【序章完】ヒノモトバトルロワイアル~列島十二分戦記~

阿弥陀乃トンマージ

文字の大きさ
47 / 50
序章

第12話(2)六道すら外れしもの

しおりを挟む
「おい、急ぐぞ!」

「分かっているよ!」

 薄毛の男が禿頭の男に言い返す。

「警備が回ってこないとも限らないんだから!」

「だから分かっている!」

「おい、言い合いしている暇があったら、早く運び出せ!」

「うるせえ!」

「お前が仕切るな!」

 薄毛の男と禿頭の男がもじゃもじゃ頭の男に言い返す。

「……なんか、妙に俺に当たりがきつくねえか?」

「気のせいだよ!」

「そうだ、気のせいだ!」

「そうか……?」

「おい、バッグに出来る限り詰め込んだぜ!」

 角刈りの男が告げる。

「俺もだ! これくらいで十分だろう!」

 ロン毛の男が頷く。

「よし、この辺でずらかるぞ!」

 もじゃもじゃ頭の男を先頭にして、男たちが店を出る。

「ずらかるだって、品がないわねえ……」

「むっ⁉」

 男たちが視線を向けると、着物をわざと着崩して、虹色に染めた長髪で片目を隠している痩身の男性が歩いてくる。

「見~ちゃった、見~ちゃった♪」

「ちっ! 警備の兵か⁉」

「ちょっとお待ちよ、あたしが警備の兵に見えるかい?」

「い、いや、見えねえな……」

「でしょ?」

「あ、ああ……って、見られたんじゃただじゃおかねえ!」

「ただじゃおかねえってどうするのさ?」

「こうするんだよ!」

 もじゃもじゃ頭の男が銃を取り出して瘦身の男性に向ける。男性が呟く。

「……交渉しない?」

「交渉だと?」

「そ。そこのお店は街の外れにあるわりには品揃えが良いっていう評判なのよ……アタシは宝石の類には目が無くてね……」

 男性が自らの指を見せる。派手な指輪を何個かはめてある。

「ふむ……」

「どうだい? いくらか分けてくれたら、見なかったことにしてあげるよ」

「なるほど、悪くねえ話だな……とでも言うと思ったか!」

 もじゃもじゃ頭の男が一度下ろしかけた銃を再び男性に向ける。

「冷静になれ!」

「そうだ、銃声なんてしたら、それこそ警備兵が飛んでくるぞ!」

 角刈りの男とロン毛の男が声を上げる。

「それもそうだな……取り囲め!」

「だから仕切んな!」

「まったくだ!」

 薄毛の男と禿頭の男が瘦身の男性の後方に回り、ナイフを取り出す。

「……交渉決裂ってこと?」

「そもそも交渉する権利がてめえにはねえんだよ! おい、やっちまえ!」

 薄毛の男がナイフを振りかざしながら、瘦身の男性に襲いかかる。

「うおおっ!」

「おお、怖い怖い……」

「が、がはっ……」

 薄毛の男が倒れる。

「ど、どうした⁉」

「首に針が刺さっていやがる!」

 もじゃもじゃ頭の問いに禿頭の男が答える。

「吹き矢を少々……」

 瘦身の男性が短く細い木筒を片手に持って、小首を傾げる。

「は、針を抜いてやれ!」

「無駄さ。即効性の毒が塗ってある。十中八九助からないわ……」

「て、てめえ! ⁉」

 激昂した禿頭の男がナイフをかざして瘦身の男性に襲いかかるが、数歩歩くと、その首がすっぱりと落ちる。禿げた頭がころころと転がる。瘦身の男性が笑う。

「ほほっ、よく転がるねえ……」

「な、何をしやがった⁉」

「いや、硬くてよく斬れる糸をその辺に張っていただけさ……」

「い、糸だと……⁉」

「あ、こっち側には張ってないから、安心してかかってきていいよ?」

 瘦身の男性が自分の前方に向けて両手を大げさに振ってみせる。

「そ、そんな口車に乗るかってんだ!」

「そ、そうだ!」

 角刈りの男とロン毛の男が銃を取り出す。

「飛び道具? 興醒めだねえ……」

「吹き矢使った奴に言われたくねえ!」

「まったくだ!」

「はあ……」

「ぐ、ぐはっ……」

「ご、ごはっ……」

 角刈りの男に向かっては鉄製の扇が投げつけられ、顔面を半分えぐり取られた。ロン毛の男に向かっては鎖鎌が投げつけられ、頭を貫かれた。痩身の男はブーメランのように戻ってきた扇を左手で受け取り、鎖鎌を右手で引っ張って回収する。

「さて、残りはアンタだけよ……」

「ひ、ひぃ……!」

 もじゃもじゃ頭が腰を抜かして、尻餅をつく。その顔は怯えに怯え切っている。

「なに? ビビっちゃったの? ますます興醒めねえ……」

「い、命だけは……なんでもしますから……」

「なんでも……ねえ」

 瘦身の男性が鉄扇と鎖鎌を懐に納め、鞭を取り出す。

「ひ、ひぇ……」

「アタシを楽しませてくれる⁉」

「ぎゃあ⁉」

 瘦身の男性が鞭を振るい、もじゃもじゃ頭の頬を叩く。

「それっ、それっ!」

「うぎゃ! むぎゃ!」

「退屈ねえ! もっと楽しませなさいよ!」

「……そこまでだ」

 亜嵐が瘦身の男性の右腕を掴み、攻撃を止める。

「あらあら亜嵐ちゃん、どうしたの?」

「からかっているだろう……。まあいい、あのもじゃもじゃ頭は事情聴取で連行する」

「え~つまんないの~」

 瘦身の男性がその場から離れる。亜嵐が尋ねる。

「……あの方を知らないか?」

「アタシも探してんのよ。他を当たってみるわね~」

「『六道すら外れしもの』、夜明希望(よあけのぞみ)……相変わらず絶望しか残さないやつだな……」

 亜嵐が希望の背中と怯えきったもじゃもじゃ頭を交互に見ながら呟く。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

百合ランジェリーカフェにようこそ!

楠富 つかさ
青春
 主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?  ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!! ※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。 表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

JKメイドはご主人様のオモチャ 命令ひとつで脱がされて、触られて、好きにされて――

のぞみ
恋愛
「今日から、お前は俺のメイドだ。ベッドの上でもな」 高校二年生の蒼井ひなたは、借金に追われた家族の代わりに、ある大富豪の家で住み込みメイドとして働くことに。 そこは、まるでおとぎ話に出てきそうな大きな洋館。 でも、そこで待っていたのは、同じ高校に通うちょっと有名な男の子――完璧だけど性格が超ドSな御曹司、天城 蓮だった。 昼間は生徒会長、夜は…ご主人様? しかも、彼の命令はちょっと普通じゃない。 「掃除だけじゃダメだろ? ご主人様の癒しも、メイドの大事な仕事だろ?」 手を握られるたび、耳元で囁かれるたび、心臓がバクバクする。 なのに、ひなたの体はどんどん反応してしまって…。 怒ったり照れたりしながらも、次第に蓮に惹かれていくひなた。 だけど、彼にはまだ知られていない秘密があって―― 「…ほんとは、ずっと前から、私…」 ただのメイドなんかじゃ終わりたくない。 恋と欲望が交差する、ちょっぴり危険な主従ラブストーリー。

セーラー服美人女子高生 ライバル同士の一騎討ち

ヒロワークス
ライト文芸
女子高の2年生まで校内一の美女でスポーツも万能だった立花美帆。しかし、3年生になってすぐ、同じ学年に、美帆と並ぶほどの美女でスポーツも万能な逢沢真凛が転校してきた。 クラスは、隣りだったが、春のスポーツ大会と夏の水泳大会でライバル関係が芽生える。 それに加えて、美帆と真凛は、隣りの男子校の俊介に恋をし、どちらが俊介と付き合えるかを競う恋敵でもあった。 そして、秋の体育祭では、美帆と真凛が走り高跳びや100メートル走、騎馬戦で対決! その結果、放課後の体育館で一騎討ちをすることに。

あるフィギュアスケーターの性事情

蔵屋
恋愛
この小説はフィクションです。 しかし、そのようなことが現実にあったかもしれません。 何故ならどんな人間も、悪魔や邪神や悪神に憑依された偽善者なのですから。 この物語は浅岡結衣(16才)とそのコーチ(25才)の恋の物語。 そのコーチの名前は高木文哉(25才)という。 この物語はフィクションです。 実在の人物、団体等とは、一切関係がありません。

性別交換ノート

廣瀬純七
ファンタジー
性別を交換できるノートを手に入れた高校生の山本渚の物語

ちょっと大人な体験談はこちらです

神崎未緒里
恋愛
本当にあった!?かもしれない ちょっと大人な体験談です。 日常に突然訪れる刺激的な体験。 少し非日常を覗いてみませんか? あなたにもこんな瞬間が訪れるかもしれませんよ? ※本作品ではGemini PRO、Pixai.artで作成した生成AI画像ならびに  Pixabay並びにUnsplshのロイヤリティフリーの画像を使用しています。 ※不定期更新です。 ※文章中の人物名・地名・年代・建物名・商品名・設定などはすべて架空のものです。

後宮の胡蝶 ~皇帝陛下の秘密の妃~

菱沼あゆ
キャラ文芸
 突然の譲位により、若き皇帝となった苑楊は封印されているはずの宮殿で女官らしき娘、洋蘭と出会う。  洋蘭はこの宮殿の牢に住む老人の世話をしているのだと言う。  天女のごとき外見と豊富な知識を持つ洋蘭に心惹かれはじめる苑楊だったが。  洋蘭はまったく思い通りにならないうえに、なにかが怪しい女だった――。  中華後宮ラブコメディ。

処理中です...