上杉山御剣は躊躇しない

阿弥陀乃トンマージ

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第一章

第7話(4) 対抗戦に向けて

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「先日の繰り返しになるが……我が隊は武枝の隊と対抗戦を行うことになったわけだ」

「ははっ、面白そうなことになってきたじゃねーか」

 御剣の言葉に千景は拳を叩いて楽しそうな声を上げる。万夜が軽く頭を抑える。

「まったく……単細胞はお気楽で宜しいですわね」

「あん? 誰のことだよ?」

「分かるように言ったつもりでしたが、まだお分かりではないと?」

「喧嘩を売っているってのは分かったぜ」

 千景と万夜が立ち上がり、部屋の真ん中で睨み合う。勇次が止めに入る。

「や、やめろ! 仲間同士で争うなって!」

「ゆ、勇次がそういうのなら……」

「他ならぬ勇次さまの頼みとあれば……」

 二人はあっさり大人しく身を引いた。億葉が称賛する。

「流石は旦那様、猛獣二人を難なく飼い慣らしてしまうとは……なかなか出来ることではありません!」

「は……?」

「だ、旦那様?」

「ちょ、ちょっと億葉! 色々ややこしくなるからその呼び方は止めろって!」

「いやいや、今更何を恥ずかしがることがあるのです! もはや熟年夫婦と言っても差支えない程の間柄に……」

「大いに差支える!」

「どういうことだ、勇次?」

「説明して頂きましょうか? 勇次さま」

 千景と万夜がゆっくりと勇次に近づく。堪らず愛が叫ぶ。

「ここは神社です! 神様の御前で騒がないで下さい! 破廉恥総進撃は中止です!」

「愛の言う通りだ」

 御剣に対して愛は抗議する。

「なんで我が家で作戦会議なのですか⁉ 隊舎で宜しいじゃありませんか⁉」

「必勝祈願をしてもらったからな、そのついでだ」

「頼みがあるって……御祈願のことかと思いましたのに……」

「たまには気分を変える必要性を感じてな、折角こんな広い部屋があるんだ。貸してもらうのも良いのではないかと思ってな」

「まあ、近所の町内会の方々も会合などでお使いになりますけど……」

「すぐに終わる。時間は取らせん」

「……仕方ありませんね」

 愛は渋々ながらも頷く。

「よし、では改めて当日の作戦なのだが……無い!」

「いや、無いって⁉」

 勇次が驚きの声を上げる。

「先も説明をした通り、今回の対抗戦の構造上、連携などを取ることが容易ではないと予想される。よって、下手な小細工は弄さん!」

「そんな……せめて相手の情報は?」

 愛の言葉を受け、御剣は三尋に視線を向ける。

「色々と探りを入れてみましたが、思いの外、警戒が強く、相手方に近づくことさえままなりませんでした……申し訳ない!」

 力なく肩を落とす三尋に千景たちが声を掛ける。

「い、いや、あんまり気にすんなよ、く、黒田?」

「そ、そうですわ。そこまで気に病むことはありませんわよ、く、黒……黒崎さん!」

「ドンマイでござるよ、黒、黒……いや、逆に白井殿?」

「黒駆三尋です! 名前忘れ過ぎでしょう! なんですか、逆にって!」

 三尋が抗議の声を上げる。御剣がそれを気にせず口を開く。

「まあ……要は目の前の相手を全力を以って倒せ、以上!」

「「「了解!」」」

 千景たち三人は勢い良く返事をするが、勇次と愛は首を傾げる。

「だ、大丈夫なのか?」

「不安しかない……」

「案外にゃんとかにゃるものにゃ」

「うお! 又左、いつの間に!」

 勇次は自分の膝の上に乗っていた又左に驚く。

「ここまでの接近に気が付かないとは……そんなことでは危にゃいぞ」

「危ないって?」

 又左が呆れる。

「危機感が乏しいにゃ……その山牙という女がまた君を殺しにくるかもしれんぞ?」

「ええっ⁉ 何でだよ⁉」

「それはこちらが聞きたい、何か恨みでも買ったんじゃにゃいのか?」

「そんな覚えは……」

「どれだけ破廉恥な所業を重ねれば気が済むの?」

「そもそも重ねてねえよ!」

 冷ややかな視線を向けてくる愛に勇次は力一杯否定する。

「だ、大体、俺は根絶対象から外れたんじゃないのか⁉」

「妖絶講とその周辺には色々な思想が渦巻いているからにゃ~」

「そ、そんな……」

「あの反応を見る限り、武枝は何も知らんようだな。一応武枝が上官として釘を刺しているとは思うが……いざ始まってしまえばどう転ぶか分からん。可能な限り手助けはするつもりだが、自分の身は自分で守るという気構えでいろ」

「は、はい……」

 御剣の言葉に勇次は戸惑いながら頷く。

「よし、話は以上だ。本日は解散とする」

 皆が部屋を出た後、御剣も廊下に出て、愛が続く。そこに男性が立っていた。

「あ、実継(さねつぐ)兄さん……」

「本日はお参りにお越し頂きありがとうございました」

 神職の袴姿に眼鏡を掛けた物腰が柔らかそうな青年が御剣に頭を下げる。

「こちらこそありがとうございました」

 御剣もお辞儀を返す。青年は心配そうな口調で話す。

「聞き耳をたてるつもりはありませんでしたが、大丈夫なのでしょうか? 『殺しにくる』などと物騒な発言が聞こえてきましたが……」

「……ご心配なく、あくまでも演習の一環ですから。言葉のあやの様なものです。愛……妹さんの身の安全は保障いたします」

「そうですか……愛はご迷惑をかけていませんか?」

「ちょ、ちょっと兄さん!」

「いえ、活躍してくれています。大した神力の持ち主です」

「そうですか……愛は兄と同様に幼いころから才覚を発揮していましたから……平凡な神主の私とは大違いです」

「そんなことは……申し訳ありませんが、用事がありますので、失礼させて頂きます」

 御剣は頭を下げて、その場を後にする。



 それから数日が経ち、対抗戦当日を迎えた。

「へへっ、腕が鳴るぜ!」

「武枝隊……どれほどのものか、楽しみですわね」

「研究に活かせれば良いんですけど……」

「ここで目立って影の薄さを解消してみせる!」

「うむ、皆、闘志抜群で結構なことにゃ!」

「若干バラバラな感じが否めませんけど……」

 又左の言葉に愛は首を捻る。御剣が勇次に声を掛ける。

「勇次、準備は出来たか?」

「は、はい。大丈夫です」

「よし、上杉山隊、出発するぞ……対抗戦の場所は川中島だ!」
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