上杉山御剣は躊躇しない

阿弥陀乃トンマージ

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第一章

第8話(4) 科学の力

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 千景が風坂と、万夜が火場と鎬を削っているのと同じ頃、両隊の内の二人がまた別の地点で会敵した。

「あ~あ~こちら、億葉! 大至急応援を乞う!」

「赤目億葉さん、この演習場全体に強い妨害電波が発せられています。それについて説明はありませんでしたが、味方同士の連携を取れなくする為かと推察されます。現状、通信を試みるのは無駄な労力と思われます……」

 左目に眼帯を付けたさほど長身ではないものの細身でスラッとした体格の女性が大木の陰に隠れる億葉を覗き込んで、早口で説明する。億葉は驚く。

「んなっ⁉ 『一億個の発明! その75! デコイバルーン!』で完全に目をくらましたはずなのに、こんなにも早く察知されるとは……」

「7体のデコイは非常によく出来ていました。一瞬どれも本物ではないかと誤認しました。ですが、いずれにも生体反応を感知することが出来ませんでしたので、本物の貴女は別の方向に逃げたのだと判断しました」

「に、逃げた訳ではありません!」

 億葉の言葉に対して女性が不思議そうに首を傾げる。オフホワイト色のセミロングの髪がかすかに揺れる。

「これは転進です!」

「転進……そうですか、認識を改めます」

 意外と話が通じるタイプではないかと感じた億葉は話を続けてみる。

「……貴女は拙者のことをよくご存じのようですね」

「ええ、赤目億葉さん、好きな食べものから初恋の人、スリーサイズ、さらには学生時代の黒歴史事件簿まで、全てデータに入っております」

「直ちに抹消して貰いたいデータがいくつかありますが、それはこの際良いとして……よくそこまで調べ上げましたね?」

「我が隊には優秀な忍びが所属しておりますから、それに隊長のよくおっしゃっていることです、『いくさというものは戦う前に既に勝敗が決しているものだ』と」

「ああ、孫子の兵法ですか……成程、諜報戦の時点で我々は既に後手後手に回っていたのですな……所謂一つの高度な情報戦とかウチの御剣氏には到底無理な芸当ですから」

 そう言って、億葉は肩を落とす。女性が億葉を覗き込みながら尋ねる。

「メンタルリズムから判断したところ著しい戦意低下を感知……このままでは徒に怪我を負うリスクが極めて高いです。よって速やかな棄権を勧告します」

「お優しい方ですね……最後にお名前だけ伺っても宜しいでしょうか?」

「……自分は林根笑冬(はやしねえとう)と申します。聞けば、赤目さんは上杉山隊の技術開発研究主任を務めておられるとのこと。今後なにかしら縁があるやもしれません。以後お見知り置きの程を宜しくお願い致します」

「そうですか、こちらこそ宜しくお願いします……ポチっとな!」

「!」

 億葉がその場から飛び去りながらスイッチを押す。いつの間にか林根を包囲していた小さい風船8個が彼女の体に纏わりついたその瞬間に爆発する。億葉が快哉を叫ぶ。

「『一億個の発明! その87! バルーンボム!』 風船型爆弾を自らで操作し、好きなタイミングで起爆させることが出来……ってええっ⁉」

 億葉は目を疑う。林根の左腕と左脚がもげていたからである。

「い、いや、そんなはずは! 今回の対抗戦用に爆弾系の発明品に関しては全て火薬等の量を調節し、殺傷能力はギリギリまで下げたのに! って、そんなことを言っている場合ではありませんな! 治癒・治療の出来る方を呼ばなくては!」

「……ご心配には及びません」

「え?」

 林根は左腕と左足を拾うと、それぞれカチッと装着する。

「自分はわけあって体の約半分が機械でできておりますから、わりと頑丈なのです」

「ええっ⁉ サイボーグ⁉」

 億葉はパっと目を輝かせるが、すぐにその考えを打ち消すかのように頭を左右にブンブンと振り、ローラーブーツを走らせて、林根と距離を取る。

(成程、どことなく機械的な口調の御方だなとは思いましたが、本当に機械だったとは! 言われて見れば足音などに金属音が混ざっていました……いずれにせよ、対策を練り直さなければなりません!)

「考える時間を与えては危険な相手だと判断、早急に決着をつけさせて頂きます」

「どわっ⁉」

 億葉は再び驚く、それなりにスピードを出していた自分に対して林根が事も無げに並走していたからである。

「なっ⁉ このスピードについてくる⁉」

「左脚にエンジンブースターを装着しております故」

「くっ!」

 億葉は方向を転換する。林根はため息交じりに片手を掲げて呟く。

「呑気に鬼ごっこをしている場合ではありません……『寒林(かんりん)』」

「なっ⁉」

 億葉は戸惑う。自らの進路に突然林が出現したからである。

(何もない所に木々が生えた! これは植物系統の術! 術使いでもあるのですか!)

 億葉は少し慌てたが、すぐに気持ちを取り戻し、スピードを若干緩めて、木々の間を器用にすり抜けてみせる。

「よしっ! 落ち着けば躱せる!」

「当然そうきますね……発射!」

「なっ! ……ぐおっ!」

 木々の間を突破した億葉の体を林根の拳が襲い、億葉は堪らず吹っ飛ぶ。

「ロケットパンチです……貴女の木々のすり抜けるコース、タイミングを予測し、それに合わせて発射しました」

 林根は説明しつつ、宙を舞って、自らの元に戻ってきた左腕を装着しようとする。

「それっ! 『一億個の発明! その9! ロングレンジマジックハンド!』」

「!」

 億葉はマジックハンドを伸ばし、林根の左腕を奪取する。

「これで攻撃手段は一つ封じましたよ! さあ、どうしま―――⁉」

「凍枝(とうし)―――」

 林根が右腕をかざすと、そこから鋭く尖った枝が伸びて、億葉の左肩に突き刺さる。

(ぐっ……成程、手足にも生やすことが出来るというわけですか……科学技術と不思議な術の合わせ技! どうすれば……!)

「『一億個の発明! その3! エアーブースター!』」

 億葉は林根の左腕を手放しそうになるも、慌てて抱え込み、リュックサックの下部からブーストを噴射させて空中に飛ぶ。

「先程の木々の高さから判断するに、これ以上の長さの木は生やせないはず! ロケットパンチはまだ私の手の中! 貴女に拙者を攻撃することは出来ない!」

「色々と頭が回る……そうですね、現状の自分の術の練度ではその高さには届きません」

 林根が感心した様に呟く。その言葉に億葉は満足気に頷く。

「よし! ならばこちらのターンですね!」

「術ではね……」

 林根はそう言って、左眼の眼帯をめくる。

「『一億個の発明! その―――⁉』」

 億葉の体が爆破に見舞われる。億葉は落下するが、大きなリュックサックがクッション代わりになり、大怪我はなんとか避けられた。林根の左眼が緑色に光っている。

「……言い忘れていましたが、左眼も義眼なのです。今放ったレーザービームなどいくつかの便利な機能が備わっています」

「そ、そりゃあなんともロマン一杯な……研究者心をくすぐりますね……」

 億葉はそう力なく呟いて気を失う。そこに一人の女性が飛び出してくる。

「失礼、私は星ノ条隊の者です。近くに上杉山隊隊員の姿は確認出来ません。彼女を棄権扱いとして直ちに回収します」

 女性は手際よく億葉を回収する。それを眺めつつ林根は眼帯を直し、左腕を着け呟く。

「面白い方でした。機会があったら新機能の性能試験に帯同して貰いたいですね」
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