【第一章完】からくり始末記~零号と拾参号からの聞書~

阿弥陀乃トンマージ

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第一章

第11話(3)広瀬川にて

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「し、死ぬかと思った……」

 技師が牛からくりから降りて、いかだの上に大の字になって寝転がる。

「案外死んでいるかもしれないよねえ……」

「怖いことを言うなって」

 藤花の言葉に技師は顔だけ起こして反応する。

「三途の川とか言っていたじゃないの」

「あれは気の迷いだ」

「気の迷いねえ……」

「というか、こういうものを用意しておいたのなら、ちゃんと言っておいてくれ」

 技師がいかだをぽんぽんと叩く。

「ああ、どこから話が漏れるか分からないからね。黙っておいた」

「そんな……」

「敵を欺くにはまず味方から……とも言うじゃないの……」

「欺かれる身にもなってくれよ……」

「いや……」

 からくり牛から降りて、いかだに腰を下ろした楽土が口を開く。

「うん?」

 藤花が楽土に視線を向ける。

「言うのをすっかり忘れていただけなのではないですか?」

「!」

「ああ、それはあり得るな……」

 技師が頷く。

「な、なんでそんなことを……」

「だって藤花さんですし」

「だな」

 楽土の言葉に技師が再度頷く。

「……そう、忘れていたよ」

 藤花が自らの後頭部を片手で抑え、笑顔でペロっと舌を出す。楽土が頭を抑える。

「忘れないでくださいよ……」

「というか無理するなよ……」

「む、無理するなって何さ⁉」

 藤花が技師の言葉に反応する。

「色々な意味でだよ」

「色々な意味って⁉」

「まあ、それは良いけどさ……」

「良くない!」

「まあまあ……」

 楽土が藤花をなだめる。

「ふん……大体ねえ、アンタたちもおかしいのよ?」

「ええ?」

「なにが?」

 楽土と技師が首を傾げる。

「城に突入する段になって、脱出する方法を一切聞いてこないって言うのも……!」

「ま、まあ、そう言われると……」

 楽土が後頭部をポリポリと掻く。

「聞く暇もないって感じだったじゃないか……」

 技師が半身を起こして呟く。

「とにかく……そういう意味ではおあいこだよ、おあいこ」

 藤花が腕を組みながらうんうんと頷く。

「おあいこって……」

 技師が苦笑する。

「そういえば……」

「ん?」

 藤花は楽土の方に視線を向ける。

「国境の店で、何か男性と背中合わせで話をしていませんでしたか?」

「覚えていませんね……」

 藤花が首を傾げる。

「いやいや、鯉を食べたあの店ですよ」

「あ~なんかあったかもな……」

 技師も思い出したように頷く。

「……」

「あれはなんだったのですか?」

 楽土が問う。

「なかなか目ざといですね……」

 藤花が感心したように呟く。

「気にはなっていたのです」

「ふむ……」

「このいかだを手配したのもあの方ですね?」

「ええ、そうです」

「何者ですか?」

「主に情報屋ですが……基本的にはなんでも屋です」

「なんでも屋?」

「色々と顔がきく者なので、手伝いをしてもらっているのです」

「そういう方が……」

「日ノ本中におりますよ」

 藤花が両手を広げる。

「日ノ本中に?」

「ええ、私だけでは任を果たすのはなかなか難しいですからね……」

「なるほど……」

 楽土が腕を組んで深々と頷く。

「……これからどうするんだ?」

「選択肢はふたつあるよ」

 技師の問いに藤花が答える。

「ふたつ?」

「ええ」

「ひとつだけだと思ったけど」

「なんだと思った?」

「逃げの一辺倒だろ?」

「そうだね。幸いにも川の流れが今日は一段と速いようだ……」

 藤花が広瀬川の流れを見ながら呟く。

「どこかで降りる?」

「陸に上がると面倒だね。城から早馬を飛ばして、沿岸を警戒している可能性が極めて高い」

 技師の言葉に藤花は首を左右に振る。

「それじゃあ……」

「このまま海に出るのが一番かなっと」

「船を用意しているのですか?」

 楽土が問う。藤花が首を縦に振る。

「はい、ここから北の方にですけどね……」

「それに乗ってどうするのですか?」

「うむ……とりあえずは江戸の方に戻ることになりますかね……」

「本当に仕切り直しですね……」

「そうですね……」

「……もうひとつの選択肢は?」

「それは……!」

「はははっ! 追いついたぜ!」

 大きな一本の丸太に乗った大樹が川を下ってきた。

「ここで片を付ける……!」

 藤花が大樹の方を向いて、身構える。
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