9 / 63
第一章
第2レース(4)訓練開始
しおりを挟む
教練場に学校指定の赤いジャージに着替えた炎仁たちが緊張した面持ちで並ぶ。そこに真黒なジャージに着替えた鬼ヶ島が現れる。
「ふむ……遅刻者はいないか」
「あ、あの~?」
「なんだ、金糸雀?」
おずおずと手を挙げたレオンに鬼ヶ島は鋭い視線を向ける。視線で人を貫けるのではないかという程だ。レオンは青い瞳を潤ませながら、勇気を振り絞って尋ねる。
「初日の午後はレクリエーションだと、頂いた資料では書いてあったかと……」
「それは忘れろ」
「え?」
鬼ヶ島の言葉にレオンが首を傾げる。鬼ヶ島はため息を一つ挟んで説明する。
「諸君らも承知している通り、ここは関東競竜学校だ。『JDRA』……ジパング・ドラゴン・レーシング・アソシエーション、またの名を『ジパング中央競竜会』が作った学校だ。その騎手課程の目的はなんだ? 当然、騎手を育成することだ。しかしただの騎手ではない。プロの世界でも通用する騎手を育成しなければならない」
「……」
黙り込む学生たちの前で、鬼ヶ島は説明を続ける。
「通常課程では三年かけて騎手を育成する。地方競竜にもいくつか学校があるが、そこも二年だな。それをこの短期コースを受講する諸君らは一年で全てのカリキュラムをこなすという……これがどういう意味が分かるか、撫子?」
「通常の三倍の速さでこなさければなりませんわね」
鬼ヶ島の突然の問いに撫子飛鳥が落ち着いて答える。
「そうだ。つまり、諸君らには時間などいくらあっても足りないということだ……ここまでは分かったか、三日月」
「はい、よくわかりました」
三日月海が淡々と答える。
「よって、休みも週一日だ! もっとも諸君らのドラゴンの世話もある……まだまだ手のかかる一歳竜……実質休みはないものと思え!」
「!」
何人かが「マジかよ」と言った表情を浮かべる。それを鬼ヶ島は見逃さない。
「中列の二人と後列の両端、たるんでいるな、この教練場外周十周だ、早くしろ!」
「ふふっ……」
「何がおかしい? 草薙」
「時間ないって言っていたのに、罰走すか。それこそ時間の無駄じゃないすか?」
「余計な口答えは許さん、草薙……体力自慢の貴様は三十周だ」
「へいへい……」
草薙嵐一は走り出す。他の学生も渋々ながら走り出す。鬼ヶ島が皆に向き直る。
「言いたいことは分かったな! それでは早速ドラゴンを使った実習に入る! 各自厩舎に向かい、竜具などを装具し、隣のコースに集まれ! 十分以内だ!」
「はい!」
炎仁たちは戸惑いながら大声で返事をして、厩舎に向かう。
「ああ、朝日、天ノ川、金糸雀、お前らはいい。こっちに来い」
「え、なんすか?」
「朝日青空、ドラゴンでの通学……前代未聞の行為だ」
「その方が早く着くなって思ったんで」
朝日青空は悪気なく舌を出す。
「天ノ川翔、敷地内でドローンを使用、あまつさえそれに乗って飛行するとは……」
「便利なものは使いたくなるので……」
天ノ川翔は悪びれもせずに答える。
「金糸雀レオン、煙幕など怪しげな物を所持、さらに使用……」
「いや、あの場合は致し方なかったというか……」
「お前らは外周二十周だ」
「え~」
三人とも不満そうな声を上げながら走り出す。鬼ヶ島はため息をついて呟く。
「……今年もまた随分と癖の強い奴が集まったな」
「真帆」
厩舎で準備をしながら、炎仁は隣の竜房にいる真帆に話しかける。
「なに?」
「いや、なにって……なんでお前がここにいるんだよ」
「そりゃあ入学したからよ」
「それはそうだが……竜術競技は良いのか?」
「興味関心が移ったのよ。そんなにいけないこと?」
「べ、別にいけなくはないが……なんで一言言ってくれなかったんだ?」
「炎ちゃんも何も相談してくれなかったじゃない、そのお返しよ」
