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第二章
第15話(2) 夜道を駆ける
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「さてと、この辺りかね……」
夜も更けてきたところで、新潟県と長野県の県境辺りのとある山道まで千景はサイドカーを走らせ、停車した。助手席に座る勇次が尋ねる。
「なあ千景……そろそろ説明してくれないか、今回の任務を」
「ああ、そういえばしてなかったか?」
千景はエンジンを切って、バイクから降り、ヘルメットを取ってハンドルに掛け、地図を取り出して広げる。勇次もヘルメットを取る。
「これは……さっき隊長に見せられた地図だな……」
「ああ、そうだ」
「調査段階から始めるとかなんとか言っていたような気がするが?」
「そう、隠れている妖を探し出すんだ」
「隠れている?」
「腹が立つくらい巧妙にな」
千景が首をすくめる。勇次は言い辛そうに答える。
「こう言ってはなんだけど……確かに億葉の方が適任そうだが……」
「ところがそうでもねえんだ、この辺はアタシの庭みたいなもんだからな」
「ああ、レディース時代に馴染みがあるのか」
「そうだ……って、な、なんで知ってんだよ⁉」
千景が狼狽する。
「察しはついてたよ。バイク屋の娘からも『総長』って呼ばれていたじゃないか」
「あ、あれは『曹長』って意味だよ。自衛隊あがりなんだよ」
「嘘つけよ」
「ちっ、バレたか……まあいいや」
千景は自分の髪の毛を軽くわしゃわしゃとする。勇次が尋ねる。
「で? 庭っていうのが関係しているのか?」
「アタシはこの辺りには馴染みがある。だから姐御はアタシを指名した……」
「なるほどな」
「この辺りで妖が関わっていると思われる事故が頻発している」
「そうか……」
「大体、車やバイクのドライバーが巻き込まれている。幸いなことにまだ死者や重傷者は出ていないが……そろそろ手を打たないとマズいってわけだ」
「この辺りに来た理由は?」
「事故が起こっているのはこの近辺に集中している。この辺ではまだ報告事例は無いが、そろそろ仕掛けてくるんじゃないかとにらんでな」
「見たところ交通量が少なそうだが? もっと多いところを狙うんじゃないか?」
「……まあ、ちょっと流してみれば分かるさ」
千景がヘルメットを被り、バイクに跨る。勇次もヘルメットを被ると、千景はエンジンを吹かし、サイドカーを発進させる。しばらく走っていると、後方からけたたましい音がするので、勇次が驚いて振り向くと、素人目にも分かるような違法改造をこれでもかと施したバイクが数台、千景の後をついてきている。
「ぼ、暴走族か……まだいるんだな」
その内の一台が速度を上げて、千景の隣について、口笛を鳴らして話しかけてくる。
「~♪ 姉ちゃん、随分シブいのに乗ってんね~ヤマキ? イワサキ?」
「……」
「おいおい、無視しないでよ~」
「……アルタイだ」
「え?」
「ロシアのメーカーだ、サイドカーと言えばここだ」
「へ~まあ、そんなことはどうでもいいや、俺らと遊ばない?」
「悪いが仕事中だ」
千景は速度を上げ、絡んできた暴走族と離れる。勇次が尋ねる。
「ど、どうする千景?」
「面倒だな、下手に相手すると、余計に絡んでくる。構うんじゃねえぞ。無視だ、無視」
「あ、ああ……」
再び暴走族の男が並びかけてきた。
「仕事なんかいいじゃん、そっちのダセえ野郎に押し付けてさ、俺らと遊ぼうぜ」
「あん? 今なんつった?」
千景が男を睨む。勇次が慌てる。
「い、いや、構っているし⁉」
「アルタイも知らねえガキが一丁前に族気取ってんじゃねえ、ママの所にでも帰りな」
「ああん⁉」
男が千景を睨み返す。
「ち、千景、穏便に行こう……どおっ⁉」
千景を宥めようとした勇次が体勢を崩す。反対方向から別の男に蹴られたからだ。
「おい、女に運転させて助手席に乗っているダサ坊よ、邪魔だからさっさと降りろよ!」
「ああっ⁉」
