令和ちゃんと平成くん~新たな時代、創りあげます~

阿弥陀乃トンマージ

文字の大きさ
31 / 51
第一章

第8話(2) 平安京名所案内

しおりを挟む
「あ、令和です。初めましてよろしくお願いします」

「これはまた可愛らしい時代はんどすな。立ち話もなんですから、どうぞ乗って下さい」

「は、はい」

「失礼します」

 令和と平成が牛車に乗り込む。狭く見えて、意外とスペースがある。令和は平安の顔を見る。長い髪は座ってもなおたっぷりとしており、切れ長ですっとした目に小さな鼻と口にふっくらとした頬をしている。顔にはさらに白粉を塗っており、眉毛は剃って、代わりにやや高い位置に墨で眉を書いている。平安が笑う。

「ふふっ、この眉が珍しいどすか?」

「す、すみません。こうして間近で見るのは初めてだったもので」

「しかし、いつ見ても見事な『マロ眉』ですね!」

「へ、平成さん! これは『引き眉』というものです!」

「なんでそんな珍妙な眉なんすか?」

「も、もっと気を付けた尋ね方があるでしょう!」

 平成の物言いに令和が慌てる。平安が笑みを浮かべたまま呟く。

「平成はんの好奇心の強さは『検非違使(けびいし)』にも勝りますなあ」

「へびいちご?」

「検非違使、この平安京の警察のようなものです」

「ああ、確かに警察の捜査には首を突っ込むタイプですね」

「面倒臭い方ですね……」

「眉を剃ったり抜いたりするのは……表情の変化を読めなくする為どす」

「え?」

 平安の言葉に令和が首を傾げる。

「眉の動きによってその人間がある程度どういう感情の動きをしているのか分かるものどす。それを悟られないようにする為、白粉の上からこういった眉を塗るんどす」

「はあ……つ、つまり……?」

「今、うちの腸は煮えくり返っている可能性も無きにしも非ずということどす」

「へ、平成さん、謝って下さい!」

「なんで?」

「相手の眉を珍妙扱いしたことをですよ!」

「ユニークな 眉に心を 射抜かれて 思わず問いを 発した次第に」

「な、何言っているのですか⁉」

「ただの謝罪じゃ、雅さが足りないかと思って、歌を詠んでみた」

「どこら辺が雅なのですか⁉」

 令和が愕然とする。

「……雅の定義はともかく、歌を詠んでみるその度胸には感心しました」

「え?」

「初顔合わせの令和はんの手前もあります。このことは水に流すとしましょう」

「な、なんて寛大な……ほ、ほら、平成さんも頭を下げて下さい!」

「あ、ああ……どうも……」

「……気を取り直して、お二方に平安京をご案内しましょう。あまり外を出歩くのははしたないことですから、この牛車から見える範囲ですが……」

 平安が外に視線を向ける。

「あ、ありがとうございます……」

「あ、あちらの路地……」

「はい」

「810年の『薬子(くすこ)の変』で、薬子はんの兄、藤原仲成(ふじわらのなかなり)はんが射殺されたあたりです」

「ええっ⁉」

「平安の長い期間において数少ない死罪どすなあ」

「は、はあ……」

「それより約350年間、この平安京で死刑というものは執行されません」

「へ、へえ……」

「あ、あちらは……」

「は、はい……」

「842年の『承和(じょうわ)の変』で変の首謀者の一人とされた橘逸勢(たちばなのはやなり)はんが拷問された場所どす」

「どえっ⁉」

「杖で何度も体を叩かれたそうどす……」

「ほ、ほお……」

「実際は無実の罪だったらしいんどすが、藤原氏による他氏排斥運動の一連の犠牲になったんどすなあ、気の毒なことです……」

「む、むう……」

「あ、あちらの門どすが……」

「はい……」

「866年の『応天門(おうてんもん)の変』で炎上する応天門どす」

「さ、さっきから、訳ありスポットばかり紹介してないですか⁉」

「たまたまどす」

「嘘だ! やっぱり怒っているんだ! すみません、調子に乗りました!」

 平成は頭を下げる。平安は笑う。

「なんのことやらさっぱりどすなあ……」

「お、恐ろしい……」

 令和は息を呑む。気を取り直した平成が尋ねる。

「それでこの牛車はどこに向かっているんですか?」

「……知り合いのところどす」

「え? ひょっとして恋人ですか?」

「なんでそうなるんどすか?」

