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第一章
第8話(3) お邪魔します、国風さん
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「どうかしましたか?」
平安が小首を傾げる。
「しらじらしい! 殿方の振りをして手紙を送ってこないで下さい!」
女性が手に持った紙をバタバタさせる。平安は顎に扇子を当てる。
「ふむ……きちんと漢字を使いましたが……」
「所々『かな文字』が混ざっていましてよ!」
「なんと、気を付けたつもりが……逆『土佐日記(とさにっき)』作戦失敗ですね」
「土佐日記?」
首を傾げる平成に令和が説明する。
「日本文学を代表する歌人、紀貫之(きのつらゆき)が934年頃に著した日記文学です。『国司』として土佐国、現在の高知県に赴任していた貫之がその任期を終え、土佐から京に戻るまでの様子を書き記したものです。全てかな文字で書いてあり、後の女流文学にも影響を与えました」
「『猿岩石日記』のさきがけみたいなもんか」
「違うと言いたいところですが……まあ、それで良いでしょう」
「全てかな文字って当たり前じゃないか?」
「……当たり前ではなくってよ」
平成の疑問に女性が答える。
「へ?」
「894年に日本は『遣唐使』を停止……これによって大陸からの直接的な影響から抜け出し、日本独自の文化を形成していくことになる……」
「ああ、白紙に戻したってやつか……って、そういう貴女は誰だっけ?」
「なっ⁉ こんな美貌の持ち主を忘れるとは……」
「自分で言いますか、えっと……」
平成は困惑気味に視線を平安に向ける。平安が呟く。
「彼女も時管局古代課所属の『国風(こくふう)』です」
「ああ、時代の方ですか、どこかでお見かけしたことはあったかなとは思ったんですが……」
「一度見たら忘れないでしょう⁉」
「何かの会合で……垣間から見たのはなんとなく覚えていますが……」
「『垣間見』……平安貴族の恋愛みたいですね」
令和の呟きに国風は狼狽する。
「れ、恋愛⁉ そ、そういうものはきちんと順序を守ってもらわないと! ……ぎゃん!」
その場から移動しようとした国風は転ぶ。平安が苦笑する。
「ああ、『十二単』で無理に動こうとするから……」
その後、部屋に移動し、国風は平成たちと対面する。令和が頭を下げる。
「改めまして……令和です。よろしくお願いします」
「……貴女が新しい時代ね。こちらこそよろしく」
国風は鼻の頭をさすりながら答える。令和が心配そうに尋ねる。
「あの……大丈夫ですか?」
「大丈夫よ」
「もっと動き易い略装を着ればよろしいのに……」
「お客さまを迎えるなら正装でなくては失礼でしょう」
「お客さまって……気心知れたうちでしょう? ひょっとして本当に殿方が訪ねてくるかと思いはった?」
「ほ、ほんの少しだけ……って、そ、そんなわけないでしょう!」
平安の問いに国風は首を左右に振る。
「ほんまに?」
「ほんまですわ!」
「まあ、そういうことにしときましょうか」
平安が口元を抑えて笑う。平成が口を開く。
「しかし、こう言ってはなんですが……似ていますね、平安さんと国風さん」
「髪型が少しちゃいますね」
「え?」
平成が首を捻る。国風が横を向いてみせる。
「わたくしは少し前髪を垂らしている他に、このように『鬢削(びんそ)ぎ』をしております」
「『ファミチキ』?」
「こいつ直接脳内に…! ではなくて鬢削ぎ、両耳の下から出ていて胸の位置辺りで切り揃えられている髪の束です。顔の頬辺りで切りそろえられているのもありますね」
「ああ、なんか見たことある気がするな~」
「現代で言う『姫カット』ですね」
「あら、現代でも流行しているの?」
「ええ、日本に留まらず海外でも」
「それは不思議なものね」
令和の言葉に国風は首を傾げながら頷く。平成が令和に尋ねる。
「みんな『カリスマ美容師』に切ってもらってんのかな?」
「カリスマ美容師って……今時あんまり言わないでしょう」
「烏丸陰陽師⁉」
「そちらは存在してそうですね」
国風の驚きに令和は冷静に答える。
「……それにしてもこちらの流行が悠久の時を超えて、また流行しているのは興味深いことどすなあ~。話してみるとなかなか面白いどす」
平安が感心したように呟く。平成が笑う。
「さすがに十二単を着て歩いている人はいませんけどね」
「それはそうでしょうね、簡単なものでも10㎏はしますから」
「そんなにですか?」
「オシャレも楽ではないということです」
国風は居住まいを正しながら胸を張る。令和が口を開く。
「服装はともかくとして……この時期に花開いた文化は現代日本に及ぼした影響は計りしれないものがあります」
「ほう、例えば?」
「かな文字の定着ももちろんですが……清少納言(せいしょうなごん)が執筆した『枕草子(まくらのそうし)』は日本三大随筆として名高いです」
「ああ、あれはいとおかしいものどしたなあ」
平安がうんうんと頷く。
「暮れの曙、2分58秒で失神KO……ってやつだな」
「『春はあけぼの。ようよう白くなりゆく……』です! ボブサップ戦のことをわざわざ語り継いでどうするのですか! ……他にはやはり紫式部(むらさきしきぶ)の『源氏物語(げんじものがたり)』ですね、世界最古級の長編小説として名高いものです」
「ああ、あれも続きを読むのが待ち遠しいものだったわ」
国風がふむふむと頷く。
「ローラースケートのパフォーマンスが衝撃的だったよな」
「言うと思った……それは『光GENJI』でしょう。私が言っているのは、『光源氏』が主人公の小説です」
「え? しゃかりきコロンブスじゃないの? 壊れそうな物ばかり集めてしまわないの?」
「どんな小説ですか、それは……」
「ふふっ、あの二人の著作が現代でも語り継がれているとは何だか感慨深いどすなあ」
平安が微笑みを浮かべる。令和が尋ねる。
「ライバル関係であったという向きもありますが……?」
「ライバル関係ね……片方は色々と意識していたみたいだけど」
国風が口元を抑える。平成が声を上げる。
「え? サーヴァントとして激しく鎬を削っていたんじゃないですか?」
「そのゲーム脳をいい加減にして下さい……」
令和が呆れる。
平安が小首を傾げる。
「しらじらしい! 殿方の振りをして手紙を送ってこないで下さい!」
女性が手に持った紙をバタバタさせる。平安は顎に扇子を当てる。
「ふむ……きちんと漢字を使いましたが……」
「所々『かな文字』が混ざっていましてよ!」
「なんと、気を付けたつもりが……逆『土佐日記(とさにっき)』作戦失敗ですね」
「土佐日記?」
首を傾げる平成に令和が説明する。
「日本文学を代表する歌人、紀貫之(きのつらゆき)が934年頃に著した日記文学です。『国司』として土佐国、現在の高知県に赴任していた貫之がその任期を終え、土佐から京に戻るまでの様子を書き記したものです。全てかな文字で書いてあり、後の女流文学にも影響を与えました」
「『猿岩石日記』のさきがけみたいなもんか」
「違うと言いたいところですが……まあ、それで良いでしょう」
「全てかな文字って当たり前じゃないか?」
「……当たり前ではなくってよ」
平成の疑問に女性が答える。
「へ?」
「894年に日本は『遣唐使』を停止……これによって大陸からの直接的な影響から抜け出し、日本独自の文化を形成していくことになる……」
「ああ、白紙に戻したってやつか……って、そういう貴女は誰だっけ?」
「なっ⁉ こんな美貌の持ち主を忘れるとは……」
「自分で言いますか、えっと……」
平成は困惑気味に視線を平安に向ける。平安が呟く。
「彼女も時管局古代課所属の『国風(こくふう)』です」
「ああ、時代の方ですか、どこかでお見かけしたことはあったかなとは思ったんですが……」
「一度見たら忘れないでしょう⁉」
「何かの会合で……垣間から見たのはなんとなく覚えていますが……」
「『垣間見』……平安貴族の恋愛みたいですね」
令和の呟きに国風は狼狽する。
「れ、恋愛⁉ そ、そういうものはきちんと順序を守ってもらわないと! ……ぎゃん!」
その場から移動しようとした国風は転ぶ。平安が苦笑する。
「ああ、『十二単』で無理に動こうとするから……」
その後、部屋に移動し、国風は平成たちと対面する。令和が頭を下げる。
「改めまして……令和です。よろしくお願いします」
「……貴女が新しい時代ね。こちらこそよろしく」
国風は鼻の頭をさすりながら答える。令和が心配そうに尋ねる。
「あの……大丈夫ですか?」
「大丈夫よ」
「もっと動き易い略装を着ればよろしいのに……」
「お客さまを迎えるなら正装でなくては失礼でしょう」
「お客さまって……気心知れたうちでしょう? ひょっとして本当に殿方が訪ねてくるかと思いはった?」
「ほ、ほんの少しだけ……って、そ、そんなわけないでしょう!」
平安の問いに国風は首を左右に振る。
「ほんまに?」
「ほんまですわ!」
「まあ、そういうことにしときましょうか」
平安が口元を抑えて笑う。平成が口を開く。
「しかし、こう言ってはなんですが……似ていますね、平安さんと国風さん」
「髪型が少しちゃいますね」
「え?」
平成が首を捻る。国風が横を向いてみせる。
「わたくしは少し前髪を垂らしている他に、このように『鬢削(びんそ)ぎ』をしております」
「『ファミチキ』?」
「こいつ直接脳内に…! ではなくて鬢削ぎ、両耳の下から出ていて胸の位置辺りで切り揃えられている髪の束です。顔の頬辺りで切りそろえられているのもありますね」
「ああ、なんか見たことある気がするな~」
「現代で言う『姫カット』ですね」
「あら、現代でも流行しているの?」
「ええ、日本に留まらず海外でも」
「それは不思議なものね」
令和の言葉に国風は首を傾げながら頷く。平成が令和に尋ねる。
「みんな『カリスマ美容師』に切ってもらってんのかな?」
「カリスマ美容師って……今時あんまり言わないでしょう」
「烏丸陰陽師⁉」
「そちらは存在してそうですね」
国風の驚きに令和は冷静に答える。
「……それにしてもこちらの流行が悠久の時を超えて、また流行しているのは興味深いことどすなあ~。話してみるとなかなか面白いどす」
平安が感心したように呟く。平成が笑う。
「さすがに十二単を着て歩いている人はいませんけどね」
「それはそうでしょうね、簡単なものでも10㎏はしますから」
「そんなにですか?」
「オシャレも楽ではないということです」
国風は居住まいを正しながら胸を張る。令和が口を開く。
「服装はともかくとして……この時期に花開いた文化は現代日本に及ぼした影響は計りしれないものがあります」
「ほう、例えば?」
「かな文字の定着ももちろんですが……清少納言(せいしょうなごん)が執筆した『枕草子(まくらのそうし)』は日本三大随筆として名高いです」
「ああ、あれはいとおかしいものどしたなあ」
平安がうんうんと頷く。
「暮れの曙、2分58秒で失神KO……ってやつだな」
「『春はあけぼの。ようよう白くなりゆく……』です! ボブサップ戦のことをわざわざ語り継いでどうするのですか! ……他にはやはり紫式部(むらさきしきぶ)の『源氏物語(げんじものがたり)』ですね、世界最古級の長編小説として名高いものです」
「ああ、あれも続きを読むのが待ち遠しいものだったわ」
国風がふむふむと頷く。
「ローラースケートのパフォーマンスが衝撃的だったよな」
「言うと思った……それは『光GENJI』でしょう。私が言っているのは、『光源氏』が主人公の小説です」
「え? しゃかりきコロンブスじゃないの? 壊れそうな物ばかり集めてしまわないの?」
「どんな小説ですか、それは……」
「ふふっ、あの二人の著作が現代でも語り継がれているとは何だか感慨深いどすなあ」
平安が微笑みを浮かべる。令和が尋ねる。
「ライバル関係であったという向きもありますが……?」
「ライバル関係ね……片方は色々と意識していたみたいだけど」
国風が口元を抑える。平成が声を上げる。
「え? サーヴァントとして激しく鎬を削っていたんじゃないですか?」
「そのゲーム脳をいい加減にして下さい……」
令和が呆れる。
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