【第一章完】からくり始末記~零号と拾参号からの聞書~

阿弥陀乃トンマージ

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第一章

第12話(2)追っ手との戦い

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「へえ、案外ちゃんとした舟じゃないか……」

 技師がポツリと呟く。

「それじゃあ、お願いしますよ……」

 藤花が初老の舟頭に声をかける。

「……へい」

 舟頭は小さく頷き、小舟を北へと進ませる。

「……それで?」

 楽土が藤花の隣に腰かけて問う。

「はい?」

 藤花が首を傾げる。

「いや、あそこに寄ることになるとかどうとかおっしゃっていたでしょう……」

「そんなこと言いましたっけ?」

 藤花がさらに首を傾げる。

「言っていましたよ」

「う~む……」

 藤花が腕を組む。

「どういうお考えなのですか?」

 楽土が重ねて藤花に問う。

「まあ、これはあくまで次善の策なのですが……」

「次善の?」

「ええ」

「そ、そうですか……」

「しかし……」

「え?」

「ある意味では最善の策だと言えるのかもしれません……」

「ええ?」

 楽土が首を捻る。

「……どういうこったよ?」

 技師が口を挟む。

「うん?」

 藤花が首を捻る。

「こんな時にのんびり謎かけして遊んでいる暇はないだろう……」

「別にのんびり遊んでいるつもりはないよ……何が言いたいかというと、すべては向こうの出方次第だってことさ」

「出方次第? ……むっ⁉」

 技師が声のする方に目を向けると、大きな船が一艘、小舟を追いかけてくるのが目に入る。

「ふむ、思ったよりも早かったですねえ……」

 藤花が立ち上がり、頬をさすりながら呟く。

「姐さん! この舟じゃあたちまち追いつかれちまいます!」

 初老の舟頭が慌てながら藤花に告げる。

「姐さんって言うな……」

 藤花が舟頭を睨む。

「えっ⁉」

「なんでもありません。そのまま舟を進めてください。なんとかしますので」

 藤花が笑顔に戻り、舟頭に指示する。

「は、はあ……」

 舟頭が舟の操作に戻る。

「さてと……」

「待て! 逃がさんぞ!」

 船から声がはっきりと聞こえる距離になる。

「ど、どうする⁉」

 技師が問う。

「大人しく捕まるわけにはいかないねえ……」

「し、しかし、逃げられないだろう! 追いつかれるのは時間の問題だ!」

「別に逃げるつもりもないさ」

「えっ⁉」

「ちょっと肩慣らししてくる……」

「え?」

「と、藤花さん……?」

 技師と楽土が戸惑う中で藤花は舟の後方に立つ。

「……それっ!」

「!」

 藤花が両手を振ると、両手から藤の花の蔓が伸び、追ってきた船に絡みつく。

「……よっと!」

 その蔓を伝うように飛んだ藤花が船に着地する。

「ええっ⁉」

 技師が驚く。

「‼」

「どうも、お邪魔します……」

 藤花が丁寧にお辞儀をする。

「くっ!」

 船に乗っていた者たちが揃って剣を抜いて構える。

「……ふむ、やはり海賊の類ではなく、仙台藩のお侍さんか……面倒は避けたいから始末は出来ないねえ……面倒だ」

「なにをぶつぶつと! かかれ!」

「はあっ!」

「ふう……」

「な、なにっ⁉」

 斬りかかった侍が驚く。藤花が右手の人差し指と中指の二本だけで、振り下ろされた剣を挟んで止めたからである。

「それくらいで驚かれたらこちらも困るよ……!」

「ぬおっ⁉」

 藤花が剣の刃を折ってみせる。剣を持っていた侍は体勢を崩して転倒する。

「むっ!」

「弓矢や鉄砲でさっさと討つべきだったね……まあ、そこまでの達人はいないか……」

「や、やかましい! か、かかれ!」

 上司の侍の指示に応じ、藤花の周りの侍が斬りかかる。

「うおおっ!」

「はっ!」

「がはっ⁉」

 藤花が懐に入り、掌底を侍の顎に食らわせる。侍は崩れ落ちる。

「むおおっ!」

「ふっ!」

「ぐはっ⁉」

 藤花がしゃがみ込み、回し蹴りで足を払い、侍を転ばせる。侍は頭を打って動かなくなる。

「ぬおおっ!」

「ほっ!」

「ごはっ⁉」

 藤花が飛び上がり、侍の髷をつかんで、顔面に膝蹴りをお見舞いする。侍は倒れる。

「終わりかな……?」

「なっ……仕込み武器の類を使わずに……」

「へえ、それが見えているならそれなりに優秀だね……」

「ふ、ふざけおって……!」

「加減をしてやったんだ。むしろお礼を言って欲しいくらいだね」

 藤花が両手を大げさに広げる。

「ま、まだ儂がいる! ……むっ⁉」

「……威勢が良いのはもう分かったよ」

「⁉」

 藤花が上司の侍の懐にすっと入り込み、右手の中指で額を軽く弾く。上司の侍が後方に吹っ飛び、船から落ちそうになるが、その寸前で止まる。藤花がホッとする。

「あ、あぶな……落ちたら面倒どころじゃなかったよ……さて……」

「ひっ⁉」

 藤花が船頭にゆっくりと近づく。船頭が怯える。

「なにも取って食いやしないよ……他にも追っ手がやって来るんだろう? ここで待って、そいつらに報せてやってちょうだい……私たちは……で待つと」

「は、はあ……」

「分かったね?」

「は、はい!」

 船頭が頷く。藤花が笑みを浮かべる。

「良い子だ。それじゃあ……!」

 藤花は再び両手から藤の花の蔓を出して、小舟に絡め、それを伝って戻る。技師が戸惑う。

「む、無茶苦茶なことをするな……」

「……どうもありがとう」

「ほ、褒めてないぞ!」

「そうじゃなくて、修理をしてくれたことだよ」

 藤花が苦笑する。

「あっ……」

「試しに武器を使わないで戦ってみたが、思った以上に動けたよ……」

 藤花が右手の手のひらを握ったり、開いたりする。技師が戸惑い気味に頷く。

「そ、それはなにより……」

「だが、やはり……あそこに寄る必要があるね……」

「あそことは?」

 楽土が尋ねる。

「松島です」

「ま、松島⁉」

「ええ、そこで追っ手を待ち構え、迎え撃つことにしました……」

「い、良いのですか? あのからくり人形も来るのでは?」

「だからこそですよ。返り討ちにしてやると同時にあの大樹とやらも破壊する……これこそまさに一石二鳥というやつです」

「な、なるほど、次善にして最善の策……!」

 楽土が腕を組んで頷く。

「そういうことです。舟を松島へ!」

「へ、へい!」

 舟頭が舟を松島の方角へと向ける。
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