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第1章
第6話(2)お嬢様、漕ぐ
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「まったく、急に神奈川県遠征だなんて、恋はいつも急なのよね……」
雛子がぼやく。
「……」
「大型連休の予定がほぼ全部埋まっちゃったじゃないの……」
雛子が腕を組む。
「………」
「まあ、川崎では連戦連勝だし、相手してくれそうなところがもうほとんど無いといえば無いのだけどね……」
雛子が首をすくめる。
「…………」
「なによ、さっきから黙り込んじゃって」
雛子が最愛に話しかける。
「いえ、思えば遠くへきたものだなと思いまして……」
最愛が周囲を見回す。
「それはそうね……と言っても、ぎりぎり神奈川県内だけどね」
「わたくし、川崎以外では都心くらいしか行ったことがないもので……」
「は?」
雛子が目を丸くする。
「初めての遠出かもしれません……」
「しゅ、修学旅行とかは?」
「そういえば、京都の方には行きましたね」
最愛が思い出したように呟く。
「そ、そうでしょう……」
「でも、それくらいですね……」
最愛が顎に手を当てて考え込む。
「こ、こういうことを聞いたらあれかもしれないけど……」
「はい?」
「か、家族旅行とかは?」
雛子が恐る恐る尋ねる。
「ああ、それでしたら……」
「なんだ、やっぱりあるんじゃないの」
雛子がほっとする。
「海外の方に……」
「はっ⁉」
「百回はくだらないかと……」
「はあっ⁉」
「よく行きますね」
「ハ、ハワイとか?」
「ハワイ?」
最愛が首を傾げる。雛子が驚く。
「そこで首を傾げる⁉」
「もっぱら地中海ですね」
「もっぱら地中海⁉」
「ええ」
最愛が頷く。
「一切の嫌みなく言ってくれるわね……」
「何か気に障りましたか?」
「いいや、超のつくお嬢様だということをあらためて認識したわ」
「様だなんて……尊敬されるべきは親やご先祖様です」
「謙虚!」
雛子が思わずのけぞる。
「どうかされましたか?」
「い、いや……でもなんでまたこんな湖に?」
雛子は目の前に広がる湖を指差す。
「この相模湖は戦後日本で最初に出来た人造湖だそうです」
「え⁉ 人造湖⁉」
「はい」
「そうなんだ……」
「そうなのです」
「で? ここで何を?」
「あれを……」
最愛が指差した先にアヒルのボートがある。
「ア、アヒル?」
「スワンボートです」
「いや、それは分かるけど……あれがどうしたの?」
「あれに雛子さんと一緒に乗ってきたらどうかと百合ヶ丘さんが……」
「は、はあっ⁉」
「そのようにご提案を受けたので……」
「な、なんでアタシなの?」
「……さあ?」
最愛が目線を一瞬、雛子の頭に向けてから首を傾げる。
「い、今一瞬、アタシの髪型が鳥っぽいからだろうなって思ったでしょ⁉」
雛子が頭を抑える。最愛が首を左右に振る。
「……いいえ」
「いいや、絶対そう思った!」
「とにかく一緒に乗ってボートを漕ぎませんか?」
「嫌よ!」
「どうして?」
「あ、ああいうのって、いわゆる、カ、カップルで楽しむものでしょ⁉ なんでアンタとアタシで乗らなきゃいけないのよ!」
「駄目ですか?」
「駄目よ!」
「……どうしてもですか?」
最愛が小首を傾げるようにして再度尋ねる。
「~~! し、仕方ないわね! 乗るわよ!」
「良かった……!」
最愛が笑顔を浮かべ、自らの胸の前で両手を合わせる。
「か、勘違いしないでよね! あくまでもお互いの親交を深めるためなんだから!」
「ええ、それはもちろん分かっています」
「あ、そ、そう……」
「それでは乗りましょう」
「え、ええ……」
この後、最愛と雛子は滅茶苦茶足漕ぎボートを漕いだ。その数時間後……。
「……!」
最愛が相手のシュートを止める。
「最愛、こっち!」
雛子が前方に走りながらボールを要求する。
「雛子さん!」
最愛がボールを素早く投げ込む。
「ナイス!」
ボールを受けた雛子が相手をかわし、シュートを放つ。ボールはゴールネットを揺らす。
「やった! ナイスゴールです! 雛子さん!」
「なんだか足取りが軽い……ひょっとしてさっきの足漕ぎボートが良いウォーミングアップになったってこと⁉」
雛子が恋の方を見る。
「……え?」
「違うわよね! ただ面白がっただけでしょ!」
半笑いで首を傾げる恋に雛子は声を上げる。川崎ステラは遠征初戦を勝利した。
雛子がぼやく。
「……」
「大型連休の予定がほぼ全部埋まっちゃったじゃないの……」
雛子が腕を組む。
「………」
「まあ、川崎では連戦連勝だし、相手してくれそうなところがもうほとんど無いといえば無いのだけどね……」
雛子が首をすくめる。
「…………」
「なによ、さっきから黙り込んじゃって」
雛子が最愛に話しかける。
「いえ、思えば遠くへきたものだなと思いまして……」
最愛が周囲を見回す。
「それはそうね……と言っても、ぎりぎり神奈川県内だけどね」
「わたくし、川崎以外では都心くらいしか行ったことがないもので……」
「は?」
雛子が目を丸くする。
「初めての遠出かもしれません……」
「しゅ、修学旅行とかは?」
「そういえば、京都の方には行きましたね」
最愛が思い出したように呟く。
「そ、そうでしょう……」
「でも、それくらいですね……」
最愛が顎に手を当てて考え込む。
「こ、こういうことを聞いたらあれかもしれないけど……」
「はい?」
「か、家族旅行とかは?」
雛子が恐る恐る尋ねる。
「ああ、それでしたら……」
「なんだ、やっぱりあるんじゃないの」
雛子がほっとする。
「海外の方に……」
「はっ⁉」
「百回はくだらないかと……」
「はあっ⁉」
「よく行きますね」
「ハ、ハワイとか?」
「ハワイ?」
最愛が首を傾げる。雛子が驚く。
「そこで首を傾げる⁉」
「もっぱら地中海ですね」
「もっぱら地中海⁉」
「ええ」
最愛が頷く。
「一切の嫌みなく言ってくれるわね……」
「何か気に障りましたか?」
「いいや、超のつくお嬢様だということをあらためて認識したわ」
「様だなんて……尊敬されるべきは親やご先祖様です」
「謙虚!」
雛子が思わずのけぞる。
「どうかされましたか?」
「い、いや……でもなんでまたこんな湖に?」
雛子は目の前に広がる湖を指差す。
「この相模湖は戦後日本で最初に出来た人造湖だそうです」
「え⁉ 人造湖⁉」
「はい」
「そうなんだ……」
「そうなのです」
「で? ここで何を?」
「あれを……」
最愛が指差した先にアヒルのボートがある。
「ア、アヒル?」
「スワンボートです」
「いや、それは分かるけど……あれがどうしたの?」
「あれに雛子さんと一緒に乗ってきたらどうかと百合ヶ丘さんが……」
「は、はあっ⁉」
「そのようにご提案を受けたので……」
「な、なんでアタシなの?」
「……さあ?」
最愛が目線を一瞬、雛子の頭に向けてから首を傾げる。
「い、今一瞬、アタシの髪型が鳥っぽいからだろうなって思ったでしょ⁉」
雛子が頭を抑える。最愛が首を左右に振る。
「……いいえ」
「いいや、絶対そう思った!」
「とにかく一緒に乗ってボートを漕ぎませんか?」
「嫌よ!」
「どうして?」
「あ、ああいうのって、いわゆる、カ、カップルで楽しむものでしょ⁉ なんでアンタとアタシで乗らなきゃいけないのよ!」
「駄目ですか?」
「駄目よ!」
「……どうしてもですか?」
最愛が小首を傾げるようにして再度尋ねる。
「~~! し、仕方ないわね! 乗るわよ!」
「良かった……!」
最愛が笑顔を浮かべ、自らの胸の前で両手を合わせる。
「か、勘違いしないでよね! あくまでもお互いの親交を深めるためなんだから!」
「ええ、それはもちろん分かっています」
「あ、そ、そう……」
「それでは乗りましょう」
「え、ええ……」
この後、最愛と雛子は滅茶苦茶足漕ぎボートを漕いだ。その数時間後……。
「……!」
最愛が相手のシュートを止める。
「最愛、こっち!」
雛子が前方に走りながらボールを要求する。
「雛子さん!」
最愛がボールを素早く投げ込む。
「ナイス!」
ボールを受けた雛子が相手をかわし、シュートを放つ。ボールはゴールネットを揺らす。
「やった! ナイスゴールです! 雛子さん!」
「なんだか足取りが軽い……ひょっとしてさっきの足漕ぎボートが良いウォーミングアップになったってこと⁉」
雛子が恋の方を見る。
「……え?」
「違うわよね! ただ面白がっただけでしょ!」
半笑いで首を傾げる恋に雛子は声を上げる。川崎ステラは遠征初戦を勝利した。
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