 平安が不思議そうに首を傾げる。

「少し言い淀んだからですよ」

「……この頃は本来ならば女性が出歩くことは滅多にありまへん」

「そうなんですか?」

「想いを寄せ合う男性と女性が出会う……いわゆる『デート』っちゅうものはもっぱら女性の家で行われました」

「それじゃあ、違うのか……」

 平成が肩を落とす。令和が苦笑する。

「そんなにがっかりしなくても良いでしょう」

「大体、お二方を引き連れて、殿方と会うてどないするんどすか?」

「う~ん、『スマブラ』とか?」

「無いですよ!」

 令和が突っ込みを入れる。

「ええっ⁉ だって京都だぞ? 『任天堂』の本社があるだろう?」

「今の時期を考えて下さいよ!」

「それもそうか……」

「だからいちいちそんなにがっかりしないで下さい!」

「トランプとかワンチャン……」

「無いですよ!」

「じゃあ、『神経衰弱』とかも出来ないか……」

 平安が興味を示す。

「神経衰弱とは……なにやら物騒な名前どすなあ? どんな遊びどすか?」

「ばらばらに置かれた紙をめくって、同じ数字の組み合わせを自分のものに出来るんです」

「ふむ、『貝合わせ』のようなものどすか……」

 平安が頷く。令和が尋ねる。

「似たような遊びがあるのですね?」

「ええ、そういう遊びをしても面白いかもしれまへんな……あ、着きましたえ」

「平安姉さま! いい加減にして下さい!」

 ある屋敷に入ると、平安に似た女性が出てきて声を上げる。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

四季
恋愛
父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

豊臣徳川両家政務会議録
〜天下のことをだいたい決める会〜

cozy0802
歴史・時代
会議系、歴史回避コメディ。 豊臣と徳川が“なぜか共存している”少し不思議な戦国時代。 そこでは定期的に、「天下のことをだいたい決める会」という政務会議が開かれている。 議長は淀殿。補佐は徳川秀忠殿。参考意見は豊臣秀次様。 そして私は――記録係、小早川秀秋。 議題はいつも重大。 しかし結論はだいたい、 「高度な政治的判断により現状維持」。 関ヶ原の到着時期の差異も、言いにくい史実も、 すべて会議の議事録として“やさしく処理”されていく。 これは、歴史が動きそうで動かない、 両家政務会議の史実回避コメディである。 だが―― この均衡がいつまで続くのかは、誰も知らない。

上司、快楽に沈むまで

赤林檎
BL
完璧な男――それが、営業部課長・**榊(さかき)**の社内での評判だった。 冷静沈着、部下にも厳しい。私生活の噂すら立たないほどの隙のなさ。 だが、その“完璧”が崩れる日がくるとは、誰も想像していなかった。 入社三年目の篠原は、榊の直属の部下。 真面目だが強気で、どこか挑発的な笑みを浮かべる青年。 ある夜、取引先とのトラブル対応で二人だけが残ったオフィスで、 篠原は上司に向かって、いつもの穏やかな口調を崩した。「……そんな顔、部下には見せないんですね」 疲労で僅かに緩んだ榊の表情。 その弱さを見逃さず、篠原はデスク越しに距離を詰める。 「強がらなくていいですよ。俺の前では、もう」 指先が榊のネクタイを掴む。 引き寄せられた瞬間、榊の理性は音を立てて崩れた。 拒むことも、許すこともできないまま、 彼は“部下”の手によって、ひとつずつ乱されていく。 言葉で支配され、触れられるたびに、自分の知らなかった感情と快楽を知る。それは、上司としての誇りを壊すほどに甘く、逃れられないほどに深い。 だが、篠原の視線の奥に宿るのは、ただの欲望ではなかった。 そこには、ずっと榊だけを見つめ続けてきた、静かな執着がある。 「俺、前から思ってたんです。  あなたが誰かに“支配される”ところ、きっと綺麗だろうなって」 支配する側だったはずの男が、 支配されることで初めて“生きている”と感じてしまう――。 上司と部下、立場も理性も、すべてが絡み合うオフィスの夜。 秘密の扉を開けた榊は、もう戻れない。 快楽に溺れるその瞬間まで、彼を待つのは破滅か、それとも救いか。 ――これは、ひとりの上司が“愛”という名の支配に沈んでいく物語。

同じアパートに住む年上未亡人美女は甘すぎる。

ピコサイクス
青春
大学生の翔太は、一人暮らしを始めたばかり。 真下の階に住むのは、落ち着いた色気と優しさを併せ持つ大人の女性・水無瀬紗夜。 引っ越しの挨拶で出会った瞬間、翔太は心を奪われてしまう。 偶然にもアルバイト先のスーパーで再会した彼女は、翔太をすぐに採用し、温かく仕事を教えてくれる存在だった。 ある日の仕事帰り、ふたりで過ごす時間が増えていき――そして気づけば紗夜の部屋でご飯をご馳走になるほど親密に。 優しくて穏やかで――その色気に触れるたび、翔太の心は揺れていく。 大人の女性と大学生、甘くちょっぴり刺激的な同居生活(?)がはじまる。

借金した女(SМ小説です)

浅野浩二
現代文学
ヤミ金融に借金した女のSМ小説です。

母の下着 タンスと洗濯籠の秘密

MisakiNonagase
青春
この物語は、思春期という複雑で繊細な時期を生きる少年の内面と、彼を取り巻く家族の静かなる絆を描いた作品です。 颯真(そうま)という一人の高校生の、ある「秘密」を通して、私たちは成長の過程で誰もが抱くかもしれない戸惑い、罪悪感、そしてそれらを包み込む家族の無言の理解に触れます。 物語は、現在の颯真と恋人・彩花との関係から、中学時代にさかのぼる形で展開されます。そこで明らかになるのは、彼がかつて母親の下着に対して抱いた抑えがたい好奇心と、それに伴う一連の行為です。それは彼自身が「歪んだ」と感じる過去の断片であり、深い恥ずかしさと自己嫌悪を伴う記憶です。 しかし、この物語の核心は、単なる過去の告白にはありません。むしろ、その行為に「気づいていたはず」の母親が、なぜ一言も問い詰めず、誰にも告げず、ただ静かに見守り続けたのか——という問いにこそあります。そこには、親子という関係を超えた、深い人間理解と、言葉にされない優しさが横たわっています。 センシティブな題材を、露骨な描写や扇情的な表現に頼ることなく、あくまで颯真の内省的な視点から丁寧に紡ぎ出しています。読者は、主人公の痛みと恥ずかしさを共有しながら、同時に、彼を破綻から救った「沈黙の救済」の重みと温かさを感じ取ることでしょう。 これは、一つの過ちと、その赦しについての物語です。また、成長とは時に恥ずかしい過去を背負いながら、他者の無償の寛容さによって初めて前を向けるようになる過程であること、そして家族の愛が最も深く現れるのは、時に何も言わない瞬間であることを、静かにしかし確かに伝える物語です。 どうか、登場人物たちの静かなる心の襞に寄り添いながら、ページをめくってください。

JKメイドはご主人様のオモチャ 命令ひとつで脱がされて、触られて、好きにされて――

のぞみ
恋愛
「今日から、お前は俺のメイドだ。ベッドの上でもな」 高校二年生の蒼井ひなたは、借金に追われた家族の代わりに、ある大富豪の家で住み込みメイドとして働くことに。 そこは、まるでおとぎ話に出てきそうな大きな洋館。 でも、そこで待っていたのは、同じ高校に通うちょっと有名な男の子――完璧だけど性格が超ドSな御曹司、天城 蓮だった。 昼間は生徒会長、夜は…ご主人様? しかも、彼の命令はちょっと普通じゃない。 「掃除だけじゃダメだろ? ご主人様の癒しも、メイドの大事な仕事だろ?」 手を握られるたび、耳元で囁かれるたび、心臓がバクバクする。 なのに、ひなたの体はどんどん反応してしまって…。 怒ったり照れたりしながらも、次第に蓮に惹かれていくひなた。 だけど、彼にはまだ知られていない秘密があって―― 「…ほんとは、ずっと前から、私…」 ただのメイドなんかじゃ終わりたくない。 恋と欲望が交差する、ちょっぴり危険な主従ラブストーリー。

処理中です...