【第一章完】からくり始末記~零号と拾参号からの聞書~

阿弥陀乃トンマージ

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第一章

第12話(1)いかだの上にて

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                  拾弐

「と、とりあえず海に出ることは出来ましたね……」

 楽土が呟く。

「ふう、追っ手はまだ来ていないようだな……」

 技師が周囲を見回して、ほっとした様子で胸を撫で下ろす。

「……とはいえ、逃げた報せは既に仙台の町中に知れ渡っているはず……追っ手が迫ってくるのも時間の問題でしょうね……」

 うずくまった状態から半身を起こした藤花が淡々と呟く。

「と、藤花さん、大丈夫ですか?」

「あまり大丈夫とは言えないですね……」

 楽土の問いかけに対し、藤花は苦笑交じりに答える。

「ど、どこか適当なところに接岸しますか?」

 藤花が首を左右に振る。

「いいえ、このまま沖に出ます」

「お、沖にですか?」

「ええ、小舟を手配させてありますので、それに乗り移ります」

「小舟に……」

「さすがにいかだで大海に漕ぎ出すというのは命知らずにも程がありますから……」

「小舟というのも大概じゃないか?」

 技師が疑問を口にする。

「ほう……」

 藤花が技師に視線を向ける。技師が戸惑う。

「な、なんだよ……」

「いい疑問だねえ」

「いや、抱いて至極当然の疑問だろうが」

「小舟に乗って北へ向かうんだよ」

 藤花が北の方角を指差す。技師が思い出したように頷く。

「ああ、そういえばさっきそんなようなことを言っていたな……北になにがあるんだ?」

「北上川河口に石巻という港町がある。そこでは米の積み出しを大規模に行っている。江戸の町に向けてもね」

「ふむ、その積み出し船のひとつに乗り込んで江戸に上るってことか」

「そういうこと。というわけで楽土さん、いかだを小舟の方まで漕いでください。方角は……あちらですね。出来る限り速くお願いします。追っ手がやって来る前に」

 藤花が北東の方角を指差す。

「は、はい……!」

 楽土が頷いて、再びいかだを力強く漕ぎ出す。

「さて……」

 藤花が腹部を抑える。それを見た技師が呟く。

「……修理するか」

「それは後でもいいよ……」

「とはいえ、それでは満足に動けないだろう?」

「まあ、正直に言うとそれはそうなんだけれども……」

「そうだろう? 私の眼は誤魔化せないぜ」

 技師が眼鏡をクイっと上げる。藤花が周囲を見回して呟く。

「だが、ここではロクな修理が出来ないだろうに……」

「出来るんだな、これが……」

「ええ……?」

「こちらをご覧あれ」

 技師が懐から様々な部品を取り出して、藤花に見せる。それを見た藤花が驚く。

「こ、これは……! ど、どうやって……?」

「青葉城で侍や忍者のからくり人形を派手にぶっ壊していただろう? その時、地面に散らばった部品で使えそうなものを見繕って、ちょちょいっと拝借させてもらったんだよ」

「ぬ、抜け目がないね……」

 藤花が感嘆とした声を上げる。

「それほどでもないさ。それじゃあ修理をしようか……」

「……」

「………」

「…………」

「……楽土さん」

「は、はい? な、なんでしょうか?」

「しばらくあっちをむいていてくれないかい?」

「あ、ああ、すみません!」

 技師の言葉を受け、楽土は慌てて目を逸らす。

「まあ、別に見ていても良いんですけどね……減るものじゃないし……」

 藤花が笑みを浮かべながら呟く。

「駄目だ。私の気が散ってしょうがないからな」

「ふふっ、だそうです。残念でしたね」

 藤花が笑いをこぼす。楽土が戸惑う。

「い、いや……残念って……」

「それじゃあ始めるよ」

「ああ……うん……」

 技師が作業を始め、藤花が何故か悩ましげな吐息を漏らす。楽土は漕ぐことに集中する。

「……………」

「あ、ああん……」

「………………」

「う、ううん……」

「…………………」

「お、おおん……」

「……藤花さん、さっきからわざとやっていませんか?」

 楽土が目を向けずに尋ねる。藤花が答える。

「ばれましたか」

「ばれますよ、なんですか、おおんって……」

「いやいや、なかなかそれっぽい声を出すというのは難しいものですね……」

「出さなくて良いですから。作業に集中してください」

「とはいっても、集中するのは技師さんですからねえ……」

「……終わったよ」

「おっと、さすがに早いね」

 技師の言葉に藤花が感心する。技師が首を捻る。

「一応はだけどね……」

「一応はというと?」

「応急手当みたいなものだ。やはり海の上では限界がある。ましてやこんないかだでは……」

 技師がお手上げだという風に両手を広げる。

「……それなりには動けるようになったからまあ良いけれど……う~ん……」

 衣服を正した藤花が立ち上がって、体を軽く動かしてみて状態を確認する。

「……充分だとは言えないだろう?」

 技師が問う。藤花がうんうんと頷く。

「確かにそうだねえ、やはりあそこに寄ることになるかな……」

 藤花が顎をさすりながら呟く。

「あそこ?」

 楽土が首を傾げる。

「まあ、そのことについては洋々考えましょう……あれに乗ってね」

「え? あ……」

 藤花が指差した先に小舟があるのを楽土が見つける。

「楽土さん、あの小舟に寄せてください」

「はい……」

 いかだと小舟がお互いに接近する。

「さあ、乗り移るとしましょう」

 藤花たちは小舟に乗り移る。
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