ゲームのモブに転生したと思ったら、チートスキルガン積みのバグキャラに!? 最強の勇者? 最凶の魔王? こっちは最驚の裸族だ、道を開けろ

阿弥陀乃トンマージ

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第1章

第1話(4)バグキャラに転生……ってこと!?

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「な、なにをぶつぶつとわけのわからねえことを言ってやがる!」



 ジャックが声を上げる。まあ、そりゃあ分からないだろうな、他ならぬ俺自身もよく分かっていないんだから……。



「ふう……」



 俺はジャックたちの方にゆっくりと歩み寄る。



「うっ……」



 囚人連中が徐々に後ずさりをする。数では圧倒しているのにも関わらず、たった一人の俺に対してビビっているのが分かる。



「さてと……」



 俺は首元を片手で抑えながら、首を動かし、首の骨をポキポキと鳴らす。この行動に特に意味はない。なんとなくやってみたかっただけだ。当然のごとく「さてと……」とか言う呟きにも何の意味もない。この後はまったくのノープランだからだ。何故か? 幸いなことに前世でも喧嘩の類はしたことがないからだ。あ、そういえばカツアゲされたことはあったな……思い出したら、なんか無性に腹が立ってきたな……。



「ううっ……」

「て、てめえら、ビビってんじゃねえ!」

「で、でも、ジャックの兄貴……」

「でももへちまもねえ! 数では有利なんだ! 数人がかりでとっちめてしまえ!」



 ジャックが声を荒げる。囚人たちは互いの顔を見合わせる。



「ああ、なるほど!」

「その手があったな……!」



 囚人たちは後ずさりをやめて、俺を包囲するようにして広がる。ジャックが自らの禿頭を撫でながら呟く。



「ったく、ようやく分かりやがったか……」



 囚人たちが徐々に俺への包囲を狭めてくる。



「とりあえず抑えるぞ!」

「ああ、動きを塞いじまえば、こっちのもんだ!」

「行くぞ! せーの……」

「それっ!」

「おっと!」

「なっ⁉」



 四方向から俺を捕らえようと、太った囚人たちが一斉に飛びかかってきたが、俺は高くジャンプして空中へと逃げる。囚人たちが面食らう。



「な、なんて高さだ!」

「落ち着け! 着地の時は無防備だ!」

「そ、それもそうだな!」

「落下点は……向こうだ! 待ち伏せろ!」

「……よっ!」

「なにっ⁉」

「ほっ!」

「はあっ⁉」



 俺は歩くようにして、空中を軽やかに移動する。囚人たちの驚く顔が見える。かくいう俺も戸惑っている。まさかと思ったが……。



「これは……ん?」



 俺の足元辺りにステータス画面よりは小さいウィンドウが表示される。それにはこのようなことが書いてあった。



「【特殊スキル:空中歩行】を発動しました」



 これは情報ウィンドウってやつか……それにしても空中歩行とは……もはやほとんど空を飛んでいるようなものじゃないか……。なるほど、特殊スキルか……。俺は空中での散歩を楽しみながら、腕を組んで頷く。

 

「そらっ!」

「ぐえっ⁉」

「そりっ!」

「げえっ⁉」

「それっ!」

「ごえっ⁉」



 俺は空中から降り立つと同時に、囚人たちの頭や顔を踏みつけて回る。思わぬ攻撃を食らった囚人たちはその場に次々と崩れ落ちる。一通り踏みつけ終わった俺は砂浜に着地する。



「ざっとこんなもんだ……」



 俺はジャックをじっと見つめる。



「むうっ……」

「どうする? お味方はもうほとんど使い物にならなくなったみたいだが……」

「くっ……」



 ジャックが唇を噛む。俺は再びジャックの方にゆっくりと近づく。



「どうするかと聞いているんだが……」

「お、お前、名前は?」

「え? ……キョウだ」

「そ、そうか、キョウ、どうだ、俺と組まねえか?」

「……はあ?」



 俺は首を傾げる。



「手を組まねえかってことだよ。お前の強さがかなりのもんだということはよ~く分かった。だがな、強いばかりじゃ世の中っていうのは渡っていけねえんだぜ?」

「悪党が偉そうに説教か?」

「そりゃあ、そんな恰好を見たら、誰だって一言くらい言いたくなるってもんだ」

「む……」



 俺は思わず黙り込む。ほぼほぼ全裸だからな。ジャックはニヤリと笑う。



「旗頭はお前さんでいい。兵隊や資金集めは俺に任せとけ。一緒にこの国を盗ろうぜ……」

「……」

「どうした?」

「俺のこれからの生き方は俺自身が決める……」

「!」

「俺に指図するな」

「はっ、交渉決裂か! 残念だぜ! あばよ!」



 ジャックが俺に向かって銃を発砲してくる。だが、俺は自分でも不思議なくらい慌てなかった。銃弾がゆっくりとこちらに向かってきたからだ。小さなウィンドウが表示される。



「【特殊スキル:スローモーション】を発動しました」



 そんなスキルまであるとは……俺はデコピンの形を作り、銃弾に向ける。



「……ほいっと」

「⁉」



 俺のデコピンで弾かれた銃弾がジャックの左胸に当たる。ジャックが仰向けに倒れる。



「あっ……やっちまったか……?」

「……な、なんだってんだ、てめえは⁉ 銃弾を弾き返しやがったのか⁉ ばあちゃんの形見の懐中時計が無かったらヤバかったぞ⁉ 何をしやがった⁉」



 半身を起こしたジャックが胸ポケットから銃弾のめり込んだ時計を取り出して叫ぶ。



「何をって……デコピンだけど……」

「デ、デコピン⁉ わけのわからねえことを! こ、ここはずらかる!」



 ジャックは囚人たちを置いて、わずかな取り巻きとともにその場を後にする。



「あ、逃げられた……。しかし……もしかして俺はあれか? モブキャラじゃなくてバグキャラに転生したってことか? それなら別に全裸でも良いか! あっはっはっは!」

 

 生まれて初めての戦闘を切り抜けた俺はテンションが妙なベクトルに上がってしまって、仁王立ちをしたまま高笑いをする。
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