61 / 123
第二章
第15話(3) すっ飛ばす
しおりを挟む
「確か……武枝隊の副隊長だったか?」
「そうだ。川中島での対抗戦では世話になったな」
「姐御もなんで武枝隊に……この辺はアタシらのシマだろうが」
「シ、シマって……」
勇次が苦笑を浮かべる。
「同じ北陸甲信越管区所属の妖絶士なんだ、仲良くしておいて損することはあるまい」
「仲良くって、この勇次はアンタの隊の赤毛女に殺されかけたんだぜ?」
「ああ、山牙の件か、そんなこともあったな……」
「いやいや、そんなことで済ますなよ!」
先に勇次たちが所属する上杉山隊と武枝隊の間で対抗戦が行われ、暴走した山牙恋夏(やまがれんか)の手により、勇次は危うく殺されかけたことがあった。
「半妖によって操られていたんだ、そのことは知っているだろう?」
「そりゃあ知っているけどよ……」
「とは言っても、申し訳なかったな。山牙本人に代わって、改めて謝罪する」
火場は勇次に頭を下げる。
「い、いいえ、全然、大丈夫ですから!」
勇次はかえって恐縮する。
「……お許しは頂いたぞ」
「ちっ……だからといって別に仲良くするつもりはねえぞ」
「それは構わん……仲良くうんぬんは言葉のアヤというやつだ。ただ……」
「ただ……?」
「貴隊の上杉山隊長と、お館さま……我が隊の武枝隊長は出来る限り協力体制を深めていこうという方針を定めたようだぞ」
「はあっ⁉ そんなの初耳だぞ!」
「まだ正式に通達はされていないからな」
「協力体制って……そもそもそっちの隊長さんがそんな殊勝な振る舞い出来るのかよ? なにかと言えば、姐御……うちの隊長に絡んでくるじゃねえか。やれ『管区長の座をかけて勝負じゃ!』とかなんとか言ってよ」
「ふふっ、結構似ていたな、今の言い方……」
火場は笑みを浮かべる。
「そこはどうでも良いんだよ」
「我が隊長も多少大人になってきたということだ。曲江実継を首魁とした半妖勢力――実継の生死は不明だが――の残党の不気味な行動、そして十数年ぶりに復活した干支妖の活動の活発化が予想されるなど……各隊規模では対応しきれないことが増えてきた」
「まあ、分からなくはないがな……」
「そして、この管区に属する他の隊が今一つ全幅の信頼を寄せられないからな……」
「ああ、それはあるな」
「華田隊は“表裏比興”、木曽我隊は“荒くれ者”というイメージが強い……」
「さ、散々なイメージだな……」
火場の説明に勇次が戸惑う。
「まあ、隊全体がそういうわけではないが……古前田隊に至っては隊員ですら隊長殿となかなか連絡が取れないというしな……」
「ああ、あの風来坊か……」
千景が呆れる。勇次が尋ねる。
「れ、連絡が取れないって、そんなんで大丈夫なのか?」
「大丈夫なんじゃねえの? 知らねえけど」
千景が肩をすくめる。
「とにかく、隊長同士の話し合いでせめて両隊の協力関係だけでも深めておく必要があるだろうという結論に至ったようだ」
「へえ、姐御にしては結構まともな考えしてんだな……」
「いや、言い方!」
勇次が千景を注意する。火場があらたまって告げる。
「そこで樫崎千景殿」
「うん?」
「勇猛果敢で知られる、上杉山隊の特攻隊長である貴女の働きぶりから色々学ばせて頂ければと思っている。今回はよろしく頼む」
火場が頭を下げる。
「ほお、アンタ……単なる脳筋だって、うちのパッツンからは聞いていたけど、案外見所がある良い奴じゃねえか」
「だから言い方!」
「パッツン……苦竹万夜副隊長のことか……」
火場が目を細めて呟く。勇次が代わりに釈明する。
「い、いえ、別にそれだけ言っていたわけではないですよ!」
「よっしゃ、調査を続けるぜ、ついてきな! 行くぞ、勇次!」
「お、おう!」
千景たちがサイドカーを発進させ、火場が車をその後に続かせる。しばらく走った後、停車し、千景は考え込む。
「う~ん……」
「そもそもの疑問だが、何故この辺りなんだ? もっと交通量が多い通りはあるだろう」
「それだよ、なにか理由があるのか?」
火場の問いに勇次も同調する。
「……さっき絡んできた馬鹿どもいただろう?」
「あ、ああ……」
「あいつらの迷惑行為のせいもあってかこの辺は交通量が少なくなっている。その方が姿を隠すには都合が良いんじゃないかと思ってな」
「なるほど……考え方としては悪くないな」
火場がうんうんと頷く。勇次が口を開く。
「ただ、妖レーダーにはなんの反応も見られなかったぜ。ささいな変化も見落とさないようにしていたつもりだけど」
「それなんだよな……全く反応を隠しきれるものでもねえと思うんだが……」
千景が腕を組む。火場が提案する。
「やはり別の場所をあたってみるか?」
「ちょっと待ってくれ。何かが足りない気がするんだ……」
「足りない?」
勇次が首を傾げる。
「……勇次、姐御はなんだって、アンタをアタシとの任務に向かわせたんだ?」
「え? そうだな……“素早さ”の成長を期待しているみたいだけどな」
「素早さ?」
「漠然としているだろう?」
勇次がふふっと笑う。
「……いや、意外とそれもアリだな」
「え?」
「火場ちゃんよお……」
「ひ、火場ちゃん⁉」
いきなりのちゃん付けに火場は戸惑う。
「ちょっと悪いことをしようと思うんだけど、見逃してくれるか?」
「? ……妖退治に通じるのならば、多少はな」
「決まりだ、勇次、行くぞ」
「あ、ああ……って、うおおっ⁉」
千景が思いっ切りエンジンを全開にして、走り出す。
「さてと、長いトンネルに入ったか……」
「ス、スピード出し過ぎだろう⁉」
「これで良いんだよ!」
「ええっ⁉ どわっ!」
なにかがキラッと光り、勇次を狙う。勇次は金棒を取り出し、咄嗟に防ぐ。
「スピード違反を取り締まりに出てきやがったな!」
千景はいかにも悪そうな笑みを浮かべる。
「そうだ。川中島での対抗戦では世話になったな」
「姐御もなんで武枝隊に……この辺はアタシらのシマだろうが」
「シ、シマって……」
勇次が苦笑を浮かべる。
「同じ北陸甲信越管区所属の妖絶士なんだ、仲良くしておいて損することはあるまい」
「仲良くって、この勇次はアンタの隊の赤毛女に殺されかけたんだぜ?」
「ああ、山牙の件か、そんなこともあったな……」
「いやいや、そんなことで済ますなよ!」
先に勇次たちが所属する上杉山隊と武枝隊の間で対抗戦が行われ、暴走した山牙恋夏(やまがれんか)の手により、勇次は危うく殺されかけたことがあった。
「半妖によって操られていたんだ、そのことは知っているだろう?」
「そりゃあ知っているけどよ……」
「とは言っても、申し訳なかったな。山牙本人に代わって、改めて謝罪する」
火場は勇次に頭を下げる。
「い、いいえ、全然、大丈夫ですから!」
勇次はかえって恐縮する。
「……お許しは頂いたぞ」
「ちっ……だからといって別に仲良くするつもりはねえぞ」
「それは構わん……仲良くうんぬんは言葉のアヤというやつだ。ただ……」
「ただ……?」
「貴隊の上杉山隊長と、お館さま……我が隊の武枝隊長は出来る限り協力体制を深めていこうという方針を定めたようだぞ」
「はあっ⁉ そんなの初耳だぞ!」
「まだ正式に通達はされていないからな」
「協力体制って……そもそもそっちの隊長さんがそんな殊勝な振る舞い出来るのかよ? なにかと言えば、姐御……うちの隊長に絡んでくるじゃねえか。やれ『管区長の座をかけて勝負じゃ!』とかなんとか言ってよ」
「ふふっ、結構似ていたな、今の言い方……」
火場は笑みを浮かべる。
「そこはどうでも良いんだよ」
「我が隊長も多少大人になってきたということだ。曲江実継を首魁とした半妖勢力――実継の生死は不明だが――の残党の不気味な行動、そして十数年ぶりに復活した干支妖の活動の活発化が予想されるなど……各隊規模では対応しきれないことが増えてきた」
「まあ、分からなくはないがな……」
「そして、この管区に属する他の隊が今一つ全幅の信頼を寄せられないからな……」
「ああ、それはあるな」