真帆が炎仁の顔を見て悪戯っぽくウインクする。
「……しかし、推薦人の確保は俺より容易そうだが、よく競走竜を確保出来たな」
「親戚を当たってみたら、一頭いたわ、この『コンペキノアクア』がね」
真帆が竜房からドラゴンを曳いて出る。紺碧色のドラゴンが大人しく歩く。
「水竜か」
「ええ、とっても聞き分けの良い子よ……それが炎ちゃんのドラゴンね。あら? 冠名をつけたの?」
「ああ、『グレンノイグニース』だ。紅蓮牧場の竜だからな」
二人は厩舎を出て他の学生とともに、教練場へと戻る。鬼ヶ島が早速指示する。
「よし、騎乗!」
ドラゴンの背中辺りをポンポンと叩くと、ドラゴンはしゃがみ、人間が跨りやすい体勢になる。これによって、人間は補助なしでも騎乗することが出来る。競走竜や竜術競技用の竜には初めのうちに教える動きである。皆、苦もなく騎乗する。
「よっと……」
炎仁もすっかり慣れたものである。鬼ヶ島は頷くと、次の指示を出す。
「諸君らの訓練は私を含め、四人の担当教官で見る。あそこに竜に跨った教官がいるだろう? 3ハロン、600mだ。あそこまでドラゴンを走らせろ。一頭三回ずつだ」
「……」
「一本目はスローペース、1ハロン11秒台、つまり3ハロンを33秒台、次は平均ペース、1ハロン10秒台、最後はハイペース、1ハロン10秒を切るタイムで走らせろ」
「えっ⁉」
真帆が思わず驚きの声を上げる。
「どうした紺碧?」
「い、いえ、タイム指定ですか?」
「さっきも言っただろう? 諸君らには時間が無い。『まずはドラゴンをまっすぐ走らせましょう』、『コーナーリングのコツは……』などと悠長なことを言っている場合ではないのだ」
「は、はい……」
「分かったのなら、二頭ずつ走れ」
炎仁たちの顔にも緊張が走る。もうふるい分けは始まっているのだ。
「ふう……」
ペースランニングが終わり、真帆が安堵のため息をつきながら戻ってくる。流石に騎乗スタイルは様になっている。
「よし、次は……」
鬼ヶ島が次々と訓練メニューを提示する。炎仁たちは戸惑いながらもそれらをなんとかこなしていく。
「はあ、はあ……」
「今日のところはこの辺りにしておくか。それでは最後に模擬レースをする。左周り1000m、四頭で行う。結果は問わん、志願者はいるか?」
「は、はい!」
真帆が手を挙げる。鬼ヶ島が笑う。
「ふむ、やる気は十分だな、後の三人は……」
「はい」
炎仁と二人の女が同時に手を挙げる。
「ふむ、紅蓮と茶田姉妹か。よし、準備しろ」
「……」
炎仁たちがスタート地点につく。スタート地点の教官が声を上げる。
「スタート!」
炎仁たちがスタートする。大きく出遅れてしまった炎仁以外は良いスタートを切った。三頭がほぼ横並びで進み、最初のコーナーに差し掛かる。
「ぐっ!」
真帆の乗るコンペキノアクアが若干よろける。後ろから見ていた炎仁が驚く。
「真帆!」
「ちょ、ちょっと! ぶつかっていますよ!」
真帆が怒りを抑えた声で抗議する。
「ぶつけてんのよ!」
「ええっ⁉」
相手の思わぬ返事に真帆は驚く。コンペキノアクアを挟み込むように走る茶色い竜体をした二頭のドラゴンの内、一頭がやや前に出て、真帆たちの進路を防ぐ。
「『金メダルとダービージョッキーの二冠』? 舐めたこと言わないでくれる?」
「そ、それは記者さんたちが勝手に言っていることで……」
「アンタみたいなお遊び気分のお嬢さんが一番気に食わないのよ!」
「今日の訓練も内容悪かったじゃない!」
「そうそう、経歴に傷が付く前にさっさと辞めたら⁉」
「くっ……」
真帆は唇を噛む。茶田姉妹の言う通り、訓練内容は自分が一番良くなかった。競竜転向からたった数か月の練習だけでは所詮付け焼刃に過ぎないということを痛感した。だからこそこの模擬レースで挽回しようと思い志願した。教官は結果を問わないと言ったが、やはり一着の方が印象は良いだろう。しかし状況は芳しくない。