「ちょ、ちょっと待て勇次⁉ 金棒出そうとすんな!」
「背中蹴られたんだぞ! 黙ってられるか!」
「わ、わりとお前も血の気が多いんだな……」
「売られた喧嘩はことごとく買ってきたんだよ!」
「まあまあ待て、下手に怪我でもさせたら、姐御に叱られるぜ」
思い掛けず勇次がヒートアップしたことにより、千景はかえって冷静になったようだ。
「じゃあ、どうすんだよ⁉」
「やりようはあるさ!」
千景は思い切りサイドカーのスピードを上げる。
「ま、待てや!」
暴走族が追いかけてくる。千景はミラーでその様子を確認する。
「……ここだ!」
「なに⁉」
千景が急に減速し、絶妙なハンドルさばきで、追ってきた2台のバイクの間隙を縫うようにサイドカーを走らせる。
「今だ! 勇次、首根っこ掴め!」
「お、おう!」
千景と勇次がそれぞれ片手を伸ばし、並走していた暴走族の男たちの首根っこを掴み、持ち上げるような形になる。
「ぐ、ぐえっ⁉」
「どわっ⁉」
運転手を突如失ったバイク2台はコントロールを失い、横転する。
「あ~あ……まあ、怪我はさせていないからセーフか」
千景は男を持ち上げたままサイドカーを道の脇に停止させる。
「な、なんてバカ力だ!」
「バカは余計だ……鍛え方が違うんだよ」
「化け物かよ!」
「化け物探し中なんだよ……悪いこと言わねえから、さっさと帰れ」
「おい! てめえら、仲間に何やってやがる!」
「!」
暴走族がもう一台、駆け寄ってくる。その男はバットを取り出して振りかぶった。
「その手を離しやが……れ⁉」
男の首根っこが並走する車から伸びた腕に掴まれ、豪快に持ち上げられる。バイクは横転する。車はゆっくりと停車し、長身かつスタイルも良く、ベリーショートの黒い髪が印象的な女性が颯爽と降りてきた。
「邪魔だ……良い子はもう寝る時間だぞ」
「ひいいっ!」
男たちはたまらずその場から逃げ出した。千景は女の顔を見て苦々し気に呟く。
「応援をよこすって姐御は言っていたが、武枝隊のてめえかよ……」
「てめえとはご挨拶だな……火場桜春(ひばおうしゅん)という名前がある」
火場と名乗った女性は微笑を浮かべる。
夜も更けてきたところで、新潟県と長野県の県境辺りのとある山道まで千景はサイドカーを走らせ、停車した。助手席に座る勇次が尋ねる。
「なあ千景……そろそろ説明してくれないか、今回の任務を」
「ああ、そういえばしてなかったか?」
千景はエンジンを切って、バイクから降り、ヘルメットを取ってハンドルに掛け、地図を取り出して広げる。勇次もヘルメットを取る。
「これは……さっき隊長に見せられた地図だな……」
「ああ、そうだ」
「調査段階から始めるとかなんとか言っていたような気がするが?」
「そう、隠れている妖を探し出すんだ」
「隠れている?」
「腹が立つくらい巧妙にな」
千景が首をすくめる。勇次は言い辛そうに答える。
「こう言ってはなんだけど……確かに億葉の方が適任そうだが……」
「ところがそうでもねえんだ、この辺はアタシの庭みたいなもんだからな」
「ああ、レディース時代に馴染みがあるのか」
「そうだ……って、な、なんで知ってんだよ⁉」
千景が狼狽する。
「察しはついてたよ。バイク屋の娘からも『総長』って呼ばれていたじゃないか」
「あ、あれは『曹長』って意味だよ。自衛隊あがりなんだよ」
「嘘つけよ」
「ちっ、バレたか……まあいいや」
千景は自分の髪の毛を軽くわしゃわしゃとする。勇次が尋ねる。
「で? 庭っていうのが関係しているのか?」
「アタシはこの辺りには馴染みがある。だから姐御はアタシを指名した……」
「なるほどな」
「この辺りで妖が関わっていると思われる事故が頻発している」
「そうか……」
「大体、車やバイクのドライバーが巻き込まれている。幸いなことにまだ死者や重傷者は出ていないが……そろそろ手を打たないとマズいってわけだ」
「この辺りに来た理由は?」
「事故が起こっているのはこの近辺に集中している。この辺ではまだ報告事例は無いが、そろそろ仕掛けてくるんじゃないかとにらんでな」
