【第一章完】三流声優の俺、特殊スキル【演技】で異世界の英雄になってみた

阿弥陀乃トンマージ

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第一幕

第10話(4)解釈違いからの出発

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                  ♢

「さて、というわけで修行だが……」

「は、はい……」

「先生、一体何をしたらいいもんかね?」

 静が海に尋ねる。海が面喰らう。

「え、わ、わたしですか?」

「そうだよ」

「な、何故わたしに?」

「泣く子も黙る大人気漫画家さんだ、こういう時は常人では思い付かないような発想をしてくれるんじゃねえかと思ってさ」

「そんな……買いかぶり過ぎですよ……」

 海が困った顔になる。静が手をゆっくりと左右に振る。

「いや、すまない……なんだか嫌味っぽくなっちまったな」

「いえ……」

「そうそうアイディアってものはポンポン出ねえか」

「そうですね……基本ネタ出しが一番手こずるので……」

「そうなのか?」

「もちろん、人によるかとは思いますが、わたしの場合はそうですね……」

「ふむ……」

「もう……タオルに残った最後の一滴をどうにかこうにか絞り出すようなイメージです」

「そ、それは大変だな……」

 静が戸惑う。

「ええ、汗がダラダラです」

「汗が垂れてんじゃねえか……」

「え?」

「いや、なんでもねえよ……」

「ただ……」

「ただ?」

「今回は三日間という、ある意味での『〆切』があります」

「ああ、そう言われると……」

「こういう切羽詰まった状況だと良いアイディアが思い浮かぶかもしれません……」

 海が両手で、両のこめかみを強く抑える。目が一点を見つめている。静が苦笑する。

「い、いや、あんまり思いつめ過ぎないでくれよ……肝心な時にへとへとに疲れてしまっていてはどうにもならねえからな」

「拙者から提案があります!」

「おっ、なんだい、青輪さん?」

 静が勢いよく手を挙げた楽に問う。

「やはりここは各々のスキルをひたすらに磨き上げる方がよろしいかと!」

「ひたすらに?」

「ええ!」

「オレの場合は【憑依】なわけだが……どうすればいいかね?」

「それはもうひたすらに憑依しまくるのです!」

「しまくるって言ったってな……その対象がないぜ?」

 静が首を傾げる。

「そこはイメージの力です!」

「イメージの力……」

「ある偉い漫画家さんはこう言いました……『後は想像力で補え!』と!」

 楽が右手の拳を力強く握る。

「……」

「どうですか⁉」

「いや、言わんとしていることはなんとなく分からんでもないが……」

 静が顎に手を当てる。

「それでは!」

「しかし、人間の想像力には限界というものがあってだな……」

「なんと! これは人気コスプレイヤーさんらしからぬご発言!」

「そ、そうかね?」

「そうでございます! コスプレをする際は、そのキャラクターにすっかりなりきるわけでございましょう⁉」

「ま、まあ、それはそうだな……」

「その時のイメージする力を応用するのです!」

「応用ね……」

「どうでしょうか⁉」

「そう簡単に出来れば苦労しねえって……」

 静が首をすくめる。楽が左手の拳も力強く握る。

「大丈夫です!」

「な、何をもって大丈夫だと?」

「作品公式コスプレイヤーなどに何度も指名されるという、オタク界カーストの頂点に登り詰められた貴女ならば! きっと大丈夫です!」

「それはあんまり嬉しくない頂点だな、そもそも登ったつもりはねえんだが……」

 静が困惑する。海が口を開く。

「それも悪くはないとは思いますが……」

「ん?」

「ここにこうしてこの三人が集まった意味がきっとあると思うのです……三人のスキルを組み合わせ、磨いてみるというのはいかがでしょうか?」

「連携するってことか?」

「そういうようなことになります」

「じゃあ、例えば、オレが『デモリベ』のこのキャラ、『ティミュス』になる……【憑依】!」

 静が金髪の女騎士の恰好になる。海が感心する。

「おおっ、武器の剣も含めて見事なティミュスの再現具合……」

「いや、素直に感心してないでさ、嬉しいけれども。ここからどうすれば良いんだ?」

「そ、そうですね……ティミュスは雷属性の攻撃をするキャラですね」

「ああ、でも器用貧乏でここぞというときの決定打にどうしても欠ける……」

「そうです、そうです」

「それでどうするんだい?」

「雷を剣先に集中させ、強烈な一撃を放つんです」

「剣先に集中……こうかい?」

 静が剣を構える。雷が剣先に溜まっていく。海が声を上げる。

「そうです! 今こそ剣を振るって下さい!」

「おう! ⁉」

 静が剣を振るったその先に、雷が落ちたようになり、それなりの大きさの穴がポッカリと出来上がる。海が満足気に頷き、静が感嘆とする。

「うん、なかなか良いですね……」

「こりゃあ大した一撃だな……」

「原作でも今後活躍させるときどうしようかと思っていたのです。このままではいわゆる『インフレ化』についていけなくなるなと……その問題が解決しました」

「そりゃあ何よりだ。今後もティミュスの出番が保証されるのは嬉しいね」

 海の言葉に静が笑う。

「……ちょっとお待ち下さい」

「どうした、青輪さん?」

「先生、それではティミュスの持ち味であるスピードが失われてしまいます」

「え?」

「パワー自慢のキャラは揃っています。ティミュスも一撃必殺系になってしまっては役割が重複してしまうのでは?」

「これはあくまでとどめの一撃ですから……役割は重ならないと思います」

「それでも必殺技はスピードを極めたものの方が良いと思います」

「ふむ、そういう考え方もありますか……」

「いわゆる解釈違いってやつか……相手は原作者様なんだが……」

 海と話す楽を見て、静が苦笑を浮かべる。

                   ♢

「………皆、修行は概ね順調のようだっぺ!」

「そうか、それはなによりだが……概ね?」

 ティッペの言葉に俺は首を傾げる。

「そう、概ねだっぺ」

「……一部、例外があるということか?」

「……細かいことはどうでも良いっぺ!」

「いや、良くはないだろう」

「……」

「………」

「そ、そんなことよりも自分の修行だっぺ!」

「あ、誤魔化したな……」

 俺はティッペに対し、冷ややかな視線を向ける。ティッペが声を上げる。

「目下の課題は二つあるっぺ!」

「ふ、二つもあるのか?」

「ああ、そうだっぺ! まず克服すべきことがあるっぺ!」

「克服すべきこと?」

「【演技】のスパンを短くすることだっぺ!」

「!」

「現状は一つの姿になったら、次の姿になるまで、しばらく時間がかかっているっぺ! この間を出来る限り無くさないといけないっぺ!」

「そ、そんなことが出来るのか?」

「魔王は出来ていたっぺ!」

「ああ、そう言われると確かにな……」

「それが出来れば、魔王とも対等に戦えるっぺ!」

「瞬時に姿を変える……確かに声優の現場でも瞬発力が求められるからな……」

「出来そうだっぺか?」

「……やってみるしかあるまい」

「なんとも頼もしい限りだっぺ! ではもう一つの課題! 赤髪の勇者の姿になった際の立ち回りだっぺ!」

「『半身動かし』だけでは駄目なのか?」

「もっともっとポテンシャルを引き出せるはずだっぺ!」

「そうか……」

「そうだっぺ!」

「よし!」

 俺はティッペに言われた課題の解決に取り組んだ。

                   ♢

「……というわけで三日間が経ったわけだっぺが……」

 ティッペが皆を見回す。

「……」

「ふむ、皆、それぞれ手応えは掴んだようだっぺね……」

 ティッペが笑みを浮かべる。俺が口を開く。

「ここから魔王の居城までは約一日かかります、後戻りは出来ません。皆さん、無理強いはしません。残りたいという方がいれば……」

「それは愚問だよ、栄光くん」

「監督……」

「このまま座して魔王の支配を待つなんて極めてナンセンスだ。まあ、見ていたまえ、自分の巧みな【演出】を見せてあげよう……!」

「姫ちゃんの【コネクション】で勝利を引き寄せるの!」

 姫ちゃんが胸を張る。

「監督も姫ちゃんも……ありがとうございます」

「そ、それがしも頑張ります……」

 天が呟く。脚がブルブルと震えている。

「天の【描写】は十分通用する。自信を持って大丈夫だ」

「ふっふっふ! ボクらの磨き上げたスキルも期待しておいてよ!」

「ロビンさん……」

「ボクの【舞踊】……!」

「ウチの【歌唱】……!」

「そしてアタシの【演奏】……! 期待しておいて」

「はい、期待しています」

 俺が三姉妹に対して頷く。

「オレの【憑依】も楽しみにしていな……」

 静が髪をかき上げる。俺は笑顔を浮かべる。

「ああ、楽しみにしている……」

「わたしも【閃き】で貢献することが出来ればと思っています……」

「海、頼む……」

「栄光さま! 拙者も一生懸命【推し】ます!」

「あ、ああ……お、お願いします……」

 俺はやや引きながら青輪さんに向かって頷く。ティッペが目配せしてくる。

「スグル……」

「よし! 皆、この世界……そして桜を救うために出発だ!」

 俺は皆に声をかける。皆が揃って頷く。
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