「そらっ!」
「⁉」
前に出た一頭が巧妙に芝生を蹴り上げる。真帆たちの顔にかかり、またもや若干よろけてしまい、真帆はコンペキノアクアを後退させる。茶田姉妹が笑う。
「ははっ! そこで下げるって! 勝つ気あるの?」
(内側は完全に閉じられてしまった……外に持ち出す? いや、この人たちは対応してくるはず。悔しいけどこのまま行くしかないか……)
「真帆!」
「⁉」
炎仁の言葉に真帆は驚いて視線を向ける。
「諦めるな! チャンスはある! 集中を切らすな!」
「!」
真帆は視線を前に戻し、あえて竜体を前進させる。茶田姉妹はそれを見て笑う。
「竜術競技のように飛越してくる? 高速で走りながらそれをやるのは困難よ」
「……ここ!」
「何っ⁉」
最後のコーナーで二頭のドラゴンのコーナーリングにやや乱れが生じたところを真帆は見逃さなかった。大体はここで滑空させるのだが、真帆はコンペキノアクアに細かいステップを踏ませ、二頭の間隙を縫わせるように走り、先頭に躍り出る。
「くっ⁉」
「馬鹿な⁉」
レースはコンペキノアクアの一着で終わった。鬼ヶ島が口を開く。
「初日にしては見ごたえのあるレースを見せてもらった……茶田姉妹、貴様らは退校だ。荷物をまとめて帰れ。妨害行為が目に余る。我々の目は誤魔化せんぞ」
「ええっ⁉」
「確かにドラゴンレースというものは多少の接触ありきで、レースによっては妨害ありのものもある……しかし、今はそういった指定はしていない……事故につながりかねない危険な騎乗だ。そんな者たちに教えることはない、さっさと去れ!」
「ぐっ……」
茶田姉妹が悔しそうにその場を後にする。やや間を空けて鬼ヶ島が皆に告げる。
「今日はここまで、ドラゴンを竜房に戻せ」
厩舎では真帆が皆に囲まれる。飛鳥と海、青空が声をかける。
「紺碧さん、実に見事な騎乗でしたわ!」
「コーナーでステップワークを多用……その発想はありませんでした」
「今度はアタシと勝負しようぜ!」
「ははは……まだまだだから……」
真帆は戸惑い気味に答える。
「ふふっ……」
そんな様子を見て、炎仁は笑みを浮かべる。レオンが声を掛けてくる。
「笑っている場合かい?」
「え?」
「出遅れてほとんど見せ場なく終わったじゃないか。危機感を持った方が良いよ?」
「さ、早速罰走喰らった奴に言われたくねえよ」
「うぐっ⁉ こ、これから挽回してみせるさ」
「俺だってそのつもりだ!」
「……上がり3ハロンは最速か。グレンノイグニース、面白いかもしれんな……」
教練場に一人残った鬼ヶ島は名簿を眺めながら呟く。
「ふむ……遅刻者はいないか」
「あ、あの~?」
「なんだ、金糸雀?」
おずおずと手を挙げたレオンに鬼ヶ島は鋭い視線を向ける。視線で人を貫けるのではないかという程だ。レオンは青い瞳を潤ませながら、勇気を振り絞って尋ねる。
「初日の午後はレクリエーションだと、頂いた資料では書いてあったかと……」
「それは忘れろ」
「え?」
鬼ヶ島の言葉にレオンが首を傾げる。鬼ヶ島はため息を一つ挟んで説明する。
「諸君らも承知している通り、ここは関東競竜学校だ。『JDRA』……ジパング・ドラゴン・レーシング・アソシエーション、またの名を『ジパング中央競竜会』が作った学校だ。その騎手課程の目的はなんだ? 当然、騎手を育成することだ。しかしただの騎手ではない。プロの世界でも通用する騎手を育成しなければならない」
「……」
黙り込む学生たちの前で、鬼ヶ島は説明を続ける。
「通常課程では三年かけて騎手を育成する。地方競竜にもいくつか学校があるが、そこも二年だな。それをこの短期コースを受講する諸君らは一年で全てのカリキュラムをこなすという……これがどういう意味が分かるか、撫子?」
「通常の三倍の速さでこなさければなりませんわね」
鬼ヶ島の突然の問いに撫子飛鳥が落ち着いて答える。
「そうだ。つまり、諸君らには時間などいくらあっても足りないということだ……ここまでは分かったか、三日月」
「はい、よくわかりました」
三日月海が淡々と答える。
「よって、休みも週一日だ! もっとも諸君らのドラゴンの世話もある……まだまだ手のかかる一歳竜……実質休みはないものと思え!」
「!」
何人かが「マジかよ」と言った表情を浮かべる。それを鬼ヶ島は見逃さない。
「中列の二人と後列の両端、たるんでいるな、この教練場外周十周だ、早くしろ!」
「ふふっ……」
「何がおかしい? 草薙」
「時間ないって言っていたのに、罰走すか。それこそ時間の無駄じゃないすか?」
「余計な口答えは許さん、草薙……体力自慢の貴様は三十周だ」
「へいへい……」
草薙嵐一は走り出す。他の学生も渋々ながら走り出す。鬼ヶ島が皆に向き直る。
「言いたいことは分かったな! それでは早速ドラゴンを使った実習に入る! 各自厩舎に向かい、竜具などを装具し、隣のコースに集まれ! 十分以内だ!」
「はい!」
炎仁たちは戸惑いながら大声で返事をして、厩舎に向かう。
「ああ、朝日、天ノ川、金糸雀、お前らはいい。こっちに来い」
「え、なんすか?」
「朝日青空、ドラゴンでの通学……前代未聞の行為だ」
「その方が早く着くなって思ったんで」
朝日青空は悪気なく舌を出す。
「天ノ川翔、敷地内でドローンを使用、あまつさえそれに乗って飛行するとは……」
「便利なものは使いたくなるので……」
天ノ川翔は悪びれもせずに答える。
「金糸雀レオン、煙幕など怪しげな物を所持、さらに使用……」
「いや、あの場合は致し方なかったというか……」
「お前らは外周二十周だ」
「え~」
三人とも不満そうな声を上げながら走り出す。鬼ヶ島はため息をついて呟く。
「……今年もまた随分と癖の強い奴が集まったな」
「真帆」
厩舎で準備をしながら、炎仁は隣の竜房にいる真帆に話しかける。
「なに?」
「いや、なにって……なんでお前がここにいるんだよ」
「そりゃあ入学したからよ」
「それはそうだが……竜術競技は良いのか?」
「興味関心が移ったのよ。そんなにいけないこと?」
「べ、別にいけなくはないが……なんで一言言ってくれなかったんだ?」
「炎ちゃんも何も相談してくれなかったじゃない、そのお返しよ」
真帆が炎仁の顔を見て悪戯っぽくウインクする。
「……しかし、推薦人の確保は俺より容易そうだが、よく競走竜を確保出来たな」
「親戚を当たってみたら、一頭いたわ、この『コンペキノアクア』がね」
真帆が竜房からドラゴンを曳いて出る。紺碧色のドラゴンが大人しく歩く。
「水竜か」
「ええ、とっても聞き分けの良い子よ……それが炎ちゃんのドラゴンね。あら? 冠名をつけたの?」
「ああ、『グレンノイグニース』だ。紅蓮牧場の竜だからな」
二人は厩舎を出て他の学生とともに、教練場へと戻る。鬼ヶ島が早速指示する。
「よし、騎乗!」
ドラゴンの背中辺りをポンポンと叩くと、ドラゴンはしゃがみ、人間が跨りやすい体勢になる。これによって、人間は補助なしでも騎乗することが出来る。競走竜や竜術競技用の竜には初めのうちに教える動きである。皆、苦もなく騎乗する。
「よっと……」
炎仁もすっかり慣れたものである。鬼ヶ島は頷くと、次の指示を出す。
「諸君らの訓練は私を含め、四人の担当教官で見る。あそこに竜に跨った教官がいるだろう? 3ハロン、600mだ。あそこまでドラゴンを走らせろ。一頭三回ずつだ」
「……」
