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第一章
第2レース(3)不審者だらけ
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「えっと……」
思った以上の報道陣に囲まれ、真帆は戸惑いを隠せないでいる。
「あらためて、今回の転向の真意について、お聞かせ下さい!」
「て、転向と言いましても、まずはここで合格しなければなりませんから……」
「『将来は金メダルとダービージョッキーの二冠』とのことですが⁉」
「そ、そんな畏れ多いこと、一言も言っていません!」
「噂の彼氏との関係は⁉」
「なっ、彼氏っていうか……って、そんなことお答えする義務はありません!」
報道陣から矢継ぎ早に飛んでくる勝手な質問に、真帆も流石に辟易しているようである。炎仁がその輪の中にズカズカと入り込んでいく。
「え、炎ちゃん⁉」
「お集まりの皆様、将来のダービージョッキーになるのはこの俺、紅蓮炎仁です!」
炎仁はそう言って満面の笑みを浮かべ、右手の親指をサムズアップする。
「……」
一瞬の沈黙が流れる。報道陣が互いに顔を見合わせる。
「紅蓮炎仁って……知ってるか?」
「いいや」
「あ~あのね、君みたいな威勢の良いキャラもある意味美味しいんだけどね、メインは真帆ちゃんだから。おまけの君らの意気込みは時間が余ったら聞くからさ」
「お、おまけ⁉」
報道陣からドッと笑いが起こる。
「それよりちょっとどいてくれる?」
「どわっ⁉」
報道陣が炎仁を押しのけて、尚も真帆を取り囲もうとする。無名の受講生とはいえ、あまりにもぞんざいな扱いに流石の炎仁もムッとする。
「ア、アンタたち……ん⁉ な、なんだ、あれは⁉」
「なんだよ、うるせえなあ……って、お、おいあれを見ろ!」
炎仁の声に反応し、報道陣が皆、彼の視線の先に目を向けて驚く。そこには二羽の鳥のようなものが吊るしたブランコに座った、やや紫ががった短髪の少年がいたからである。スーツを着ていることから考えて、この学校の入学者かとは思われた。しばらく様子を伺っていた報道陣の一人が気付く。
「あ、彼は天ノ川翔(あまのがわかける)! 天才ジョッキーの孫だ! このコースを受講するんだ!」
「あの競竜一家の期待の星か! コメントを取らなければ!」
「天ノ川君~ちょっと良いかな~?」
文字通り空を翔ける少年に対し、報道陣が呼び掛ける。
「zzz……」
「反応が無い……って寝ているのか⁉」
「なんで寝ているんだ⁉ あの鳥のようなものはなんだ、ドローンか⁉」
「どうやらそのようだ! 自分で操作しているのか、どうやって⁉」
「天才の考えることは分からん! こっちに突っ込んでくるぞ!」
「……うん?」
少年は目を開ける。報道陣が安堵する。
「お、起きたぞ!」
「zzz……」
「いや、また寝るのかよ!」
「よ、避けろ!」
「真帆!」
炎仁が真帆を抱き抱えるようにして、少年の進路を開ける。報道陣も慌てて左右に避ける。その間を少年は悠然と飛んで行く。
「zzz……」
「大丈夫か、真帆!」
「う、うん……」
「……お、追うぞ! コメントを取るんだ!」
一瞬呆然としていた報道陣は我に返り、その半分が少年を追いかける。
「お、思わぬ邪魔が入りましたが、紺碧さん……」
もう半分の報道陣が再び真帆に視線を向ける。炎仁が舌打ちする。
「ちっ、しつこいな!」
「それ!」
「⁉」
辺りを白い煙が包み込む。
「な、なんだ、今度は⁉」
「煙幕⁉」
