26 / 50
第1章
第7話(1)お嬢様、乗る
しおりを挟む
7
「ふう……」
ヴィオラがため息をつく。
「どうかされましたか?」
最愛が尋ねる。
「いえ、キャプテンにはほとほと参りましたよ……」
ヴィオラが額を軽く抑える。
「そうですか?」
最愛が首を傾げる。
「そうですよ」
「何故?」
「何故って……」
「連絡を間違えたことですか?」
「ええ。それ以外にありますか?」
「本来ならば藤沢集合のところ、わたくしとヴィオラさんの二人だけ、鎌倉集合だと伝えられていたことですね」
「そうです。まったく、なんでそんな初歩的なミスを……」
ヴィオラが腕を組む。
「……この場合、確認を怠ったわたくしたちにも非があるのでは?」
「むっ……」
「違いますか?」
「まあ、それはそうかもしれません。幸い、ここ鎌倉から藤沢までは小一時間ほどです。練習試合までは余裕で間に合いますね」
「こういうことを申してはなんなのですが……」
「はい?」
「わたくしは逆に楽しみなのです」
「楽しみ?」
ヴィオラが首を傾げる。
「ええ、これに乗ることが出来るからです!」
最愛が電車の車両を指し示す。
「ああ、江ノ電ですか……」
「そう! 江ノ電です!」
最愛が興奮気味に応える。
「そ、そんなにテンションが上がりますか?」
「ええ、それはもう!」
最愛が両手をグッと力強く握りしめる。
「ず、随分と盛り上がっていますね。確かに生粋のお嬢様にとってはあまり縁のない沿線なのかもしれませんが……」
「切符も買ってきました!」
「い、いつの間に⁉」
「ついさっきです!」
「私がお手洗いに行っている時ですか……よく買えましたね?」
「駅員さんにお聞きしました。はい、こちらがヴィオラさんの分です」
最愛が切符をヴィオラに渡す。
「ああ、どうもありがとうございます……って⁉ こ、この切符……『のりおりくん』⁉」
「ええ、いわゆる一日乗車券というものです。これさえあれば、乗り降り自由の優れもの!」
「ど、どういうことですか⁉」
「実は百合ヶ丘さんから連絡がありまして……」
「キャプテンから?」
「はい、どうせだったらヴィオラさんと江ノ電沿線観光でもしてきたらどうかと……」
「練習とはいえ、試合前に悠長なことを……」
「駄目……でしょうか?」
最愛が俯き加減になり、そこから上目遣いで遠慮がちにヴィオラを見つめる。
「ぐっ……」
「払い戻しとかは出来るのでしょうか?」
最愛が切符売り場に目を向ける。
「ああ、ちょっと待ってください。ちょっとだけですよ?」
「え?」
「だから観光ですよ。大分余裕があるとはいえ、そんなに時間はかけていられませんからね」
「はい!」
「とにかく出発しましょう」
ヴィオラたちが江ノ電に乗り込む。二人は座席に座る。最愛が端末を取り出して呟く。
「実は行ってみたい場所は既にリストアップしてあります」
「し、仕事が早いですね……」
「ざっと、百ヶ所ほどなのですが……」
「お、多すぎる⁉」
ヴィオラがびっくり仰天する。
「? なんですか?」
「さ、さすがにそんなには回ることが出来ませんよ。今日は数ヶ所ほどに留めましょう……」
「……確かにそうですね。分かりました」
最愛が頷く。
「分かってくれたのなら良かった……」
ヴィオラが胸をなでおろす。由比ヶ浜駅で降りた二人はある建物へと向かう。
「……ここが鎌倉文学館です! 文豪たちの直筆原稿などが展示されているそうです!」
「建物自体も洋館に和風のエッセンスが盛り込まれて、なかなか趣がありますね……」
「我が家の別荘によく似ています」
「は、はあ……」
「ああ、数ある中でわりと小さい方のですよ?」
最愛が屈託のない笑顔を浮かべる。
「あ、悪意のない、無自覚なマウント⁉」
ヴィオラが困惑する。
「さて、時間的に次が最後ですね……」
「長谷寺、極楽寺と見てきましたが……たまにはこういうのも良いかもしれませんね。いつも、キャプテンに振り回されていますから……」
「ああ、この駅で降ります」
「? 鎌倉高校前?」
二人は鎌倉高校前駅で降りると、少し歩き、ある踏切前にたどり着く。
「ここです!」
「ああ、いわゆる聖地というやつですか」
ヴィオラが納得する。
「え? 一見なんの変哲もない踏切ですが……ヴィオラさん、鉄道にお詳しいのですか? ひょっとして……鉄女?」
「こ、今度は無自覚な煽り⁉ って、なにも知らないで来たのですか?」
「はい。なんとかの有名スポットということでしたので……」
最愛が頷きながら呟く。
「……知らず知らずのうちに、最愛さんに振り回されている⁉」
二人はなんだかんだで江ノ電沿線の観光を楽しんだ。その数時間後……。
「……!」
最愛が相手の放ったシュートを防ぐ。
「最愛さん! こっちに!」
「ヴィオラさん!」
最愛がヴィオラにボールを送る。
「ナイス! ……それっ!」
相手をかわしたヴィオラが巧みなシュートを決める。最愛が声を上げる。
「ナイスゴール!」
「よし! 観光も良い気分転換になった……ということにしておきましょう!」
ヴィオラは控えめにガッツポーズをする。試合はヴィオラの活躍もあって川崎ステラが勝利を収めた。これで遠征4連勝である。
「ふう……」
ヴィオラがため息をつく。
「どうかされましたか?」
最愛が尋ねる。
「いえ、キャプテンにはほとほと参りましたよ……」
ヴィオラが額を軽く抑える。
「そうですか?」
最愛が首を傾げる。
「そうですよ」
「何故?」
「何故って……」
「連絡を間違えたことですか?」
「ええ。それ以外にありますか?」
「本来ならば藤沢集合のところ、わたくしとヴィオラさんの二人だけ、鎌倉集合だと伝えられていたことですね」
「そうです。まったく、なんでそんな初歩的なミスを……」
ヴィオラが腕を組む。
「……この場合、確認を怠ったわたくしたちにも非があるのでは?」
「むっ……」
「違いますか?」
「まあ、それはそうかもしれません。幸い、ここ鎌倉から藤沢までは小一時間ほどです。練習試合までは余裕で間に合いますね」
「こういうことを申してはなんなのですが……」
「はい?」
「わたくしは逆に楽しみなのです」
「楽しみ?」
ヴィオラが首を傾げる。
「ええ、これに乗ることが出来るからです!」
最愛が電車の車両を指し示す。
「ああ、江ノ電ですか……」
「そう! 江ノ電です!」
最愛が興奮気味に応える。
「そ、そんなにテンションが上がりますか?」
「ええ、それはもう!」
最愛が両手をグッと力強く握りしめる。
「ず、随分と盛り上がっていますね。確かに生粋のお嬢様にとってはあまり縁のない沿線なのかもしれませんが……」
「切符も買ってきました!」
「い、いつの間に⁉」
「ついさっきです!」
「私がお手洗いに行っている時ですか……よく買えましたね?」
「駅員さんにお聞きしました。はい、こちらがヴィオラさんの分です」
最愛が切符をヴィオラに渡す。
「ああ、どうもありがとうございます……って⁉ こ、この切符……『のりおりくん』⁉」
「ええ、いわゆる一日乗車券というものです。これさえあれば、乗り降り自由の優れもの!」
「ど、どういうことですか⁉」
「実は百合ヶ丘さんから連絡がありまして……」
「キャプテンから?」
「はい、どうせだったらヴィオラさんと江ノ電沿線観光でもしてきたらどうかと……」
「練習とはいえ、試合前に悠長なことを……」
「駄目……でしょうか?」
最愛が俯き加減になり、そこから上目遣いで遠慮がちにヴィオラを見つめる。
「ぐっ……」
「払い戻しとかは出来るのでしょうか?」
最愛が切符売り場に目を向ける。
「ああ、ちょっと待ってください。ちょっとだけですよ?」
「え?」
「だから観光ですよ。大分余裕があるとはいえ、そんなに時間はかけていられませんからね」
「はい!」
「とにかく出発しましょう」
ヴィオラたちが江ノ電に乗り込む。二人は座席に座る。最愛が端末を取り出して呟く。
「実は行ってみたい場所は既にリストアップしてあります」
「し、仕事が早いですね……」
「ざっと、百ヶ所ほどなのですが……」
「お、多すぎる⁉」
ヴィオラがびっくり仰天する。
「? なんですか?」
「さ、さすがにそんなには回ることが出来ませんよ。今日は数ヶ所ほどに留めましょう……」
「……確かにそうですね。分かりました」
最愛が頷く。
「分かってくれたのなら良かった……」
ヴィオラが胸をなでおろす。由比ヶ浜駅で降りた二人はある建物へと向かう。
「……ここが鎌倉文学館です! 文豪たちの直筆原稿などが展示されているそうです!」
「建物自体も洋館に和風のエッセンスが盛り込まれて、なかなか趣がありますね……」
「我が家の別荘によく似ています」
「は、はあ……」
「ああ、数ある中でわりと小さい方のですよ?」
最愛が屈託のない笑顔を浮かべる。
「あ、悪意のない、無自覚なマウント⁉」
ヴィオラが困惑する。
「さて、時間的に次が最後ですね……」
「長谷寺、極楽寺と見てきましたが……たまにはこういうのも良いかもしれませんね。いつも、キャプテンに振り回されていますから……」
「ああ、この駅で降ります」
「? 鎌倉高校前?」
二人は鎌倉高校前駅で降りると、少し歩き、ある踏切前にたどり着く。
「ここです!」
「ああ、いわゆる聖地というやつですか」
ヴィオラが納得する。
「え? 一見なんの変哲もない踏切ですが……ヴィオラさん、鉄道にお詳しいのですか? ひょっとして……鉄女?」
「こ、今度は無自覚な煽り⁉ って、なにも知らないで来たのですか?」
「はい。なんとかの有名スポットということでしたので……」
最愛が頷きながら呟く。
「……知らず知らずのうちに、最愛さんに振り回されている⁉」
二人はなんだかんだで江ノ電沿線の観光を楽しんだ。その数時間後……。
「……!」
最愛が相手の放ったシュートを防ぐ。
「最愛さん! こっちに!」
「ヴィオラさん!」
最愛がヴィオラにボールを送る。
「ナイス! ……それっ!」
相手をかわしたヴィオラが巧みなシュートを決める。最愛が声を上げる。
「ナイスゴール!」
「よし! 観光も良い気分転換になった……ということにしておきましょう!」
ヴィオラは控えめにガッツポーズをする。試合はヴィオラの活躍もあって川崎ステラが勝利を収めた。これで遠征4連勝である。
0
あなたにおすすめの小説
百合ランジェリーカフェにようこそ!
楠富 つかさ
青春
主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?
ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!!
※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。
表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。
熟女愛好家ユウスケの青春(熟女漁り)
MisakiNonagase
現代文学
高校まで勉強一筋で大学デビューをしたユウスケは家庭教師の教え子の母親と不倫交際するが、彼にとって彼女とが初の男女交際。そこでユウスケは自分が熟女好きだと自覚する。それからユウスケは戦略と実戦を重ねて、清潔感と聞き上手を武器にたくさんの熟女と付き合うことになるストーリーです。
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
ちょっと大人な物語はこちらです
神崎未緒里
恋愛
本当にあった!?かもしれない
ちょっと大人な短編物語集です。
日常に突然訪れる刺激的な体験。
少し非日常を覗いてみませんか?
あなたにもこんな瞬間が訪れるかもしれませんよ?
※本作品ではGemini PRO、Pixai.artで作成した生成AI画像ならびに
Pixabay並びにUnsplshのロイヤリティフリーの画像を使用しています。
※不定期更新です。
※文章中の人物名・地名・年代・建物名・商品名・設定などはすべて架空のものです。
JKメイドはご主人様のオモチャ 命令ひとつで脱がされて、触られて、好きにされて――
のぞみ
恋愛
「今日から、お前は俺のメイドだ。ベッドの上でもな」
高校二年生の蒼井ひなたは、借金に追われた家族の代わりに、ある大富豪の家で住み込みメイドとして働くことに。
そこは、まるでおとぎ話に出てきそうな大きな洋館。
でも、そこで待っていたのは、同じ高校に通うちょっと有名な男の子――完璧だけど性格が超ドSな御曹司、天城 蓮だった。
昼間は生徒会長、夜は…ご主人様?
しかも、彼の命令はちょっと普通じゃない。
「掃除だけじゃダメだろ? ご主人様の癒しも、メイドの大事な仕事だろ?」
手を握られるたび、耳元で囁かれるたび、心臓がバクバクする。
なのに、ひなたの体はどんどん反応してしまって…。
怒ったり照れたりしながらも、次第に蓮に惹かれていくひなた。
だけど、彼にはまだ知られていない秘密があって――
「…ほんとは、ずっと前から、私…」
ただのメイドなんかじゃ終わりたくない。
恋と欲望が交差する、ちょっぴり危険な主従ラブストーリー。
クラスメイトの美少女と無人島に流された件
桜井正宗
青春
修学旅行で離島へ向かう最中――悪天候に見舞われ、台風が直撃。船が沈没した。
高校二年の早坂 啓(はやさか てつ)は、気づくと砂浜で寝ていた。周囲を見渡すとクラスメイトで美少女の天音 愛(あまね まな)が隣に倒れていた。
どうやら、漂流して流されていたようだった。
帰ろうにも島は『無人島』。
しばらくは島で生きていくしかなくなった。天音と共に無人島サバイバルをしていくのだが……クラスの女子が次々に見つかり、やがてハーレムに。
男一人と女子十五人で……取り合いに発展!?
ヤンデレ美少女転校生と共に体育倉庫に閉じ込められ、大問題になりましたが『結婚しています!』で乗り切った嘘のような本当の話
桜井正宗
青春
――結婚しています!
それは二人だけの秘密。
高校二年の遙と遥は結婚した。
近年法律が変わり、高校生(十六歳)からでも結婚できるようになっていた。だから、問題はなかった。
キッカケは、体育倉庫に閉じ込められた事件から始まった。校長先生に問い詰められ、とっさに誤魔化した。二人は退学の危機を乗り越える為に本当に結婚することにした。
ワケありヤンデレ美少女転校生の『小桜 遥』と”新婚生活”を開始する――。
*結婚要素あり
*ヤンデレ要素あり
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる