上杉山御剣は躊躇しない

阿弥陀乃トンマージ

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第一章

第9話(4) 両隊、衝突

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「ふん!」

 御剣が斜めに振り下ろした刀を御盾が軍配で巧みに受け流す。すぐさま返す刀で斬りかかるが、これも難なく受け止める。又左が舌を巻く。

「これは相当腕を上げているにゃ!」

「はははっ! こんなものか、宿敵! ちなみに此方は全然本気を出しておらんぞ!」

「……私もまだまだ序の口に過ぎん」

「どちらも負けず嫌いだにゃ……」

 又左が呆れる。

「乗り手が力を出し切れていないのはお前が不甲斐ないからではないか?」

「!」

 尚右の突然の発言に又左は顔をしかめる。

「……どういう意味かにゃ」

「そのままの意味だが? 低能な妖猫には難しかったか?」

「シャ―――! 忠犬気取りの駄犬が調子に乗るにゃ!」

「! ま、待て、又左、少し落ち着け!」

 相手に噛み付かんとする又左を落ち着かせようとする御剣を尻目に御盾は距離を取る。



「オラオラァ!」

 千景がパンチを数発繰り出すが、火場がそれを紙一重で躱す。

「一撃一撃が速くかつ重い……まともに喰らってしまってはマズいな―――!」

「どぉっ!」

 火場は千景の腕を掴み一本背負いを決める。電光石火の早業に千景は受け身を満足に取ることが出来ずに、地面に容赦なく叩き付けられる。火場はすぐさま絞め技に入る。

「大人しくしていてもらおう!」

「ぐぬぬ……!」

 しばらくジタバタと抵抗していた千景だったがそれも虚しく失神する。



「せい!」

 万夜が鞭を振るうが、林根は事もなげに躱してみせる。

「な⁉ 何故当たりませんの⁉」

「……鞭の軌道自体は不規則ですが、腕の向きや振りなどを見ればある程度の予測がつきます。回避行動をとるのは然程難しいことではありません」

「!」

 林根があっという間に万夜に接近する。

「この距離では鞭は満足に使えないでしょう」

「ならば、こちらをどうぞ! 『リサイタル』!」

「……」

「ぐはっ! な、何故……?」

 声を発して林根の動きを止めようとした万夜だったが、林根は微動だにせず、強烈な左ストレートを万夜の腹部に叩き込む。まともに受けた万夜は膝から崩れ落ちる。

「……シャットダウンモードを起動させていました。貴女の怪音波は通用しません」



「次は……貴女です」

 林根が愛に視線を向ける。火場が自ら両の拳を突き合わせて呟く。

「朔月、助太刀するぞ」

「無用だと言いたいが……一度負けただけになにも言えんな」

 愛に三人が襲い掛かる。愛は4枚の形代を手に取って投げ付ける。

「朔月望……宿り給へ!」

「火場!」

「春暁!」

「!」

 火場の繰り出した火を纏った拳により、形代は燃えてしまう。朔月はふっと笑う。

「思った通りだな、自分が燃やされている様で少々複雑だが……」

「くっ……」

「曲江愛さん、観念して頂きます」

「しばらく眠っていてもらう!」

「そういうわけには……!」

「させんぞ!」

 三人と愛の間に又左に跨った御剣が割って入り、刀を振る。

「上杉山流奥義……『凍土』」

「「「⁉」」」

 御剣が刀を振るうと、三人が一瞬にして凍りついた。

「一人一人相手をするのは面倒だ、しばらく凍っていてもらう」



「それでこそ我が宿敵!」

 尚右に跨った御盾が上から襲い掛かる。愛が前に進み出る。

「ここは私が! 火場桜春……宿り給へ!」

「⁉ 火場まで出せるのか⁉」

「名前を知って直接会話すれば、具現化出来ます!」

 四体の火場が御盾を取り囲む。

「なんの! 『風林火山・火の構え・火炎』!」

「!」

 御盾が軍配を振るうと、大きな火の渦が起こる。

「形代を用いているのはもうネタが割れておるぞ! ……何じゃと⁉」

 御盾が驚く。燃やしたと思った四体の火場が、燃えずに攻撃してきたからである。

「ど、どういうことじゃ⁉」

「あらかじめある程度水に湿らせておいた形代を用いました!」 

「小癪な真似を……!」

 四体の火場の繰り出す鋭い攻撃をなんとか躱しながら御盾は忌々し気に呟く。

「火場さんは火系統の術者です! 耐性も強い為、簡単には燃やせません!」

「……『風林火山・風の構え・疾風』!」

「⁉」

 御盾が再び軍配を振るうと、今度は強い突風が巻き起こり、その直撃を喰らった四体の火場は哀れにも体が千切れてしまう。

「ふん、燃えにくい代わりに破れやすいの……味方を引き千切る様で後味は悪いが……」

「そ、そんな……」

「其方ら呑気に凍っておる場合か! 溶かせばまだ戦えよう!」

 御盾が後方に振り返り、軍配を振るおうとする。

「氷を溶かす気か、そうはさせん!」

 御剣が素早く回り込み、振り下ろそうとした軍配を刀で受け止める。

「隊長! 援護します!」

「待て! 私のことは良い! 勇次を助けろ!」

「! 了解!」

 愛が少し離れた勇次の所へと急ぐ。御盾が笑う。

「回復要員なしで良いのか⁉」

「ハンデだ! 喜べ!」

「! ふざけたことを!」



「勇次君!」

 愛が駆けつけた時、そこには山牙のみが立っていた。

「! 勇次君は⁉」

「……さっきよりもヤル気にはなってくれたんだけど、足踏み外しちゃってさ……」

 山牙がため息を突きながら槍で崖を指し示す。

「まだ妖力は感じるし、そんな高い崖じゃないからその内戻ってくるでしょ。そしたら、アタシの槍で貫いてあげるんだ♪」

「! そんなことはさせない!」

「……何なの、アンタ……ウザ……決めた、アンタから先に始末して上げる……」

 笑顔から真顔に変わった山牙が槍を構える。
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