「現状の把握が早い……って、呑気に感心している場合か! 真帆! 居ない⁉」
炎仁が自身の両腕の間にいるはずの真帆が居ないことに驚く。すぐさま周囲を見回すと、真帆の手を引いて走り去る男の姿が見えた。
「はあ……はあ……」
腕を引かれて体育館の裏にまで走ってきた真帆が肩で息をする。
「いやあ~大変だったね。大丈夫だったかい、マドモアゼル・マホ?」
ウェーブの入った少し長い金髪をなびかせた男子が真帆に声を掛ける。
「マ、マドモアゼル? なんで私の名前を……」
「ああ失礼、僕は金糸雀(かなりあ)レオン、君と同じくこの短期コースの受講生さ」
金髪の男性は髪をかき上げながら自らの名前を名乗る。
「はあ……質問良いですか?」
「ははっ、これはまた随分と積極的だね、良いよ、なんでも聞いてくれ」
「さっきの煙幕は……」
「ああ、僕の持ち物だ、色々持ち歩いている内の一つさ、逃げるのは得意でね」
「あ、そうですか……」
「ん? どうして距離を取るんだい?」
「いや、この人不審者の類だなと思って……」
「ふ、不審者扱いはひどくないかい⁉ ニンジャグッズはジパングに住む男性なら誰しも一つや二つは持ち歩いているものだろう?」
「聞いたことないですけど……」
「あ、いた! 紺碧さん!」
「!」
真帆を報道陣の内の一人が目ざとく見つける。
「せ、先輩! こっちに紺碧さんが……いてててっ⁉」
「うるせえ……」
記者の男の腕を長身で褐色の男性がねじり上げる。
「ぼ、暴力反対!」
「過度な取材もどうかと思うぜ。どこの会社だ? 『エブスポ』か……学校に言って、出禁にしてやろうか?」
「そ、それは困る!」
「だったら見なかったことにしな。そろそろ入学式だ、写真はそこでも撮れんだろ」
「くっ!」
男性が腕を離すと、記者はその場からそそくさと離れる。真帆が礼を言う。
「あ、ありがとうございます」
「別に……騒がしいからイラついただけだ」
「真帆!」
炎仁がその場に駆け付ける。
「え、炎ちゃん……」
「大丈夫か⁉」
「う、うん……こちらの方と不審者さんが助けてくれたわ」
「いや、不審者確定⁉ 金糸雀レオンという名前がある!」
「……もしかして煙幕を使ったのは君か?」
「そうだが?」
「紛れもない不審者だな」
「なんでそうなる⁉」
「くだらねえ……」
「あ、貴方も受講生ですよね? お名前伺ってもよろしいですか?」
「……草薙嵐一(くさなぎらんいち)だ」
「ラーメン屋さんみたいだね、美味しそうだ」
「そういうくだらねえことを言うやつは一人残らず〆てきた……」
歩き去ろうとした嵐一が踵を返し、レオンに迫る。
「うわ⁉ ぼ、暴力反対!」
「そろそろ入学式始まるよ~っと」
「「⁉」」
両者の間に翔がぱっと降り立つ。
「てめえは……」
「あ、天ノ川翔⁉」
「いや~そこの木の枝に引っかかっちゃってさ~やっと取れたよ~ほらほら皆、早くしないと遅れるよ、えっと……真帆ちゃんとその他三名」
「そ、その他って!」
炎仁がムッとするが、翔はそれには構わず、颯爽と体育館の方へ向かっていく。
「い、行きましょうか」
真帆たちも体育館に向かい、入学式が始まる。校長などの挨拶が終わると、眼鏡をかけ、そこそこ長い黒髪を簡素に後ろ結びにした女性が壇上に上がる。
「まずは報道陣の皆様、ご退場頂きたい……」
「……」
突然の言葉に報道陣が露骨に戸惑う。女性が声を上げる。
「お早く!」
「!」
報道陣が慌てて退場していく。しばらく間を置いて、女性が話を始める。
「諸君らの担当教官主任の鬼ヶ島甘美(おにがしまかんび)だ、早速だが、各自荷物を置いたら、ジャージに着替え、教練場に集合しろ。十分以内だ」
「……?」
炎仁たちは揃って首を捻る。
「早くしろ!」
「‼」
鬼ヶ島の一喝に炎仁たちは飛び跳ねるように体育館を出る。
思った以上の報道陣に囲まれ、真帆は戸惑いを隠せないでいる。
「あらためて、今回の転向の真意について、お聞かせ下さい!」
「て、転向と言いましても、まずはここで合格しなければなりませんから……」
「『将来は金メダルとダービージョッキーの二冠』とのことですが⁉」
「そ、そんな畏れ多いこと、一言も言っていません!」
「噂の彼氏との関係は⁉」
「なっ、彼氏っていうか……って、そんなことお答えする義務はありません!」
報道陣から矢継ぎ早に飛んでくる勝手な質問に、真帆も流石に辟易しているようである。炎仁がその輪の中にズカズカと入り込んでいく。
「え、炎ちゃん⁉」
「お集まりの皆様、将来のダービージョッキーになるのはこの俺、紅蓮炎仁です!」
炎仁はそう言って満面の笑みを浮かべ、右手の親指をサムズアップする。
「……」
一瞬の沈黙が流れる。報道陣が互いに顔を見合わせる。
「紅蓮炎仁って……知ってるか?」
「いいや」
「あ~あのね、君みたいな威勢の良いキャラもある意味美味しいんだけどね、メインは真帆ちゃんだから。おまけの君らの意気込みは時間が余ったら聞くからさ」
「お、おまけ⁉」
報道陣からドッと笑いが起こる。
「それよりちょっとどいてくれる?」
「どわっ⁉」
報道陣が炎仁を押しのけて、尚も真帆を取り囲もうとする。無名の受講生とはいえ、あまりにもぞんざいな扱いに流石の炎仁もムッとする。
「ア、アンタたち……ん⁉ な、なんだ、あれは⁉」
「なんだよ、うるせえなあ……って、お、おいあれを見ろ!」
炎仁の声に反応し、報道陣が皆、彼の視線の先に目を向けて驚く。そこには二羽の鳥のようなものが吊るしたブランコに座った、やや紫ががった短髪の少年がいたからである。スーツを着ていることから考えて、この学校の入学者かとは思われた。しばらく様子を伺っていた報道陣の一人が気付く。
「あ、彼は天ノ川翔(あまのがわかける)! 天才ジョッキーの孫だ! このコースを受講するんだ!」
「あの競竜一家の期待の星か! コメントを取らなければ!」
「天ノ川君~ちょっと良いかな~?」
文字通り空を翔ける少年に対し、報道陣が呼び掛ける。
「zzz……」
「反応が無い……って寝ているのか⁉」
「なんで寝ているんだ⁉ あの鳥のようなものはなんだ、ドローンか⁉」
「どうやらそのようだ! 自分で操作しているのか、どうやって⁉」
「天才の考えることは分からん! こっちに突っ込んでくるぞ!」
「……うん?」
少年は目を開ける。報道陣が安堵する。
「お、起きたぞ!」
「zzz……」
「いや、また寝るのかよ!」
「よ、避けろ!」
「真帆!」
炎仁が真帆を抱き抱えるようにして、少年の進路を開ける。報道陣も慌てて左右に避ける。その間を少年は悠然と飛んで行く。
「zzz……」
「大丈夫か、真帆!」
「う、うん……」
「……お、追うぞ! コメントを取るんだ!」
一瞬呆然としていた報道陣は我に返り、その半分が少年を追いかける。
「お、思わぬ邪魔が入りましたが、紺碧さん……」
もう半分の報道陣が再び真帆に視線を向ける。炎仁が舌打ちする。
「ちっ、しつこいな!」
「それ!」
「⁉」
辺りを白い煙が包み込む。
「な、なんだ、今度は⁉」
「煙幕⁉」
「現状の把握が早い……って、呑気に感心している場合か! 真帆! 居ない⁉」
炎仁が自身の両腕の間にいるはずの真帆が居ないことに驚く。すぐさま周囲を見回すと、真帆の手を引いて走り去る男の姿が見えた。
