上杉山御剣は躊躇しない

阿弥陀乃トンマージ

文字の大きさ
92 / 123
第二章

第23話(2) 四天王の皆さん

しおりを挟む
 とある場所に四人の屈強な男たちが現れる。男たちは順に名乗る。

「『力』の鮭延川(さけのべかわ)、ここに……」

「『心』の岡清水(おかしみず)、ここに……」

「『技』の里見村(さとみむら)、ここに……」

「『知』の氏家原(うじいえはら)、ここに……」

「……『加茂上四天王』さま、丁寧な自己紹介、痛み入ります……」

「って、その声は⁉」

「神不知火副管区長⁉」

「なぜここに⁉」

「加茂上隊長は⁉」

 露骨に動揺する四人に、神不知火はため息をつきながら、部屋の明かりを点ける。

「部屋の明かりくらい点けましょう……」

「い、いや、暗い方が、雰囲気が出ますので……」

「なんの雰囲気ですか……」

「秘密の会議という雰囲気です」

「お陰で部外者の私に入られてしまっているではないですか……」

「しかし、なぜ副管区長がこちらに?」

「管区長……加茂上隊長の代理で参りました」

「隊長はどちらに?」

「所用の為、とある場所にいらっしゃいます」

 四人との会話を神不知火は淀みなく続ける。

「しかし、今日は何故に集められたのだ?」

「ああ、我々四人が集められるなどよっぽどだぞ?」

「なにか緊急事態か?」

「その可能性が高いかもしれんな?」

 四人が揃って首を傾げる。神不知火が尋ねる。

「意外ですね。四天王の皆さんが揃うのは珍しいのですか?」

「ええ、滅多にないことです」

「普段は我々、隊の管轄である山形県の四方をそれぞれ任されておりますから」

「こうして顔を合わせるのは本当に数ヶ月ぶりかもしれません」

「リモート会議は週5で行っておりますが」

「……ほぼ毎日ではないですか」

 神不知火が戸惑う。

「まあ、連絡は密に取るに越したことはありませんから」

「半分飲み会のようなものですが」

「実質、週3で飲み会ですね」

「いや、週4だな、皆酔って覚えていないだけだ」

「「「「はっはっは!」」」」

 四人は声を上げて笑う。

「間違いない!」

「確かにそうだな!」

「気が付いたら、寝落ちしているからな!」

「この間なんか……」

「……おほん」

「「「「!」」」」

 神不知火が咳払いをすると、四人が真面目な顔つきになる。

「仲がよろしいのはよく分かりました……話に入ってもよろしいでしょうか?」

「「「「はっ!」」」」

 四人が揃って答える。神不知火が頷いて話を始める。

「……第五管区の上杉山隊と武枝隊が東北管区に侵入してくる模様です」

「なんと! 侵入ですか⁉」

「ええ、侵入です」

「何のために⁉」

「詳細は申し上げられませんが、加茂上隊長の邪魔をしたいようですね」

「それは確かな情報なのですか⁉」

「はい、裏も取っています」

「隊長はご存じなのですね⁉」

「もちろんです」

 神不知火は四人の質問に淡々と答える。四人はしばしの沈黙の後、口を開く。

「これはつまり……」

「ああ……」

「そういうことになるな……」

「腕が鳴るな……」

「……皆さんお察しの通りです。上杉山隊と武枝隊の両隊を足止めして欲しいのです」

 神不知火が告げる。

「侵入経路に関しては?」

「掴んでいる情報通りならば、この経路を通るかと……」

「四通りですか?」

「ええ、よって四天王の皆さんの出番というわけです」

「足止めというのは?」

「穏便で話し合いで済むならそれに越したことはないと管区長はお考えです」

「済まない場合は?」

「……実力行使もやむを得ません。恐らくそうなるでしょう」

 四人からの問いに神不知火は答え、机の上に情報端末を置き、画像を表示する。

「……!」

「両隊は合同作戦ということで、協働部隊を結成しました。情報によると、このような組み合わせで、それぞれのルートを通ってくる模様です……」

「では、我らが隊長に比べて知性がなさそうなこの連中は……鮭延川が片付ける」

「大丈夫ですか?」

「なんの、『力』で圧倒してみせます!」

 鮭延川が雄々しく答える。

「では、我らが隊長に比べて技量が不足そうなこの連中は……岡清水が対処する」

「平気でしょうか?」

「なんの、『心』で凌駕してみせます!」

 岡清水が勇ましく答える。

「では、我らが隊長に比べて精神が未熟そうなこの連中は……里見村が処理する」

「よろしいですか?」

「なんの、『技』で制圧してみせます!」

 里見村が猛々しく答える。

「では、我らが隊長に比べて膂力が不全そうなこの連中は……氏家原が始末する」

「問題ないですか?」

「なんの、『知』で超越してみせます!」

 氏家原が凛々しく答える。

「ふむ……それではお願いします」

「副管区長は?」

「私は別行動を取らせてもらいます」

「別行動?」

「申し訳ありませんが詳細については言えません」

「隊長には誰もついてなくて良いのですか?」

「その点は大丈夫です、心配無用です」

「今から行動開始ですか?」

「ええ、そうですね……各自持ち場について下さい」

「「「「了解!」」」」

 神不知火の言葉に従い、四人はその場を離れる。
しおりを挟む
感想 3

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

裏切りの代償

中岡 始
キャラ文芸
かつて夫と共に立ち上げたベンチャー企業「ネクサスラボ」。奏は結婚を機に経営の第一線を退き、専業主婦として家庭を支えてきた。しかし、平穏だった生活は夫・尚紀の裏切りによって一変する。彼の部下であり不倫相手の優美が、会社を混乱に陥れつつあったのだ。 尚紀の冷たい態度と優美の挑発に苦しむ中、奏は再び経営者としての力を取り戻す決意をする。裏切りの証拠を集め、かつての仲間や信頼できる協力者たちと連携しながら、会社を立て直すための計画を進める奏。だが、それは尚紀と優美の野望を徹底的に打ち砕く覚悟でもあった。 取締役会での対決、揺れる社内外の信頼、そして壊れた夫婦の絆の果てに待つのは――。 自分の誇りと未来を取り戻すため、すべてを賭けて挑む奏の闘い。復讐の果てに見える新たな希望と、繊細な人間ドラマが交錯する物語がここに。

【完結】ドアマットに気付かない系夫の謝罪は死んだ妻には届かない 

堀 和三盆
恋愛
 一年にわたる長期出張から戻ると、愛する妻のシェルタが帰らぬ人になっていた。流行病に罹ったらしく、感染を避けるためにと火葬をされて骨になった妻は墓の下。  信じられなかった。  母を責め使用人を責めて暴れ回って、僕は自らの身に降りかかった突然の不幸を嘆いた。まだ、結婚して3年もたっていないというのに……。  そんな中。僕は遺品の整理中に隠すようにして仕舞われていた妻の日記帳を見つけてしまう。愛する妻が最後に何を考えていたのかを知る手段になるかもしれない。そんな軽い気持ちで日記を開いて戦慄した。  日記には妻がこの家に嫁いでから病に倒れるまでの――母や使用人からの壮絶な嫌がらせの数々が綴られていたのだ。

妻からの手紙~18年の後悔を添えて~

Mio
ファンタジー
妻から手紙が来た。 妻が死んで18年目の今日。 息子の誕生日。 「お誕生日おめでとう、ルカ!愛してるわ。エミリア・シェラード」 息子は…17年前に死んだ。 手紙はもう一通あった。 俺はその手紙を読んで、一生分の後悔をした。 ------------------------------

【完結】捨て去られた王妃は王宮で働く

ここ
ファンタジー
たしかに私は王妃になった。 5歳の頃に婚約が決まり、逃げようがなかった。完全なる政略結婚。 夫である国王陛下は、ハーレムで浮かれている。政務は王妃が行っていいらしい。私は仕事は得意だ。家臣たちが追いつけないほど、理解が早く、正確らしい。家臣たちは、王妃がいないと困るようになった。何とかしなければ…

後宮の胡蝶 ~皇帝陛下の秘密の妃~

菱沼あゆ
キャラ文芸
 突然の譲位により、若き皇帝となった苑楊は封印されているはずの宮殿で女官らしき娘、洋蘭と出会う。  洋蘭はこの宮殿の牢に住む老人の世話をしているのだと言う。  天女のごとき外見と豊富な知識を持つ洋蘭に心惹かれはじめる苑楊だったが。  洋蘭はまったく思い通りにならないうえに、なにかが怪しい女だった――。  中華後宮ラブコメディ。

好きな人に『その気持ちが迷惑だ』と言われたので、姿を消します【完結済み】

皇 翼
恋愛
「正直、貴女のその気持ちは迷惑なのですよ……この場だから言いますが、既に想い人が居るんです。諦めて頂けませんか?」 「っ――――!!」 「賢い貴女の事だ。地位も身分も財力も何もかもが貴女にとっては高嶺の花だと元々分かっていたのでしょう?そんな感情を持っているだけ時間が無駄だと思いませんか?」 クロエの気持ちなどお構いなしに、言葉は続けられる。既に想い人がいる。気持ちが迷惑。諦めろ。時間の無駄。彼は止まらず話し続ける。彼が口を開く度に、まるで弾丸のように心を抉っていった。 ****** ・執筆時間空けてしまった間に途中過程が気に食わなくなったので、設定などを少し変えて改稿しています。

夫から「用済み」と言われ追い出されましたけれども

神々廻
恋愛
2人でいつも通り朝食をとっていたら、「お前はもう用済みだ。門の前に最低限の荷物をまとめさせた。朝食をとったら出ていけ」 と言われてしまいました。夫とは恋愛結婚だと思っていたのですが違ったようです。 大人しく出ていきますが、後悔しないで下さいね。 文字数が少ないのでサクッと読めます。お気に入り登録、コメントください!

処理中です...