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第一章
第5話(4)中央突破からの前後
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「ふっ……」
「そ、そんな……」
「右もダメ、左もダメなら……中央突破あるのみじゃ!」
竜子がしてやったりというような笑みを浮かべる。
「む、むう……」
左京が扇子で口元を覆う。
「ふふん、予想外じゃったろう?」
竜子がどうだとばかりに胸を張ってみせる。
「……」
「中央の守りが薄くなっておったからのう……」
「………」
「そこを遠慮なく突かせてもらったというわけじゃ」
「……ふっ」
「! な、なんじゃ……?」
左京が扇子をよける。その口元は笑っている。
「それくらいは予想の範囲内ですわ……」
「な、なんじゃと?」
「それっ!」
「!」
「どうかしら?」
「い、いや、まだじゃ!」
「……ふふっ」
「ま、まだ!」
「……ふふふっ」
「こ、これなら!」
「……ふふふのふっ」
「くっ……」
「あら? 手が止まりましたわね? どうしたのかしら?」
(ことごとく受けきられた……中央に誘われたということか⁉)
「そう、誘ったのですわ……」
「! ワシの心の中を⁉」
竜子が自らの左胸を抑える。
「さすがに読心の術は会得してはおりませんが……大体考えそうなことは分かります」
「むうう……」
竜子が唇を尖らせる。
「ここまででしょうか?」
「ちっ……」
「まあ、わたくしにここまでさせただけでも大したものではありますが……」
「なんじゃと……?」
「左右の揺さぶりにもある程度対応されてこられたのでね……なかなかの相手でしたわ」
「むっ……」
竜子がムッとする。左京はそれに構わず話を続ける。
「さすがは『彩りのレスリング』を破っただけはありますわ」
「は?」
「Hブロックは彼女が勝ち上がるものだとばかり思っていましたから……」
「『彩りのゴスロリ』じゃろう?」
「……それです」
左京は少し恥ずかしそうにする。
「間違ったな」
「ほんの少しね」
「いやいや、全然違うじゃろうが」
「それは別にどうでもよろしいことですわ」
「どうでもよくはないじゃろう」
「細かいことを気になさいますのね」
「そこまで細かくはない……って、あの田中真理本人はあんまりそういった異名に興味はなさそうじゃったが……」
「そうでしょう?」
「うむ……」
「ええ、そうでしょうとも……」
左京がうんうんと頷く。
「自分で勝手に納得しとるな……」
竜子が冷ややかな目で左京を見つめる。
「と、とにかく、将野竜子さん、貴女はなかなかの相手でしたわ。まだ小学四年生とは……末恐ろしいですわね……」
「お主もまだ小学生じゃろうが……って、ちょっと待たんか」
「え?」
「え?じゃないわ。なにを勝負がついたような口ぶりを……」
「勝負はついたでしょう?」
「……まだじゃ」
「諦めが悪いんですのね……」
「ああ!」
「ふっ……」
(くっ、右辺――こちらから見て左辺――は相変わらず、銀が利いておる……! 攻め手が見つからない……!)
「どうされました?」
「くう!」
「ふふっ……」
(ちっ、左辺――こちらから見て右辺――は玉がしっかりと囲われておる……! なかなか崩すことが出来ん……!)
「どうされましたか?」
「おのれ!」
「ふふふっ……」
(中央も堅いか……手薄のように見えていつの間にか隙が無くなっておる……!)
「打つ手なしかしら?」
「まだまだ!」
「ふふふのふっ……」
(くっ、やはり堅いか……)
「時には諦めというのも……」
「え?」
「肝心ですわよ?」
左京が小首を傾げる。
「抜かせ!」
竜子が次の手を指す。
「若さ故の負けず嫌い……個人的には嫌いではありませんが……」
「だからお主も大して歳は変わらんじゃろうが……!」
「数は違いますわよ……」
「数じゃと?」
「ええ、修羅場をくぐってきた数が……!」
「な、なにを……あっ!」
竜子がハッとする。不用意な手を指してしまった。
「チェックメイトと行きましょう!」
左京が攻勢をかけてくる。
「む、むう……」
「それっ!」
「……」
「ふむ……これは⁉」
「………」
「ほう……ならば!」
「…………」
「どうしてなかなか……これならばどうですか⁉」
「……………」
左京の攻勢を竜子がなんとか凌ぐ。
「……思ったよりも粘りますわね」
「ふ、ふん……」
「言い換えるならば……」
「言い換えるならば?」
「やや見苦しいですわね」
「み、見苦しいじゃと⁉」
竜子の顔色が変わる。
「それです」
左京が扇子で竜子の顔を指し示す。
「そ、それ? どれじゃ?」
竜子が首を傾げる。
「この程度の安い挑発に引っかかって顔色がすぐ変わってしまうところ……対局の経験不足だと言わざるを得ませんわね……」
「か、感情が豊かなんじゃ!」
「物は言いようですわね……」
左京が苦笑する。
「や、やかましいわい! 先人も言うておるじゃろうが!」
「なにを?」
「『諦めたらそこで試合終了』じゃ!」
「はあ……」
「ろ、露骨にため息をつくな!」
「ため息をつきたくもなるでしょう……これは試合ではなく対局……それに時間制限のあるスポーツとは違って、『詰み』というシチュエーションが存在します……」
「詰み……」
「指す手がないということですわ」
「そ、それくらいは知っておる! ま、まだ詰んでいないわ!」
「本当に諦めが悪い……!」
「ちぃっ!」
「……!」
「くぅっ!」
「………!」
「ぬおっ!」
「……む?」
左京が首を傾げる。
「ふう……」
竜子がひと息をつく。左京が口元を抑える。
「ま、まさか……⁉」
「15分が経過しました……持ち時間3分の将棋になります」
「なっ……⁉」
係員の宣告に左京がハッとする。
「これで時間制限が出来たのう?」
竜子がいかにも悪そうな笑みを浮かべる。
「くっ……!」
「よっと!」
「ぬっ……!」
「あらよっと!」
「……負けましたわ」
左京が潔く頭を下げる。竜子が大きくため息をつく。
「はああ~」
「さっきの悪手は……誘いでしたのね?」
「ああ、左右が駄目なら、前後に揺さぶってみようかなと思っての……」
「攻め込んだのではなく、攻め込まされた……してやられましたわ」
左京が苦笑する。これで竜子が決勝トーナメント準決勝進出である。
「そ、そんな……」
「右もダメ、左もダメなら……中央突破あるのみじゃ!」
竜子がしてやったりというような笑みを浮かべる。
「む、むう……」
左京が扇子で口元を覆う。
「ふふん、予想外じゃったろう?」
竜子がどうだとばかりに胸を張ってみせる。
「……」
「中央の守りが薄くなっておったからのう……」
「………」
「そこを遠慮なく突かせてもらったというわけじゃ」
「……ふっ」
「! な、なんじゃ……?」
左京が扇子をよける。その口元は笑っている。
「それくらいは予想の範囲内ですわ……」
「な、なんじゃと?」
「それっ!」
「!」
「どうかしら?」
「い、いや、まだじゃ!」
「……ふふっ」
「ま、まだ!」
「……ふふふっ」
「こ、これなら!」
「……ふふふのふっ」
「くっ……」
「あら? 手が止まりましたわね? どうしたのかしら?」
(ことごとく受けきられた……中央に誘われたということか⁉)
「そう、誘ったのですわ……」
「! ワシの心の中を⁉」
竜子が自らの左胸を抑える。
「さすがに読心の術は会得してはおりませんが……大体考えそうなことは分かります」
「むうう……」
竜子が唇を尖らせる。
「ここまででしょうか?」
「ちっ……」
「まあ、わたくしにここまでさせただけでも大したものではありますが……」
「なんじゃと……?」
「左右の揺さぶりにもある程度対応されてこられたのでね……なかなかの相手でしたわ」
「むっ……」
竜子がムッとする。左京はそれに構わず話を続ける。
「さすがは『彩りのレスリング』を破っただけはありますわ」
「は?」
「Hブロックは彼女が勝ち上がるものだとばかり思っていましたから……」
「『彩りのゴスロリ』じゃろう?」
「……それです」
左京は少し恥ずかしそうにする。
「間違ったな」
「ほんの少しね」
「いやいや、全然違うじゃろうが」
「それは別にどうでもよろしいことですわ」
「どうでもよくはないじゃろう」
「細かいことを気になさいますのね」
「そこまで細かくはない……って、あの田中真理本人はあんまりそういった異名に興味はなさそうじゃったが……」
「そうでしょう?」
「うむ……」
「ええ、そうでしょうとも……」
左京がうんうんと頷く。
「自分で勝手に納得しとるな……」
竜子が冷ややかな目で左京を見つめる。
「と、とにかく、将野竜子さん、貴女はなかなかの相手でしたわ。まだ小学四年生とは……末恐ろしいですわね……」
「お主もまだ小学生じゃろうが……って、ちょっと待たんか」
「え?」
「え?じゃないわ。なにを勝負がついたような口ぶりを……」
「勝負はついたでしょう?」
「……まだじゃ」
「諦めが悪いんですのね……」
「ああ!」
「ふっ……」
(くっ、右辺――こちらから見て左辺――は相変わらず、銀が利いておる……! 攻め手が見つからない……!)
「どうされました?」
「くう!」
「ふふっ……」
(ちっ、左辺――こちらから見て右辺――は玉がしっかりと囲われておる……! なかなか崩すことが出来ん……!)
「どうされましたか?」
「おのれ!」
「ふふふっ……」
(中央も堅いか……手薄のように見えていつの間にか隙が無くなっておる……!)
「打つ手なしかしら?」
「まだまだ!」
「ふふふのふっ……」
(くっ、やはり堅いか……)
「時には諦めというのも……」
「え?」
「肝心ですわよ?」
左京が小首を傾げる。
「抜かせ!」
竜子が次の手を指す。
「若さ故の負けず嫌い……個人的には嫌いではありませんが……」
「だからお主も大して歳は変わらんじゃろうが……!」
「数は違いますわよ……」
「数じゃと?」
「ええ、修羅場をくぐってきた数が……!」
「な、なにを……あっ!」
竜子がハッとする。不用意な手を指してしまった。
「チェックメイトと行きましょう!」
左京が攻勢をかけてくる。
「む、むう……」
「それっ!」
「……」
「ふむ……これは⁉」
「………」
「ほう……ならば!」
「…………」
「どうしてなかなか……これならばどうですか⁉」
「……………」
左京の攻勢を竜子がなんとか凌ぐ。
「……思ったよりも粘りますわね」
「ふ、ふん……」
「言い換えるならば……」
「言い換えるならば?」
「やや見苦しいですわね」
「み、見苦しいじゃと⁉」
竜子の顔色が変わる。
「それです」
左京が扇子で竜子の顔を指し示す。
「そ、それ? どれじゃ?」
竜子が首を傾げる。
「この程度の安い挑発に引っかかって顔色がすぐ変わってしまうところ……対局の経験不足だと言わざるを得ませんわね……」
「か、感情が豊かなんじゃ!」
「物は言いようですわね……」
左京が苦笑する。
「や、やかましいわい! 先人も言うておるじゃろうが!」
「なにを?」
「『諦めたらそこで試合終了』じゃ!」
「はあ……」
「ろ、露骨にため息をつくな!」
「ため息をつきたくもなるでしょう……これは試合ではなく対局……それに時間制限のあるスポーツとは違って、『詰み』というシチュエーションが存在します……」
「詰み……」
「指す手がないということですわ」
「そ、それくらいは知っておる! ま、まだ詰んでいないわ!」
「本当に諦めが悪い……!」
「ちぃっ!」
「……!」
「くぅっ!」
「………!」
「ぬおっ!」
「……む?」
左京が首を傾げる。
「ふう……」
竜子がひと息をつく。左京が口元を抑える。
「ま、まさか……⁉」
「15分が経過しました……持ち時間3分の将棋になります」
「なっ……⁉」
係員の宣告に左京がハッとする。
「これで時間制限が出来たのう?」
竜子がいかにも悪そうな笑みを浮かべる。
「くっ……!」
「よっと!」
「ぬっ……!」
「あらよっと!」
「……負けましたわ」
左京が潔く頭を下げる。竜子が大きくため息をつく。
「はああ~」
「さっきの悪手は……誘いでしたのね?」
「ああ、左右が駄目なら、前後に揺さぶってみようかなと思っての……」
「攻め込んだのではなく、攻め込まされた……してやられましたわ」
左京が苦笑する。これで竜子が決勝トーナメント準決勝進出である。
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