「一本目はスローペース、1ハロン11秒台、つまり3ハロンを33秒台、次は平均ペース、1ハロン10秒台、最後はハイペース、1ハロン10秒を切るタイムで走らせろ」
「えっ⁉」
真帆が思わず驚きの声を上げる。
「どうした紺碧?」
「い、いえ、タイム指定ですか?」
「さっきも言っただろう? 諸君らには時間が無い。『まずはドラゴンをまっすぐ走らせましょう』、『コーナーリングのコツは……』などと悠長なことを言っている場合ではないのだ」
「は、はい……」
「分かったのなら、二頭ずつ走れ」
炎仁たちの顔にも緊張が走る。もうふるい分けは始まっているのだ。
「ふう……」
ペースランニングが終わり、真帆が安堵のため息をつきながら戻ってくる。流石に騎乗スタイルは様になっている。
「よし、次は……」
鬼ヶ島が次々と訓練メニューを提示する。炎仁たちは戸惑いながらもそれらをなんとかこなしていく。
「はあ、はあ……」
「今日のところはこの辺りにしておくか。それでは最後に模擬レースをする。左周り1000m、四頭で行う。結果は問わん、志願者はいるか?」
「は、はい!」
真帆が手を挙げる。鬼ヶ島が笑う。
「ふむ、やる気は十分だな、後の三人は……」
「はい」
炎仁と二人の女が同時に手を挙げる。
「ふむ、紅蓮と茶田姉妹か。よし、準備しろ」
「……」
炎仁たちがスタート地点につく。スタート地点の教官が声を上げる。
「スタート!」
炎仁たちがスタートする。大きく出遅れてしまった炎仁以外は良いスタートを切った。三頭がほぼ横並びで進み、最初のコーナーに差し掛かる。
「ぐっ!」
真帆の乗るコンペキノアクアが若干よろける。後ろから見ていた炎仁が驚く。
「真帆!」
「ちょ、ちょっと! ぶつかっていますよ!」
真帆が怒りを抑えた声で抗議する。
「ぶつけてんのよ!」
「ええっ⁉」
相手の思わぬ返事に真帆は驚く。コンペキノアクアを挟み込むように走る茶色い竜体をした二頭のドラゴンの内、一頭がやや前に出て、真帆たちの進路を防ぐ。
「『金メダルとダービージョッキーの二冠』? 舐めたこと言わないでくれる?」
「そ、それは記者さんたちが勝手に言っていることで……」
「アンタみたいなお遊び気分のお嬢さんが一番気に食わないのよ!」
「今日の訓練も内容悪かったじゃない!」
「そうそう、経歴に傷が付く前にさっさと辞めたら⁉」
「くっ……」
真帆は唇を噛む。茶田姉妹の言う通り、訓練内容は自分が一番良くなかった。競竜転向からたった数か月の練習だけでは所詮付け焼刃に過ぎないということを痛感した。だからこそこの模擬レースで挽回しようと思い志願した。教官は結果を問わないと言ったが、やはり一着の方が印象は良いだろう。しかし状況は芳しくない。
「そらっ!」
「⁉」
前に出た一頭が巧妙に芝生を蹴り上げる。真帆たちの顔にかかり、またもや若干よろけてしまい、真帆はコンペキノアクアを後退させる。茶田姉妹が笑う。
「ははっ! そこで下げるって! 勝つ気あるの?」
(内側は完全に閉じられてしまった……外に持ち出す? いや、この人たちは対応してくるはず。悔しいけどこのまま行くしかないか……)
「真帆!」
「⁉」
炎仁の言葉に真帆は驚いて視線を向ける。
「諦めるな! チャンスはある! 集中を切らすな!」
「!」
真帆は視線を前に戻し、あえて竜体を前進させる。茶田姉妹はそれを見て笑う。
「竜術競技のように飛越してくる? 高速で走りながらそれをやるのは困難よ」
「……ここ!」
「何っ⁉」
最後のコーナーで二頭のドラゴンのコーナーリングにやや乱れが生じたところを真帆は見逃さなかった。大体はここで滑空させるのだが、真帆はコンペキノアクアに細かいステップを踏ませ、二頭の間隙を縫わせるように走り、先頭に躍り出る。
「くっ⁉」
「馬鹿な⁉」
