22 / 123
第一章
第6話(1) 何の変哲もない女子高生
しおりを挟む
陸
「あんなことがあった次の日に学校ってのもなかなかダルいよな……」
「……」
「っていうか、狭世じゃなくても妖って襲ってくるんだな」
「……」
「そういや、和子さん昨夜のこと覚えていなかったな。まあ忘れてもらって良いんだが」
「……」
「おい、なんか反応しろよ」
「……お願いですから破廉恥の塊が口をきかないでもらえますか」
「もはや人扱いすらされていない⁉」
そんなやりとりをしながら教室に入った勇次と愛は驚く。
「おはよう、二人とも」
「なっ……⁉」
「隊、う、上杉山さん⁉ なんでここに⁉」
「学生だからな、登校している」
「そういうことではなくて……」
「そろそろ朝のHRが始まるぞ」
御剣が勇次たちに席につくように促す。愛が小声で尋ねる。
「まさか……また妖ですか?」
「いや、今日はそういうわけではない。単に来てみただけだ」
「来てみただけ⁉」
「折角、色々と誤魔化して学籍も取得したわけだからな、使わなければ損だろう」
愛が呆れ気味に尋ねる。
「それなら別に万夜さんの学校でも良かったんじゃないですか?」
「おいおい、万夜の通っている学校は超のつくお嬢様学校だぞ。そんな所に私が行ってみろ。浮いて浮いてしょうがないだろう」
「浮く浮かないの概念はお持ちなんですね」
「ここでも十分に浮くと思いますけど……既に浮いてるし」
「何だと? 一体どこがだ? どこからどう見ても何の変哲もない女子高生じゃないか」
勇次の言葉に御剣が不服そうな顔を見せる。
「まず、腰のそれですよ! 何の変哲もないJKは普通腰に刀を帯びないんですよ!」
「そ、そうなのか……?」
御剣は刀を手に取りながら露骨に戸惑う。
「困惑されてもこっちが困りますよ! 何で昨日は持っていなかったのに、今日は持ってきちゃったんですか⁉」
「昨日の今日だからな、やはり携帯しておいた方が良いと思ってな」
「現世ではアウトって常識でしょ! ここがコスプレ会場だったらギリギリイケるかもしれませんけど!」
「刀剣好きが高じた女子高生とでも言えば問題ないと億葉から教わったのだが……」
「ロクなこと教えねえな、アイツ……」
勇次が両手で頭を抱える。愛がため息混じりに呟く。
「はあ……とにかく大人しくしておいて下さいね」
「任せろ。気配を殺すことは得意だ」
「誰もそこまでしろとは言っていません」
「このようにナポレオンのロシア遠征は失敗に終わりました……では、どうすれば良かったのかな? 上杉山さんはどう思う?」
「……」
「いやいや、ちょっと難しい質問だったかな?」
「まず防寒対策をもっとしっかりと入念に行うべきだったかと考えます」
「え?」
「更に言えば、兵站が不十分であったとの記録もあります。補給が滞ってしまえばどんな精強な軍隊でも継戦行動は不可能です。そもそもとして歴史を学ぶ上で、『もしも』などとという考え方を持つこと自体が……」
「あ、ああ……」
「う、上杉山さんは歴史シミュレーション大好きだものね!」
愛がわざとらしく大声を上げる。世界史の教師が頷く。
「そ、そうなんだね、ゲームも案外馬鹿には出来ないものだからね、ははっ……」
教師は御剣の席から離れた。次の休み時間、御剣は時間割を見て呟く。
「次は体育か。女子は体力テストと聞いたが」
「上杉山さん、ジャージは……」
「心配無用だ。用意してある」
「素直に見学して欲しかったです……更衣室はこちらです……」
愛は御剣を案内する。勇次は苦笑する。
「大変だな、愛も……ん?」
勇次は視線を感じ、周囲を見回す。しかし、視線の主は見当たらなかった。
「気のせいか……男子はバスケか。さて、俺も更衣室に行くか」
体育の授業が終わり、女子生徒たちが教室に引き上げてきた。
「凄いよ、上杉山さん! インターハイとか行けるんじゃない!」
「陸上部に入らない?」
「いやいや、球技なんかどう?」
興奮気味の女子生徒たちに囲まれる御剣。その隣で愛が軽く額を抑える。
「申し訳ないが、興味がない。他をあたってくれ」
残念そうな女子生徒たちの言葉を余所に御剣は席についた。そうしている内に怒涛の女子高生体験二日目も放課後を迎えた。またも御剣がクラスメイトたちから遊びの誘いを受けたが、愛が体よく断って、教室には勇次たち三人が残るのみとなった。
「どうした愛、帰らないのか?」
勇次は座ったまま頭を抱える愛に対して声を掛ける。
「……」
勇次が苦笑混じりに御剣に尋ねる。
「体育でまたやらかしたんでしょう、隊長?」
「またとはなんだまたとは。普通の女子高生らしくつつがなくこなしたぞ」
愛がドンと机を叩く。
「どこがつつがなくですか! 普通の女子高生はナポレオンの遠征について持論を展開しませんし、体力テストで県の記録をことごとく破らないんですよ!」
「ええっ⁉ ああ、インターハイ云々ってそういう……」
「手加減したんだが……」
「足加減して下さい!」
「足加減って……愛、少し落ち着けよ」
「落ち着いていられないわよ! 隊長、あんまり悪目立ちすると、学籍を偽造した件もバレて、色々と面倒なことになりますよ!」
「そう言われるとそうだな……済まなかった、今後は気を付ける」
御剣が愛に頭を下げる。それを見て愛は冷静さを取り戻す。
「……いえ、私も言い過ぎました。帰りましょうか」
教室を出る愛に二人の女子生徒が声を掛ける。
「あ、いたいた! 愛ちゃん!」
「佐藤先輩、鈴木先輩、どうかしたんですか?」
「どうかしたじゃないよ! 今日は部活出れるって言ったじゃない!」
「ああ、そうでした……」
「頼むよ~活動実績が無いと、即廃部になっちゃうんだから、『オカルト研究部』!」
「愛、そんな部活に入っているのか……」
御剣が腕を組んで呟く。愛が小声で話す。
「どうしてもと頼まれたので……同じ中学の先輩ですし、断りきれなくて……」
愛の言葉に勇次は納得する。勇次も見掛けたことのある顔だったからだ。
「すみませんが、私はここで失礼します!」
二人に引きずられる様に愛はその場を去る。
「じゃあ、帰るか、貴様の家に」
「はい……って、ええっ⁉」
御剣の突拍子も無い言葉に勇次は驚く。
「あんなことがあった次の日に学校ってのもなかなかダルいよな……」
「……」
「っていうか、狭世じゃなくても妖って襲ってくるんだな」
「……」
「そういや、和子さん昨夜のこと覚えていなかったな。まあ忘れてもらって良いんだが」
「……」
「おい、なんか反応しろよ」
「……お願いですから破廉恥の塊が口をきかないでもらえますか」
「もはや人扱いすらされていない⁉」
そんなやりとりをしながら教室に入った勇次と愛は驚く。
「おはよう、二人とも」
「なっ……⁉」
「隊、う、上杉山さん⁉ なんでここに⁉」
「学生だからな、登校している」
「そういうことではなくて……」
「そろそろ朝のHRが始まるぞ」
御剣が勇次たちに席につくように促す。愛が小声で尋ねる。
「まさか……また妖ですか?」
「いや、今日はそういうわけではない。単に来てみただけだ」
「来てみただけ⁉」
「折角、色々と誤魔化して学籍も取得したわけだからな、使わなければ損だろう」
愛が呆れ気味に尋ねる。
「それなら別に万夜さんの学校でも良かったんじゃないですか?」
「おいおい、万夜の通っている学校は超のつくお嬢様学校だぞ。そんな所に私が行ってみろ。浮いて浮いてしょうがないだろう」
「浮く浮かないの概念はお持ちなんですね」
「ここでも十分に浮くと思いますけど……既に浮いてるし」
「何だと? 一体どこがだ? どこからどう見ても何の変哲もない女子高生じゃないか」
勇次の言葉に御剣が不服そうな顔を見せる。
「まず、腰のそれですよ! 何の変哲もないJKは普通腰に刀を帯びないんですよ!」
「そ、そうなのか……?」
御剣は刀を手に取りながら露骨に戸惑う。
「困惑されてもこっちが困りますよ! 何で昨日は持っていなかったのに、今日は持ってきちゃったんですか⁉」
「昨日の今日だからな、やはり携帯しておいた方が良いと思ってな」
「現世ではアウトって常識でしょ! ここがコスプレ会場だったらギリギリイケるかもしれませんけど!」
「刀剣好きが高じた女子高生とでも言えば問題ないと億葉から教わったのだが……」
「ロクなこと教えねえな、アイツ……」
勇次が両手で頭を抱える。愛がため息混じりに呟く。
