上杉山御剣は躊躇しない

阿弥陀乃トンマージ

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第一章

第10話(4) 管区長の戦い

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「ふ~ん、わりと楽しめそうな相手やな……」

 虎縞ジャケットの女が指の骨をポキポキと鳴らしながら笑みを浮かべる。

「……私ははっきり言って不愉快な気分よ」

 雅が低い声色で呟く。虎縞がカカッと口を広げて笑う。その口から牙が覗く。

「まあまあ、そないつれないこと言うなや」

「その妖力の強さ……相対するのはウン十年振りね、私の知っているものとは違うけど」

「ん? なんや?」

「何でもないわ、只の独り言よ」

 そう言って雅は構えを取る。



「噂の白髪の女剣士か……お前に用は無いんだよ」

 黒髪の男は呆れたように両手を広げる。男は山伏を想起させるような服装をしている。

「貴様のお目当ては勇次の様だな」

「そう言っただろう? 大人しく引き渡してくれよ」

「そうはいかん。邪魔をさせてもらう」

 御剣は刀を構える。

「へっ、仕方が無いねえ……」

 山伏が二本の小太刀を交差させて構える。



「!」

 一瞬の間を空けて、虎縞が仕掛ける。両の拳を使った、拳闘スタイルである。右、左と拳を素早く繰り出すが、雅は慌てずに手の甲を使ってそれを冷静に捌く。

「武器は使わへんのか! 意外やな?」

「女は意外性が大事よ」

「軽口をたたく余裕があるのが気に食わんな!」

「同感だわ」

「オラッオラッ!」

 虎縞が猛然とラッシュを仕掛けるが、雅はこれも慌てずに対応する。



「せい!」

 山伏が両手に持った小太刀で仕掛ける。右手は御剣の頭部、いわゆる上段を狙い、左手は御剣の腹部、いわゆる中段を狙う。

「⁉」

 山伏は驚く。御剣が刀の刃先の部分で右の小太刀、刀の柄の部分で左の小太刀を受け止めてみせたからである。

「な、なんだと……」

「……それほど驚くことか? 二か所別々の場所を狙ってくることは容易に予想出来る」

 涼しい顔で御剣は語る。山伏は舌打ちをする。

「気に入らないねえ!」

「別に気に入られようとは思っていない」

「そうかよ!」

 山伏が再び斬りかかるが、御剣は冷静にその攻撃を見極め刀で受け流す。



「こ、これが管区長の戦い……目で追うのがやっとだぜ……」

 御剣と雅の戦い振りを見ていた勇次は息を呑む。

「だ、大丈夫ですか⁉」

 愛の声に振り返ると、御盾が立ち上がっている。自らで傷を治癒したのである。

「大丈夫じゃ、このくらい……ええい、どけっ!」

 御盾は勇次を押し退けて前に出て叫ぶ。

「助太刀いたす!」

「「無用!」」

「⁉」

 御剣と雅が戦いながら揃って声を上げる。

「御盾ちゃん、ウチの隊員たちを見てきてくれる⁉ 霊力を辿れば分かるはずよ!」

「それが済んだら、又左と尚右の治癒を頼む!」

「……!」

 振り返った御盾は勇次をキッと睨む。勇次は戸惑う。

「あ、あの……?」

「なんでもないわ! すぐに戻る!」

 御盾は唇を噛みしめながらその場を走り去る。

(援護もままならん……目で追うのがやっと? 此方にはほとんど見えなかったわ……くそ! まだまだ管区長の器ではないということか!)



「……思ったほどの攻撃ではないわね。目が慣れてきたわ」

「ああん?」

「貴女も目覚めて間もないということかしら?」

「それがどないしたんや⁉」

「ならばこれはまさに絶好の機会というもの……ここで仕留めさせてもらうわ! 干支妖の天寅(てとら)さん!」

「なんや、ワイも結構有名やの!」

「資料で見たわ、関西訛りで虎柄を好む変な妖だってね!」

「どんな資料やねん!」

「隙有り!」

「くっ⁉」

 雅が天寅の手を弾く。天寅の猛攻が止む。

「貴女の攻撃は既に見切ったわ……」

「そういや、ワイもなんや聞いたことがあるで、妖絶講にはいつの時代にも外見のほとんど変わらん妖絶士がおるって―――!」

「お喋りが過ぎるわね」

「ぐっ!」

 雅が左手で天寅の右腕をガッと掴み、微笑を浮かべる。

「私に手の甲じゃなくて、掌を使わせたらマズいわよ?」

「何⁉」

「『廻老(かいろう)』……」

「ぐおっ!」

「んっ!」

 天寅が雅の膝を蹴り、強引に離れる。そして自身の右腕を抑えて驚く。

「くっ……な、なんや、皮膚が溶けた⁉」

「溶けたじゃなくて、老いたのよ。流石ね、一瞬じゃ消滅させられなかったわ」

「なっ……」

「次は仕留める……」

「ちぃ!」

 天寅が空高く飛び上がり、その場から逃げる。

「ここは逃げ一択や! 面覚えたで、姉さん! この借りは返す!」

「変に潔いわね……」

 そこに御盾が駆けつけ、声を掛ける。

「雅殿! 隊員たちはどなたも命に別状はない! 出来る限りの治癒は行い、近隣の医療部隊に連絡は取りました。間もなく回収に参るとのこと!」

「ありがとう。とりあえず一安心ね。さて……」

 雅が視線を御剣の方に向ける。



「ちっ、風刃!」

「『凍結』!」

「なっ⁉」

 距離を取った山伏が小太刀を振るい、風の刃を発生させたが、御剣が刀を一振りすると、その刃は凍って、力なく地面に落ちて砕ける。

「ようやく分かった……貴様、天狗の半妖だろう?」 

「!」

「ならば風を使った戦い方をしてくるのは想定の内だ」

「……そうか想定内か、ならばこれはどうだ!」

「⁉」

 山伏は風を巻き起こすと、その風に乗り一気に勇次に襲いかかる。

「大人しくしてもらうぜ!」

「ちっ!」

「なっ⁉」

 山伏は驚く。勇次が急襲攻撃を防いだからである。

「どりゃ!」

「うおっ!」

 勇次が金棒を振るい、山伏の小太刀を弾き飛ばす。

「これでてめえの武器は無い! 終わりだ!」

「っ!」

「⁉」

 勇次が金棒を振り下ろした次の瞬間、鎌を持った女性がその金棒を受け止めていた。金糸雀色の髪をしたロングヘアのその女性は、女子高生の制服を着ている。長い鎌とはあまりにもミスマッチである。しかし、勇次が驚いたのはそんなことでは無かった。

「お、お前は……?」

「……」

 女性は勇次と目を合わせた後、山伏に視線を送る。山伏は舌打ちをしながらも頷く。

「はいはい、この場は出直せってことね」

「待て!」

「そう言われて待つ馬鹿はいないよ!」

「ぬっ!」

 御剣が斬りかかろうとするが、山伏は先程よりもさらに大きな風を巻き起こし、小太刀を手早く拾って、鎌を持った女性とともにその風に乗り、上空に高く舞い上がっていく。程なくして彼らの姿は見えなくなる。

「……新手が来ていたとは気が付かなかった。奴も半妖か?」

 御剣は言葉を失くして立ちすくむ勇次と愛に声をかける。

「どうした、二人とも?」

「ゆ、勇次君、あの人は……」

「ね、姉ちゃん……?」

「! 何だと……?」

 勇次の発言に御剣は目を見開く。
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