レースはコンペキノアクアの一着で終わった。鬼ヶ島が口を開く。
「初日にしては見ごたえのあるレースを見せてもらった……茶田姉妹、貴様らは退校だ。荷物をまとめて帰れ。妨害行為が目に余る。我々の目は誤魔化せんぞ」
「ええっ⁉」
「確かにドラゴンレースというものは多少の接触ありきで、レースによっては妨害ありのものもある……しかし、今はそういった指定はしていない……事故につながりかねない危険な騎乗だ。そんな者たちに教えることはない、さっさと去れ!」
「ぐっ……」
茶田姉妹が悔しそうにその場を後にする。やや間を空けて鬼ヶ島が皆に告げる。
「今日はここまで、ドラゴンを竜房に戻せ」
厩舎では真帆が皆に囲まれる。飛鳥と海、青空が声をかける。
「紺碧さん、実に見事な騎乗でしたわ!」
「コーナーでステップワークを多用……その発想はありませんでした」
「今度はアタシと勝負しようぜ!」
「ははは……まだまだだから……」
真帆は戸惑い気味に答える。
「ふふっ……」
そんな様子を見て、炎仁は笑みを浮かべる。レオンが声を掛けてくる。
「笑っている場合かい?」
「え?」
「出遅れてほとんど見せ場なく終わったじゃないか。危機感を持った方が良いよ?」
「さ、早速罰走喰らった奴に言われたくねえよ」
「うぐっ⁉ こ、これから挽回してみせるさ」
「俺だってそのつもりだ!」
「……上がり3ハロンは最速か。グレンノイグニース、面白いかもしれんな……」
教練場に一人残った鬼ヶ島は名簿を眺めながら呟く。
0
あなたにおすすめの小説
「美少女157人も召喚できるだと!?」社畜の俺、尖ったトラウマを全部『まあるく』収めて大賢者になる。── やっぱりせかいはまあるいほうがいい
あとりえむ
ファンタジー
『ヒロイン全員 挿絵付き』の異世界セラピーファンタジー。あなたの推しのヒロインは誰ですか?
「やはり、世界は丸いほうがいい……」
過労死した元データアナリスト参 一肆(まいる かずし)が女神様から授かったのは、アホみたいな数式から導き出された究極のハーレム召喚だった。
157人のヒロインたちに埋もれて、尖った世界を『まあるく』浄化しくしていく……
Dカップの村娘からIカップの竜の姫君まで、あらゆる属性のヒロイン達と一緒に、襲い来る「社畜のトラウマ」に立ち向かう。
全人類の半分の夢が詰め込まれた、極上のスキンシップの冒険譚が今開幕する!
冤罪で辺境に幽閉された第4王子
satomi
ファンタジー
主人公・アンドリュート=ラルラは冤罪で辺境に幽閉されることになったわけだが…。
「辺境に幽閉とは、辺境で生きている人間を何だと思っているんだ!辺境は不要な人間を送る場所じゃない!」と、辺境伯は怒っているし当然のことだろう。元から辺境で暮している方々は決して不要な方ではないし、‘辺境に幽閉’というのはなんとも辺境に暮らしている方々にしてみれば、喧嘩売ってんの?となる。
辺境伯の娘さんと婚約という話だから辺境伯の主人公へのあたりも結構なものだけど、娘さんは美人だから万事OK。
ダンジョン嫌いの元英雄は裏方仕事に徹したい ~うっかりA級攻略者をワンパンしたら、切り抜き動画が世界中に拡散されてしまった件~
厳座励主(ごんざれす)
ファンタジー
「英雄なんて、もう二度とごめんだ」
ダンジョン出現から10年。
攻略が『配信』という娯楽に形を変えた現代。
かつて日本を救った伝説の英雄は、ある事情から表舞台を去り、ダンジョン攻略支援用AI『アリス』の開発に没頭する裏方へと転身していた。
ダンジョンも、配信も、そして英雄と呼ばれることも。
すべてを忌み嫌う彼は、裏方に徹してその生涯を終える……はずだった。
アリスの試験運用中に遭遇した、迷惑系配信者の暴挙。
少女を救うために放った一撃が、あろうことか世界中にライブ配信されてしまう。
