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第二章
第19話(1) 任務完了報告
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陸
「そうか、ピンク色の魂喰か、確かに珍しいな……」
資料に目を通しながら、御剣は頷く。
「武枝隊の仁藤さんが切り込み役として、相手の陣形を崩すことが出来ました」
愛が資料を手に淡々と報告する。
「ほう、あの仁藤正人が……」
「はい」
「武枝が言うには、『やるときはやる男だ、多分……』という評価だったのだが……」
「対抗戦で顔を合わせた私としても想定以上の活躍でした。ただ……」
「ただ?」
「なんというかこう、存在感が乏しいところがあるなと感じました」
「あの個性派揃いの武枝隊ではどうしても埋もれがちだからな。正直、私も奴のことはあまり知らんのだ……」
「さ、散々だな仁藤……」
「妙にシンパシーを感じる……」
愛の後ろに並ぶ勇次と三尋が仁藤の存在感の薄さに少し同情してしまう。
「それで?」
「私が人形の形代で援護し、その後は山牙恋夏さんと我が隊の鬼ヶ島勇次が左右に分かれ、突破口を開きました」
「それなりの相手だったと思うが、勇次としてはどうだった?」
「え? そ、そうですね……いわゆる『ほんのり赤くなる』っていう程ではありませんでした。だからといって、相手がそこまで弱かったとは思いませんでしたが」
「力をある程度セーブした状態でも戦えたか。しかも慢心はみられない……よくやったな」
「あ、ありがとうございます!」
勇次は敬礼する。御剣は質問を続ける。
「山牙についてはどうだ?」
「私は別行動だったので、その戦いぶりは見ることが出来ませんでした」
「俺……自分もそうです」
愛と三尋は正直に答える。御剣は机の上に寝転がる黒猫に尋ねる。
「どうだったのだ。又左?」
「はにゃれていたところから見るだけにゃったが……」
「それでも構わん」
又左は体勢を正し、改めて口を開く。
「いやいや、まさに『武枝隊の斬りこみ隊長』という異名通りの活躍ぶりだったにゃ」
「そうか……」
「敵にはまわしたくにゃい存在であることは間違いにゃいにゃ。それと……」
「それと?」
「勇次同様に力をフルに解放して戦っていたようには思えないにゃ」
「そうか。例えばフルに解放したらどうだ?」
「御剣……例えお前さんでも危にゃいかもしれにゃいにゃ……」
「ほう、そこまでのものか……」
又左の言葉に御剣は笑みを浮かべる。
「それくらいのポテンシャルは感じたにゃ」
「それは一度手合わせ願いたいものだ……」
三尋が挙手をする。
「隊長」
「なんだ、黒駆?」
「山牙ですが……個々の戦闘だけでなく、短時間ではありましたが、ビル屋上での戦いでは、勇次と息の合ったような連携を見せていました」
「息の合った⁉」
愛が鋭い視線を勇次に向ける。勇次は釈明のような説明をする。
「い、いや、なんというか、向こうが俺の動きに合わせてくれたって感じでしたね。連携訓練なんて全然してないのに……とてもやりやすかったです」
「ふむ……けして独りよがりにならず、味方に合わせる柔軟性も持っているのか……戦闘センスは抜群ということだな。あの武枝が信を置くのも分かった気がする」
勇次の説明に御剣は頷く。愛が気を取り直して報告を続ける。
「……続いてですが、店内の狭い廊下などよりも広いところで戦った方が良いという朔月望さんの判断により、朔月さんと我が隊の黒駆三尋がそれぞれ山牙さんと鬼ヶ島を援護hしつつ、最終的には相手の集団を屋上まで追い込みました」
「適切な判断だな。朔月望……諜報活動などだけではなく、戦闘面でも優れた判断力を有しているのか。黒駆、学ぶべきところは多いようだな」
「おっしゃる通りです。精進します」
御剣から声をかけられ、三尋は姿勢を正して敬礼する。
「……最終局面では相手の妖によるトリッキーな行動に山牙さんと鬼ヶ島が多少惑わされてしまいましたが……」
「トリッキーな行動?」
「な、なんか、突然弾むように動き出しまして……」
「ああ、なんかこう……全体的に丸いからな、あいつら」
勇次の言葉に御剣は頷く。
「そこで朔月さんと黒駆の両名が後方から前線に飛び出し、分身の術を使用して、相手の集団を落ち着いて各個撃破しました」
「多少の数的不利も関係なしか。流石だな」
「恐縮です」
御剣の言葉に三尋が頭を下げる。
「根絶を完了……以上で報告を終わります」
「連中の行動によって、山梨県や長野県、そして新潟県の各地でも多少ながらではあるが被害が出ていた……管区としてその対応に頭を悩ませていたところだ。ここで根絶することが出来て良かった。今回は民間人への被害もゼロに抑えられたからな。貴様らに任せて正解だった。よくやってくれた」
「いえ、妖絶士として当然のことをしたまでです」
御剣に対し、愛が答える。御剣が笑う。
「真面目だな、愛。少しは肩の力を抜け」
「は、はあ……」
「まあ、それが貴様の良い所だからな。お陰でいつも助かっている」
「勿体ないお言葉です」
愛が頭を下げる。御剣が立ち上がる。
「報告は承った……ご苦労であった」
「隊長……」
「ああ、黒駆には別の仕事も頼んでいたな、続けざまで悪いがよろしく頼む」
「はい、失礼します」
三尋は敬礼すると、その場から姿を消す。又左が苦笑する。
「そこは普通にドアを開けて退室でも良いと思うんだがにゃ……」
「さて、堅い話はここまでにしよう。心が明るくなる話題をするか」
「?」
「明るい話題?」
御剣の言葉に愛と勇次が揃って首を傾げる。
「今回は休暇を早目に切り上げてもらって悪かったな」
「いいえ……皆が忙しいのだから仕方がありません」
「その代わりと言ってはなんなのだが……」
「え?」
御剣は笑みを浮かべる。
「慰労旅行に行ってもらおう」
「ええっ⁉」
「まあ、何があるか分からんからな、すぐに任務に移れるような準備もしておいてもらいたいが……基本的には大いにリラックスしてもらいたい」
「はあ……」
「というわけで貴様ら、佐渡ヶ島に行ってこい!」
御剣が笑顔で行先を告げる。
「そうか、ピンク色の魂喰か、確かに珍しいな……」
資料に目を通しながら、御剣は頷く。
「武枝隊の仁藤さんが切り込み役として、相手の陣形を崩すことが出来ました」
愛が資料を手に淡々と報告する。
「ほう、あの仁藤正人が……」
「はい」
「武枝が言うには、『やるときはやる男だ、多分……』という評価だったのだが……」
「対抗戦で顔を合わせた私としても想定以上の活躍でした。ただ……」
「ただ?」
「なんというかこう、存在感が乏しいところがあるなと感じました」
「あの個性派揃いの武枝隊ではどうしても埋もれがちだからな。正直、私も奴のことはあまり知らんのだ……」
「さ、散々だな仁藤……」
「妙にシンパシーを感じる……」
愛の後ろに並ぶ勇次と三尋が仁藤の存在感の薄さに少し同情してしまう。
「それで?」
「私が人形の形代で援護し、その後は山牙恋夏さんと我が隊の鬼ヶ島勇次が左右に分かれ、突破口を開きました」
「それなりの相手だったと思うが、勇次としてはどうだった?」
「え? そ、そうですね……いわゆる『ほんのり赤くなる』っていう程ではありませんでした。だからといって、相手がそこまで弱かったとは思いませんでしたが」
「力をある程度セーブした状態でも戦えたか。しかも慢心はみられない……よくやったな」
「あ、ありがとうございます!」
勇次は敬礼する。御剣は質問を続ける。
「山牙についてはどうだ?」
「私は別行動だったので、その戦いぶりは見ることが出来ませんでした」
「俺……自分もそうです」
愛と三尋は正直に答える。御剣は机の上に寝転がる黒猫に尋ねる。
「どうだったのだ。又左?」
「はにゃれていたところから見るだけにゃったが……」
「それでも構わん」
又左は体勢を正し、改めて口を開く。
「いやいや、まさに『武枝隊の斬りこみ隊長』という異名通りの活躍ぶりだったにゃ」
「そうか……」
「敵にはまわしたくにゃい存在であることは間違いにゃいにゃ。それと……」
「それと?」
「勇次同様に力をフルに解放して戦っていたようには思えないにゃ」
「そうか。例えばフルに解放したらどうだ?」
「御剣……例えお前さんでも危にゃいかもしれにゃいにゃ……」
「ほう、そこまでのものか……」
又左の言葉に御剣は笑みを浮かべる。
「それくらいのポテンシャルは感じたにゃ」
「それは一度手合わせ願いたいものだ……」
三尋が挙手をする。
「隊長」
「なんだ、黒駆?」
「山牙ですが……個々の戦闘だけでなく、短時間ではありましたが、ビル屋上での戦いでは、勇次と息の合ったような連携を見せていました」
「息の合った⁉」
愛が鋭い視線を勇次に向ける。勇次は釈明のような説明をする。
「い、いや、なんというか、向こうが俺の動きに合わせてくれたって感じでしたね。連携訓練なんて全然してないのに……とてもやりやすかったです」
「ふむ……けして独りよがりにならず、味方に合わせる柔軟性も持っているのか……戦闘センスは抜群ということだな。あの武枝が信を置くのも分かった気がする」
勇次の説明に御剣は頷く。愛が気を取り直して報告を続ける。
「……続いてですが、店内の狭い廊下などよりも広いところで戦った方が良いという朔月望さんの判断により、朔月さんと我が隊の黒駆三尋がそれぞれ山牙さんと鬼ヶ島を援護hしつつ、最終的には相手の集団を屋上まで追い込みました」
「適切な判断だな。朔月望……諜報活動などだけではなく、戦闘面でも優れた判断力を有しているのか。黒駆、学ぶべきところは多いようだな」
「おっしゃる通りです。精進します」
御剣から声をかけられ、三尋は姿勢を正して敬礼する。
「……最終局面では相手の妖によるトリッキーな行動に山牙さんと鬼ヶ島が多少惑わされてしまいましたが……」
「トリッキーな行動?」
「な、なんか、突然弾むように動き出しまして……」
「ああ、なんかこう……全体的に丸いからな、あいつら」
勇次の言葉に御剣は頷く。
「そこで朔月さんと黒駆の両名が後方から前線に飛び出し、分身の術を使用して、相手の集団を落ち着いて各個撃破しました」
「多少の数的不利も関係なしか。流石だな」
「恐縮です」
御剣の言葉に三尋が頭を下げる。
「根絶を完了……以上で報告を終わります」
「連中の行動によって、山梨県や長野県、そして新潟県の各地でも多少ながらではあるが被害が出ていた……管区としてその対応に頭を悩ませていたところだ。ここで根絶することが出来て良かった。今回は民間人への被害もゼロに抑えられたからな。貴様らに任せて正解だった。よくやってくれた」
「いえ、妖絶士として当然のことをしたまでです」
御剣に対し、愛が答える。御剣が笑う。
「真面目だな、愛。少しは肩の力を抜け」
「は、はあ……」
「まあ、それが貴様の良い所だからな。お陰でいつも助かっている」
「勿体ないお言葉です」
愛が頭を下げる。御剣が立ち上がる。
「報告は承った……ご苦労であった」
「隊長……」
「ああ、黒駆には別の仕事も頼んでいたな、続けざまで悪いがよろしく頼む」
「はい、失礼します」
三尋は敬礼すると、その場から姿を消す。又左が苦笑する。
「そこは普通にドアを開けて退室でも良いと思うんだがにゃ……」
「さて、堅い話はここまでにしよう。心が明るくなる話題をするか」
「?」
「明るい話題?」
御剣の言葉に愛と勇次が揃って首を傾げる。
「今回は休暇を早目に切り上げてもらって悪かったな」
「いいえ……皆が忙しいのだから仕方がありません」
「その代わりと言ってはなんなのだが……」
「え?」
御剣は笑みを浮かべる。
「慰労旅行に行ってもらおう」
「ええっ⁉」
「まあ、何があるか分からんからな、すぐに任務に移れるような準備もしておいてもらいたいが……基本的には大いにリラックスしてもらいたい」
「はあ……」
「というわけで貴様ら、佐渡ヶ島に行ってこい!」
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