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第一章
第9レース(2)一晩でやってくれました
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「……」
「並川教官、ご苦労さまです」
凡田は教官室に戻ってきた並川に声をかける。
「ああ、凡田教官、お疲れさまです。お早いお戻りですね」
「いや、Aクラスの連中は優秀ですからな、理解が早くて助かります。こちらも授業のし甲斐があるというものです」
「確かに座学も優秀ですね」
「それに比べて、Cクラスの授業はなかなか大変ではありませんか?」
「あら? 凡田教官はCクラスの方は受け持っていなかったですか?」
「ええ、鬼ヶ島主任が自ら御担当されるということでしたので……」
「そういえばそうでしたね」
「いやいや、主任もなかなか物好きというかなんというか……」
凡田は小声で呟く。並川が尋ねる。
「はい?」
「ああ、いえいえ、私も他の業務で何かと忙しいので、主任に代わって頂くのは大変助かるなという話です」
「そうですか」
「話は戻りますが、Cクラスはどうです? 骨が折れるでしょう?」
「いいえ、そうでもありませんよ」
「ほう?」
「私が担当しているのは専門科目ですが、撫子飛鳥さんは流石の理解力です」
「むう……」
「三日月海さんもかなり優秀ですね。紺碧真帆さん、金糸雀レオン君も理解がなかなか早いです」
「うむ……」
「それに比べると、紅蓮炎仁君や草薙嵐一君は苦戦していますかね」
「ほう!」
「朝日青空さんは露骨に興味が無さそうでした……」
「ほう、ほう! ん? でした?」
凡田は一瞬嬉しそうな声を上げるも首を捻る。並川が話を続ける。
「当初は授業態度も決して誉められたものではありませんでしたが、この科目がレースに関係するということが分かってからは意欲的に取り組んでくれています。紅蓮君、草薙君も含めて、着実に成績は向上していますよ」
「ちっ……」
凡田は舌打ちする。並川が首を傾げる。
「? 何か?」
「い、いえ、なんでもありません、ということはCクラスも問題は無いということですな。喜ばしいことです」
「……いえ、少し気になることが……」
「ほう?」
「天ノ川翔君なんですが、授業中いつも眠そうだったり、どこかうわの空だったり……その影響か成績が芳しくありませんね」
「それはそれは憂慮すべき事態ですな……」
凡田がわざとらしく大きく頷く。
「……聞いたかい? あの緊急のお知らせを?」
朝食の食堂でレオンが嵐一と炎仁に尋ねる。嵐一がウンザリした表情で答える。
「緊急学力テストだろ? なんでまたこの時期に……」
「先週の体力テストといい、また突然だよな」
炎仁が食事をしながら呟く。レオンが頷く。
「そうなんだ、また突然な話で……しかもこの学力テスト、赤点を取った場合、追試が予定されているんだ。今月末に」
「今月末って……また模擬レースの同日か?」
「そうだよ……これはひょっとすると……」
「ひょっとしなくても、わたくしたちの台頭を許さないということですわ」
レオンたちの隣のテーブルで食事をしていた飛鳥が憮然とした様子で口を開く。
「飛鳥さん……」
「正確にはその寝坊助さんをどうしても模擬レースに出したくないのでしょうね」
飛鳥が差し示した先には食事をしながら寝ている翔の姿がある。
「zzz……もう、食べられないよ~」
「食事をしながら食事の寝言、ある意味器用だな……」
炎仁が呆れながらも感心する。嵐一が呟く。
「確かにこのままじゃ、確実に赤点だろうな、俺も人のことは言えねえが」
「ど、どうすればいい?」
「ご心配には及びませんわ、金糸雀君。解決策を提示します! ……三日月さんが」
「人任せですか……まあ、策は既にありますが」
「早っ!」
海の言葉に青空が驚く。海が端末を指し示す。
「……各科目の要点をまとめました、量は少し多いですが、これらを抑えれば、少なくとも赤点は免れるはずです」
「この量を……海ちゃん、いつの間に?」
「昨夜一晩でやりました」
「ええっ?」
「冗談です。自分用にまとめていたものを編集したものです」
驚く真帆に海は少し笑って説明する。青空が頷く。
「これがあればバッチリだな、アタシにもそのデータくれよ」
「……構いませんが、しっかり勉強をしなければいくら要点を抑えたとしても意味がありません。これはあくまでもベースです」
「楽勝ってわけにはいかねえか……」
青空は肩を落とす。
「では、そのデータを教材に教えれば、いい結果が出るということですわね」
「そうなるかと思います」
海の言葉に飛鳥は力強く頷く。
「よろしい! ではわたくしが臨時教師を買って出ますわ!」
「あ、飛鳥さん、大丈夫なのか? 自分の勉強は……」
炎仁が飛鳥に尋ねる。
「ご心配いりませんわ、マイダーリン。わたくし予習復習は万全ですから」
「そうか、それなら良いんだけど」
「……マイダーリンはもう定着しているのね……」
真帆が小声で呟く。海が口を開く。
「……しかし、それでは不十分ですね」
「わたくしの指導では不十分ですか?」
「いえ、そういった質的な問題ではなく、時間的な問題です。例えば昼間だけでなく、夜間も勉強するとか……」
「ああ、それならば……」
飛鳥を始め全員の視線がレオンに注がれる。
「ええっ? ぼ、僕かい?」
「私や撫子さんは男子寮に入ることが出来ませんから……お願いしたいのですが」
「わ、分かったよ……ただ、天ノ川君はすぐ眠っちゃうからな~起こす方がなかなか大変そうだな……」
「ありがとうございます」
海はレオンに礼を言う。策が実り、一週間後の学力テスト、翔は無事合格する。
「……突然の学力テストにも関わらず、どの学生も優秀な成績を残してくれましたね。ジョッキーといえども知識のアップデートを怠ってはなりませんから。こういった結果は喜ばしい限りです」
「ま、全くもって並川教官のおっしゃる通りですな……」
「それではお先に失礼します、お疲れさまでした」
「ご、ご苦労さまです……くっ、まだ三の矢が残っておる……」
教官室に残った凡田はゲスな表情を浮かべ、呟くのであった。
「並川教官、ご苦労さまです」
凡田は教官室に戻ってきた並川に声をかける。
「ああ、凡田教官、お疲れさまです。お早いお戻りですね」
「いや、Aクラスの連中は優秀ですからな、理解が早くて助かります。こちらも授業のし甲斐があるというものです」
「確かに座学も優秀ですね」
「それに比べて、Cクラスの授業はなかなか大変ではありませんか?」
「あら? 凡田教官はCクラスの方は受け持っていなかったですか?」
「ええ、鬼ヶ島主任が自ら御担当されるということでしたので……」
「そういえばそうでしたね」
「いやいや、主任もなかなか物好きというかなんというか……」
凡田は小声で呟く。並川が尋ねる。
「はい?」
「ああ、いえいえ、私も他の業務で何かと忙しいので、主任に代わって頂くのは大変助かるなという話です」
「そうですか」
「話は戻りますが、Cクラスはどうです? 骨が折れるでしょう?」
「いいえ、そうでもありませんよ」
「ほう?」
「私が担当しているのは専門科目ですが、撫子飛鳥さんは流石の理解力です」
「むう……」
「三日月海さんもかなり優秀ですね。紺碧真帆さん、金糸雀レオン君も理解がなかなか早いです」
「うむ……」
「それに比べると、紅蓮炎仁君や草薙嵐一君は苦戦していますかね」
「ほう!」
「朝日青空さんは露骨に興味が無さそうでした……」
「ほう、ほう! ん? でした?」
凡田は一瞬嬉しそうな声を上げるも首を捻る。並川が話を続ける。
「当初は授業態度も決して誉められたものではありませんでしたが、この科目がレースに関係するということが分かってからは意欲的に取り組んでくれています。紅蓮君、草薙君も含めて、着実に成績は向上していますよ」
「ちっ……」
凡田は舌打ちする。並川が首を傾げる。
「? 何か?」
「い、いえ、なんでもありません、ということはCクラスも問題は無いということですな。喜ばしいことです」
「……いえ、少し気になることが……」
「ほう?」
「天ノ川翔君なんですが、授業中いつも眠そうだったり、どこかうわの空だったり……その影響か成績が芳しくありませんね」
「それはそれは憂慮すべき事態ですな……」
凡田がわざとらしく大きく頷く。
「……聞いたかい? あの緊急のお知らせを?」
朝食の食堂でレオンが嵐一と炎仁に尋ねる。嵐一がウンザリした表情で答える。
「緊急学力テストだろ? なんでまたこの時期に……」
「先週の体力テストといい、また突然だよな」
炎仁が食事をしながら呟く。レオンが頷く。
「そうなんだ、また突然な話で……しかもこの学力テスト、赤点を取った場合、追試が予定されているんだ。今月末に」
「今月末って……また模擬レースの同日か?」
「そうだよ……これはひょっとすると……」
「ひょっとしなくても、わたくしたちの台頭を許さないということですわ」
レオンたちの隣のテーブルで食事をしていた飛鳥が憮然とした様子で口を開く。
「飛鳥さん……」
「正確にはその寝坊助さんをどうしても模擬レースに出したくないのでしょうね」
飛鳥が差し示した先には食事をしながら寝ている翔の姿がある。
「zzz……もう、食べられないよ~」
「食事をしながら食事の寝言、ある意味器用だな……」
炎仁が呆れながらも感心する。嵐一が呟く。
「確かにこのままじゃ、確実に赤点だろうな、俺も人のことは言えねえが」
「ど、どうすればいい?」
「ご心配には及びませんわ、金糸雀君。解決策を提示します! ……三日月さんが」
「人任せですか……まあ、策は既にありますが」
「早っ!」
海の言葉に青空が驚く。海が端末を指し示す。
「……各科目の要点をまとめました、量は少し多いですが、これらを抑えれば、少なくとも赤点は免れるはずです」
「この量を……海ちゃん、いつの間に?」
「昨夜一晩でやりました」
「ええっ?」
「冗談です。自分用にまとめていたものを編集したものです」
驚く真帆に海は少し笑って説明する。青空が頷く。
「これがあればバッチリだな、アタシにもそのデータくれよ」
「……構いませんが、しっかり勉強をしなければいくら要点を抑えたとしても意味がありません。これはあくまでもベースです」
「楽勝ってわけにはいかねえか……」
青空は肩を落とす。
「では、そのデータを教材に教えれば、いい結果が出るということですわね」
「そうなるかと思います」
海の言葉に飛鳥は力強く頷く。
「よろしい! ではわたくしが臨時教師を買って出ますわ!」
「あ、飛鳥さん、大丈夫なのか? 自分の勉強は……」
炎仁が飛鳥に尋ねる。
「ご心配いりませんわ、マイダーリン。わたくし予習復習は万全ですから」
「そうか、それなら良いんだけど」
「……マイダーリンはもう定着しているのね……」
真帆が小声で呟く。海が口を開く。
「……しかし、それでは不十分ですね」
「わたくしの指導では不十分ですか?」
「いえ、そういった質的な問題ではなく、時間的な問題です。例えば昼間だけでなく、夜間も勉強するとか……」
「ああ、それならば……」
飛鳥を始め全員の視線がレオンに注がれる。
「ええっ? ぼ、僕かい?」
「私や撫子さんは男子寮に入ることが出来ませんから……お願いしたいのですが」
「わ、分かったよ……ただ、天ノ川君はすぐ眠っちゃうからな~起こす方がなかなか大変そうだな……」
「ありがとうございます」
海はレオンに礼を言う。策が実り、一週間後の学力テスト、翔は無事合格する。
「……突然の学力テストにも関わらず、どの学生も優秀な成績を残してくれましたね。ジョッキーといえども知識のアップデートを怠ってはなりませんから。こういった結果は喜ばしい限りです」
「ま、全くもって並川教官のおっしゃる通りですな……」
「それではお先に失礼します、お疲れさまでした」
「ご、ご苦労さまです……くっ、まだ三の矢が残っておる……」
教官室に残った凡田はゲスな表情を浮かべ、呟くのであった。
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