「華田隊は“表裏比興”、木曽我隊は“荒くれ者”というイメージが強い……」
「さ、散々なイメージだな……」
火場の説明に勇次が戸惑う。
「まあ、隊全体がそういうわけではないが……古前田隊に至っては隊員ですら隊長殿となかなか連絡が取れないというしな……」
「ああ、あの風来坊か……」
千景が呆れる。勇次が尋ねる。
「れ、連絡が取れないって、そんなんで大丈夫なのか?」
「大丈夫なんじゃねえの? 知らねえけど」
千景が肩をすくめる。
「とにかく、隊長同士の話し合いでせめて両隊の協力関係だけでも深めておく必要があるだろうという結論に至ったようだ」
「へえ、姐御にしては結構まともな考えしてんだな……」
「いや、言い方!」
勇次が千景を注意する。火場があらたまって告げる。
「そこで樫崎千景殿」
「うん?」
「勇猛果敢で知られる、上杉山隊の特攻隊長である貴女の働きぶりから色々学ばせて頂ければと思っている。今回はよろしく頼む」
火場が頭を下げる。
「ほお、アンタ……単なる脳筋だって、うちのパッツンからは聞いていたけど、案外見所がある良い奴じゃねえか」
「だから言い方!」
「パッツン……苦竹万夜副隊長のことか……」
火場が目を細めて呟く。勇次が代わりに釈明する。
「い、いえ、別にそれだけ言っていたわけではないですよ!」
「よっしゃ、調査を続けるぜ、ついてきな! 行くぞ、勇次!」
「お、おう!」
千景たちがサイドカーを発進させ、火場が車をその後に続かせる。しばらく走った後、停車し、千景は考え込む。
「う~ん……」
「そもそもの疑問だが、何故この辺りなんだ? もっと交通量が多い通りはあるだろう」
「それだよ、なにか理由があるのか?」
火場の問いに勇次も同調する。
「……さっき絡んできた馬鹿どもいただろう?」
「あ、ああ……」
「あいつらの迷惑行為のせいもあってかこの辺は交通量が少なくなっている。その方が姿を隠すには都合が良いんじゃないかと思ってな」
「なるほど……考え方としては悪くないな」
火場がうんうんと頷く。勇次が口を開く。
「ただ、妖レーダーにはなんの反応も見られなかったぜ。ささいな変化も見落とさないようにしていたつもりだけど」
「それなんだよな……全く反応を隠しきれるものでもねえと思うんだが……」
千景が腕を組む。火場が提案する。
「やはり別の場所をあたってみるか?」
「ちょっと待ってくれ。何かが足りない気がするんだ……」
「足りない?」
勇次が首を傾げる。
「……勇次、姐御はなんだって、アンタをアタシとの任務に向かわせたんだ?」
「え? そうだな……“素早さ”の成長を期待しているみたいだけどな」
「素早さ?」
「漠然としているだろう?」
勇次がふふっと笑う。
「……いや、意外とそれもアリだな」
「え?」
「火場ちゃんよお……」
「ひ、火場ちゃん⁉」
いきなりのちゃん付けに火場は戸惑う。
「ちょっと悪いことをしようと思うんだけど、見逃してくれるか?」
「? ……妖退治に通じるのならば、多少はな」
「決まりだ、勇次、行くぞ」
「あ、ああ……って、うおおっ⁉」
千景が思いっ切りエンジンを全開にして、走り出す。
「さてと、長いトンネルに入ったか……」
「ス、スピード出し過ぎだろう⁉」
「これで良いんだよ!」
「ええっ⁉ どわっ!」
なにかがキラッと光り、勇次を狙う。勇次は金棒を取り出し、咄嗟に防ぐ。
「スピード違反を取り締まりに出てきやがったな!」
千景はいかにも悪そうな笑みを浮かべる。
0
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
裏切りの代償
中岡 始
キャラ文芸
かつて夫と共に立ち上げたベンチャー企業「ネクサスラボ」。奏は結婚を機に経営の第一線を退き、専業主婦として家庭を支えてきた。しかし、平穏だった生活は夫・尚紀の裏切りによって一変する。彼の部下であり不倫相手の優美が、会社を混乱に陥れつつあったのだ。
尚紀の冷たい態度と優美の挑発に苦しむ中、奏は再び経営者としての力を取り戻す決意をする。裏切りの証拠を集め、かつての仲間や信頼できる協力者たちと連携しながら、会社を立て直すための計画を進める奏。だが、それは尚紀と優美の野望を徹底的に打ち砕く覚悟でもあった。
取締役会での対決、揺れる社内外の信頼、そして壊れた夫婦の絆の果てに待つのは――。
自分の誇りと未来を取り戻すため、すべてを賭けて挑む奏の闘い。復讐の果てに見える新たな希望と、繊細な人間ドラマが交錯する物語がここに。
【完結】ドアマットに気付かない系夫の謝罪は死んだ妻には届かない
堀 和三盆
恋愛
一年にわたる長期出張から戻ると、愛する妻のシェルタが帰らぬ人になっていた。流行病に罹ったらしく、感染を避けるためにと火葬をされて骨になった妻は墓の下。
信じられなかった。
母を責め使用人を責めて暴れ回って、僕は自らの身に降りかかった突然の不幸を嘆いた。まだ、結婚して3年もたっていないというのに……。
そんな中。僕は遺品の整理中に隠すようにして仕舞われていた妻の日記帳を見つけてしまう。愛する妻が最後に何を考えていたのかを知る手段になるかもしれない。そんな軽い気持ちで日記を開いて戦慄した。
日記には妻がこの家に嫁いでから病に倒れるまでの――母や使用人からの壮絶な嫌がらせの数々が綴られていたのだ。
妻からの手紙~18年の後悔を添えて~
Mio
ファンタジー
妻から手紙が来た。
妻が死んで18年目の今日。
息子の誕生日。
「お誕生日おめでとう、ルカ!愛してるわ。エミリア・シェラード」
息子は…17年前に死んだ。
手紙はもう一通あった。
俺はその手紙を読んで、一生分の後悔をした。
------------------------------
【完結】捨て去られた王妃は王宮で働く
ここ
ファンタジー
たしかに私は王妃になった。
5歳の頃に婚約が決まり、逃げようがなかった。完全なる政略結婚。
夫である国王陛下は、ハーレムで浮かれている。政務は王妃が行っていいらしい。私は仕事は得意だ。家臣たちが追いつけないほど、理解が早く、正確らしい。家臣たちは、王妃がいないと困るようになった。何とかしなければ…
後宮の胡蝶 ~皇帝陛下の秘密の妃~
菱沼あゆ
キャラ文芸
突然の譲位により、若き皇帝となった苑楊は封印されているはずの宮殿で女官らしき娘、洋蘭と出会う。
洋蘭はこの宮殿の牢に住む老人の世話をしているのだと言う。
天女のごとき外見と豊富な知識を持つ洋蘭に心惹かれはじめる苑楊だったが。
洋蘭はまったく思い通りにならないうえに、なにかが怪しい女だった――。
中華後宮ラブコメディ。
好きな人に『その気持ちが迷惑だ』と言われたので、姿を消します【完結済み】
皇 翼
恋愛
「正直、貴女のその気持ちは迷惑なのですよ……この場だから言いますが、既に想い人が居るんです。諦めて頂けませんか?」
「っ――――!!」
「賢い貴女の事だ。地位も身分も財力も何もかもが貴女にとっては高嶺の花だと元々分かっていたのでしょう?そんな感情を持っているだけ時間が無駄だと思いませんか?」
クロエの気持ちなどお構いなしに、言葉は続けられる。既に想い人がいる。気持ちが迷惑。諦めろ。時間の無駄。彼は止まらず話し続ける。彼が口を開く度に、まるで弾丸のように心を抉っていった。
******
・執筆時間空けてしまった間に途中過程が気に食わなくなったので、設定などを少し変えて改稿しています。
夫から「用済み」と言われ追い出されましたけれども
神々廻
恋愛
2人でいつも通り朝食をとっていたら、「お前はもう用済みだ。門の前に最低限の荷物をまとめさせた。朝食をとったら出ていけ」
と言われてしまいました。夫とは恋愛結婚だと思っていたのですが違ったようです。
大人しく出ていきますが、後悔しないで下さいね。
文字数が少ないのでサクッと読めます。お気に入り登録、コメントください!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる