竜王はワシじゃろ?

阿弥陀乃トンマージ

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第一章

第7話(4)もうひとつの人格

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「ア、アタイ……」

 玲央奈が戸惑いながらアリスを見ると、ちょうど目が合う。アリスはニヤッと笑う。

「よお、初めましてだなあ」

「は、はい?」

 玲央奈が首を傾げる。

「アタイは有栖宮ありすってんだ、ひらがなでありすだ」

「え、ええ……?」

「どーもカタカナのアリスが調子出ないようでよ、アタイの出番ってわけだ」

「む……?」

 玲央奈が目を細める。ありすが両手を広げて肩をすくめる。

「案外、察しが悪いなあ、アタイはアリスの中にいるもうひとつの人格ってやつだよ」

 ありすが自らの胸を指差す。

「な、何を言っているの? そ、そんなことはありえないわ」

「それがありえるんだよ」

「ば、馬鹿馬鹿しい……」

 玲央奈が首を左右に振る。

「馬鹿馬鹿しいとは随分だな……分かったよ」

「え?」

「それなら、こいつで語ろうか……!」

 ありすが左手で駒を持って指す。玲央奈が目を見開く。

「……! さっきまで右手だったのに……!」

「ふふっ……」

「……」

「………」

「…………」

「どうだい? 信じてもらえたかね?」

 何手か進んだ後、ありすが玲央奈に問いかける。

「……………」

「シカトかい、傷つくねえ……」

 ありすが苦笑を浮かべる。

(強さはひとまず置いておくとして……人が変わったかのような差し回し……もうひとつの人格……ほ、本当だと言うの?)

 玲央奈は内心で困惑する。

「有栖宮さん、様子が変わりましたわね……」

 対局を見ていた左京が呟く。

「利き手を変えたのは単なるパフォーマンスってわけでも無さそうだね……」

 央美が目を細める。

「スタイルが変わったの」

「そこに気付くとは……やるね、尻尾ちゃん」

 央美が竜子を笑顔で見つめる。

「嫌でも気付くわい、それまで守備的な指し方だったのに、今は攻撃的じゃ……」

 竜子が盤面を指し示す。

「うん、そうだね」

「これは……厄介ではないか?」

「かなりね……対局中に相手が変わったようなものだから」

 央美が竜子の問いに頷く。

「明確に実力差があるのなら、なんてことはありませんが……このレベルになると……」

「苦戦は必至……」

「その通り」

 左京は真理を扇子で差し示す。

「有栖宮アリス……どこか纏う雰囲気もガラリと変わった……」

「そ、そういう話はよく分からないけれど……」

 真理の言葉に央美は苦笑交じりで応じる。

「いや……真理の言うとおりじゃ、央美、お主も心のどこかでは、有栖宮の変化をそのように感じていよう?」

「非科学的だって……」

 央美が竜子の問いに対して、さらに苦笑する。

「……どうなのじゃ?」

 竜子が央美をジッと見つめる。

「……あ~そうだね、確かにそういう印象は受けるよ」

 央美が両手を広げながら、うんうんと頷く。

「伊吹がこの短い対局時間の内に対応出来れば……」

「ええ、勝負は分からなくなりますわ……」

 真理の淡々とした呟きに左京が頷く。

「……待っておるぞ」

 竜子が玲央奈をじっと見て小さいが強い声で呟く。

「さてさて……その澄ましたお顔を崩してやりたいねえ……」

 ありすが玲央奈をあらためて見つめる。

「ふん……」

「そらっ!」

「……!」

「そりっ!」

「……‼」

「そるっ!」

「……⁉」

「ふっ……」

 ありすがニヤッと笑みを浮かべる。

(……先ほどまでならば考えられない手の応酬! 対応しきれなかった……!)

「ミスが出てきたねえ……それっ!」

「くっ……!」

「一気に決めるぜ……! そろっ!」

「むう……!」

「ふふん……」

 ありすが得意気な顔で玲央奈を見る。少し間を置いてから玲央奈が口を開く。

「……まだよ」

「……ああん?」

「私は女性初の名人を目指しているのよ。このままでは終わらない……!」

「うおっ⁉」

 玲央奈が反撃に転じる。ありすが面食らう。

「どうかしら?」

「ちっ……おい、そろそろ目が覚めたろ? バトンタッチだぜ……」

「⁉」

「ハーイ……」

 ボサボサ頭のアリスが戻ってきた。先ほどまでとは打って変わった指し回しを見せる。

(くっ、また戻ったの⁉ そ、それにこの指し回し、さっきよりも守備的……このままだと逃げ切られる、劣勢を挽回出来ない……!)

「…………………フウ」

「……負けました」

 玲央奈が頭を下げる。
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