずだ。

ミューズ「別に無理に行く必要はないさ。大事なのは君自身の選択。周りに合わせるとかそうではない、君が望む選択だ。」

ライト「…今日は、行かないです。」

本当にそれでいいのかはわからないが、今更選択肢など残されてはいない。
ミューズには幻滅されるかと思ったが、ミューズは何も気にしていないようにしている。
いや、むしろ嬉しそうだ。

ミューズ「わかった。なら、連れて行きたいところがある。ついてきてくれ。」

ミューズの後をついて行くように2人は部屋を出た。
家の中はまだ静かだった。
ライトとミューズが歩く足音しか耳に入ってこない。
他の人は恐らく起きてないだろうが、こんな朝早くにどこへ行くと言うのだろうか。
階段を降り、1階に行く。
その階段の目の前の突き当たりまでミューズは歩くと立ち止まり、突き当たりの壁に手をつけた。

ミューズ「ここ、押してごらん。」

ミューズの言う通りに、ミューズが触れていた壁に手をつけ奥に押した。
すると、扉のように壁が開いた。

ライト「凄い…。」

その先は階段があり、地下に向かっていた。

ミューズ「行こうか。」

階段を下る。
行き着いた先は薄暗かったが、明かりを付けた瞬間ライトは驚いた。

ライト「……。」

そこはトレーニングルームのような場所だった。
機材も豊富でかなり広い。
あまりの凄さに言葉を失っていた。

ミューズ「ここを貸そう、夜になるまで好きに使ってくれて構わない。」

ライト「い、いいんですか!?」

ミューズ「ああ。私とルナと、それからお父様以外でここに入ったのは君が初めてだな。」

そんなところを1日ほぼ貸切状態で良いのだろうか。
良いと言われても使わせてもらう罪悪感が募る。

ミューズ「君の戦闘は過去に1度だけ見たことがある。」

ライト「え、そうなんですか?」

ミューズ「ああ、生徒会長の特権でね。」

ミューズは自慢気に微笑んだ。

ライト「ちなみに、いつ…?」

ミューズ「入学式の日の試練だよ。」

ライト「ルナの方は見なかったんですか?」

ミューズ「ルナはずっと近くで見てるし、確かに光るものがあるがまだまだ荒い。ルナの戦闘はたかが知れてたんだ。」

それは姉だからこその厳しい言葉だろう。
しかし、そう言える関係だからこそルナは強くなっていく。

ミューズ「3クラス見てはいたが、そこで君を見つけたんだ。荒くも全力で励む君の戦闘に目を奪われたんだ。」

ライト「あの時はほとんど仲間のおかげで、自分なんてそんなに凄いことしてないですよ。」

ミューズ「いいや、それに君は面白い魔法を使う。君は間違いなく強い、施設に通ってないのが驚きで仕方がないよ。」

よく言われるが、本当に施設に通ってないにしては強いのだろうか。
通ってる者に勝つには相当な努力が必要なのは当然だ。
しかし、通っていた者に全く敵わないどころか通ってなかった者にまで負けているくらいだ。
自分にそんな強いと思われるほどの力があるとは思えなかった。

ライト「あの!」

ならば聞いてみたい。
自分の戦闘を見たのならば尚更。
ミューズはライトが何を言おうとしたか、心を読んだようにわかっていたようだ。

ライト「教えてください、…自分に何が足りないのかを。」

ミューズ「今も言ったが、君は確かに力を持ってる。簡単に言ってしまえばその能力を上手く引き出せてない。」

ライト「その原因は…。」

ミューズ「立ち回りだ。」

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