36 / 123
第一章
第9話(3) 対峙
しおりを挟む
「ひとまず合流出来たことを喜ぶとするか」
「……そうですわね」
御剣の言葉に万夜が頷く。千景が問う。
「億葉は?」
「見当たらないということは残念ながら脱落したということだろう」
「ちっ……黒谷は?」
「黒駆さんですよ……千景さん動かないで下さい」
愛は治療の術を施しながら、落ち着きのない千景をたしなめる。
「こちらにいらっしゃらないということは、あの方も脱落でしょう?」
「相手方の忍び、朔月望さんに倒されたようです」
愛が万夜の質問に答える。又左が口を開く。
「現状を整理するにゃ、まず相手の一人、風坂名秋は千景が倒したと……」
「おう、楽勝だったぜ」
「さっきまでボロボロだったじゃありませんか……」
「よくあの量の出血でここまで動けましたね……」
治療が済んで、スクッと立ち上がって自慢気にガッツポーズを取ってみせる千景を万夜と愛が呆れ気味に見つめる。
「そして、仁藤正人と、朔月望は愛が倒したということにゃ」
「お手柄だな、愛」
御剣の言葉に愛は恐縮する。
「すみません、皆さんとの早急な合流を優先した為、星ノ条隊に回収されたかどうかまでは確認していないのですが……とりあえず、二人とも気絶させときました」
「さらっと恐ろしいことを言っていますわね……」
万夜が苦笑する。御剣が腕を組み、頷きながら話す。
「ということは現在、武枝隊は少なくとも、隊長である武枝本人と副隊長の火場、そして林根、さらに山牙が健在ということになるか。風林火山カルテットの内、三人も残っているのは厄介だな……」
「風林火山カルテット?」
「武枝ご自慢の部下たちだ、一々名前を呼ぶのが面倒だから、頭文字を取ってそのように呼んでいるとか言っていたな」
「発想が似た者同士だな、名前もよく似ているし」
千景はそう言って笑う。御剣はややムッとする。
「名前は向こうが寄せてきたのだぞ。我が家はそうでもないのだが、あそこの家はなにかと対抗心を燃やしてくるのだ。私が御剣という名を付けられたと聞いて、『それではこちらは剣を折る盾だ!』とかなんとか言って、御盾という名前になったと聞く」
「へ~そりゃまた結構な対抗心だ」
「かれこれ四百年以上の因縁があるからにゃ……」
「ええっ! 戦国時代からですか⁉」
又左の言葉に愛が驚く。
「……どうでも宜しいですけど、そろそろどなたか降ろして下さいます⁉」
木の枝に引っ掛かったままの万夜がウンザリしたように叫ぶ。御剣が首を傾げる。
「万夜、なんでそんなところにいる?」
「さっきも申し上げたでしょう⁉ 馬鹿力の相手に投げ飛ばされた結果ですわ!」
「自然と一体化しようとしているのかと……」
「そんなわけが……姉様!」
万夜が叫ぶと同時に、茂みから大きな白い犬に跨った御盾が飛び出してきて御剣の背後から襲い掛かる。
「!」
御盾の振り下ろした鉄製の軍配を御剣が刀で受け止める。御盾がニヤっと笑う。
「ふん、奇襲失敗か! そうでなくてはな!」
「四百年前の意趣返しか?」
「なかなか乙なものであろう!」
御盾が笑う。千景が二人の間に入る。
「隊長はやらせねえよ!」
「尚右(なおすけ)! 距離を取れ!」
御盾が自身の跨る犬に指示を出す。犬は背を向けて後退する。
「待ちやがれ! どわっ⁉」
後を追おうとした千景に別の方角の茂みから吹っ飛んできた勇次がぶつかる。
「勇次⁉ お前、その傷!」
勇次の体は肩や膝、脇腹など至る所から出血している。同じ方角から長い槍を持った赤髪の少女がゆっくりと姿を現す。
「ちょろちょろ逃げ回らないでさ……そろそろ観念してよ」
「! てめえ……アタシの勇次をよくも!」
「? アンタ誰? 勇次君はアタシの大事な獲物だよ?」
「! わけ分かんねえこと言ってんじゃねーぞ! てめえからぶっ飛ばす!」
「やってみな!」
「待て! 恋夏‼ 一旦こちらに下がれ!」
「! 姐さん……」
御盾の言葉にふと我に返ったような赤髪の少女は素直に御盾の下に駆け寄る。御盾の周りには火場と林根と朔月も集まっている。
「……其方の名前は?」
「山牙恋夏(やまがれんか)……」
「ふむ……まあよい、其方ら横一列に並べ」
火場たちが並び、頭を下げる。御盾がその頭上で手に持った軍配を左右に振りかざす。
「よし、かかれ!」
山牙を先頭に上杉山隊に向かって突っ込んでいく。林根が冷静に問う。
「隊長、山牙さんですが……」
「様子がおかしいのは承知している、目は光らせておく。いよいよとなれば、此方かあ奴が止める。例え間に合わなくても魔……雅さまがなんとかするじゃろう」
「了解しました」
林根は頷くとブーストを噴かす。山牙の迅速な攻撃に勇次の反応が遅れる。
「くっ!」
「又左!」
「分かったにゃ!」
「うおっ⁉」
勇次は驚く。巨大化した又左が自らの体を咥えて、山牙の攻撃を躱したからである。
「尻尾が二本に分かれている⁉」
「巨大化したことよりもまずそこに注目するとはなかなか通だにゃ……これがワシの妖猫としての真の姿にゃ!」
「かわいげが無くなっている! 元々無いようなもんだけど……」
「! ええ~い! この恩知らず!」
「ぐえっ!」
又左は勇次を乱暴に投げる。そこに万夜の治療を終えた愛が駆け寄る。
「よし、勇次はまず治療しろ! 又左、背を貸せ!」
「ほいにゃ!」
御剣が又左に跨る。千景が御剣に尋ねる。
「姐御よお、心なしか連中の力が上がっているような気がするんだが?」
「それはそうだ! 武枝は味方の能力を一定時間上昇させることが出来るからな!」
「! そういう大事なことは早く言えよ!」
「どこが儀式のようなものなんですの⁉」
「今言った! それで許せ! お前らならば必ず打ち勝てると信じている!」
「し、しょうがねえなあ!」
「し、仕方がありませんわね!」
千景と万夜が身構える。
「テンションが上がっているせいか、万夜さんまであっさりノセられている……」
愛が呆れ気味に呟く。
「……そうですわね」
御剣の言葉に万夜が頷く。千景が問う。
「億葉は?」
「見当たらないということは残念ながら脱落したということだろう」
「ちっ……黒谷は?」
「黒駆さんですよ……千景さん動かないで下さい」
愛は治療の術を施しながら、落ち着きのない千景をたしなめる。
「こちらにいらっしゃらないということは、あの方も脱落でしょう?」
「相手方の忍び、朔月望さんに倒されたようです」
愛が万夜の質問に答える。又左が口を開く。
「現状を整理するにゃ、まず相手の一人、風坂名秋は千景が倒したと……」
「おう、楽勝だったぜ」
「さっきまでボロボロだったじゃありませんか……」
「よくあの量の出血でここまで動けましたね……」
治療が済んで、スクッと立ち上がって自慢気にガッツポーズを取ってみせる千景を万夜と愛が呆れ気味に見つめる。
「そして、仁藤正人と、朔月望は愛が倒したということにゃ」
「お手柄だな、愛」
御剣の言葉に愛は恐縮する。
「すみません、皆さんとの早急な合流を優先した為、星ノ条隊に回収されたかどうかまでは確認していないのですが……とりあえず、二人とも気絶させときました」
「さらっと恐ろしいことを言っていますわね……」
万夜が苦笑する。御剣が腕を組み、頷きながら話す。
「ということは現在、武枝隊は少なくとも、隊長である武枝本人と副隊長の火場、そして林根、さらに山牙が健在ということになるか。風林火山カルテットの内、三人も残っているのは厄介だな……」
「風林火山カルテット?」
「武枝ご自慢の部下たちだ、一々名前を呼ぶのが面倒だから、頭文字を取ってそのように呼んでいるとか言っていたな」
「発想が似た者同士だな、名前もよく似ているし」
千景はそう言って笑う。御剣はややムッとする。
「名前は向こうが寄せてきたのだぞ。我が家はそうでもないのだが、あそこの家はなにかと対抗心を燃やしてくるのだ。私が御剣という名を付けられたと聞いて、『それではこちらは剣を折る盾だ!』とかなんとか言って、御盾という名前になったと聞く」
「へ~そりゃまた結構な対抗心だ」
「かれこれ四百年以上の因縁があるからにゃ……」
「ええっ! 戦国時代からですか⁉」
又左の言葉に愛が驚く。
「……どうでも宜しいですけど、そろそろどなたか降ろして下さいます⁉」
木の枝に引っ掛かったままの万夜がウンザリしたように叫ぶ。御剣が首を傾げる。
「万夜、なんでそんなところにいる?」
「さっきも申し上げたでしょう⁉ 馬鹿力の相手に投げ飛ばされた結果ですわ!」
「自然と一体化しようとしているのかと……」
「そんなわけが……姉様!」
万夜が叫ぶと同時に、茂みから大きな白い犬に跨った御盾が飛び出してきて御剣の背後から襲い掛かる。
「!」
御盾の振り下ろした鉄製の軍配を御剣が刀で受け止める。御盾がニヤっと笑う。
「ふん、奇襲失敗か! そうでなくてはな!」
「四百年前の意趣返しか?」
「なかなか乙なものであろう!」
御盾が笑う。千景が二人の間に入る。
「隊長はやらせねえよ!」
「尚右(なおすけ)! 距離を取れ!」
御盾が自身の跨る犬に指示を出す。犬は背を向けて後退する。
「待ちやがれ! どわっ⁉」
後を追おうとした千景に別の方角の茂みから吹っ飛んできた勇次がぶつかる。
「勇次⁉ お前、その傷!」
勇次の体は肩や膝、脇腹など至る所から出血している。同じ方角から長い槍を持った赤髪の少女がゆっくりと姿を現す。
「ちょろちょろ逃げ回らないでさ……そろそろ観念してよ」
「! てめえ……アタシの勇次をよくも!」
「? アンタ誰? 勇次君はアタシの大事な獲物だよ?」
「! わけ分かんねえこと言ってんじゃねーぞ! てめえからぶっ飛ばす!」
「やってみな!」
「待て! 恋夏‼ 一旦こちらに下がれ!」
「! 姐さん……」
御盾の言葉にふと我に返ったような赤髪の少女は素直に御盾の下に駆け寄る。御盾の周りには火場と林根と朔月も集まっている。
「……其方の名前は?」
「山牙恋夏(やまがれんか)……」
「ふむ……まあよい、其方ら横一列に並べ」
火場たちが並び、頭を下げる。御盾がその頭上で手に持った軍配を左右に振りかざす。
「よし、かかれ!」
山牙を先頭に上杉山隊に向かって突っ込んでいく。林根が冷静に問う。
「隊長、山牙さんですが……」
「様子がおかしいのは承知している、目は光らせておく。いよいよとなれば、此方かあ奴が止める。例え間に合わなくても魔……雅さまがなんとかするじゃろう」
「了解しました」
林根は頷くとブーストを噴かす。山牙の迅速な攻撃に勇次の反応が遅れる。
「くっ!」
「又左!」
「分かったにゃ!」
「うおっ⁉」
勇次は驚く。巨大化した又左が自らの体を咥えて、山牙の攻撃を躱したからである。
「尻尾が二本に分かれている⁉」
「巨大化したことよりもまずそこに注目するとはなかなか通だにゃ……これがワシの妖猫としての真の姿にゃ!」
「かわいげが無くなっている! 元々無いようなもんだけど……」
「! ええ~い! この恩知らず!」
「ぐえっ!」
又左は勇次を乱暴に投げる。そこに万夜の治療を終えた愛が駆け寄る。
「よし、勇次はまず治療しろ! 又左、背を貸せ!」
「ほいにゃ!」
御剣が又左に跨る。千景が御剣に尋ねる。
「姐御よお、心なしか連中の力が上がっているような気がするんだが?」
「それはそうだ! 武枝は味方の能力を一定時間上昇させることが出来るからな!」
「! そういう大事なことは早く言えよ!」
「どこが儀式のようなものなんですの⁉」
「今言った! それで許せ! お前らならば必ず打ち勝てると信じている!」
「し、しょうがねえなあ!」
「し、仕方がありませんわね!」
千景と万夜が身構える。
「テンションが上がっているせいか、万夜さんまであっさりノセられている……」
愛が呆れ気味に呟く。
0
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
裏切りの代償
中岡 始
キャラ文芸
かつて夫と共に立ち上げたベンチャー企業「ネクサスラボ」。奏は結婚を機に経営の第一線を退き、専業主婦として家庭を支えてきた。しかし、平穏だった生活は夫・尚紀の裏切りによって一変する。彼の部下であり不倫相手の優美が、会社を混乱に陥れつつあったのだ。
尚紀の冷たい態度と優美の挑発に苦しむ中、奏は再び経営者としての力を取り戻す決意をする。裏切りの証拠を集め、かつての仲間や信頼できる協力者たちと連携しながら、会社を立て直すための計画を進める奏。だが、それは尚紀と優美の野望を徹底的に打ち砕く覚悟でもあった。
取締役会での対決、揺れる社内外の信頼、そして壊れた夫婦の絆の果てに待つのは――。
自分の誇りと未来を取り戻すため、すべてを賭けて挑む奏の闘い。復讐の果てに見える新たな希望と、繊細な人間ドラマが交錯する物語がここに。
【完結】ドアマットに気付かない系夫の謝罪は死んだ妻には届かない
堀 和三盆
恋愛
一年にわたる長期出張から戻ると、愛する妻のシェルタが帰らぬ人になっていた。流行病に罹ったらしく、感染を避けるためにと火葬をされて骨になった妻は墓の下。
信じられなかった。
母を責め使用人を責めて暴れ回って、僕は自らの身に降りかかった突然の不幸を嘆いた。まだ、結婚して3年もたっていないというのに……。
そんな中。僕は遺品の整理中に隠すようにして仕舞われていた妻の日記帳を見つけてしまう。愛する妻が最後に何を考えていたのかを知る手段になるかもしれない。そんな軽い気持ちで日記を開いて戦慄した。
日記には妻がこの家に嫁いでから病に倒れるまでの――母や使用人からの壮絶な嫌がらせの数々が綴られていたのだ。
妻からの手紙~18年の後悔を添えて~
Mio
ファンタジー
妻から手紙が来た。
妻が死んで18年目の今日。
息子の誕生日。
「お誕生日おめでとう、ルカ!愛してるわ。エミリア・シェラード」
息子は…17年前に死んだ。
手紙はもう一通あった。
俺はその手紙を読んで、一生分の後悔をした。
------------------------------
【完結】捨て去られた王妃は王宮で働く
ここ
ファンタジー
たしかに私は王妃になった。
5歳の頃に婚約が決まり、逃げようがなかった。完全なる政略結婚。
夫である国王陛下は、ハーレムで浮かれている。政務は王妃が行っていいらしい。私は仕事は得意だ。家臣たちが追いつけないほど、理解が早く、正確らしい。家臣たちは、王妃がいないと困るようになった。何とかしなければ…
後宮の胡蝶 ~皇帝陛下の秘密の妃~
菱沼あゆ
キャラ文芸
突然の譲位により、若き皇帝となった苑楊は封印されているはずの宮殿で女官らしき娘、洋蘭と出会う。
洋蘭はこの宮殿の牢に住む老人の世話をしているのだと言う。
天女のごとき外見と豊富な知識を持つ洋蘭に心惹かれはじめる苑楊だったが。
洋蘭はまったく思い通りにならないうえに、なにかが怪しい女だった――。
中華後宮ラブコメディ。
好きな人に『その気持ちが迷惑だ』と言われたので、姿を消します【完結済み】
皇 翼
恋愛
「正直、貴女のその気持ちは迷惑なのですよ……この場だから言いますが、既に想い人が居るんです。諦めて頂けませんか?」
「っ――――!!」
「賢い貴女の事だ。地位も身分も財力も何もかもが貴女にとっては高嶺の花だと元々分かっていたのでしょう?そんな感情を持っているだけ時間が無駄だと思いませんか?」
クロエの気持ちなどお構いなしに、言葉は続けられる。既に想い人がいる。気持ちが迷惑。諦めろ。時間の無駄。彼は止まらず話し続ける。彼が口を開く度に、まるで弾丸のように心を抉っていった。
******
・執筆時間空けてしまった間に途中過程が気に食わなくなったので、設定などを少し変えて改稿しています。
夫から「用済み」と言われ追い出されましたけれども
神々廻
恋愛
2人でいつも通り朝食をとっていたら、「お前はもう用済みだ。門の前に最低限の荷物をまとめさせた。朝食をとったら出ていけ」
と言われてしまいました。夫とは恋愛結婚だと思っていたのですが違ったようです。
大人しく出ていきますが、後悔しないで下さいね。
文字数が少ないのでサクッと読めます。お気に入り登録、コメントください!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる