上杉山御剣は躊躇しない

阿弥陀乃トンマージ

文字の大きさ
40 / 123
第一章

第10話(3) 隊長、激闘

しおりを挟む
「ええい!」

 御盾の振る軍配を御剣が刀で受け止める。

(凍らされた奴らの氷を溶かすつもりが、大分引き離されてしまった!)

「戦力は分散させるに限るからな……」

「!」

「貴様の考えていることなど大方そんなところだろう?」

「ふん、癪に障る奴よの!」

 鍔迫り合いの状態から互いに力強く押し込んだ為、両者は反発し合い、距離を取る。

「言葉巧みに此方を尚右から降ろすとは! 色々と賢しい手を使う!」

「事実を捻じ曲げるな……挑発したのは又左で、それに乗ったのはあの妖犬だ」

「あの妖猫は尚右に相当対抗心があるようだな!」

「貴様ほどではない……」

「猫と同じにするな!」

「だから事実誤認を止めろ、猫未満だと言っている……」

「! キィ―――!」

 御盾が軍配を振るうが、御剣が横に飛んで躱す。

「ちっ!」

 御盾がすぐさま追撃しようとするが思い留まり、その場で呼吸を整える。

(落ち着け此方よ……冷静さを欠いてはならん、頭に血が上っていては奴には勝てぬ……それではこれまでの二の舞じゃ……)

 呼吸を落ち着かせると、御盾は御剣の方にゆっくりと向き直る。

(軍配の一撃の重さが格段に増している……加えて、互いの得物のリーチ差を埋めるあのスピード……相当鍛え上げてきたようだな……)

 御剣は刀を横に構えながら、警戒心を強める。御盾が軍配を横に振るう。

「『風林火山・風の構え・疾風』!」

「!」

 巻き起こった突風を受けた御剣は体勢をやや崩す。それを見た御盾はニヤリと笑う。

(隙を見せたな! ここが狙い目よ!)

 御盾は軍配を縦にして、それを前に突き出して叫ぶ

「『風林火山・火の構え・火炎』!」

「上杉山流奥義……『凍柱』!」

 御盾の軍配から激しい炎が噴き出すが、御剣は自身の前に氷の太い柱を立てて、火炎の放射を防いでみせる。御盾が驚くが、すぐに気持ちを切り替える。

「その程度の氷柱、溶かしてくれるわ!」

「それは手間が省けて助かる」

「何っ⁉」

次の瞬間、御剣は自身の前の氷柱を思い切り蹴り飛ばす。炎によって溶けやすくなっていた柱はあっけなく折れ、その折れた柱は御盾のみぞおちに命中する。

「ぐはっ!」

「まだだ!」

「!」

 御剣が宙を飛び、柱の端の部分に飛び乗る。てこの原理で、柱のもう片方の端の部分が上に勢い良く上がり、御盾の顎に激突する。

「ぐふっ!」

 予想だにせぬ攻撃を喰らった御盾は仰向けに倒れ込む。それでも、やや間を置いてではあるが、なんとか半身を起こそうと試みる。その様子を見て御剣は感心する。

「ほう、随分とタフだな……」

「ぐっ……」

「脳が相当揺れているはずだ、下手に動かん方が良いぞ」

「……」

「この対抗戦は一度だけ回復がありだったな。貴様自身はまだ回復してなかっただろう。術を使わないのか?」

「キョナタノミャケダ……」

「ん? なんだ?」

「其方がアギョ(顎)を砕いたシェイデ(せいで)ウミャク(上手く)喋れんのだ……」

「そうか、それは悪かったな」

「キョキョデ(ここで)回復してもオソリャク(恐らく)同じキョト(事)……潔くミャケ(負け)を認めよう……」

「じゃあ、決着ということで良いわね?」

「⁉ み、雅さん!」

 いきなり背後に現れた雅に御剣は驚く。

「相変わらず僅かに気を抜いちゃう癖があるわね、御剣っち。油断大敵よ~」

「はっ、精進します……」

「隊長!」

「大丈夫ですか⁉」

 勇次と愛が遅れて駆け寄ってくる。

「ああ、二人とも無事だったか」

「まあ……」

「なんとか……」

「なによりだ」

 御剣が安心したように頷く。それを見て雅が口を開く。

「ということでこの対抗戦は上杉山隊の勝利ってことで……」

「ちょっとお待ち下さい」

「ん?」

「まだ又左と尚右の決着が着いておりません」

「ああ、ニャンちゃんとワンちゃんね……放っておいても良くない?」

「そういうわけには参りません」

「どこら辺で戦っているのかしらね~?」

 雅が周囲を見回すと、茂みから声がする。

「探しているのはこいつらのことかい?」

「⁉」

 傷を負った又左と尚右が乱暴に投げ捨てられ、勇次たちの下に転がる。

「又左!」

「ニャオスケ!」

「半妖は半妖でも用があるのは人型なんだよなあ~」

 首の骨をコキコキと鳴らしながら、長い黒髪を後ろで一つ縛りにした男が姿を現す。

「なんだ、てめえは⁉」

「答える必要は無いね、鬼ヶ島勇次。俺たちと一緒に来てもらうぜ」

 男が勇次をビシッと指差す。

「なんだと⁉」

「勇次君のことを知っている……?」

「なかなかの妖力ね、接近を私に気が付かせないとは……しかもウチの隊員たちが張った結界も破ったっていうこと?」

「それなりやったけど、それほど手応えは無かったで?」

「⁉」

 別方向に目を向けると、虎縞のジャケットを羽織り、ジーンズ姿の女が現れる。

「だ、誰だ⁉」

「凄い妖力……」

「貴様は……」

「貴女……ウチの可愛い隊員たちに何をしてくれたの?」

 雅の問いにジャケットを羽織った女性は笑いながら首をすくめる。

「別に? 単に通り道におって邪魔やったから、軽くどついたっただけやで? 運が良ければ生きとるやろ」

「ふ~ん……」

「雅さん、こいつは……」

「御剣っちはそっちのロン毛くんをお願い、こっちの子は私がお仕置きしてあげるわ」

「……了解しました」

 雅と御剣がそれぞれ、謎の乱入者と対峙する。
しおりを挟む
感想 3

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

裏切りの代償

中岡 始
キャラ文芸
かつて夫と共に立ち上げたベンチャー企業「ネクサスラボ」。奏は結婚を機に経営の第一線を退き、専業主婦として家庭を支えてきた。しかし、平穏だった生活は夫・尚紀の裏切りによって一変する。彼の部下であり不倫相手の優美が、会社を混乱に陥れつつあったのだ。 尚紀の冷たい態度と優美の挑発に苦しむ中、奏は再び経営者としての力を取り戻す決意をする。裏切りの証拠を集め、かつての仲間や信頼できる協力者たちと連携しながら、会社を立て直すための計画を進める奏。だが、それは尚紀と優美の野望を徹底的に打ち砕く覚悟でもあった。 取締役会での対決、揺れる社内外の信頼、そして壊れた夫婦の絆の果てに待つのは――。 自分の誇りと未来を取り戻すため、すべてを賭けて挑む奏の闘い。復讐の果てに見える新たな希望と、繊細な人間ドラマが交錯する物語がここに。

【完結】ドアマットに気付かない系夫の謝罪は死んだ妻には届かない 

堀 和三盆
恋愛
 一年にわたる長期出張から戻ると、愛する妻のシェルタが帰らぬ人になっていた。流行病に罹ったらしく、感染を避けるためにと火葬をされて骨になった妻は墓の下。  信じられなかった。  母を責め使用人を責めて暴れ回って、僕は自らの身に降りかかった突然の不幸を嘆いた。まだ、結婚して3年もたっていないというのに……。  そんな中。僕は遺品の整理中に隠すようにして仕舞われていた妻の日記帳を見つけてしまう。愛する妻が最後に何を考えていたのかを知る手段になるかもしれない。そんな軽い気持ちで日記を開いて戦慄した。  日記には妻がこの家に嫁いでから病に倒れるまでの――母や使用人からの壮絶な嫌がらせの数々が綴られていたのだ。

妻からの手紙~18年の後悔を添えて~

Mio
ファンタジー
妻から手紙が来た。 妻が死んで18年目の今日。 息子の誕生日。 「お誕生日おめでとう、ルカ!愛してるわ。エミリア・シェラード」 息子は…17年前に死んだ。 手紙はもう一通あった。 俺はその手紙を読んで、一生分の後悔をした。 ------------------------------

【完結】捨て去られた王妃は王宮で働く

ここ
ファンタジー
たしかに私は王妃になった。 5歳の頃に婚約が決まり、逃げようがなかった。完全なる政略結婚。 夫である国王陛下は、ハーレムで浮かれている。政務は王妃が行っていいらしい。私は仕事は得意だ。家臣たちが追いつけないほど、理解が早く、正確らしい。家臣たちは、王妃がいないと困るようになった。何とかしなければ…

後宮の胡蝶 ~皇帝陛下の秘密の妃~

菱沼あゆ
キャラ文芸
 突然の譲位により、若き皇帝となった苑楊は封印されているはずの宮殿で女官らしき娘、洋蘭と出会う。  洋蘭はこの宮殿の牢に住む老人の世話をしているのだと言う。  天女のごとき外見と豊富な知識を持つ洋蘭に心惹かれはじめる苑楊だったが。  洋蘭はまったく思い通りにならないうえに、なにかが怪しい女だった――。  中華後宮ラブコメディ。

好きな人に『その気持ちが迷惑だ』と言われたので、姿を消します【完結済み】

皇 翼
恋愛
「正直、貴女のその気持ちは迷惑なのですよ……この場だから言いますが、既に想い人が居るんです。諦めて頂けませんか?」 「っ――――!!」 「賢い貴女の事だ。地位も身分も財力も何もかもが貴女にとっては高嶺の花だと元々分かっていたのでしょう?そんな感情を持っているだけ時間が無駄だと思いませんか?」 クロエの気持ちなどお構いなしに、言葉は続けられる。既に想い人がいる。気持ちが迷惑。諦めろ。時間の無駄。彼は止まらず話し続ける。彼が口を開く度に、まるで弾丸のように心を抉っていった。 ****** ・執筆時間空けてしまった間に途中過程が気に食わなくなったので、設定などを少し変えて改稿しています。

夫から「用済み」と言われ追い出されましたけれども

神々廻
恋愛
2人でいつも通り朝食をとっていたら、「お前はもう用済みだ。門の前に最低限の荷物をまとめさせた。朝食をとったら出ていけ」 と言われてしまいました。夫とは恋愛結婚だと思っていたのですが違ったようです。 大人しく出ていきますが、後悔しないで下さいね。 文字数が少ないのでサクッと読めます。お気に入り登録、コメントください!

処理中です...