【第1章完】スキル【編集】を駆使して異世界の方々に小説家になってもらおう!

阿弥陀乃トンマージ

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第1集

第10話(2)ロマン、純愛、夢(エロ)

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                  ♢

「マルガリータ先生、よろしくお願いします」

「よろしくお願いします」

「は、はい……お手柔らかにお願いします」

 マルガリータは後頭部をぷにぷにと掻く。

「本日の打ち合わせですが……早速内容の方に入らせて頂いてもよろしいでしょうか?」

「あ、はい、構いません」

「原稿を拝読しました」

「ありがとうございます」

「この……『転移したらプロレスラーになった件』ですが……」

「はい」

「ええっとですね……『転移したらプロレスラーになった件』……」

「『転スラ』でいいですよ」

「え?」

「いちいち言うの面倒くさいでしょう? どうぞ略してください」

「よ、よろしいのでしょうか?」

「はい、ボク自身もそう呼んでますから」

「は、はあ……略称が既に出来ているほど、愛着のある作品にこういうことを言うのは少々気が引けるのですが……おい、頼む」

 男性が女性を促す。女性はややウンザリした表情を浮かべた後、真顔になって話す。

「えっと……単刀直入に申し上げます。異世界である『ニッポンのプロレス』……この題材はいささか、いや、かなりニッチ過ぎます。よって、題材変更を提案します」

「ええっ⁉」

 女性の提案にマルガリータが驚く。

「例えば……お願いします」

「はい……『無色転生』というのはどうでしょうか?」

「む、無色⁉」

 男性の言葉にマルガリータは戸惑う。

「ええ、スライムの方ならではの題材ではないかと……」

「ボ、ボクは水色ですけど⁉」

「それは承知しております。ですが、透明なスライムの方もいらっしゃるでしょう?」

「そ、それはそうですけど……て、転生ものですか……」

「はい、人気ジャンルですから! マルガリータ先生の文章力を見て確信しました。先生ならばきっと、一大大河ロマンを書き上げられるはずです! よろしくお願いします!」

「そ、そんな……」

 揃って勢いよく頭を下げてくる男女にマルガリータは当惑する。

                  ♢

「ヨハンナ先生、打ち合わせの方、どうぞよろしくお願いします」

「どうぞよろしくお願いします」

「は、はい、どうぞよろしくお願いします」

 ヨハンナが緊張気味に挨拶を返す。男性が話す。

「それでは早速内容の方に入らせて頂きますが、よろしいでしょうか?」

「はい、どうぞ……」

「えっと、作品のテーマなのですが……」

「ええ、人魚を主役に据えての『異文化コミュニケーション』を主軸にしております」

「そうですか。う~ん……」

 男性が首を傾げる。ヨハンナが尋ねる。

「何かマズいでしょうか?」

「マズくはありませんが、なんというかこう……パンチに欠けますね」

「パ、パンチですか?」

「ええ、そうです」

「で、では、どうすればよろしいでしょうか?」

「……どうかな?」

 男性が隣の女性に尋ねる。女性は一呼吸置いてから話し始める。

「異なる文化同士のコミュニケーションというテーマは良いと思います。ただ、アプローチを変えてみるのもアリかと……」

「アプローチを変える? 例えばどういうことでしょう?」

「広い海に暮らす人魚の方々、その対極に位置するのが……オタク!」

「オ、オタク⁉」

「はい、彼らは非常に狭い世界に生きています」

「少しばかり偏見が過ぎるような……そういうのは人それぞれだと思いますけど……」

「ここはあえてステレオタイプのオタクを投入します! ズバリ!」

 女性が男性に目配せする。男性が口を開く。

「『オタクに優しい人魚姫』! この純愛ラブストーリー! 意外な組み合わせが読者から人気を呼ぶはずです!」

「そういうのは似たような作品がいくつかあるのを聞いたことがあるような……」

「だからですよ! 乗るしかありません! このビッグウェーブに!」

 男性が力強く拳を握る。

「波にはいつも飽きるほど乗っておりますが……」

「それではよろしくお願いします!」

「は、はあ……」

 揃って勢いよく頭を下げてくる男女にヨハンナは困惑する。

                  ♢

「ヘレン先生、本日はよろしくお願いします」

「本日はよろしくお願いします」

「はい、よろしくね~」

 ヘレンはいつもの調子で挨拶する。男性が小声で隣の女性に告げる。

「……おい、今日はお前に任せる」

「ええ? そうやってサボるつもりでしょう?」

「サボるか。しかし、さすがはサキュバス……仕事にならん……」

「下心丸出しだからですよ~」

「失礼な、隠している! ……つもりだったが、心も持っていかれそうだ……」

「しょうがないなあ、手柄横取りだけは止めてくださいよね?」

「……内緒話は終わった?」

「あ! こ、これは失礼しました。早速、打ち合わせの方を始めさせていただきます」

「ええ、お願い~」

 女性の言葉にヘレンは頷く。女性は原稿を見る。

「えっと、こちらの原稿なのですが……」

「うん」

「絵本ですね……」

「そうよ。まあ、絵の方はまだ仮のものだけどね。概ねそういうイメージで進めてもらえばと思っているのよ」

「ふむ……内容もとってもハートウォーミングでした」

「そう、それは良かったわ」

「だからこそ惜しい!」

「ええ?」

 いきなり口を開いた男性にヘレンが驚く。

「サキュバスの方が書いた本ならば、もっと刺激があってもいいはずです!」

「! そ、そんなことをしたら、下手すると発禁処分を食らっちゃうわよ?」

「もちろん、そんなことにはならないように我々も微力ながらお手伝いします!」

「う、うーん……」

「『家族で読めるエロ本』! これはどうでしょうか⁉」

「! ど、どうでしょうかもなにもそれはいくらなんでもマズいでしょう⁉」

「ギリギリを攻めるのです! 他と差をつけるにはこれくらいせねば……無論、今申し上げた『家族で~~』は作品の根底に忍ばせる裏テーマです。これが書き上げられれば、多くの読者――主に男性ですが――に夢を与えることが出来ます。よろしくお願いします!」

「う、う~ん……」

 揃って勢いよく頭を下げてくる男女にヘレンは戸惑う。
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