34 / 123
第一章
第9話(1) 忍びと忍び
しおりを挟む
玖
上杉山隊の億千万トリオと武枝隊の面々が戦っているほぼ同時刻、武枝隊の二人の人物がある地点を歩いている。
「気配を掴んだのか?」
短い茶髪の男性がもう一人に問う。
「……」
問われたもう一人、長めの黒い前髪を顔の両側に垂らし、後ろ髪は短めのポニーテール風にまとめ、口元を赤布で覆っている中性的な雰囲気の男が無言で頷き指を二本立てる。
「二人か。ってか、口に出せよ」
「……忍びと巫女……まだ合流はしていない。北東と北西に分かれている。互いに気付いたかどうか、合流されると厄介だな……」
「どうする?」
「……北東の忍びは引き受ける。北西の巫女は任せる」
「お、女をやるのか? なんだか気が引けるな……」
茶髪の男は戸惑い気味に答える。
「忍びは相性的にてこずると思うぞ。それとも二人で組んで一人ずつ潰すか?」
「い、いや、それは武枝隊の名折れだ! 分かった、女は俺がやる!」
「……」
「な、なんだよ」
「いや……さっさとケリをつけて互いの中間地点で合流だ」
中性的な男が指を真っ直ぐ北に指し、茶髪の男が頷く。
「よし、分かったぜ!」
「ヘマするなよ、尾藤」
「俺は仁藤だ!」
二人は勢いよくその場から走り出す。
(この対抗戦で私の最も優先すべき役目は傷ついた隊員を回復すること……ある程度近づけば、まだ未熟な私でも味方の霊力を感知出来る!)
愛が走りながら考えを巡らす。その行く手を飛び出してきた茶髪の男が阻む。
「!」
「合流はさせないぜ!」
「……」
「なんだ、ビビッて声も出ないか。安心しろ、この仁藤正人(にとうまさと)、大怪我させるようなヘマはしねえ。ただ回復の術を持ったお前さんは厄介なんでな、多少痛い目は見てもらうが」
仁藤と名乗った男はそう言って刀を構える。愛は無言でそれを見つめる。
「……」
「い、いや、なんか反応しろよ」
「……つまりこの先に私の味方がいるのですね」
「はっ! し、しまった! ええい、とっとと片付けさせてもらうぜ!」
仁藤が愛に斬り掛かる。
「!」
木々の枝を飛び移りながら移動していた黒駆が急停止し、横から飛び込んできた相手の苦無での攻撃を自身の持つ苦無で受け止める。
「ほう……なかなかの反応だな」
中性的な男が体勢を立て直し、黒駆と相対する。二人は同じ位の身長であるが、黒駆の方がやや体格が良い。
「戦闘面だけはそれなりということか」
「だけは?」
黒駆の問いに中性的な男は鼻で笑う。
「肝心の諜報活動がさっぱりだっただろう? 知っているぞ、貴様がここしばらく、我が隊の周辺を嗅ぎ回っていたことを。そして何の成果も得られなかったこともな」
「……返す言葉も無いが、ここでお前を倒して、少しでも隊に貢献してみせる!」
黒駆は身構える。
「決意だけは立派だ―――な!」
「!」
「何⁉」
黒駆は再び相手の繰り出した攻撃を受け止めてみせる。
「お前のことは知っている……朔月望(さくげつのぞみ)」
「! 流石に同業者のことくらいは知っていたか」
「お前の流派のこともな……」
「ほう……ならば、確かめさせてもらうか!」
朔月が三度仕掛ける。苦無を使って、速い連撃を繰り出すが、黒駆がそれをいなす。
「その技は知っている!」
「くっ!」
黒駆が反撃に出る。朔月は咄嗟に躱す。
「お前と同じ流派のやつと何度か戦ったことがあるからな……」
黒駆が苦無の先に引っ掛けた赤い布をヒラヒラとさせる。朔月がハッと口元を抑える。
「なかなか男前じゃないか、隠すのは勿体ないぞ」
「それは気に入っている奴だ、返してもらおう!」
朔月が飛び掛かる。黒駆はこの周囲で一番大きい木の枝に飛び移ろうとするが、朔月はその動きをしっかりと捉えており、先回りする。
「速さではこちらに分がある!」
朔月は苦無を太い木の幹に突き立てるが、そこには赤い布が残っているだけである。
「⁉」
「返したぞ、趣味じゃないのでな」
「何⁉」
黒駆が朔月の背後に周り込み、体を羽交い絞めにする。
「確かに速さはお前の方が上だな、ならば力はどうかな⁉」
「ぐっ!」
黒駆は朔月を抱えた状態のまま、上空に高く飛び、そこから真っ逆さまな体勢になり、きりもみ状に落下する。
「飯綱落とし!」
「ちっ!」
「! しまっ―――ぐおっ!」
朔月が両手を叩いたその瞬間、強烈な違和感を覚えた黒駆は思わず、体を抑える手を緩めてしまう。その隙を逃さず、朔月は黒駆の腹に肘鉄を喰らわせ、羽交い絞めから逃れ、落下を避けることに成功する。着地した朔月は再び両手を叩くと、体勢を崩している黒駆に襲い掛かる。黒駆は朔月の連撃を受け止め切れずに、左肩、左腕、右膝、そして最後に右の脇腹を苦無で刺されてしまう。
「ぐおっ!」
「喰らえ!」
追い討ちとばかりに朔月が繰り出した蹴りをまともに腹に受けた黒駆は後方に勢いよく吹っ飛ばされ、そのまま崖から転落してしまう。
「!」
朔月が崖際に駆け寄り、状況を確認するが、既に黒駆の姿は見えない。
「受け身くらいは取っただろうが……しかし、あの傷では満足には動けまい。勝負は決した。流派を知っているくらいで良い気になるからだ……さて、尾藤と合流するか」
踵を返した朔月は自らが指定した地点に移動する。しかし、そこには仁藤の姿は無い。
「ちっ、さっさとケリをつけろと言っただろうに!」
舌打ちをして、朔月は再び動き出す。仁藤の気配のする所にたどり着くとそこで驚くべき光景を目にする。ボロボロになって倒れ込む仁藤とその傍らに平然とした様子で立つ愛の姿があったからである。
「なっ⁉」
愛も朔月の姿を確認し呟く。
「黒駆さんかと思ったら、違いましたか……」
上杉山隊の億千万トリオと武枝隊の面々が戦っているほぼ同時刻、武枝隊の二人の人物がある地点を歩いている。
「気配を掴んだのか?」
短い茶髪の男性がもう一人に問う。
「……」
問われたもう一人、長めの黒い前髪を顔の両側に垂らし、後ろ髪は短めのポニーテール風にまとめ、口元を赤布で覆っている中性的な雰囲気の男が無言で頷き指を二本立てる。
「二人か。ってか、口に出せよ」
「……忍びと巫女……まだ合流はしていない。北東と北西に分かれている。互いに気付いたかどうか、合流されると厄介だな……」
「どうする?」
「……北東の忍びは引き受ける。北西の巫女は任せる」
「お、女をやるのか? なんだか気が引けるな……」
茶髪の男は戸惑い気味に答える。
「忍びは相性的にてこずると思うぞ。それとも二人で組んで一人ずつ潰すか?」
「い、いや、それは武枝隊の名折れだ! 分かった、女は俺がやる!」
「……」
「な、なんだよ」
「いや……さっさとケリをつけて互いの中間地点で合流だ」
中性的な男が指を真っ直ぐ北に指し、茶髪の男が頷く。
「よし、分かったぜ!」
「ヘマするなよ、尾藤」
「俺は仁藤だ!」
二人は勢いよくその場から走り出す。
(この対抗戦で私の最も優先すべき役目は傷ついた隊員を回復すること……ある程度近づけば、まだ未熟な私でも味方の霊力を感知出来る!)
愛が走りながら考えを巡らす。その行く手を飛び出してきた茶髪の男が阻む。
「!」
「合流はさせないぜ!」
「……」
「なんだ、ビビッて声も出ないか。安心しろ、この仁藤正人(にとうまさと)、大怪我させるようなヘマはしねえ。ただ回復の術を持ったお前さんは厄介なんでな、多少痛い目は見てもらうが」
仁藤と名乗った男はそう言って刀を構える。愛は無言でそれを見つめる。
「……」
「い、いや、なんか反応しろよ」
「……つまりこの先に私の味方がいるのですね」
「はっ! し、しまった! ええい、とっとと片付けさせてもらうぜ!」
仁藤が愛に斬り掛かる。
「!」
木々の枝を飛び移りながら移動していた黒駆が急停止し、横から飛び込んできた相手の苦無での攻撃を自身の持つ苦無で受け止める。
「ほう……なかなかの反応だな」
中性的な男が体勢を立て直し、黒駆と相対する。二人は同じ位の身長であるが、黒駆の方がやや体格が良い。
「戦闘面だけはそれなりということか」
「だけは?」
黒駆の問いに中性的な男は鼻で笑う。
「肝心の諜報活動がさっぱりだっただろう? 知っているぞ、貴様がここしばらく、我が隊の周辺を嗅ぎ回っていたことを。そして何の成果も得られなかったこともな」
「……返す言葉も無いが、ここでお前を倒して、少しでも隊に貢献してみせる!」
黒駆は身構える。
「決意だけは立派だ―――な!」
「!」
「何⁉」
黒駆は再び相手の繰り出した攻撃を受け止めてみせる。
「お前のことは知っている……朔月望(さくげつのぞみ)」
「! 流石に同業者のことくらいは知っていたか」
「お前の流派のこともな……」
「ほう……ならば、確かめさせてもらうか!」
朔月が三度仕掛ける。苦無を使って、速い連撃を繰り出すが、黒駆がそれをいなす。
「その技は知っている!」
「くっ!」
黒駆が反撃に出る。朔月は咄嗟に躱す。
「お前と同じ流派のやつと何度か戦ったことがあるからな……」
黒駆が苦無の先に引っ掛けた赤い布をヒラヒラとさせる。朔月がハッと口元を抑える。
「なかなか男前じゃないか、隠すのは勿体ないぞ」
「それは気に入っている奴だ、返してもらおう!」
朔月が飛び掛かる。黒駆はこの周囲で一番大きい木の枝に飛び移ろうとするが、朔月はその動きをしっかりと捉えており、先回りする。
「速さではこちらに分がある!」
朔月は苦無を太い木の幹に突き立てるが、そこには赤い布が残っているだけである。
「⁉」
「返したぞ、趣味じゃないのでな」
「何⁉」
黒駆が朔月の背後に周り込み、体を羽交い絞めにする。
「確かに速さはお前の方が上だな、ならば力はどうかな⁉」
「ぐっ!」
黒駆は朔月を抱えた状態のまま、上空に高く飛び、そこから真っ逆さまな体勢になり、きりもみ状に落下する。
「飯綱落とし!」
「ちっ!」
「! しまっ―――ぐおっ!」
朔月が両手を叩いたその瞬間、強烈な違和感を覚えた黒駆は思わず、体を抑える手を緩めてしまう。その隙を逃さず、朔月は黒駆の腹に肘鉄を喰らわせ、羽交い絞めから逃れ、落下を避けることに成功する。着地した朔月は再び両手を叩くと、体勢を崩している黒駆に襲い掛かる。黒駆は朔月の連撃を受け止め切れずに、左肩、左腕、右膝、そして最後に右の脇腹を苦無で刺されてしまう。
「ぐおっ!」
「喰らえ!」
追い討ちとばかりに朔月が繰り出した蹴りをまともに腹に受けた黒駆は後方に勢いよく吹っ飛ばされ、そのまま崖から転落してしまう。
「!」
朔月が崖際に駆け寄り、状況を確認するが、既に黒駆の姿は見えない。
「受け身くらいは取っただろうが……しかし、あの傷では満足には動けまい。勝負は決した。流派を知っているくらいで良い気になるからだ……さて、尾藤と合流するか」
踵を返した朔月は自らが指定した地点に移動する。しかし、そこには仁藤の姿は無い。
「ちっ、さっさとケリをつけろと言っただろうに!」
舌打ちをして、朔月は再び動き出す。仁藤の気配のする所にたどり着くとそこで驚くべき光景を目にする。ボロボロになって倒れ込む仁藤とその傍らに平然とした様子で立つ愛の姿があったからである。
「なっ⁉」
愛も朔月の姿を確認し呟く。
「黒駆さんかと思ったら、違いましたか……」
0
あなたにおすすめの小説
JKメイドはご主人様のオモチャ 命令ひとつで脱がされて、触られて、好きにされて――
のぞみ
恋愛
「今日から、お前は俺のメイドだ。ベッドの上でもな」
高校二年生の蒼井ひなたは、借金に追われた家族の代わりに、ある大富豪の家で住み込みメイドとして働くことに。
そこは、まるでおとぎ話に出てきそうな大きな洋館。
でも、そこで待っていたのは、同じ高校に通うちょっと有名な男の子――完璧だけど性格が超ドSな御曹司、天城 蓮だった。
昼間は生徒会長、夜は…ご主人様?
しかも、彼の命令はちょっと普通じゃない。
「掃除だけじゃダメだろ? ご主人様の癒しも、メイドの大事な仕事だろ?」
手を握られるたび、耳元で囁かれるたび、心臓がバクバクする。
なのに、ひなたの体はどんどん反応してしまって…。
怒ったり照れたりしながらも、次第に蓮に惹かれていくひなた。
だけど、彼にはまだ知られていない秘密があって――
「…ほんとは、ずっと前から、私…」
ただのメイドなんかじゃ終わりたくない。
恋と欲望が交差する、ちょっぴり危険な主従ラブストーリー。
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
看病しに行ったら、当主の“眠り”になってしまった
星乃和花
恋愛
⭐︎完結済ー全36話⭐︎
倒れた当主を看病する役目を振られた使用人リィナは、彼の部屋へ通うことになる。
栄養、灯り、静かな時間、話し相手――“眠れる夜”を整えていく。そして、回復していく当主アレクシス。けれど彼は、ある夜そっと手を握り返し、低い声で囁く。
「責任、取って?」
噂が燃える屋敷で、ふたりが守るのは“枠(ルール)”。
手だけ、時間だけ、理由にしない――鍵はリィナが握ったまま。
けれど、守ろうとするほど情は育ち、合図の灯りはいつしか「帰る」ではなく「眠る」へ変わっていく。
看病から始まった優しい夜は、静かな執着に捕まっていく。
それでも、捕獲の鍵は彼ではなく――彼女の手にある。
没落港の整備士男爵 ~「構造解析」スキルで古代設備を修理(レストア)したら、大陸一の物流拠点になり、王家も公爵家も頭が上がらなくなった件~
namisan
ファンタジー
大陸の南西端に位置するベルナ子爵領。
かつては貿易で栄えたこの港町も、今は見る影もない。
海底には土砂が堆積して大型船は入港できず、倉庫街は老朽化し、特産品もない。借金まみれの父と、諦めきった家臣たち。そこにあるのは、緩やかな「死」だけだった。
そんな没落寸前の領地の嫡男、アレン(16歳)に転生した主人公には、前世の記憶があった。
それは、日本で港湾管理者兼エンジニアとして働き、現場で散った「整備士」としての知識。
そして、彼にはもう一つ、この世界で目覚めた特異な能力があった。
対象の構造や欠陥、魔力の流れが設計図のように視えるスキル――【構造解析】。
「壊れているなら、直せばいい。詰まっているなら、通せばいい」
アレンは錆びついた古代の「浚渫(しゅんせつ)ゴーレム」を修理して港を深く掘り直し、魔導冷却庫を「熱交換の最適化」で復活させて、腐るだけだった魚を「最高級の輸出品」へと変えていく。
ドケチな家令ガルシアと予算を巡って戦い、荒くれ者の港湾長ゲンと共に泥にまみれ、没落商会の女主人メリッサと手を組んで販路を開拓する。
やがてその港には、陸・海・空の物流革命が巻き起こる。
揺れない「サスペンション馬車」が貴族の移動を変え、「鮮度抜群の魚介グルメ」が王族の胃袋を掴み、気性の荒いワイバーンを手懐けた「空輸便」が世界を結ぶ。
里帰りをしていたら離婚届が送られてきたので今から様子を見に行ってきます
結城芙由奈@コミカライズ連載中
恋愛
<離婚届?納得いかないので今から内密に帰ります>
政略結婚で2年もの間「白い結婚」を続ける最中、妹の出産祝いで里帰りしていると突然届いた離婚届。あまりに理不尽で到底受け入れられないので内緒で帰ってみた結果・・・?
※「カクヨム」「小説家になろう」にも投稿しています
さようなら、お別れしましょう
椿蛍
恋愛
「紹介しよう。新しい妻だ」――夫が『新しい妻』を連れてきた。
妻に新しいも古いもありますか?
愛人を通り越して、突然、夫が連れてきたのは『妻』!?
私に興味のない夫は、邪魔な私を遠ざけた。
――つまり、別居。
夫と父に命を握られた【契約】で縛られた政略結婚。
――あなたにお礼を言いますわ。
【契約】を無効にする方法を探し出し、夫と父から自由になってみせる!
※他サイトにも掲載しております。
※表紙はお借りしたものです。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる