上杉山御剣は躊躇しない

阿弥陀乃トンマージ

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第一章

第9話(2) 人形遊び

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「まさか、尾藤が負けるとはな……」

「仁藤さんとおっしゃっていましたが……」

「……」

「あの……」

「大方、女相手だからと相当手を抜いていたのだろう。そういう奴だ。妖絶士は女の方が圧倒的に多いというのに……」

 朔月が倒れ込む仁藤を見ながら、首を左右に振って呆れる。

「実際のところは私にはどうか分かりませんが……」

「まあいい、曲江愛……忍びの次は貴様だ。加減はせんぞ」

「! 黒駆さんは貴方に倒されましたか……」

「そうだ、白旗を上げるなら今の内だぞ」

「……ここに参加している時点で退くつもりは毛頭ありません」

「上等!」

 朔月が愛に向かって飛び掛かる。愛は懐から人の形をした小さな紙を二枚取り出し、筆でその紙になにかを書き込み、息を三回吹きかけてから上に放り投げる。

「! 人形の形代(かたしろ)⁉」

「……宿り給へ」

 愛が唱えると、人の形をした形代が、はっきりと人の姿になって現れる。

「仁藤が二人⁉」

 仁藤そっくりの姿をしたものが二体、朔月に一気に襲い掛かる。刀での鋭い攻撃を苦無でなんとか受け止めて弾き返すと、一旦距離を取る。

「くっ! 成程……形代にその者の名を書き込むと、その者を具現化させ、己の手駒として自由に使えるということか」

「流石に察しが良いですね。そうです、仁藤さんはご自身の姓名を漢字まで丁寧に教えて下さいましたので、具現化の度合いはかなり高いです」

 仁藤その一とその二が朔月に一斉に斬り掛かる。隙の少ない二段構えの攻撃である。朔月は攻撃を受け止めきれす、肩と膝に僅かに傷を負う。

「ちっ! 敵に回すと厄介な奴め!」

 舌打ちしながら朔月は上に飛び、木の枝に乗る。

「……偽物ならば遠慮は全くの不要ということだな!」

 朔月は手裏剣を投げる。素早く投げられた手裏剣は仁藤その一とその二の顔と首に突き刺さり、それぞれの仁藤は紙となり、ヒラヒラと地面に落ちる。

「弱点は人体と同じということだな!」

「まあ、分かりますよね……」

「形代にそのような使い方があるとはな、神主や巫女というのもなかなか侮れん」

「いや、自分で言うのもなんですが、これは極めて特殊な事例ですから……全ての方がそうだというわけではありません。逆に……」

「? なんだ?」

「いえ、なんでもありません……宿り給へ」

「! しまった!」

 朔月の周囲を四体の黒駆が取り囲む。愛が呟く。

「本人に代わってリベンジマッチです」

「今度は四体か!」

 朔月は群がる黒駆の攻撃をなんとか間一髪の所で躱す。

「ええい、面倒だ!」

「!」

 朔月が四人に分かれる。分身の術である。四人の朔月と四体の黒駆がそれぞれ空中や木々の間、または地面すれすれで目にも留まらぬ速さの乱戦を繰り広げる。時間にして数十秒程で決着がつく。朔月本人が苦無で黒駆その三の首を斬る。斬られた黒駆は紙に戻る。残りの三体の黒駆と三人の朔月は相討ちとなる。

「戦績は一勝三分けか、悪くはない」

「やっぱり……」

「なんだ?」

 愛の呟きに朔月が反応する。

「手裏剣とか分身の術とか……貴方って結構ベタで面白味のない忍者ですよね」

「! 貴様、喧嘩を売っているのか!」

 逆上した朔月が再び飛び掛かる。

「朔月望……宿り給へ」

「なっ!」

 四体の朔月が朔月を襲う。思わぬ攻撃を喰らい、倒れ込んだ朔月は戸惑いながら、すぐに立ち上がるが、周りを包囲される。愛が淡々と告げる。

「黒駆さんから貴方の名前はしっかりと聞いていました。具現度はかなり高いはずです。さあ、ご自分相手にはどう対処されますか?」

「ふん、わりと意地が悪いな!」

「褒め言葉として受け取っておきます」

「姿形は一緒、能力はほぼ同等……試してみるか……」

 朔月が両手をポンと叩く。

「⁉」

 愛は驚く。朔月が女性の姿に変化したからである。動きの止まった四体の自分を見て、朔月はニヤッと笑う。

「速さならば女の姿になった方が速い!」

 朔月は再び四人に分身すると、戸惑う相手の虚を突き、あっという間に四体の自分を片付け、分身の術を解くと同時に、愛との距離を詰め、その首根っこを掴む。

「ぐっ、性別を変えられる……それが貴方の持つ術ですか。中性的な雰囲気の方だなとは思っていましたが」

「忍術や体術までは真似出来ても、そこまでは再現出来なかったようだな」

「私の練度不足ですね……」

「人形遊びは終わりだ」

「貴方、男なのですか? 女なのですか?」

「答える必要は無い。このまま絞め落とす。貴様の負けだ」

「……このままではね」

「なに?」

 愛が顔を下に向け、息を三回吹く。

「苦竹万夜……お貸し給へ……リサイタル!」

「うおっ!」

 朔月は愛から発せられた怪音波に顔をしかめ、掴んだ手を離してしまう。愛は素早く距離を取って叫ぶ。

「特殊な能力でも一度見聞きさえすれば、再現出来ますよ!」

「なっ⁉」

「名前を書いた形代を私の体に貼り付ければ、その方の能力を私自身が使えるようになるのです! 無論完璧にとまでは言いませんが!」

「思った以上に厄介な奴だな! さっさと終わらす!」

 朔月は両手を叩いて男の姿になり、愛に向かって殴りかかる。

「ぐっ!」

「何⁉ 受け止めた⁉」

「樫崎千景……お貸し給へ!」

「うおっ!」

 朔月の強烈なパンチを受け止めた愛は千景の様な怪力で朔月を自身の方へ引っ張る。朔月はバランスを崩し、前につんのめったような形になる。そこに愛がすかさず朔月の顔面に膝蹴りを叩き込む。

「ぐはっ!」

 朔月が仰向けに倒れる。愛が語りかける。

「男の顔で良かった、躊躇なく膝蹴りを叩き込めましたよ……」

 相手がどうやら気を失ったことを確認し、愛はホッと一息つく。

「なんとか勝てた……? やっぱり連戦はきついわね、力も消耗するし、皆の回復用に出来るだけ温存したかったのだけど……早く誰かと合流しなきゃ」

 愛は再び走り出す。
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