祓っていいとも!

阿弥陀乃トンマージ

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第1章

第7話(2)契り

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「はあ……」

 天馬さんと話をした4日後、そして、功人さんと話をした3日後、さらに、ジャッキーさんと話をした翌々日、さらにまたノリタカさんと話をした翌日の昼休み、わたしは学食でため息をつく。

「おい、静香ちゃんよ、隣に座ってもいいか?」

「ええ、どうぞ……」

「へへっ、邪魔するぜっと」

 わたしの隣の席にブレム=マタさんがドカッと腰をかける。拗らせた中学二年生もびっくりな全身黒ずくめの服装だ。目立ってしまってしょうがない。案の定、わたしたちの周りの席には誰も座らず、多くの女子生徒たちが遠巻きにこちらを眺めている。4日前、3日前、一昨日、昨日と同じような状況だ。恥ずかしい。

「ふう……」

 わたしは再度ため息をつく。

「……なんでこの辺りの席は空いてやがるんだ?」

 ブレムさんは首を傾げる。

「それは……」

「ああ待て、皆まで言うない」

 答えかけたわたしに向かって、ブレムさんは右手の人差し指をピンと立てて制する。

「……」

「……オイラにビビっているんだろう?」

 予想外の答えが出てきた。今どき希少なヤンキーマインドの持ち主だ。

「えっと……」

「どうだ?」

 ブレムさんはなんとも頭の悪そうな笑みを浮かべてくる。イケメン補正がかかってなんとかなっているスマイルだ。

「……ええ、そうです」

「へへっ、当たりだ♪」

 ブレムさんは嬉しそうに頷く。まあ、当たらずとも遠からずと言った答えではあるかと、わたしは心の中で自らを納得させる。

「………」

「ところでよ、静香ちゃん……」

「お断りします」

「は、早いな⁉」

 秒で断ったわたしに対して、ブレムさんは驚く。わたしは重ねて言う。

「……お・こ・と・わ・り、します」

「わざわざ強調すんなよ!」

「大事なことですから」

「まだ何も聞いてねえだろうが」

「聞くまでもないことです」

「ひ、酷えな⁉」

「…………」

「聞いてくれてもいいじゃねえかよ……」

 ブレムさんはしょんぼりとうなだれる。隣でそんな態度を取られたら困る。これを見た周囲の人々はどんな印象を抱くだろうか? 『ヤンキーを凹ませた女』という称号がわたしに授けられるのは想像に難くない。仕方がない……話だけでも聞いてあげるとするか。

「はあ……なんでしょうか?」

 わたしは露骨なため息を挟んで、ブレムさんに尋ねる。

「! 聞いてくれんのか⁉」

 ブレムさんは顔をパッと明るくさせる。

「聞くだけなら……」

 わたしはお茶を一口、口に含む。

「そうか、単刀直入に言う、オイラと契りをかわしてくんねえか?」

「ぶっ!」

 わたしはお茶を勢いよくブレムさんに噴き出す。

「うわっ、汚ねえなあ!」

 ブレムさんは思いきり身をよじって、わたしの噴き出したお茶をかわす。汚ねえとはひどいなあ……はしたない振る舞いではあるけれども。わたしはハンカチと学食の方に借りた雑巾で口元や床を拭き、一呼吸置いてから尋ねる。

「……どういう意味でしょうか?」

「どうもこうも、そのままの意味だよ」

「い、いきなりそんなことを言われてもですね……困ってしまいます」

「困る?」

「ええ、そういうことはもっと段階を踏んでからだと思うんですよ……」

「はあ? んなまだるっこしいことしてられっかよ」

「分かっていませんね、そこに至るまでのプロセスを楽しむべきなんですよ」

 わたしはなにを言っているんだ。

「あん? なに言ってんだ?」

「さあ?」

「ああん?」

「ううん?」

 わたしとブレムさんは互いの顔を見合わせる。

「……で、どうなんだよ?」

「で、ですから、いきなり言われても困ります……!」

「こっちも困るんだよ!」

「ええ……」

 マジか。関係を迫ってきて、やんわり断ったら逆ギレかましてきたよ、この男。これはスペースポリス沙汰、いや、警察沙汰じゃないか? でも録音とかしてないな……。

「エクソシストには契約が大事なんだよ」

「え? 契約?」

「ああ、契約を交わすことによって発動出来る術もあるからよ……」

「あ、ああ、契約……なるほど、契約ね……」

「……なんだと思ったんだ?」

「いいえ、なんでも! 契約については前向きに検討を重ねさせていただきます」

「……それって、とりあえずはOKってことか?」

「え、ええ……」

「そうか、それならいいや♪」

 ブレムさんは満足そうに頷く。

「……そ、それじゃあ……」

 食事を手早く済ませたわたしは席を立とうとする。そう、今日も昼休みの最初の数分間を費やしてしまったのだ。今日は悪魔祓いだった。相手はコウモリのような翼の生えたベタな悪魔だった。戦いの最中にレベルアップなどはしなかったのが幸いだった。そこまで時間はかからなかった。早く教室に戻って少しでもいいから体を休めたい。

「話がまとまって良かったぜ」

「あ、あの、ブレムさん?」

「ん?」

「契約って、血判を押すとかそういうのですか……?」

「いや、スマホで世界エクソシスト協会本部に申請すんだよ」

「ず、随分とデジタル⁉」

 わたしは思わず大声を上げる。
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