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第1章

第1話(1)現状把握からのステータスオープン

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「えっと……」



 俺は現状の把握に努める。裸で砂浜に倒れ込んでいた。おかしい。俺は1DKの自室内で、パソコンでゲームをしていたはずだ。これはどういうことだ?



「……痛っ!」



 ベタな手法だが、俺は自らの頬をつねってみた。痛いな。痛みを感じるということは、どうやら夢の世界にいるわけではないらしい。俺は半身を起こし、顎に手を当てて考える。



「寝ているわけではないのか……? いや、あの時眠くなったわけではないよな……」



 俺は――体感としてはついさっきまでの――行動を思い起こす。急にフラっとして、ゲーミングチェアから転げ落ち、頭をしたたかに床に打ってしまったのだ。そこからの記憶というか、意識がない。俺は出来る限りは考えたくない結論に早目にたどり着く。



「ひょっとして……天に召されたのか?」



 俺はしばらく沈黙する。その後、これでもかと激しく首を左右に振る。



「いやいやいやいや! さすがにあり得ないだろう! そんな馬鹿な!」



 俺は自らの出したあまりにも性急過ぎる結論に対し、思わず苦笑してしまう。



「しかし……他に可能性が……寝落ちするにしても唐突だ……デスクやキーボードに突っ伏すか、チェアの背もたれによりかかるとかならまだ分かるが……チェアから勢いよく落ちた経験はさすがにない……もちろん、あんなにしたたかに頭を打ったことも……」



 俺は自らの頭を撫でる。……うん? ちょっと待て。俺は自らの体を確認する。腹筋が見事にシックスパックを形成しているではないか。これは俺の、中年おじさん一歩手前のだらしない腹ではない! 程よく引き締まった腹をさすりながら俺はその場から立ち上がり、海の方へと向かう。透き通るような色の海だ。日本国内ではまずお目にかかれないのではないかというほど綺麗な海と砂浜だ。あれか? 闇バイトの若者もとい、馬鹿者に頭を殴られて、拉致されて、全財産を没収された挙句、適当に浜辺にでも捨てられたのか?



「……ないない」



 俺は首を静かに左右に振る。貧乏な独身の元社畜の家を襲って、一体何が得られるというのであろうか。金目のものなどない部屋だ。精々パソコンくらいだろうか。それでも犯罪行為をしてまで狙うメリットは皆無だ。俺は何気なく海を覗き込む。



「うん……⁉」



 俺は海面に映る自らの顔を見て驚く。な、なんだ、この顔は……。海面には冴えない眼鏡の、牛丼屋でチーズ牛丼を食べていそうな男ではなく、なんというか、今ひとつ特徴に乏しい男が映っていた。決してイケメンとは形容出来ないが、かといって醜男と卑下するほどでもない、なんとも凡庸な顔面の男だ。体つき自体は筋肉質ではあるが……特別大柄というわけでもない。平均的な体格であろうか。俺は海面から目を離して水平線を眺めながら呟く。



「なにか……どこかで見覚えがあるような……」



 俺は顎をさすりながら考えてみる。それから何度か、海面に自らの顔を映してみる。こんなに自らの顔を確認するなんていうことは今までの人生においてない。何度目かの確認の後、俺はハッと気が付く。



「この雰囲気というか、肌質は……『レジェンドオブ』のキャラクターのそれだ! ……って、いやいやいやいや!」



 俺は再び首を左右に激しく振る。つまり……どういうことだ? いや、恐らくは……そういうことなのか? 俺は砂浜で目覚めた当初から心のどこかで抱えていた荒唐無稽な結論を導き出してしまう。ある意味、そうであって欲しいという『願望』だったのかもしれない。



「俺……『レジェンドオブインフィニティ』の世界に転生しちゃったのか……⁉」



 俺は我慢しきれずに、その結論を口に出してしまった。やや間を置いてから、俺は自分で盛大に噴き出す。



「ぶっ! な、なにを馬鹿なことを……! そんなことあり得ない……!」



 俺は三度首を左右に激しく振り、後頭部を強めに撫でる――ちなみに髪の毛色は黒で、長すぎもせず、短すぎもせずと言ったところだ――しかし……。



「それ以外に説明がつかない……」



 そう、その他に自分を納得させるに足る材料が無いのだ。



いわゆる『異世界転生』、『ゲーム世界に転移』……現世で命を落とす、もしくは何らかのアクシデントに見舞われ、別の世界へと転生または転移するということ……そういった類の小説やら漫画やらアニメが巷で流行しているということくらいは知っている。だが、まさか、自分がそういう状況に陥るとは……。というか、現実で本当に起こり得るとは……。



「こうなった場合は……」



 俺は考え込む。まあ、一番に頭に浮かぶのは、『現世への帰還』だ。いきなり「おめでとうございます! 貴方は大好きなゲームの世界に転移しました!」と言われて――正確には誰にも言われてないが――有頂天になってしまうほど、俺はおめでたい性格ではない。ノリが悪い? 確かにそうかもしれないが、いきなり現実ではない世界に放り込まれて、「ヒャッハー!」となる方がおかしいだろう。



「元に戻るには……ゲームオーバーになることか? ……それは嫌だな」



 俺は即座に自分の呟きを否定する。この『レジェンドオブ』シリーズでゲームオーバーになるというのは、「死」である。ゲームではセーブ機能が搭載されていて、例えば戦闘で負けても、セーブした地点からやり直すことが出来るが、ゲームの世界が現実の世界になったわけで――ややこしいな――セーブするなんて都合の良いことが出来るとは思えない。



 ゲームの仕様的にいわゆる「自死する」ということも出来ない。やってみたら、もしかしたら出来るのかもしれないが、とてもそんなことをする度胸は俺にはない。



「となると、答えは自ずと決まってくるよな……この『レジェンドオブインフィニティ』の世界で生き抜く!」



 俺は力強く頷く。そして躊躇いがちに――というか、かなり恥ずかしい――あのセリフを口にしてみることにする。俺は適当な高さに右手を掲げてみて、あのセリフを言う。



「ス、『ステータスオープン』!」



 すると、なにも無かった所に黒地に白い文字列が記された四角い画面が表示される。



「!」



 俺は一瞬ドキッとする。ほ、本当に出てきた……。これがいわゆる『ステータス画面』か? まさか己のステータスを視覚的に確認することになるとはな……。だが、この世界で生き抜く為には、自身の能力はしっかりと把握しておかなくてはならない。し、しかし……。



「が、画面、横じゃね?」



 そう、画面が俺に対して横になっているのだ。これでは画面の文字が読みにくくてしょうがない。これはどういうことなんだ? まあ、読めないこともないが……俺は覗き込むようにしてステータス画面を確認してみる。



【名前】:キョウ

【種族】:人間

【職業】:無職



【体力】:8

【魔力】:8



【力】:8

【素早さ】:8

【技量】:8

【知力】:8

【精神力】:8

【運】:8 



【スキル】:??????????



「⁉」



 ちょ、ちょっと待て……! ぜ、全部のステータスがそれぞれたったの8しかないじゃないか⁉ こ、これって……ひょっとして……。



「モブキャラに転生してしまった……ってこと⁉」
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