38 / 50
第1集
第10話(1)壮大、感動
しおりを挟む
10
「それでは打ち合わせの方を始めさせていただきます。よろしくお願いします」
「よろしくお願いします」
「よ、よろしくお願いします」
街の中でもひときわ立派な建物の中のある一室でスーツ姿の男女とルーシーが向かい合って座り、挨拶をかわす。ルーシーは緊張を隠せない。
「早速ですが、内容についてお話をさせてもらってもよろしいでしょうか?」
「は、はい、どうぞ……」
男性の問いにルーシーが頷く。
「原稿の方を拝見させていただきました。えっと……」
「はい?」
「……この作品のコンセプトは何になるのでしょうか?」
「コンセプトですか?」
「はい」
「う、う~ん、難しいですね……」
腕を組んで首を傾げるルーシーに対し、女性が口を開く。
「キャッチフレーズみたいなものでも構いませんよ」
「ああ、それなら……」
「なんでしょうか?」
「『美女のエルフ同士による数百年間に及ぶキャッキャウフフ』です!」
ルーシーが力強く答える。
「……」
黙る男性に代わり女性が尋ねる。
「……えっと……それはなんでしょうか?」
「ええっ⁉」
ルーシーが驚く。
「ちょっとなにをおっしゃっているのかが分からないんです……」
「いや、エルフがいますよね?」
「ええ、ルーシーさんのような」
「二人いるんです」
「ええ」
「どちらも美女なんです」
「はい、エルフの方は美形が多いですからね」
「その美女エルフ同士が……」
「同士が」
「キャッキャウフフするんです!」
「ちょ、ちょっと待って下さい、ですからそれが分からないんです……」
女性が頭を片手で軽く抑え、もう片方の手を前に突き出す。
「キャッキャがですか? ウフフがですか?」
「いや……」
「この場合、キャッキャは嬌声、ウフフは笑い声だと考えてもらえば……」
「そ、それはなんとなく分かります。いえ、そういうことではなくてですね……」
女性は頷きながら手を左右に振る。
「それではどういうことでしょうか?」
「何故、キャッキャウフフなのです?」
「何故……?」
「はい、何故なのでしょうか?」
「……カッカグヘヘだとオジサンっぽくなるからですかね?」
「いや、そういうことではなくてですね……」
「ど、どういうことでしょうか?」
「……エルフという種族は悠久の時を生きられますよね?」
黙っていた男性が口を開く。
「ま、まあ、そうですね……悠久というと大げさですが、人間の方よりは長生きかなと……」
ルーシーが戸惑い気味に頷く。
「ファンタジーですよ」
「え?」
「エルフを主役に据えるならば壮大なファンタジーです! これしかない!」
「そ、壮大なファンタジー? そ、それは具体的にどういうことですか?」
「そこは先生にお好きなように書いていただければと思っています!」
「え、ええ? お好きなようにって……」
「取材などが必要ならばご相談下さい。費用はある程度は負担出来ますので」
「い、いや、取材もなにも……」
「……今日のところはこんなところですかね。お疲れ様でした」
「ええ……」
男女が揃って頭を下げる。ルーシーが困惑する。
♢
「アンジェラ先生、どうぞよろしくお願いします」
「どうぞよろしくお願いします」
「よ、よろしくお願いするっす……いやあ、先生だなんて照れるっすね~」
アンジェラは照れくさそうに鼻の頭をこする。
「早速打ち合わせを始めさせて頂いてもよろしいでしょうか?」
「あ、はい、どうぞどうぞ!」
「え~原稿を読ませて頂いたのですが……」
「はいっす」
「人を『擬モン化』……ですか?」
「ああ、そうっすね」
「これはどういうことでしょうか?」
「人をモンスターにするんすよ」
「……例えば?」
「例えば? 雄々しい男性はドラゴンに、凛々しい女性はペガサスになるっす」
「はい、それは読みましたが……」
男性が隣に座る女性に目配りする。女性が口を開く。
「そのモンスターたちがレースをするんですよね?」
「は、はい、そうっす……」
「何故、レースなんですか?」
「な、何故? そ、それは、汗と涙のスポ根的要素のあるお話を書きたかったからで……」
「……古いですね」
「ふ、古い?」
男性の言葉にアンジェラが面喰らう。男性が続ける。
「根性というものを前面に押し出すと、今の読者は拒否反応を示します」
「そ、そうなんすか?」
「そうなんです。君はどうだい?」
「……とにかく楽して儲けたいですね」
男性の問いかけに女性が答える。男性が視線をアンジェラに戻す。
「……こんな具合です」
「そ、そうは言っても……じゃあどうすればいいんすか?」
「……感動ですね」
「は、はい?」
「涙、涙の感動巨編です。獣と人の心温まるハートウォーミングなストーリー! 獣人でいらっしゃるアンジェラ先生ならではのお話がきっと書けるはずです!」
「まあ、大体の獣とも話せるっすけど……そ、それでもオレは汗と涙のスポ根ストーリーを書きたいんすよ!」
「汗なんかいりません! 君はどうだい?」
「女性読者受けが悪いと思います」
「いや、あんまり女性を意識しすぎるのもどうかと思うんすけど……」
「今日はこの辺で……ありがとうございました」
「え、ええ……」
揃って頭を下げてくる男女に対し、アンジェラは戸惑う。
「それでは打ち合わせの方を始めさせていただきます。よろしくお願いします」
「よろしくお願いします」
「よ、よろしくお願いします」
街の中でもひときわ立派な建物の中のある一室でスーツ姿の男女とルーシーが向かい合って座り、挨拶をかわす。ルーシーは緊張を隠せない。
「早速ですが、内容についてお話をさせてもらってもよろしいでしょうか?」
「は、はい、どうぞ……」
男性の問いにルーシーが頷く。
「原稿の方を拝見させていただきました。えっと……」
「はい?」
「……この作品のコンセプトは何になるのでしょうか?」
「コンセプトですか?」
「はい」
「う、う~ん、難しいですね……」
腕を組んで首を傾げるルーシーに対し、女性が口を開く。
「キャッチフレーズみたいなものでも構いませんよ」
「ああ、それなら……」
「なんでしょうか?」
「『美女のエルフ同士による数百年間に及ぶキャッキャウフフ』です!」
ルーシーが力強く答える。
「……」
黙る男性に代わり女性が尋ねる。
「……えっと……それはなんでしょうか?」
「ええっ⁉」
ルーシーが驚く。
「ちょっとなにをおっしゃっているのかが分からないんです……」
「いや、エルフがいますよね?」
「ええ、ルーシーさんのような」
「二人いるんです」
「ええ」
「どちらも美女なんです」
「はい、エルフの方は美形が多いですからね」
「その美女エルフ同士が……」
「同士が」
「キャッキャウフフするんです!」
「ちょ、ちょっと待って下さい、ですからそれが分からないんです……」
女性が頭を片手で軽く抑え、もう片方の手を前に突き出す。
「キャッキャがですか? ウフフがですか?」
「いや……」
「この場合、キャッキャは嬌声、ウフフは笑い声だと考えてもらえば……」
「そ、それはなんとなく分かります。いえ、そういうことではなくてですね……」
女性は頷きながら手を左右に振る。
「それではどういうことでしょうか?」
「何故、キャッキャウフフなのです?」
「何故……?」
「はい、何故なのでしょうか?」
「……カッカグヘヘだとオジサンっぽくなるからですかね?」
「いや、そういうことではなくてですね……」
「ど、どういうことでしょうか?」
「……エルフという種族は悠久の時を生きられますよね?」
黙っていた男性が口を開く。
「ま、まあ、そうですね……悠久というと大げさですが、人間の方よりは長生きかなと……」
ルーシーが戸惑い気味に頷く。
「ファンタジーですよ」
「え?」
「エルフを主役に据えるならば壮大なファンタジーです! これしかない!」
「そ、壮大なファンタジー? そ、それは具体的にどういうことですか?」
「そこは先生にお好きなように書いていただければと思っています!」
「え、ええ? お好きなようにって……」
「取材などが必要ならばご相談下さい。費用はある程度は負担出来ますので」
「い、いや、取材もなにも……」
「……今日のところはこんなところですかね。お疲れ様でした」
「ええ……」
男女が揃って頭を下げる。ルーシーが困惑する。
♢
「アンジェラ先生、どうぞよろしくお願いします」
「どうぞよろしくお願いします」
「よ、よろしくお願いするっす……いやあ、先生だなんて照れるっすね~」
アンジェラは照れくさそうに鼻の頭をこする。
「早速打ち合わせを始めさせて頂いてもよろしいでしょうか?」
「あ、はい、どうぞどうぞ!」
「え~原稿を読ませて頂いたのですが……」
「はいっす」
「人を『擬モン化』……ですか?」
「ああ、そうっすね」
「これはどういうことでしょうか?」
「人をモンスターにするんすよ」
「……例えば?」
「例えば? 雄々しい男性はドラゴンに、凛々しい女性はペガサスになるっす」
「はい、それは読みましたが……」
男性が隣に座る女性に目配りする。女性が口を開く。
「そのモンスターたちがレースをするんですよね?」
「は、はい、そうっす……」
「何故、レースなんですか?」
「な、何故? そ、それは、汗と涙のスポ根的要素のあるお話を書きたかったからで……」
「……古いですね」
「ふ、古い?」
男性の言葉にアンジェラが面喰らう。男性が続ける。
「根性というものを前面に押し出すと、今の読者は拒否反応を示します」
「そ、そうなんすか?」
「そうなんです。君はどうだい?」
「……とにかく楽して儲けたいですね」
男性の問いかけに女性が答える。男性が視線をアンジェラに戻す。
「……こんな具合です」
「そ、そうは言っても……じゃあどうすればいいんすか?」
「……感動ですね」
「は、はい?」
「涙、涙の感動巨編です。獣と人の心温まるハートウォーミングなストーリー! 獣人でいらっしゃるアンジェラ先生ならではのお話がきっと書けるはずです!」
「まあ、大体の獣とも話せるっすけど……そ、それでもオレは汗と涙のスポ根ストーリーを書きたいんすよ!」
「汗なんかいりません! 君はどうだい?」
「女性読者受けが悪いと思います」
「いや、あんまり女性を意識しすぎるのもどうかと思うんすけど……」
「今日はこの辺で……ありがとうございました」
「え、ええ……」
揃って頭を下げてくる男女に対し、アンジェラは戸惑う。
0
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
スーパーの店長・結城偉介 〜異世界でスーパーの売れ残りを在庫処分〜
かの
ファンタジー
世界一周旅行を夢見てコツコツ貯金してきたスーパーの店長、結城偉介32歳。
スーパーのバックヤードで、うたた寝をしていた偉介は、何故か異世界に転移してしまう。
偉介が転移したのは、スーパーでバイトするハル君こと、青柳ハル26歳が書いたファンタジー小説の世界の中。
スーパーの過剰商品(売れ残り)を捌きながら、微妙にズレた世界線で、偉介の異世界一周旅行が始まる!
冒険者じゃない! 勇者じゃない! 俺は商人だーーー! だからハル君、お願い! 俺を戦わせないでください!
天城の夢幻ダンジョン攻略と無限の神空間で超絶レベリング ~ガチャスキルに目覚めた俺は無職だけどダンジョンを攻略してトップの探索士を目指す~
仮実谷 望
ファンタジー
無職になってしまった摩廻天重郎はある日ガチャを引くスキルを得る。ガチャで得た鍛錬の神鍵で無限の神空間にたどり着く。そこで色々な異世界の住人との出会いもある。神空間で色んなユニットを配置できるようになり自分自身だけレベリングが可能になりどんどんレベルが上がっていく。可愛いヒロイン多数登場予定です。ガチャから出てくるユニットも可愛くて強いキャラが出てくる中、300年の時を生きる謎の少女が暗躍していた。ダンジョンが一般に知られるようになり動き出す政府の動向を観察しつつ我先へとダンジョンに入りたいと願う一般人たちを跳ね除けて天重郎はトップの探索士を目指して生きていく。次々と美少女の探索士が天重郎のところに集まってくる。天重郎は最強の探索士を目指していく。他の雑草のような奴らを跳ね除けて天重郎は最強への道を歩み続ける。
【超速爆速レベルアップ】~俺だけ入れるダンジョンはゴールドメタルスライムの狩り場でした~
シオヤマ琴@『最強最速』発売中
ファンタジー
ダンジョンが出現し20年。
木崎賢吾、22歳は子どもの頃からダンジョンに憧れていた。
しかし、ダンジョンは最初に足を踏み入れた者の所有物となるため、もうこの世界にはどこを探しても未発見のダンジョンなどないと思われていた。
そんな矢先、バイト帰りに彼が目にしたものは――。
【自分だけのダンジョンを夢見ていた青年のレベリング冒険譚が今幕を開ける!】
ハズレスキル【地図化(マッピング)】で追放された俺、実は未踏破ダンジョンの隠し通路やギミックを全て見通せる世界で唯一の『攻略神』でした
夏見ナイ
ファンタジー
勇者パーティの荷物持ちだったユキナガは、戦闘に役立たない【地図化】スキルを理由に「無能」と罵られ、追放された。
しかし、孤独の中で己のスキルと向き合った彼は、その真価に覚醒する。彼の脳内に広がるのは、モンスター、トラップ、隠し通路に至るまで、ダンジョンの全てを完璧に映し出す三次元マップだった。これは最強の『攻略神』の眼だ――。
彼はその圧倒的な情報力を武器に、同じく不遇なスキルを持つ仲間たちの才能を見出し、不可能と言われたダンジョンを次々と制覇していく。知略と分析で全てを先読みし、完璧な指示で仲間を導く『指揮官』の成り上がり譚。
一方、彼を失った勇者パーティは迷走を始める……。爽快なダンジョン攻略とカタルシス溢れる英雄譚が、今、始まる!
やさしい異世界転移
みなと
ファンタジー
妹の誕生日ケーキを買いに行く最中 謎の声に導かれて異世界へと転移してしまった主人公
神洞 優斗。
彼が転移した世界は魔法が発達しているファンタジーの世界だった!
元の世界に帰るまでの間優斗は学園に通い平穏に過ごす事にしたのだが……?
この時の優斗は気付いていなかったのだ。
己の……いや"ユウト"としての逃れられない定めがすぐ近くまで来ている事に。
この物語は 優斗がこの世界で仲間と出会い、共に様々な困難に立ち向かい希望 絶望 別れ 後悔しながらも進み続けて、英雄になって誰かに希望を託すストーリーである。
最遅で最強のレベルアップ~経験値1000分の1の大器晩成型探索者は勤続10年目10度目のレベルアップで覚醒しました!~
ある中管理職
ファンタジー
勤続10年目10度目のレベルアップ。
人よりも貰える経験値が極端に少なく、年に1回程度しかレベルアップしない32歳の主人公宮下要は10年掛かりようやくレベル10に到達した。
すると、ハズレスキル【大器晩成】が覚醒。
なんと1回のレベルアップのステータス上昇が通常の1000倍に。
チートスキル【ステータス上昇1000】を得た宮下はこれをきっかけに、今まで出会う事すら想像してこなかったモンスターを討伐。
探索者としての知名度や地位を一気に上げ、勤めていた店は討伐したレアモンスターの肉と素材の販売で大繁盛。
万年Fランクの【永遠の新米おじさん】と言われた宮下の成り上がり劇が今幕を開ける。
レベルアップに魅せられすぎた男の異世界探求記(旧題カンスト厨の異世界探検記)
荻野
ファンタジー
ハーデス 「ワシとこの遺跡ダンジョンをそなたの魔法で成仏させてくれぬかのぅ?」
俺 「確かに俺の神聖魔法はレベルが高い。神様であるアンタとこのダンジョンを成仏させるというのも出来るかもしれないな」
ハーデス 「では……」
俺 「だが断る!」
ハーデス 「むっ、今何と?」
俺 「断ると言ったんだ」
ハーデス 「なぜだ?」
俺 「……俺のレベルだ」
ハーデス 「……は?」
俺 「あともう数千回くらいアンタを倒せば俺のレベルをカンストさせられそうなんだ。だからそれまでは聞き入れることが出来ない」
ハーデス 「レベルをカンスト? お、お主……正気か? 神であるワシですらレベルは9000なんじゃぞ? それをカンスト? 神をも上回る力をそなたは既に得ておるのじゃぞ?」
俺 「そんなことは知ったことじゃない。俺の目標はレベルをカンストさせること。それだけだ」
ハーデス 「……正気……なのか?」
俺 「もちろん」
異世界に放り込まれた俺は、昔ハマったゲームのように異世界をコンプリートすることにした。
たとえ周りの者たちがなんと言おうとも、俺は異世界を極め尽くしてみせる!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる