魔術師見習いの成長譚

☆タク☆

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【本編】第4章 捲土重来

第6話

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目の前に広がる水の壁。
ぼんやりする意識の中、ライトは視界を下げ自分の右腕を見た。

ライト(出血はしてない…そっか、俺壁に打ち付けられて…。)

ようやく思い出した。
石の壁に背もたれをつきながら力なく座っていた。

ライト(はっ! モンスターは?)

思い出した途端、モンスターの存在が当然頭によぎった。
前を向くと先程見た水の壁があり、その先でモンスターが魔法を放っている。

リズ「う…っ……ぐっ……!」

水の壁の手前で座り込んでいたのはリズだった。
この壁はリズが出しているのだろうか。

リズ「ライトくんは、私が…っ、守る!」

この景色に見覚えがあった。
試練の時だ。
モンスターと対峙してリズを逃がすために壁になったあの時。
しかし、悠長にそう考えていられるほど暇は無いようだ。
壁が破られるように、リズは押されていた。

ライト「っ…!!」

手伝おうとしても、そもそも立ち上がろうとしても力が上手く入らない。

ライト(そんなの、関係ない…っ、だって…。)

母親に、自分に誓った。

ライト(『ライト』は強い子だから!)

ライトは痛みを堪えて起き上がろうとした。
それでも、思うほど簡単には起き上がれない。

リズ(もう、マナが、尽きる…っ。でも、時間稼ぎでもっ…必ず助けに来てくれる、そう信じて…!)

地面に付けた両手を強く押し付け、モンスターを押し退ける勢いでマナを放った。
それでも、モンスターの魔法は水を打ち破るように抉りこんでくる。

リズ「ぐっ…あぁっ!」

遂にマナの限界を迎えてしまった。
水の壁は消え入るようにその場から姿を消し、魔法は壁に当たっていた勢いのままこちらへ向かってきた。

リズ「っ!」

リズは目を閉じ顔を背け、魔法が当たる瞬間を待った。
しかし、魔法はいつになっても当たらない。
他のところに当たったような音もしなかった。
恐る恐る目を開けると、目の前には人影があった。

リズ「ライトくん…!!」

ライト「守ってくれてありがとう、リズ。」

モンスターの魔法はどうしたのか。
まさかライトが受けたのだろうか。
しかし、特に受けた外傷は見当たらない。

ライト「後は任せてくれ。」

リズ「私も…!」

ライト「今度は俺が守る番だ。」

ライトは顔だけ後ろに振り向き、リズに笑顔を見せて言った。
その顔を見たリズは安心したように、そして嬉しそうに笑顔を見せてくれた。

リズ「サポートはするよ。」

ライト「ああ、助かる。」

リズは少し後ろに下がった。
自身の傷を簡単に治し、マナを回復する魔法を使った。

ライト(なんでかな、凄い力が湧いてくる。)

過去のこと、学園に来てからのこと、未来のこと。
それらの希望も絶望も、全てが力に変わるようだった。
今の自分なら、なんだって出来ると。
確証もない妙な自信が自分に力をくれる。

ライト「さあ、行こうか。」

右手にマナを集めると、モンスターは雄叫びを上げて魔法を放った。

ライト「《ブリッツストーム》!」

それと相打ちにするようにライトも魔法を放つ。
魔法同士が衝突し、煙で視界が悪くなった。

ライト「《シャインボルト》!」

すかさず追撃を試みる。
モンスターはサイズも大きければ動きもさほど早くない。
視界が悪い中でも不規則に軌道を変化させるこの魔法だからこそ輝く時だ。

──グオォッ!

魔法はヒットしている。
確実にダメージを与えてる手応えがあった。
ただ、これだけで倒せるような敵では無い。

──ブアァッ!!

モンスターも負けじと反撃を繰り出す。
マナの流れが読みずらい中、煙の中から感じ取ったマナの僅かなズレを感じ取り寸前で躱す。

ライト「《エレキスパイラル》!」

内心ヒヤッとしつつ冷静に魔法で立て直す。
空中で姿勢を整え、両手をモンスターの頭部へ頭上から向けた。

ライト「《エレキゲイザー》!」

普段よりも威力が高く感じる。
この感覚もかなり久しく感じた。
効いてるかははっきりとわからないが、それでもダメージを与えられている手応えはある。

ライト(いける…これなら──!!)

──グオォッ!!

そう思ったのも束の間のこと。

ライト(…っ!!しまっ──!)

ほんの少しの油断、過信は隙を生む。
目の前の敵に全てを向ければ戦況は不利になる。
そのことに気づくのが、遅かった。

リズ「うそっ…!」

普段の戦闘と違う点。
それは、サポートに回っているリズを守りながらの戦闘ということ。
相手は間違いなく格上。
弱者が強者に勝つ可能性は低い数値となるのは当然だ。
しかし、勝ち負けに絶対はない。
課題におけるほどその重要さに気づいていたが、まだまだのようだった。

ライト「リズ!!」

リズは突然の出来事に対応に遅れた。
そこを突くようにモンスターの攻撃はこれまでよりも鋭く、早すぎたのだ。
これでは避けるのも間に合わない。

ライト「うぉおおお!!」

──ズドンッ!!

やがて魔法は追突した。
空間に響き渡る大きな音と、天井から砂塵がパラパラと降る。
地面がというよりは空間が揺れる感覚だった。

ライト「ぐあっ…。」

リズ「ライトくん!!」

ライトは咄嗟にリズを庇った。
こうなったのも自分の責任だからだ。
ライトは受け身を取ったものの完全に攻撃を受けてしまい、その衝撃のまま後ろに飛ばされてリズと地面を転がった。

リズ「大丈夫!?」

ライト「ははっ、いってぇ…。」

ライトは攻撃を受けた箇所を抑えて弱弱しくなりながらも力なく立ち上がる。

リズ「待って、無理だよ…!」

ライト「…大丈夫、巻き込んで悪かった。」

ライトは痛みを堪えながらも悟られないように下手な笑顔を見せて言った。
リズの心配する顔が胸をより痛めつけた。

ライト(ごめんリズ、また心配させたよな。でも、許してくれ。今──)

ライトはモンスターの方へ目線を向けた。
自分よりもかなり高い位置に頭があるモンスターを見上げて、うっすらと笑った。

ライト(楽しくて、諦められそうにないんだ。)

右手にマナを集める。
身体の内から溢れるアドレナリンが、感情を高揚させる。

 『あなたの周りには、沢山の人がいるじゃない。』

ライト「そうだよ、母さん。」

ライトは笑って小さく呟いた。
蘇る学生時代の記憶。
両親もいない、仲のいい友達もいない。
ずっと1人で過ごした日々を。
でも今は違った。
学園の生徒はみんな優しくて、色んな人と交流できている。
先生のノア、ヒナにカイン。
担当医としてリサとも関わった。
色んな人に支えられて、今ここに立っている。
自分1人では立てなかった世界に立っている。

ライト「俺、なるよ。魔術師。」

マナを集結させていた右手を強く握りしめてそう呟くと、勢いよく地面を蹴りモンスターへ一直線へと向かっていった。

ライト「《ブリッツストーム》!」

例え小さいダメージでも確実に攻撃は当たっている。
どちらが先に尽きるかの耐久戦だ。

ライト(来る、右からと、前方から。)

先程とは違う。
しっかりと相手の動きが見えている。
ライトは俊敏な動きで攻撃を躱し、モンスターの隙をつくように攻撃した。

リズ「…速い、凄い……。」

リズはそのライトを見て驚いていた。
今までのライトよりも遥かに強いと思った。

リズ「これがライトくんの力…。」

ライト「《シャインボルト》!」

煌びやかに流れる電撃が、流星群のように光り輝く。
まるで天体観測にでも来たのかと思わされるほど綺麗だ。
今のライトはリズがこれまで見てきた中でも別格と言えるほど強いと感じた。

──グオォォ!!

ライト「《ブリッツストーム》!」

再びモンスターは照準をリズに向けたが、今度はライトがしっかりとそれを阻止した。

ライト「お前の相手は俺だ!《雷切》!」

──グオッ!

今のところ戦闘はライトが優勢だろう。
だが、先程の通り少しの油断も許されない。

リズ(ライトくん、頑張って!)

共闘したい気持ちは山々だったが、ライトは守ると言ってくれた。
ここで下手に出て残念な気持ちにさせたくはなく、せめてもの助力しかできていないことがなんとなく歯がゆかった。

ライト(この感じ、あの時の──。)

この感覚には覚えがある。
そのことに自覚できたのもやはり心と身体が一体化したからだろうか。
これはもしかすればチャンスかもしれない。

ライト(出せる、今なら!)

右手に集うマナを凝縮させる。
その手に纏ったマナはまさにそのものだった。

ライト(左から遠距離の連続攻撃、右に躱した後右から追撃…ここだ!)

まるで数秒先の未来を見たようにライトの予想とモンスターの行動は一致した。
でももちろん確証を持ってそう予想した訳でもない。
なんとなく、そうなる気がして身体が動いていた。
右からの追撃。
モンスターが床に叩きつけるように腕を出したその攻撃を避け、腕を伝って駆け上がっていく。

リズ「ライトくん!?」

ライト「はあああ!!」

凝縮させたマナが雷に変わる。
途端と周囲は嵐の時のような雷が何度も落ちるように雷が激しく放電しだした。
そのマナは右手全体を纏うように増幅し始め、ライトが右手を天に掲げると右手の上に球が出現し、どんどん大きくなっていった。

ライト(今度は、俺が──!!)

モンスターの腕を登りきると、モンスターの頭上高くへ飛び上がった。

リズ「…あれはっ!」

ライトの体よりも遥か大きく膨大したその球をモンスターにぶつけるように、ライトはモンスターの頭を目掛けて右手を振り下ろした。

ライト「《雷鳴球》!!」

魔法を詠唱する直前…いや、マナを凝縮させた時から、リズはライトの様子に変化があったことを一瞬目にした。
右目に宿る、赤い瞳を。

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