その結果――
「――ダンジョン嫌いニキ、強すぎるだろ!!」
意図せず爆増するファン、殺到するスポンサー。
静寂を望む願いをよそに、世界は彼を再び『英雄』の座へと引きずり戻していく。
断罪まであと10分、私は処刑台の上で「ライブ配信」を開始した〜前世インフルエンサーの悪役令嬢、支持率100%でクズ王子を逆処刑する〜
深渡 ケイ
ファンタジー
断罪まで、あと10分。
処刑台の上で跪く悪役令嬢スカーレットは、笑っていた。
なぜなら彼女は――
前世で“トップインフルエンサー”だったから。
処刑の瞬間、彼女が起動したのは禁忌の精霊石。
空に展開された巨大モニターが、全世界同時ライブ配信を開始する。
タイトルは――
『断罪なう』。
王子の不貞、聖女の偽善、王家の腐敗。
すべてを“証拠付き・リアルタイム”で暴露する配信に、
国民の「いいね(=精霊力)」が集まり始める。
そして宣言される、前代未聞のルール。
支持率が上がるほど、処刑は不可能になる。
処刑台は舞台へ。
断罪はエンタメへ。
悪役令嬢は、世界をひっくり返す配信者となった。
これは、
処刑されるはずだった悪役令嬢が、
“ライブ配信”で王子と王国を公開処刑する物語。
支持率100%の先に待つのは、復讐か、革命か、
それとも――自由か。
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
むっつり金持ち高校生、巨乳美少女たちに囲まれて学園ハーレム
ピコサイクス
青春
顔は普通、性格も地味。
けれど実は金持ちな高校一年生――俺、朝倉健斗。
学校では埋もれキャラのはずなのに、なぜか周りは巨乳美女ばかり!?
大学生の家庭教師、年上メイド、同級生ギャルに清楚系美少女……。
真面目な御曹司を演じつつ、内心はむっつりスケベ。
至れり尽くせり!僕専用メイドの全員が溺愛してくる件
こうたろ
青春
普通の大学生・佐藤健太は目覚めると、自宅が豪華な洋館に変わり10人の美人メイドたちに「お目覚めですか、ご主人様?」と一斉に迎えられる。いつの間にか彼らの“専属主人”になっていた健太は戸惑う間もなく、朝から晩までメイドたちの超至れり尽くせりな奉仕を受け始める。
『イージス艦長、インパール最前線へ。――牟田口廉也に転生した俺は、地獄の餓死作戦を「鉄壁の兵站要塞」に変える』
月神世一
SF
【あらすじ】
「補給がなければ、戦場に立つ資格すらない」
坂上真一(さかがみ しんいち)、50歳。
かつてイージス艦長として鉄壁の防空網を指揮し、現在は海上自衛隊で次世代艦の兵站システムを設計する男。
背中には若き日の過ちである「仁王」の刺青を隠し持ち、北辰一刀流の達人でもある彼は、ある日、勤務中に仮眠をとる。
目が覚めると、そこは湿気と熱気に満ちた1944年のビルマだった。
鏡に映っていたのは、小太りで口髭の男――歴史の教科書で見た、あの「牟田口廉也」。
しかも時期は、日本陸軍史上最悪の汚点とされる「インパール作戦」決行の直前。
部下たちは「必勝の精神論」を叫び、無謀な突撃を今か今かと待っている。
(……ふざけるな。俺に、部下を餓死させろと言うのか?)
現代の知識と、冷徹な計算、そして海自仕込みのロジスティクス能力。
すべてを駆使して、坂上(中身)は歴史への介入を開始する。
精神論を振りかざすふりをして上層部を欺き、現地改修で兵器を強化し、密かに撤退路を整備する。
これは、「史上最も無能な指揮官」の皮を被った「現代の有能な指揮官」が、確定した敗北の運命をねじ伏せ、数万の命を救うために戦う、逆転の戦記ドラマ。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる