疾れイグニース!

阿弥陀乃トンマージ

文字の大きさ
8 / 63
第一章

第2レース(3)不審者だらけ

しおりを挟む
「えっと……」

 思った以上の報道陣に囲まれ、真帆は戸惑いを隠せないでいる。

「あらためて、今回の転向の真意について、お聞かせ下さい!」

「て、転向と言いましても、まずはここで合格しなければなりませんから……」

「『将来は金メダルとダービージョッキーの二冠』とのことですが⁉」

「そ、そんな畏れ多いこと、一言も言っていません!」

「噂の彼氏との関係は⁉」

「なっ、彼氏っていうか……って、そんなことお答えする義務はありません!」

 報道陣から矢継ぎ早に飛んでくる勝手な質問に、真帆も流石に辟易しているようである。炎仁がその輪の中にズカズカと入り込んでいく。

「え、炎ちゃん⁉」

「お集まりの皆様、将来のダービージョッキーになるのはこの俺、紅蓮炎仁です!」

 炎仁はそう言って満面の笑みを浮かべ、右手の親指をサムズアップする。

「……」

 一瞬の沈黙が流れる。報道陣が互いに顔を見合わせる。

「紅蓮炎仁って……知ってるか?」

「いいや」

「あ~あのね、君みたいな威勢の良いキャラもある意味美味しいんだけどね、メインは真帆ちゃんだから。おまけの君らの意気込みは時間が余ったら聞くからさ」

「お、おまけ⁉」

 報道陣からドッと笑いが起こる。

「それよりちょっとどいてくれる?」

「どわっ⁉」

 報道陣が炎仁を押しのけて、尚も真帆を取り囲もうとする。無名の受講生とはいえ、あまりにもぞんざいな扱いに流石の炎仁もムッとする。

「ア、アンタたち……ん⁉ な、なんだ、あれは⁉」

「なんだよ、うるせえなあ……って、お、おいあれを見ろ!」

 炎仁の声に反応し、報道陣が皆、彼の視線の先に目を向けて驚く。そこには二羽の鳥のようなものが吊るしたブランコに座った、やや紫ががった短髪の少年がいたからである。スーツを着ていることから考えて、この学校の入学者かとは思われた。しばらく様子を伺っていた報道陣の一人が気付く。

「あ、彼は天ノ川翔(あまのがわかける)! 天才ジョッキーの孫だ! このコースを受講するんだ!」

「あの競竜一家の期待の星か! コメントを取らなければ!」

「天ノ川君~ちょっと良いかな~?」

 文字通り空を翔ける少年に対し、報道陣が呼び掛ける。

「zzz……」

「反応が無い……って寝ているのか⁉」

「なんで寝ているんだ⁉ あの鳥のようなものはなんだ、ドローンか⁉」

「どうやらそのようだ! 自分で操作しているのか、どうやって⁉」

「天才の考えることは分からん! こっちに突っ込んでくるぞ!」

「……うん?」

 少年は目を開ける。報道陣が安堵する。

「お、起きたぞ!」

「zzz……」

「いや、また寝るのかよ!」

「よ、避けろ!」

「真帆!」

 炎仁が真帆を抱き抱えるようにして、少年の進路を開ける。報道陣も慌てて左右に避ける。その間を少年は悠然と飛んで行く。

「zzz……」

「大丈夫か、真帆!」

「う、うん……」

「……お、追うぞ! コメントを取るんだ!」

 一瞬呆然としていた報道陣は我に返り、その半分が少年を追いかける。

「お、思わぬ邪魔が入りましたが、紺碧さん……」

 もう半分の報道陣が再び真帆に視線を向ける。炎仁が舌打ちする。

「ちっ、しつこいな!」

「それ!」

「⁉」

 辺りを白い煙が包み込む。

「な、なんだ、今度は⁉」

「煙幕⁉」

「現状の把握が早い……って、呑気に感心している場合か! 真帆! 居ない⁉」

 炎仁が自身の両腕の間にいるはずの真帆が居ないことに驚く。すぐさま周囲を見回すと、真帆の手を引いて走り去る男の姿が見えた。

「はあ……はあ……」

 腕を引かれて体育館の裏にまで走ってきた真帆が肩で息をする。

「いやあ~大変だったね。大丈夫だったかい、マドモアゼル・マホ?」

 ウェーブの入った少し長い金髪をなびかせた男子が真帆に声を掛ける。

「マ、マドモアゼル? なんで私の名前を……」

「ああ失礼、僕は金糸雀(かなりあ)レオン、君と同じくこの短期コースの受講生さ」

 金髪の男性は髪をかき上げながら自らの名前を名乗る。

「はあ……質問良いですか?」

「ははっ、これはまた随分と積極的だね、良いよ、なんでも聞いてくれ」

「さっきの煙幕は……」

「ああ、僕の持ち物だ、色々持ち歩いている内の一つさ、逃げるのは得意でね」

「あ、そうですか……」

「ん? どうして距離を取るんだい?」

「いや、この人不審者の類だなと思って……」

「ふ、不審者扱いはひどくないかい⁉ ニンジャグッズはジパングに住む男性なら誰しも一つや二つは持ち歩いているものだろう?」

「聞いたことないですけど……」

「あ、いた! 紺碧さん!」

「!」

 真帆を報道陣の内の一人が目ざとく見つける。

「せ、先輩! こっちに紺碧さんが……いてててっ⁉」

「うるせえ……」

 記者の男の腕を長身で褐色の男性がねじり上げる。

「ぼ、暴力反対!」

「過度な取材もどうかと思うぜ。どこの会社だ? 『エブスポ』か……学校に言って、出禁にしてやろうか?」

「そ、それは困る!」

「だったら見なかったことにしな。そろそろ入学式だ、写真はそこでも撮れんだろ」

「くっ!」

 男性が腕を離すと、記者はその場からそそくさと離れる。真帆が礼を言う。

「あ、ありがとうございます」

「別に……騒がしいからイラついただけだ」

「真帆!」

 炎仁がその場に駆け付ける。

「え、炎ちゃん……」

「大丈夫か⁉」

「う、うん……こちらの方と不審者さんが助けてくれたわ」

「いや、不審者確定⁉ 金糸雀レオンという名前がある!」

「……もしかして煙幕を使ったのは君か?」

「そうだが?」

「紛れもない不審者だな」

「なんでそうなる⁉」

「くだらねえ……」

「あ、貴方も受講生ですよね? お名前伺ってもよろしいですか?」

「……草薙嵐一(くさなぎらんいち)だ」

「ラーメン屋さんみたいだね、美味しそうだ」

「そういうくだらねえことを言うやつは一人残らず〆てきた……」

 歩き去ろうとした嵐一が踵を返し、レオンに迫る。

「うわ⁉ ぼ、暴力反対!」

「そろそろ入学式始まるよ~っと」

「「⁉」」

 両者の間に翔がぱっと降り立つ。

「てめえは……」

「あ、天ノ川翔⁉」

「いや~そこの木の枝に引っかかっちゃってさ~やっと取れたよ~ほらほら皆、早くしないと遅れるよ、えっと……真帆ちゃんとその他三名」

「そ、その他って!」

 炎仁がムッとするが、翔はそれには構わず、颯爽と体育館の方へ向かっていく。

「い、行きましょうか」

 真帆たちも体育館に向かい、入学式が始まる。校長などの挨拶が終わると、眼鏡をかけ、そこそこ長い黒髪を簡素に後ろ結びにした女性が壇上に上がる。

「まずは報道陣の皆様、ご退場頂きたい……」

「……」

 突然の言葉に報道陣が露骨に戸惑う。女性が声を上げる。

「お早く!」

「!」

 報道陣が慌てて退場していく。しばらく間を置いて、女性が話を始める。

「諸君らの担当教官主任の鬼ヶ島甘美(おにがしまかんび)だ、早速だが、各自荷物を置いたら、ジャージに着替え、教練場に集合しろ。十分以内だ」

「……?」

 炎仁たちは揃って首を捻る。

「早くしろ!」

「‼」

 鬼ヶ島の一喝に炎仁たちは飛び跳ねるように体育館を出る。
しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

「美少女157人も召喚できるだと!?」社畜の俺、尖ったトラウマを全部『まあるく』収めて大賢者になる。── やっぱりせかいはまあるいほうがいい

あとりえむ
ファンタジー
『ヒロイン全員 挿絵付き』の異世界セラピーファンタジー。あなたの推しのヒロインは誰ですか? 「やはり、世界は丸いほうがいい……」 過労死した元データアナリスト参 一肆(まいる かずし)が女神様から授かったのは、アホみたいな数式から導き出された究極のハーレム召喚だった。 157人のヒロインたちに埋もれて、尖った世界を『まあるく』浄化しくしていく…… Dカップの村娘からIカップの竜の姫君まで、あらゆる属性のヒロイン達と一緒に、襲い来る「社畜のトラウマ」に立ち向かう。 全人類の半分の夢が詰め込まれた、極上のスキンシップの冒険譚が今開幕する!

冤罪で辺境に幽閉された第4王子

satomi
ファンタジー
主人公・アンドリュート=ラルラは冤罪で辺境に幽閉されることになったわけだが…。 「辺境に幽閉とは、辺境で生きている人間を何だと思っているんだ!辺境は不要な人間を送る場所じゃない!」と、辺境伯は怒っているし当然のことだろう。元から辺境で暮している方々は決して不要な方ではないし、‘辺境に幽閉’というのはなんとも辺境に暮らしている方々にしてみれば、喧嘩売ってんの?となる。 辺境伯の娘さんと婚約という話だから辺境伯の主人公へのあたりも結構なものだけど、娘さんは美人だから万事OK。

ダンジョン嫌いの元英雄は裏方仕事に徹したい ~うっかりA級攻略者をワンパンしたら、切り抜き動画が世界中に拡散されてしまった件~

厳座励主(ごんざれす)
ファンタジー
「英雄なんて、もう二度とごめんだ」 ダンジョン出現から10年。 攻略が『配信』という娯楽に形を変えた現代。 かつて日本を救った伝説の英雄は、ある事情から表舞台を去り、ダンジョン攻略支援用AI『アリス』の開発に没頭する裏方へと転身していた。 ダンジョンも、配信も、そして英雄と呼ばれることも。 すべてを忌み嫌う彼は、裏方に徹してその生涯を終える……はずだった。 アリスの試験運用中に遭遇した、迷惑系配信者の暴挙。 少女を救うために放った一撃が、あろうことか世界中にライブ配信されてしまう。 その結果―― 「――ダンジョン嫌いニキ、強すぎるだろ!!」 意図せず爆増するファン、殺到するスポンサー。 静寂を望む願いをよそに、世界は彼を再び『英雄』の座へと引きずり戻していく。

断罪まであと10分、私は処刑台の上で「ライブ配信」を開始した〜前世インフルエンサーの悪役令嬢、支持率100%でクズ王子を逆処刑する〜

深渡 ケイ
ファンタジー
断罪まで、あと10分。 処刑台の上で跪く悪役令嬢スカーレットは、笑っていた。 なぜなら彼女は―― 前世で“トップインフルエンサー”だったから。 処刑の瞬間、彼女が起動したのは禁忌の精霊石。 空に展開された巨大モニターが、全世界同時ライブ配信を開始する。 タイトルは―― 『断罪なう』。 王子の不貞、聖女の偽善、王家の腐敗。 すべてを“証拠付き・リアルタイム”で暴露する配信に、 国民の「いいね(=精霊力)」が集まり始める。 そして宣言される、前代未聞のルール。 支持率が上がるほど、処刑は不可能になる。 処刑台は舞台へ。 断罪はエンタメへ。 悪役令嬢は、世界をひっくり返す配信者となった。 これは、 処刑されるはずだった悪役令嬢が、 “ライブ配信”で王子と王国を公開処刑する物語。 支持率100%の先に待つのは、復讐か、革命か、 それとも――自由か。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

むっつり金持ち高校生、巨乳美少女たちに囲まれて学園ハーレム

ピコサイクス
青春
顔は普通、性格も地味。 けれど実は金持ちな高校一年生――俺、朝倉健斗。 学校では埋もれキャラのはずなのに、なぜか周りは巨乳美女ばかり!? 大学生の家庭教師、年上メイド、同級生ギャルに清楚系美少女……。 真面目な御曹司を演じつつ、内心はむっつりスケベ。

​『イージス艦長、インパール最前線へ。――牟田口廉也に転生した俺は、地獄の餓死作戦を「鉄壁の兵站要塞」に変える』

月神世一
SF
​【あらすじ】 ​「補給がなければ、戦場に立つ資格すらない」 ​ 坂上真一(さかがみ しんいち)、50歳。  かつてイージス艦長として鉄壁の防空網を指揮し、現在は海上自衛隊で次世代艦の兵站システムを設計する男。  背中には若き日の過ちである「仁王」の刺青を隠し持ち、北辰一刀流の達人でもある彼は、ある日、勤務中に仮眠をとる。 ​ 目が覚めると、そこは湿気と熱気に満ちた1944年のビルマだった。  鏡に映っていたのは、小太りで口髭の男――歴史の教科書で見た、あの「牟田口廉也」。 ​ しかも時期は、日本陸軍史上最悪の汚点とされる「インパール作戦」決行の直前。  部下たちは「必勝の精神論」を叫び、無謀な突撃を今か今かと待っている。 ​ (……ふざけるな。俺に、部下を餓死させろと言うのか?) ​ 現代の知識と、冷徹な計算、そして海自仕込みのロジスティクス能力。  すべてを駆使して、坂上(中身)は歴史への介入を開始する。  精神論を振りかざすふりをして上層部を欺き、現地改修で兵器を強化し、密かに撤退路を整備する。 ​ これは、「史上最も無能な指揮官」の皮を被った「現代の有能な指揮官」が、確定した敗北の運命をねじ伏せ、数万の命を救うために戦う、逆転の戦記ドラマ。

至れり尽くせり!僕専用メイドの全員が溺愛してくる件

こうたろ
青春
普通の大学生・佐藤健太は目覚めると、自宅が豪華な洋館に変わり10人の美人メイドたちに「お目覚めですか、ご主人様?」と一斉に迎えられる。いつの間にか彼らの“専属主人”になっていた健太は戸惑う間もなく、朝から晩までメイドたちの超至れり尽くせりな奉仕を受け始める。

処理中です...