「見たところ交通量が少なそうだが? もっと多いところを狙うんじゃないか?」
「……まあ、ちょっと流してみれば分かるさ」
千景がヘルメットを被り、バイクに跨る。勇次もヘルメットを被ると、千景はエンジンを吹かし、サイドカーを発進させる。しばらく走っていると、後方からけたたましい音がするので、勇次が驚いて振り向くと、素人目にも分かるような違法改造をこれでもかと施したバイクが数台、千景の後をついてきている。
「ぼ、暴走族か……まだいるんだな」
その内の一台が速度を上げて、千景の隣について、口笛を鳴らして話しかけてくる。
「~♪ 姉ちゃん、随分シブいのに乗ってんね~ヤマキ? イワサキ?」
「……」
「おいおい、無視しないでよ~」
「……アルタイだ」
「え?」
「ロシアのメーカーだ、サイドカーと言えばここだ」
「へ~まあ、そんなことはどうでもいいや、俺らと遊ばない?」
「悪いが仕事中だ」
千景は速度を上げ、絡んできた暴走族と離れる。勇次が尋ねる。
「ど、どうする千景?」
「面倒だな、下手に相手すると、余計に絡んでくる。構うんじゃねえぞ。無視だ、無視」
「あ、ああ……」
再び暴走族の男が並びかけてきた。
「仕事なんかいいじゃん、そっちのダセえ野郎に押し付けてさ、俺らと遊ぼうぜ」
「あん? 今なんつった?」
千景が男を睨む。勇次が慌てる。
「い、いや、構っているし⁉」
「アルタイも知らねえガキが一丁前に族気取ってんじゃねえ、ママの所にでも帰りな」
「ああん⁉」
男が千景を睨み返す。
「ち、千景、穏便に行こう……どおっ⁉」
千景を宥めようとした勇次が体勢を崩す。反対方向から別の男に蹴られたからだ。
「おい、女に運転させて助手席に乗っているダサ坊よ、邪魔だからさっさと降りろよ!」
「ああっ⁉」
「ちょ、ちょっと待て勇次⁉ 金棒出そうとすんな!」
「背中蹴られたんだぞ! 黙ってられるか!」
「わ、わりとお前も血の気が多いんだな……」
「売られた喧嘩はことごとく買ってきたんだよ!」
「まあまあ待て、下手に怪我でもさせたら、姐御に叱られるぜ」
思い掛けず勇次がヒートアップしたことにより、千景はかえって冷静になったようだ。
「じゃあ、どうすんだよ⁉」
「やりようはあるさ!」
千景は思い切りサイドカーのスピードを上げる。
「ま、待てや!」
暴走族が追いかけてくる。千景はミラーでその様子を確認する。
「……ここだ!」
「なに⁉」
千景が急に減速し、絶妙なハンドルさばきで、追ってきた2台のバイクの間隙を縫うようにサイドカーを走らせる。
「今だ! 勇次、首根っこ掴め!」
「お、おう!」
千景と勇次がそれぞれ片手を伸ばし、並走していた暴走族の男たちの首根っこを掴み、持ち上げるような形になる。
「ぐ、ぐえっ⁉」
「どわっ⁉」
運転手を突如失ったバイク2台はコントロールを失い、横転する。
「あ~あ……まあ、怪我はさせていないからセーフか」
千景は男を持ち上げたままサイドカーを道の脇に停止させる。
「な、なんてバカ力だ!」
「バカは余計だ……鍛え方が違うんだよ」
「化け物かよ!」
「化け物探し中なんだよ……悪いこと言わねえから、さっさと帰れ」
「おい! てめえら、仲間に何やってやがる!」
「!」
暴走族がもう一台、駆け寄ってくる。その男はバットを取り出して振りかぶった。
「その手を離しやが……れ⁉」
男の首根っこが並走する車から伸びた腕に掴まれ、豪快に持ち上げられる。バイクは横転する。車はゆっくりと停車し、長身かつスタイルも良く、ベリーショートの黒い髪が印象的な女性が颯爽と降りてきた。
「邪魔だ……良い子はもう寝る時間だぞ」
「ひいいっ!」
男たちはたまらずその場から逃げ出した。千景は女の顔を見て苦々し気に呟く。
「応援をよこすって姐御は言っていたが、武枝隊のてめえかよ……」
「てめえとはご挨拶だな……火場桜春(ひばおうしゅん)という名前がある」
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