上杉山御剣は躊躇しない

阿弥陀乃トンマージ

文字の大きさ
77 / 123
第二章

第19話(3) 渡船上のバトル

しおりを挟む
「はっ!」

「くっ! 何⁉」

 殴りかかってきた黒髪の女の子に戸惑いながら、勇次は後ろに飛んでその攻撃をかわしたかと思ったが、何かに殴られたような衝撃を受ける。

「もう一丁!」

「ちっ! がっ⁉」

 再び黒髪が距離を詰めてきたため、勇次は同じ要領でかわそうとするが、かわしきれない。

「ふん! 妖力のわりにはこんなもんか⁉」

(何故だ⁉ かわしたと思ったら別の方向から衝撃が……軌道が読めねえ!)

「畳みかける!」

(拳で殴りにきているわけじゃねえのか⁉ まず、得物を見極めねえと!)

「おらっ!」

「くっ!」

「!」

 三度殴りかかってきた黒髪に対し、勇次は金棒を使って受け止め、黒髪の手元を凝視する。

(……短い木の棒⁉ それなのに衝撃は明後日の方角から……ここか!)

 勇次は時間差で飛んできたものをかわす。黒髪は舌打ちする。

「ちっ!」

 勇次は自分がかわしたものが何かを確認する。

「あ、赤い玉⁉」

「ふん!」

 黒髪は糸が付いた穴の空いた赤い玉を木の棒の先端に器用に納める。勇次が信じられないといった表情で声を上げる。

「ま、まさか……けん玉か⁉」

「他に何がある!」

「そ、そんなおもちゃで戦うとか正気か⁉」

「妖にどうこう言われる筋合いはねえ!」

「いや、だから俺は妖じゃなくて……」

「じゃあ、そのほとばしる妖力はなんだ⁉」

「こ、これはその……体質というか……」

「わけのわからんことを!」

「くっ! 仕方ねえ!」

 勇次は黒髪の攻撃を受け止め、糸を上手く金棒に巻き付ける。

「なっ⁉」

「少し大人しくしてもらう!」

 勇次が叫ぶ。

「こ、根絶させて頂きますって⁉」

 一方、甲板の別方向では愛と白髪の女の子が対峙している。愛の腕には糸が絡みついており、その糸は白髪が持っている。

「言葉の通りです」

「私は妖ではないわ!」

「お姉さんからなにやら高い妖力のようなものを感じますが……」

「これは神力よ! 私は神社の家系なの!」

「ふむ……ではお連れの体がほんのりと赤いお兄さんはどう説明するのですか? ここからでも妖力をひしひしと感じますが」

 白髪が勇次の方を指し示す。

「あ、あれは……」

「あれは?」

「個人のプライバシーだから私の口から言えないわ!」

「ならば、お姉さんも妖だという疑念は消えないですね」

「信じて!」

「なかなか難しい相談です」

 愛の言葉に白髪は困ったように首を傾げる。

「落ち着いて! 話せばわかるわ!」

「まず……お姉さんを大人しくさせます!」

「きゃっ⁉」

 白髪が糸を引っ張ると、愛は柵に体を打ち付けられる。その影響で糸が愛の腕から解ける。

「しまった!」

「くっ、仁藤正人……お貸し給へ!」

 体勢を立て直した愛は仁藤を二体出現させ、自らを守るように立たせる。白髪は首を捻る。

「その服装……隊服?」

「⁉ 隊服を知っているの……」

「気のせいですね!」

 白髪が腕を振るうと、二体の仁藤があっけなく霧消する。愛が愕然とする。

「なっ⁉ 容赦ない!」

「ふっ……」

 白髪が糸を引き戻して、短い軸で連なった二つの小さい円盤を手に納める。愛は驚く。

「ま、まさか、ヨーヨー⁉」

「ええ、私はこれを手足のように自由に使えます……お覚悟!」

「朔月望……お貸し給へ!」

「⁉」

 愛が一体の朔月を出現させる。

「くっ! 糸が! は、離せ!」

「そう言って離す馬鹿はいない! うおりゃ!」

 勇次が黒髪の体ごと持ち上げて、背負い投げのような動きで甲板に叩き付ける。

「ぐはっ……!」

「お、女の子に手荒な真似をするのは気が進まなかったが、仕方がない……」

「……」

「大人しくなったか?」

 勇次が仰向けに倒れる黒髪を覗き込もうとする。

「はっ!」

「うおっと!」

 黒髪がけん玉を振るい、玉が直線に飛ぶが、勇次はこれをかわす。

「ちっ! 外したか!」

「避けたんだよ! 一回落ち着け!」

「黙れ!」

 黒髪が立ち上がって、けん玉を振りかざす。

「……!」

「ヨーヨーが弾かれた⁉ はっ⁉」

 朔月が一瞬で白髪の懐に入り、短刀をかざす。愛が叫ぶ。

「峰打ちでお願い!」

「‼」

「がはっ……!」

 朔月の攻撃を腹部に喰らい、白髪は膝をつく。愛が近づく。

「お、落ち着いたかしら?」

「えい!」

 白髪がヨーヨーを振るい、それを喰らった朔月が霧消する。愛が戸惑う。

「ま、まだ動けるの⁉」

「不用意に接近したのが運の尽きです!」

 すくっと立ち上がった白髪がヨーヨーを振りかざす。

「喰らえ! ⁉」

「お覚悟! ⁉」

 次の瞬間、黒髪の腕を御剣が素手でがっちりと抑え、投げ込んだ刀で白髪のヨーヨーを器用に巻き込み、どちらも無力化させる。御剣が呆れ気味に呟く。

「何をやっている……」

「「隊長!」」

「「ええっ⁉」」

 御剣を見た黒髪と白髪の言葉に勇次と愛が揃って驚く。
しおりを挟む
感想 3

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

裏切りの代償

中岡 始
キャラ文芸
かつて夫と共に立ち上げたベンチャー企業「ネクサスラボ」。奏は結婚を機に経営の第一線を退き、専業主婦として家庭を支えてきた。しかし、平穏だった生活は夫・尚紀の裏切りによって一変する。彼の部下であり不倫相手の優美が、会社を混乱に陥れつつあったのだ。 尚紀の冷たい態度と優美の挑発に苦しむ中、奏は再び経営者としての力を取り戻す決意をする。裏切りの証拠を集め、かつての仲間や信頼できる協力者たちと連携しながら、会社を立て直すための計画を進める奏。だが、それは尚紀と優美の野望を徹底的に打ち砕く覚悟でもあった。 取締役会での対決、揺れる社内外の信頼、そして壊れた夫婦の絆の果てに待つのは――。 自分の誇りと未来を取り戻すため、すべてを賭けて挑む奏の闘い。復讐の果てに見える新たな希望と、繊細な人間ドラマが交錯する物語がここに。

【完結】ドアマットに気付かない系夫の謝罪は死んだ妻には届かない 

堀 和三盆
恋愛
 一年にわたる長期出張から戻ると、愛する妻のシェルタが帰らぬ人になっていた。流行病に罹ったらしく、感染を避けるためにと火葬をされて骨になった妻は墓の下。  信じられなかった。  母を責め使用人を責めて暴れ回って、僕は自らの身に降りかかった突然の不幸を嘆いた。まだ、結婚して3年もたっていないというのに……。  そんな中。僕は遺品の整理中に隠すようにして仕舞われていた妻の日記帳を見つけてしまう。愛する妻が最後に何を考えていたのかを知る手段になるかもしれない。そんな軽い気持ちで日記を開いて戦慄した。  日記には妻がこの家に嫁いでから病に倒れるまでの――母や使用人からの壮絶な嫌がらせの数々が綴られていたのだ。

妻からの手紙~18年の後悔を添えて~

Mio
ファンタジー
妻から手紙が来た。 妻が死んで18年目の今日。 息子の誕生日。 「お誕生日おめでとう、ルカ!愛してるわ。エミリア・シェラード」 息子は…17年前に死んだ。 手紙はもう一通あった。 俺はその手紙を読んで、一生分の後悔をした。 ------------------------------

【完結】捨て去られた王妃は王宮で働く

ここ
ファンタジー
たしかに私は王妃になった。 5歳の頃に婚約が決まり、逃げようがなかった。完全なる政略結婚。 夫である国王陛下は、ハーレムで浮かれている。政務は王妃が行っていいらしい。私は仕事は得意だ。家臣たちが追いつけないほど、理解が早く、正確らしい。家臣たちは、王妃がいないと困るようになった。何とかしなければ…

後宮の胡蝶 ~皇帝陛下の秘密の妃~

菱沼あゆ
キャラ文芸
 突然の譲位により、若き皇帝となった苑楊は封印されているはずの宮殿で女官らしき娘、洋蘭と出会う。  洋蘭はこの宮殿の牢に住む老人の世話をしているのだと言う。  天女のごとき外見と豊富な知識を持つ洋蘭に心惹かれはじめる苑楊だったが。  洋蘭はまったく思い通りにならないうえに、なにかが怪しい女だった――。  中華後宮ラブコメディ。

好きな人に『その気持ちが迷惑だ』と言われたので、姿を消します【完結済み】

皇 翼
恋愛
「正直、貴女のその気持ちは迷惑なのですよ……この場だから言いますが、既に想い人が居るんです。諦めて頂けませんか?」 「っ――――!!」 「賢い貴女の事だ。地位も身分も財力も何もかもが貴女にとっては高嶺の花だと元々分かっていたのでしょう?そんな感情を持っているだけ時間が無駄だと思いませんか?」 クロエの気持ちなどお構いなしに、言葉は続けられる。既に想い人がいる。気持ちが迷惑。諦めろ。時間の無駄。彼は止まらず話し続ける。彼が口を開く度に、まるで弾丸のように心を抉っていった。 ****** ・執筆時間空けてしまった間に途中過程が気に食わなくなったので、設定などを少し変えて改稿しています。

夫から「用済み」と言われ追い出されましたけれども

神々廻
恋愛
2人でいつも通り朝食をとっていたら、「お前はもう用済みだ。門の前に最低限の荷物をまとめさせた。朝食をとったら出ていけ」 と言われてしまいました。夫とは恋愛結婚だと思っていたのですが違ったようです。 大人しく出ていきますが、後悔しないで下さいね。 文字数が少ないのでサクッと読めます。お気に入り登録、コメントください!

処理中です...