「はあ……とにかく大人しくしておいて下さいね」
「任せろ。気配を殺すことは得意だ」
「誰もそこまでしろとは言っていません」
「このようにナポレオンのロシア遠征は失敗に終わりました……では、どうすれば良かったのかな? 上杉山さんはどう思う?」
「……」
「いやいや、ちょっと難しい質問だったかな?」
「まず防寒対策をもっとしっかりと入念に行うべきだったかと考えます」
「え?」
「更に言えば、兵站が不十分であったとの記録もあります。補給が滞ってしまえばどんな精強な軍隊でも継戦行動は不可能です。そもそもとして歴史を学ぶ上で、『もしも』などとという考え方を持つこと自体が……」
「あ、ああ……」
「う、上杉山さんは歴史シミュレーション大好きだものね!」
愛がわざとらしく大声を上げる。世界史の教師が頷く。
「そ、そうなんだね、ゲームも案外馬鹿には出来ないものだからね、ははっ……」
教師は御剣の席から離れた。次の休み時間、御剣は時間割を見て呟く。
「次は体育か。女子は体力テストと聞いたが」
「上杉山さん、ジャージは……」
「心配無用だ。用意してある」
「素直に見学して欲しかったです……更衣室はこちらです……」
愛は御剣を案内する。勇次は苦笑する。
「大変だな、愛も……ん?」
勇次は視線を感じ、周囲を見回す。しかし、視線の主は見当たらなかった。
「気のせいか……男子はバスケか。さて、俺も更衣室に行くか」
体育の授業が終わり、女子生徒たちが教室に引き上げてきた。
「凄いよ、上杉山さん! インターハイとか行けるんじゃない!」
「陸上部に入らない?」
「いやいや、球技なんかどう?」
興奮気味の女子生徒たちに囲まれる御剣。その隣で愛が軽く額を抑える。
「申し訳ないが、興味がない。他をあたってくれ」
残念そうな女子生徒たちの言葉を余所に御剣は席についた。そうしている内に怒涛の女子高生体験二日目も放課後を迎えた。またも御剣がクラスメイトたちから遊びの誘いを受けたが、愛が体よく断って、教室には勇次たち三人が残るのみとなった。
「どうした愛、帰らないのか?」
勇次は座ったまま頭を抱える愛に対して声を掛ける。
「……」
勇次が苦笑混じりに御剣に尋ねる。
「体育でまたやらかしたんでしょう、隊長?」
「またとはなんだまたとは。普通の女子高生らしくつつがなくこなしたぞ」
愛がドンと机を叩く。
「どこがつつがなくですか! 普通の女子高生はナポレオンの遠征について持論を展開しませんし、体力テストで県の記録をことごとく破らないんですよ!」
「ええっ⁉ ああ、インターハイ云々ってそういう……」
「手加減したんだが……」
「足加減して下さい!」
「足加減って……愛、少し落ち着けよ」
「落ち着いていられないわよ! 隊長、あんまり悪目立ちすると、学籍を偽造した件もバレて、色々と面倒なことになりますよ!」
「そう言われるとそうだな……済まなかった、今後は気を付ける」
御剣が愛に頭を下げる。それを見て愛は冷静さを取り戻す。
「……いえ、私も言い過ぎました。帰りましょうか」
教室を出る愛に二人の女子生徒が声を掛ける。
「あ、いたいた! 愛ちゃん!」
「佐藤先輩、鈴木先輩、どうかしたんですか?」
「どうかしたじゃないよ! 今日は部活出れるって言ったじゃない!」
「ああ、そうでした……」
「頼むよ~活動実績が無いと、即廃部になっちゃうんだから、『オカルト研究部』!」
「愛、そんな部活に入っているのか……」
御剣が腕を組んで呟く。愛が小声で話す。
「どうしてもと頼まれたので……同じ中学の先輩ですし、断りきれなくて……」
愛の言葉に勇次は納得する。勇次も見掛けたことのある顔だったからだ。
「すみませんが、私はここで失礼します!」
二人に引きずられる様に愛はその場を去る。
「じゃあ、帰るか、貴様の家に」
「はい……って、ええっ⁉」
御剣の突拍子も無い言葉に勇次は驚く。
0
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
裏切りの代償
中岡 始
キャラ文芸
かつて夫と共に立ち上げたベンチャー企業「ネクサスラボ」。奏は結婚を機に経営の第一線を退き、専業主婦として家庭を支えてきた。しかし、平穏だった生活は夫・尚紀の裏切りによって一変する。彼の部下であり不倫相手の優美が、会社を混乱に陥れつつあったのだ。
尚紀の冷たい態度と優美の挑発に苦しむ中、奏は再び経営者としての力を取り戻す決意をする。裏切りの証拠を集め、かつての仲間や信頼できる協力者たちと連携しながら、会社を立て直すための計画を進める奏。だが、それは尚紀と優美の野望を徹底的に打ち砕く覚悟でもあった。
取締役会での対決、揺れる社内外の信頼、そして壊れた夫婦の絆の果てに待つのは――。
自分の誇りと未来を取り戻すため、すべてを賭けて挑む奏の闘い。復讐の果てに見える新たな希望と、繊細な人間ドラマが交錯する物語がここに。
【完結】ドアマットに気付かない系夫の謝罪は死んだ妻には届かない
堀 和三盆
恋愛
一年にわたる長期出張から戻ると、愛する妻のシェルタが帰らぬ人になっていた。流行病に罹ったらしく、感染を避けるためにと火葬をされて骨になった妻は墓の下。
信じられなかった。
母を責め使用人を責めて暴れ回って、僕は自らの身に降りかかった突然の不幸を嘆いた。まだ、結婚して3年もたっていないというのに……。
そんな中。僕は遺品の整理中に隠すようにして仕舞われていた妻の日記帳を見つけてしまう。愛する妻が最後に何を考えていたのかを知る手段になるかもしれない。そんな軽い気持ちで日記を開いて戦慄した。
日記には妻がこの家に嫁いでから病に倒れるまでの――母や使用人からの壮絶な嫌がらせの数々が綴られていたのだ。
妻からの手紙~18年の後悔を添えて~
Mio
ファンタジー
妻から手紙が来た。
妻が死んで18年目の今日。
息子の誕生日。
「お誕生日おめでとう、ルカ!愛してるわ。エミリア・シェラード」
息子は…17年前に死んだ。
手紙はもう一通あった。
俺はその手紙を読んで、一生分の後悔をした。
------------------------------
【完結】捨て去られた王妃は王宮で働く
ここ
ファンタジー
たしかに私は王妃になった。
5歳の頃に婚約が決まり、逃げようがなかった。完全なる政略結婚。
夫である国王陛下は、ハーレムで浮かれている。政務は王妃が行っていいらしい。私は仕事は得意だ。家臣たちが追いつけないほど、理解が早く、正確らしい。家臣たちは、王妃がいないと困るようになった。何とかしなければ…
後宮の胡蝶 ~皇帝陛下の秘密の妃~
菱沼あゆ
キャラ文芸
突然の譲位により、若き皇帝となった苑楊は封印されているはずの宮殿で女官らしき娘、洋蘭と出会う。
洋蘭はこの宮殿の牢に住む老人の世話をしているのだと言う。
天女のごとき外見と豊富な知識を持つ洋蘭に心惹かれはじめる苑楊だったが。
洋蘭はまったく思い通りにならないうえに、なにかが怪しい女だった――。
中華後宮ラブコメディ。
好きな人に『その気持ちが迷惑だ』と言われたので、姿を消します【完結済み】
皇 翼
恋愛
「正直、貴女のその気持ちは迷惑なのですよ……この場だから言いますが、既に想い人が居るんです。諦めて頂けませんか?」
「っ――――!!」
「賢い貴女の事だ。地位も身分も財力も何もかもが貴女にとっては高嶺の花だと元々分かっていたのでしょう?そんな感情を持っているだけ時間が無駄だと思いませんか?」
クロエの気持ちなどお構いなしに、言葉は続けられる。既に想い人がいる。気持ちが迷惑。諦めろ。時間の無駄。彼は止まらず話し続ける。彼が口を開く度に、まるで弾丸のように心を抉っていった。
******
・執筆時間空けてしまった間に途中過程が気に食わなくなったので、設定などを少し変えて改稿しています。
夫から「用済み」と言われ追い出されましたけれども
神々廻
恋愛
2人でいつも通り朝食をとっていたら、「お前はもう用済みだ。門の前に最低限の荷物をまとめさせた。朝食をとったら出ていけ」
と言われてしまいました。夫とは恋愛結婚だと思っていたのですが違ったようです。
大人しく出ていきますが、後悔しないで下さいね。
文字数が少ないのでサクッと読めます。お気に入り登録、コメントください!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる