疾れイグニース!

阿弥陀乃トンマージ

文字の大きさ
53 / 63
第二章

第1レース(2)既読スルーはやめよう

しおりを挟む
「そういえば皆とは連絡を取っているの?」

 食堂で真帆は真向いに座る炎仁に問う。炎仁が首を傾げる。

「皆? 中学のクラスメイトととか?」

「いや、そっちじゃなくて、あのCクラスのことよ」

「ああ、『崖っぷちクラス』のことか……」

 炎仁は思い出してニヤリと笑う。炎仁と真帆は前年春に揃って、『関東競竜学校騎手課程短期コース』に入学し、そこで『崖っぷちクラス』と揶揄されるCクラスに振り分けられた。

「炎ちゃんは『ビリッケツ』という評価だったわね」

「周囲のレベルの高さは感じたが、まさか最低評価からのスタートとはな……」

 笑う真帆に対し、炎仁は腕を組んで眉間にシワを寄せる。レース未経験者だった炎仁は、約三十名の受講者の中でもっとも低い評価であったが、真帆の他に、男子三人、女子三人の計七名と切磋琢磨し、なんとか全員合格を果たしたのであった。

「男子の皆とは話したりしないの?」

「いや、全然だな」

「炎ちゃんってそういうところあるよね……」

 真帆が苦笑する。

「悪いかよ?」

「別に悪くはないけどね」

「『最近どう?』って聞いてもしょうがないだろう。大変なのは分かっているつもりだし」

「まあね……でも、気にならない?」

「知っているのか?」

「馴染みの記者さん……女性の方なんだけどね。おしゃべりな人で、こちらが聞いてもないのに色々教えてくれるのよ」

「ふ~ん……」

「草薙嵐一(くさなぎらんいち)さんの入った厩舎とか大変みたいよ……」

「ああ、嵐一……」

 炎仁は長身で褐色の男性のことを思い出す。クラスの中では最年長で、ぶっきらぼうだが面倒見の良い性格であった。やや頭に血が上りやすいのが欠点だが……。

「調教師の先生の『騎手もアスリートだ!』っていうポリシーの下、厳しい体力トレーニングを課せられているみたいよ」

「それは俺も聞いたよ」

「大変よね……まあ、あくまで噂レベルだけど」

「いや、噂じゃなくて本当だな」

「なんで分かるの?」

「俺もその厩舎から誘われたからな。見学にも行ったし」

「え⁉ そうだったの?」

 真帆が驚く。

「そういうパーソナルトレーニングはトレセンとは別のところでやるんだよ。ハードなトレーニングについてこられる人間を選んでスカウトしているらしい。騎乗技術よりも体力測定の結果を重視するみたいだな」

「そ、そんな厩舎もあるのね……」

「サッカーでさいたま市選抜に入った俺レベルにも声がかかるんだから、元甲子園球児の嵐一なんて喉から手が出るほど欲しい人材だろうな」

「な、なるほど……でも大丈夫かしら?」

「平気だろう。並のフィジカルじゃないからな」

「そうじゃなくて、結構先輩騎手との上下関係とかも厳しいらしいのよ」

「嵐一なら逆に先輩を〆ちゃいそうだな」

 炎仁が笑う。真帆が戸惑う。

「そ、そんなことになったら大事よ」

「冗談だって。それにそういう体育会系のノリなんて今さら慣れっこだろう」

「でも、本当にそんなパーソナルトレーニングに意味があるのかしら?」

 真帆が首を傾げる。

「少なくとも何らかの意味があるからその厩舎は続いているんだろう」

「そ、それはそうかもしれないけど……」

「もちろん、それが唯一の正解ってわけじゃないが」

「ふむ……」

「そういう類のトレーニングの効果ってすぐに出るもんじゃないからな、一年後……いや、半年後の嵐一に要注目かな。マッチョがさらにゴリマッチョになってそうだな」

 炎仁は想像して笑う。真帆が問う。

「金糸雀君とも連絡は取ってないの?」

「レオンか……」

 炎仁がウェーブの入った少し長い金髪をなびかせた男子、金糸雀(かなりあ)レオンを思い出す。

「一番仲が良さそうだったけど」

「まあ、都度連絡は来ているけど、大体既読スルーだな」

「ひ、酷くない?」

「だって、ほとんど下らない内容だぜ? 『トレセンで可愛い子を見かけたよ!』とか……」

「か、金糸雀君らしいわね」

「まったく……お気楽な厩舎なのかね?」

 炎仁が首を捻る。真帆が首を振る。

「そんなことはないと思うわ。彼はお父さんのところの厩舎に入ったわけでしょう? かえって特別扱いとかないから大変みたいよ?」

「そうか……」

「お母さんはフランスの名ジョッキーだし、なにかと比較されてそれなりのプレッシャーがかかっているはずよ」

「そういやジパングとフランスのハーフか。煙幕とか持ち歩いているから、あんまりフランス感がないんだよな、あいつ……」

「別に煙幕を持ち歩くのもジパング感ってわけじゃないと思うけど……」

「たまには返信くらいしてやるか……」

「そうしてあげなさい……そういうプレッシャーとは無縁そうなのが彼ね、天ノ川翔(あまのがわかける)くん」

「翔か……」

 炎仁はやや紫ががった髪色の短髪の少年を思い出す。

「彼もお父さんのところの厩舎に入ったわけだけど、すごい注目度の高さよ」

「記事はいくつかチラッと見たよ。さすがは競竜一家だよな」

「しかも双子の弟の渡(わたる)さんと同時に入ったわけだからね」

「ああ、関西競竜学校の方を卒業した彼か……」

 炎仁は翔と二卵性双生児のやや紫ががった髪色の少し長い髪の少年のことを思い出す。

「メディアや競竜ファンからはかなり期待されているわ。もう密着ドキュメンタリーが制作されて放送されていたわよ」

「まだデビュー前だろう? 随分と気の早い話だな……」

「それを見たんだけど……」

「だけど……?」

「天ノ川君、朝寝坊ばっかりして怒られていたわね……」

「相変わらずだな、あいつ……」

「でも調教とかではさすがの乗りこなしぶりで、天ノ川厩舎の先輩ジョッキーの方も『センスがずば抜けている』って高評価だったわよ」

「今年の新人ジョッキーの中ではダントツかもな……俺も負けていられないな」

 炎仁は笑みを浮かべる。

「天ノ川兄弟には及ばないけど、関西競竜学校卒業の彼も注目されているわね、疾風轟(はやてとどろき)君」

「あいつか、一月の交流レースでは勝ったが……やっぱりあいつの評価が俺より高いか」

 炎仁は薄緑色の髪色でボサボサとした頭の少年のことを思い出し目つきを鋭くする。

「その疾風君の記事で、好きな有名人の欄にわたしの名前が書いてあったんだけど……」

「単なる誤植だ、気にするな」

 炎仁はそう言って、食後のお茶をすする。

しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

「美少女157人も召喚できるだと!?」社畜の俺、尖ったトラウマを全部『まあるく』収めて大賢者になる。── やっぱりせかいはまあるいほうがいい

あとりえむ
ファンタジー
『ヒロイン全員 挿絵付き』の異世界セラピーファンタジー。あなたの推しのヒロインは誰ですか? 「やはり、世界は丸いほうがいい……」 過労死した元データアナリスト参 一肆(まいる かずし)が女神様から授かったのは、アホみたいな数式から導き出された究極のハーレム召喚だった。 157人のヒロインたちに埋もれて、尖った世界を『まあるく』浄化しくしていく…… Dカップの村娘からIカップの竜の姫君まで、あらゆる属性のヒロイン達と一緒に、襲い来る「社畜のトラウマ」に立ち向かう。 全人類の半分の夢が詰め込まれた、極上のスキンシップの冒険譚が今開幕する!

ダンジョン嫌いの元英雄は裏方仕事に徹したい ~うっかりA級攻略者をワンパンしたら、切り抜き動画が世界中に拡散されてしまった件~

厳座励主(ごんざれす)
ファンタジー
「英雄なんて、もう二度とごめんだ」 ダンジョン出現から10年。 攻略が『配信』という娯楽に形を変えた現代。 かつて日本を救った伝説の英雄は、ある事情から表舞台を去り、ダンジョン攻略支援用AI『アリス』の開発に没頭する裏方へと転身していた。 ダンジョンも、配信も、そして英雄と呼ばれることも。 すべてを忌み嫌う彼は、裏方に徹してその生涯を終える……はずだった。 アリスの試験運用中に遭遇した、迷惑系配信者の暴挙。 少女を救うために放った一撃が、あろうことか世界中にライブ配信されてしまう。 その結果―― 「――ダンジョン嫌いニキ、強すぎるだろ!!」 意図せず爆増するファン、殺到するスポンサー。 静寂を望む願いをよそに、世界は彼を再び『英雄』の座へと引きずり戻していく。

断罪まであと10分、私は処刑台の上で「ライブ配信」を開始した〜前世インフルエンサーの悪役令嬢、支持率100%でクズ王子を逆処刑する〜

深渡 ケイ
ファンタジー
断罪まで、あと10分。 処刑台の上で跪く悪役令嬢スカーレットは、笑っていた。 なぜなら彼女は―― 前世で“トップインフルエンサー”だったから。 処刑の瞬間、彼女が起動したのは禁忌の精霊石。 空に展開された巨大モニターが、全世界同時ライブ配信を開始する。 タイトルは―― 『断罪なう』。 王子の不貞、聖女の偽善、王家の腐敗。 すべてを“証拠付き・リアルタイム”で暴露する配信に、 国民の「いいね(=精霊力)」が集まり始める。 そして宣言される、前代未聞のルール。 支持率が上がるほど、処刑は不可能になる。 処刑台は舞台へ。 断罪はエンタメへ。 悪役令嬢は、世界をひっくり返す配信者となった。 これは、 処刑されるはずだった悪役令嬢が、 “ライブ配信”で王子と王国を公開処刑する物語。 支持率100%の先に待つのは、復讐か、革命か、 それとも――自由か。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

​『イージス艦長、インパール最前線へ。――牟田口廉也に転生した俺は、地獄の餓死作戦を「鉄壁の兵站要塞」に変える』

月神世一
SF
​【あらすじ】 ​「補給がなければ、戦場に立つ資格すらない」 ​ 坂上真一(さかがみ しんいち)、50歳。  かつてイージス艦長として鉄壁の防空網を指揮し、現在は海上自衛隊で次世代艦の兵站システムを設計する男。  背中には若き日の過ちである「仁王」の刺青を隠し持ち、北辰一刀流の達人でもある彼は、ある日、勤務中に仮眠をとる。 ​ 目が覚めると、そこは湿気と熱気に満ちた1944年のビルマだった。  鏡に映っていたのは、小太りで口髭の男――歴史の教科書で見た、あの「牟田口廉也」。 ​ しかも時期は、日本陸軍史上最悪の汚点とされる「インパール作戦」決行の直前。  部下たちは「必勝の精神論」を叫び、無謀な突撃を今か今かと待っている。 ​ (……ふざけるな。俺に、部下を餓死させろと言うのか?) ​ 現代の知識と、冷徹な計算、そして海自仕込みのロジスティクス能力。  すべてを駆使して、坂上(中身)は歴史への介入を開始する。  精神論を振りかざすふりをして上層部を欺き、現地改修で兵器を強化し、密かに撤退路を整備する。 ​ これは、「史上最も無能な指揮官」の皮を被った「現代の有能な指揮官」が、確定した敗北の運命をねじ伏せ、数万の命を救うために戦う、逆転の戦記ドラマ。

【悲報】現代ダンジョン時代、俺の職業がLv.1チンピラ【詰み】

道雪ちゃん
ファンタジー
2024年の年末、世界中に突如ダンジョンが出現した。 大学生・三上ひよりも探索者になることを決意するが、与えられた職業は――世界で一人しかいないユニーク職「Lv.1チンピラ」。 周囲からは笑われ、初期スキルもほとんど役に立たない。 それでも、生き残るためにはダンジョンに挑むしかない。 これは、ネット住民と世界におもちゃにされながらも、真面目に生き抜く青年の物語。 ※基本的にスレッド形式がメインです

むっつり金持ち高校生、巨乳美少女たちに囲まれて学園ハーレム

ピコサイクス
青春
顔は普通、性格も地味。 けれど実は金持ちな高校一年生――俺、朝倉健斗。 学校では埋もれキャラのはずなのに、なぜか周りは巨乳美女ばかり!? 大学生の家庭教師、年上メイド、同級生ギャルに清楚系美少女……。 真面目な御曹司を演じつつ、内心はむっつりスケベ。

至れり尽くせり!僕専用メイドの全員が溺愛してくる件

こうたろ
青春
普通の大学生・佐藤健太は目覚めると、自宅が豪華な洋館に変わり10人の美人メイドたちに「お目覚めですか、ご主人様?」と一斉に迎えられる。いつの間にか彼らの“専属主人”になっていた健太は戸惑う間もなく、朝から晩までメイドたちの超至れり尽くせりな奉仕を受け始める。

処理中です...