「はあ……はあ……」
腕を引かれて体育館の裏にまで走ってきた真帆が肩で息をする。
「いやあ~大変だったね。大丈夫だったかい、マドモアゼル・マホ?」
ウェーブの入った少し長い金髪をなびかせた男子が真帆に声を掛ける。
「マ、マドモアゼル? なんで私の名前を……」
「ああ失礼、僕は金糸雀(かなりあ)レオン、君と同じくこの短期コースの受講生さ」
金髪の男性は髪をかき上げながら自らの名前を名乗る。
「はあ……質問良いですか?」
「ははっ、これはまた随分と積極的だね、良いよ、なんでも聞いてくれ」
「さっきの煙幕は……」
「ああ、僕の持ち物だ、色々持ち歩いている内の一つさ、逃げるのは得意でね」
「あ、そうですか……」
「ん? どうして距離を取るんだい?」
「いや、この人不審者の類だなと思って……」
「ふ、不審者扱いはひどくないかい⁉ ニンジャグッズはジパングに住む男性なら誰しも一つや二つは持ち歩いているものだろう?」
「聞いたことないですけど……」
「あ、いた! 紺碧さん!」
「!」
真帆を報道陣の内の一人が目ざとく見つける。
「せ、先輩! こっちに紺碧さんが……いてててっ⁉」
「うるせえ……」
記者の男の腕を長身で褐色の男性がねじり上げる。
「ぼ、暴力反対!」
「過度な取材もどうかと思うぜ。どこの会社だ? 『エブスポ』か……学校に言って、出禁にしてやろうか?」
「そ、それは困る!」
「だったら見なかったことにしな。そろそろ入学式だ、写真はそこでも撮れんだろ」
「くっ!」
男性が腕を離すと、記者はその場からそそくさと離れる。真帆が礼を言う。
「あ、ありがとうございます」
「別に……騒がしいからイラついただけだ」
「真帆!」
炎仁がその場に駆け付ける。
「え、炎ちゃん……」
「大丈夫か⁉」
「う、うん……こちらの方と不審者さんが助けてくれたわ」
「いや、不審者確定⁉ 金糸雀レオンという名前がある!」
「……もしかして煙幕を使ったのは君か?」
「そうだが?」
「紛れもない不審者だな」
「なんでそうなる⁉」
「くだらねえ……」
「あ、貴方も受講生ですよね? お名前伺ってもよろしいですか?」
「……草薙嵐一(くさなぎらんいち)だ」
「ラーメン屋さんみたいだね、美味しそうだ」
「そういうくだらねえことを言うやつは一人残らず〆てきた……」
歩き去ろうとした嵐一が踵を返し、レオンに迫る。
「うわ⁉ ぼ、暴力反対!」
「そろそろ入学式始まるよ~っと」
「「⁉」」
両者の間に翔がぱっと降り立つ。
「てめえは……」
「あ、天ノ川翔⁉」
「いや~そこの木の枝に引っかかっちゃってさ~やっと取れたよ~ほらほら皆、早くしないと遅れるよ、えっと……真帆ちゃんとその他三名」
「そ、その他って!」
炎仁がムッとするが、翔はそれには構わず、颯爽と体育館の方へ向かっていく。
「い、行きましょうか」
真帆たちも体育館に向かい、入学式が始まる。校長などの挨拶が終わると、眼鏡をかけ、そこそこ長い黒髪を簡素に後ろ結びにした女性が壇上に上がる。
「まずは報道陣の皆様、ご退場頂きたい……」
「……」
突然の言葉に報道陣が露骨に戸惑う。女性が声を上げる。
「お早く!」
「!」
報道陣が慌てて退場していく。しばらく間を置いて、女性が話を始める。
「諸君らの担当教官主任の鬼ヶ島甘美(おにがしまかんび)だ、早速だが、各自荷物を置いたら、ジャージに着替え、教練場に集合しろ。十分以内だ」
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